第10話 結界師は失われた狩りの方法を再現する
「模擬戦闘お疲れさまでした。続きまして、皆様にはホーンラビット狩りの試験を受けていただきます」
本部前、シルビアさんの声が拡声の法術具を通して参加者全員に響き渡る。
「この季節、ホーンラビットは繁殖期に入っていて、なだらかな丘陵地に穴を掘って営巣しています。一方、餌場は低地の湿地で、そこに自生する草を主食としています。今の時期は乾季で、草原にはほとんど雨は降らず……」
俺たちは今、シルビアさんからホーンラビット狩りの説明を受けている。
周りを見回すと、およそ二百人ほどの新人が集まっているが、その半分以上は自分の体を覆えるほどの大盾を装備している。
どうやら、大半の冒険者の戦法は、突進してくるホーンラビットを盾で受け止め、片手剣で攻撃するスタイルの様らしい。そんな中、一人だけ長い槍を持っている俺は悪目立ちしていた。
「おい、なんであいつ槍なんて持ってんだ? あの槍じゃあ盾を生かした戦法が取りにくいだろうに……」
「たぶん、あいつの職業は槍士なんだろうさ。安全な街で衛兵をしてりゃいいものを……」
「それにしたって、なんであんなに長い槍を使うんだ? それにあの細さ……。あれじゃあ、懐に入られたら攻撃できないし、あの細い槍で薙ぎ技を出せば、槍が折れるんじゃないか?」
やたらと俺の周りだけざわざわしていることを、壇上で丁寧に説明をしてくださっているシルビアさんに対し申し訳なく思う。
(こんなことだったら、槍をキャサリンの亜空間バッグに預かってもらえばよかったなぁ……)
「静粛に! 説明を聞き逃すと重大な失敗をしたり、狩りの評価が下がったりしますよ! 」
さすがにシルビアさんも見かねて俺の周りの新人たちに注意をした。
彼らはさすがにそれ以上なにも言わなかったが、視線は相変わらず俺に注がれており、なんだか居心地が悪い。
「既にパーティーを組まれている方はパーティーでの狩りを行ってくださって結構ですが、公平な試験の審査のため、パーティーで狩りを行われた際はその旨ご報告ください」
俺たちもパーティーなので報告が必要だ。
「皆さんが狩られたホーンラビットはこの本部の仮設窓口で査定し買取をさせていただきます。制限時間は六刻。D級冒険者の皆さんが必要に応じて指導してくださいますので、アドバイスを受けながら安全な狩りを心がけてください」
俺が想定している狩りではフィーネさんの出番は無いと思うが、周辺警戒をお願いできるのはとても助かる。
「以上で説明を終わります。各自フィールドに移動し狩りを開始してください。では解散!」
解散の号令と共に、集まっていた新人たちのほとんどは一斉に湿地のある方向へ走っていった。
どうやら、ここに集まっていた大半の新人は前もって狩り場を湿地に決めていたようだ。
「シド、キャサリン、狩り場はどうする? 」
ミオはマイペースで落ち着いた様子で俺たちに声をかけてきた。
「巣のある丘陵地では、ほとんどのホーンラビットは子供と一緒に巣穴の中にいて狩りにならないと思いますわ。狩るなら餌場の湿地が良いと思いますわ」
「そうだね、シドはそれで良い?」
「いや、狩り場は丘陵地だ」
「え? どうして?」
「湿地は結構広いけど、二百人の新人と付き添いのD級冒険者が一斉に湿地に入っては、ホーンラビットは警戒して餌場を離れてしまう。これでは数の減った獲物を新人同士が奪い合う結果になって良い成果は期待できない」
「なるほどですわ」
「頭のいい連中は湿地から丘陵に追い立てられてくるホーンラビットを狩るために営巣地と湿地の中間地点で待ち構えるだろう。だが、草原は広いので、ホーンラビットは待ち構える新人を迂回して移動するのでこれも効率が悪い」
「そうだね⋯⋯」
「そこで、俺たちは確実にホーンラビットを捕捉できる営巣地に行く」
「でも、営巣地ではホーンラビットは穴に入っているし、逃げてきた個体も逃げるのに必死だから捕まえるのは難しいんじゃないかな?」
「大丈夫だ、俺に策がある」
「うん、わかった。シドの策を信じるよ」
「私もシドを信じますわ」
「三人とも落ち着いてるわねえ。他の連中はみんな狩り場に走って行っちゃったわよ」
作戦会議が終わった様子を見て、フィーネさんが声をかけてきた。
「大丈夫です。俺たちの狩り場は丘陵地なので」
「へぇ~、シド君には何か策がありそうだね」
「見てのお楽しみです。じゃあ、移動しようか!」
「「了解!」」
―――俺たちは半刻ほど走って丘陵地に到着した。
「じゃあ、三人とも私は周辺警戒をしてるから、頑張ってね~」
そう言うとフィーネさんは俺たちから少し離れ、丘陵の少し高い見渡しの良い位置に移動していった。
俺たちは作戦会議を再開した。
「で、どうするの?」
「これを使う!」
俺は伯父さんが持たせてくれた水筒を掲げた。
「え?水筒なんて何に使うの?」
「水筒じゃなくて水を使うのさ」
「水を? ホーンラビットに水をかけても死なないよ?」
「そうじゃない。今は乾季でこの草原には雨がほとんど降らない。だから、ホーンラビットも安心して丘陵に穴を掘って子供を育てている。だけど、巣穴に水を入れたら中のホーンラビットはどうすると思う?」
「分かりましたわ! 季節外れの雨が急に降ってきて巣穴が浸水したと思って子供たちと一緒に外に逃げようとしますわ! それでさっき、私の持っている水の量を聞いたのですわね!」
「そうか! じゃあ私たちは巣穴から出てきたホーンラビットを狩ればいいんだね!」
「そういうこと。でも、単に巣穴から出てくるホーンラビットを正面から狩るのでは逃がしてしまう可能性がある。だから、俺が巣穴の出口近くに結界をはって、あわてて出てきたホーンラビットが結界にぶつかって動きが止まったところを、巣穴より高い位置からホーンラビットの背後を攻撃して狩る」
「なるほど、シドの結界なら透明ですから、ホーンラビットは巣穴の正面に障害物や人がいないと思って無警戒で飛び出してきますわね。でも、結界の強度は大丈夫ですの?」
「攻撃の時のように、正面から助走をつけて突進してくるわけじゃないから大丈夫だよ」
「じゃあ、決まりだね! え~っと、巣穴はっと ……あ! あれじゃないかな?」
「そうですわね。シド、指示をお願いしますわ」
「わかった」
俺はミオに水筒を渡して巣穴に水を入れる係を任せ、俺とキャサリンは、巣穴より高い位置に立ち、攻撃することにした。
「ミオ、入れる水はコップで四、五杯分くらいでいいと思う。キャサリンは大きな親の個体に聖矢で攻撃を。俺は槍で子供個体を仕留める」
「了解!」
「わかりましたわ!」
「では結界を張るぞ! 結界!」
「へぇ~、これが結界かぁ」
ミオが俺の透明の結界を触って感触を確かめ、指ではじいて固さを確認している。
俺のイメージでは結界は正方形で、地面から生えたように下辺を地面に付けた状態で生成した。
長さと高さはミオの腰の位置くらいまである。 どうやら、問題なく張れたようだ。
「では、水を入れてくれ!」
「了解!」
ミオが巣穴に水を注いだ後、数秒すると勢いよくホーンラビットが飛び出し、ドンと結界にぶつかった。 それは比較的大きな個体で、親だと思われた。
「キャサリン!」
「はい! 聖矢!」
狙い違わずキャサリンの聖矢は親のホーンラビットに刺さり、かん高い鳴き声と共に絶命した。
続けて比較的小さなホーンラビットが四羽出てきて結界にぶつかった。
俺はすかさず槍を連続で突き入れ、四羽の子供のホーンラビットを串刺しにし、子供の個体も同じく鳴き声を上げて絶命した。
その後もう一羽、これも親だと思われる個体が飛び出し結界にぶつかった。
「聖矢!」
キャサリンは再度、法術を放って親の個体を仕留めた。
「やったね! 大成功!」
「うまくいきましたわね!」
「ああ、うまくいって良かった」
俺は自分で立てた計画だったが、思いのほかうまくいってほっとした。
助走なしの突進では結界が破られることはないと思っていたが、実戦での使用は今日が初めてだったので、予想通りの結果が出てほっとした。
俺が結界を解除すると、ミオは親の個体二羽をつかんで俺たちの所へ運んで来た。
「でもシド、四羽も連続で串刺しにしてすごかったね!」
「ええ、シドがその槍を選んだ時は何に使うか分かりませんでしたが、こういう使い方をするための槍だったのですね!」
「ああ、この狩りの方法は昔、非戦闘職の冒険者が比較的安全にホーンラビットを狩るために考案されたんだ。でも、冒険者ギルドの方針で非戦闘職の人が討伐クエストを受けられなくなってからは、この狩りの方法は廃れていってしまったんだ」
「シドは詳しいですわね」
「シドは成人式前、あちこちのギルドの資料室に行って、いろいろ調べてたんだよ」
「各ギルドも成人前の学校生徒がギルドの公開資料を閲覧することを推奨しているからね」
「いや~すごいねぇ。見てたよ~。こんなにあっさりホーンラビットを仕留めちゃうなんてビックリよ~」
周辺警戒をしてくれてたフィーネさんが近づいて来て俺たちの成果を褒めてくれた。
「ありがとうございます。思いのほか簡単に仕留められました。この後、血抜きをしてまた狩りを続行します」
「そうだね。まだ時間があるから大丈夫だよ」
俺は周辺を見まわし、少し離れた所に木が生えているのを見つけた。
「ミオ、キャサリン、あの木にホーンラビットをぶら下げて血抜きをしよう」
「シド君、魔素抜きはどうする? 私、聖石を持ってるけど……」
そう、ホーンラビットも魔物の一種で通常、魔素を浄化する聖石を当てて、獲物の体内の魔素を抜かないと食べられない。
だが、ここには聖属性の剣士と法術師がいるので問題ない。
「いえ、ミオとキャサリンは聖属性なので大丈夫です!」
「ああ、そうだったわね。それにしても、便利だよねぇ聖属性。いちいち聖石で時間をかけて魔素抜きしなくてもスキルで簡単に浄化できちゃうんだから。やっぱりうちのパーティーに勧誘したいな~」
「すでにミオとシドとでパーティーを組むと決めておりますので、申し訳ありませんわ」
「そうだよねぇ」
「キャサリン、俺が仕留めたホーンラビットを浄化してもらえるかな?キャサリンが聖矢で仕留めた個体はたぶんもう浄化が済んでるだろうから」
「分かりましたわ」
俺はキャサリンに浄化をしてもらうために串刺しになっている子供個体を抜き取った。 この槍には返しがなく、すんなりと獲物は抜けた。
「この槍は細身なので獲物の傷が最小限で済んで良いですわね」
「そうだね。もともと、この槍は繁殖期の子供のホーンラビットを狩るために設計された槍だからね。親のホーンラビットは筋肉質で固い肉だけど、子供のホーンラビットは肉の量は少ないけれど、肉質が柔らかくてクセのない肉で、高級レストランなんかに高値で卸される高級食材なんだ」
「そういえば、父と行ったレストランで食べましたわ。とても柔らくて美味しかったですわ」
「お二人さ~ん、しゃべってないでさっさと処理して次の狩りをしようよ~」
「分かりましたわ。浄化!」
「シド君、あの木に獲物を吊るして血抜きをするんでしょ? 紐は私が持ってるから、代わりに私が吊るしといてあげる。だから三人は次の狩りを始めちゃいなよ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えます」
フィーネさんのお言葉に甘えて俺たちは次の狩りを開始することにした。
「そうだ、この時期は子供のホーンラビットを狙ってグラスウルフも出るから注意してね。大体、ウルフの系統は夜行性だから昼間は数が少ないので大丈夫だと思うけど、血の匂いに誘われて出てくることもあるからね。血抜き中の獲物は私が見とくので、三人は周辺警戒をしつつ狩りをしてね」
「分かりました。警戒しつつ狩りをします」
フィーネさんは俺たちに注意を促すと、六羽のホーンラビットを手際よく括り付けて、ひょいと肩にかついで木の方へ歩いていった。 俺たちは次の巣穴を探し始めたが、さっきの巣穴に近い位置にすぐに別の巣穴を見つけた。
「じゃあ、次はこの巣穴ね」
「ああ、ではさっきの要領でもう一度……」
「え~! 私も攻撃側に回りたいよ!」
「でも、ミオの剣じゃあ至近距離で攻撃しないといけないだろ? 巣穴に近づきすぎると獲物が警戒して巣穴から出て来ないかもしれないぞ」
「大丈夫これを見て! 聖斬撃!」
ミオが突然俺たちのいる反対方向へ聖斬撃を放つと、聖属性のスラッシュが同心円状に広がっていくのが見えた。
「ミオ、それって……」
「うん、さっきここに走って来る時に、剣に慣れるために振ってたらなんかできちゃった」
(さっき、後ろを走りながら何やらミオがやってたのはこれだったか……)
「ミオ、これってエル爺の……」
「そう、なんかエル爺がやってるのを想像してやってみたら、できる気がして試してみたんだぁ」
そう、ミオは天才肌で、理論的なことはさっぱりだが、時々フィーリングですごいことをやってのける。
エル爺は俺と同じ理論派で丁寧に理論を教えてくれるが、ミオに対しては「ここまでフィーリングでできるなら、最後までフィーリングで押し通した方が良かろうて…」と言って匙を投げて、もっぱら見本の剣技をミオに見せていた。
まさか、俺が苦手な放出系の剣技をこうもあっさりマスターしてしまうとは、少し複雑な気分だ。
「分かった。じゃあ、キャサリンは水を入れる係で、攻撃側は俺とミオでやってみよう」
「「了解!」」
俺たちは先ほどと同じ配置についた。
「ミオ、大人の個体は任せる。俺は子供の個体を狩る」
「わかった」
「結界!」
俺は再度、巣穴のそばに結界を張った。
「いきますわよ!」
そう声をかけるとキャサリンは巣穴に水を流し込んだ。 すると先ほどと同じく大人のホーンラビットが先ず飛び出て、結界にぶつかった。
「ミオ!」
「 聖斬撃!」
聖斬撃はミオの前面に同心円状に広がって行き、大人の個体に接触、声を上げる間もなくホーンラビットの首が飛んだ。
続けて、子供の個体が五羽飛び出し、結界に衝突した所を俺は連続で串刺しにした。
そして、最後にもう一羽、大きな親の個体が飛び出し、結界に弾かれた所をミオが聖斬撃で首を飛ばし仕留めた。
「うまくいったな、ミオ」
「わたしのふぃーりんぐも捨てたもんじゃないでしょ! だから、出力調整の訓練減らして~」
「それはそれ、これはこれ。訓練は予定通り行うぞ!」
「そんなぁ~、勘弁してよぉぉぉぉぉ!」
「あっさり決まりましたね、ミオ。お見事ですわ」
「あ、ありがとう……」
「お見事でしたが、少々血が流れすぎましたわ。早めにあの木に運んだ方が良いかもしれませんわね」
「そうだな。じゃあ、運ぼうか……」
「いえ、運搬は私が亜空間バッグで致しますので、シドとミオはスコップで流れた血と飛んだ首を穴に埋めてくださいまし」
「ああ、その手があったか。便利だね」
「はい、スコップですわ」
「分かったわ。任せて!」
キャサリンは手早くホーンラビットに浄化をかけ、亜空間バッグに収納し、フィーネさんの所へ走っていった。
俺たちは少し深めに穴を掘り、そこに流れた血を吸い込んだ土と飛ばした首を埋めた。 俺たちの作業が終わるころキャサリンは戻ってきた。
「じゃあ、狩りを再開しようか!」
「「了解!」」
俺たちはその後、八つの巣穴を攻略し、大人の個体を二十羽、子供の個体を四十七羽、合計で六十七羽のホーンラビットを仕留めた。
制限時間が迫っていたため最後の個体は血抜きをせず、キャサリンの亜空間バッグに収納してもらって本部に戻ってから血抜きをすることにした。
フィーネさんも絶賛していたので、間違いなく大戦果だったと思う。
さて、この戦果をギルドの審査官はどう評価するのか。
少なくとも二人の足を引っ張る結果にはなっていないと思うので、当初の計画通りではあると思う。
(結果はどうあれ、明日からは雑用だな……頑張ろう)




