6:感触
「待った。俺も参加する」
御影さんはそう言ったが、霞田さんは「二人で十分だろう」と言い、春斗へとウインクをした。
その結果として、私は今沖亜駅付近を春斗と歩いている。傀儡使いという名の亡霊について、私は質問をした。
「春斗。傀儡使いってどんな亡霊なの?」
「これ見てみ」
彼は私へ、スマホの画面を見せた。画面上には、幾つかの情報が箇条書きで記されていた。
・対象:傀儡使い
・顔、性別、年齢不明
・能力不明
・「傀儡使い」は亡霊間での通称であり、人形のようなものを操って戦う
※尚、以上の情報は先日亡霊への事情聴取によって得たものである。
読み終え、私は言った。
「これって……サイト?」
「ああ。亡霊狩り専用のサイトだ。本人確認を済ませたうえでログインすれば、澪も見れるようになるぞ」
「へぇ~。じゃあ後でやり方教えてね」
道の先の信号が赤に変わった。私たちは足を止める。
「顔も性別も年齢もわからない。傀儡使いの情報はほぼ無いようなものなんでしょ? どうやって探すの?」
「能源さ」
「というと?」
「じゃあイチから説明しようか」と、春斗は話し始める。信号が青に変わったのにしたがって、歩きながら。
「能源っていうのは経験に比例してその“感触”ってのが変わってくるんだ」
「感触? ……ああ〜、確かに。春斗とかのと比べて霞田さんの能源はちょっと不気味な感じがするかも?」
道場にて、春斗、三葉と対峙していた時の霞田さんの能源は、どこかぬるっとした、淀んでいるような感じがした。
「あれは霞田さんが経験から亡霊の能源を再現したものだ」
「ん? 亡霊の能源を再現……ってことは、私たちと亡霊の能源は違うってこと? でもさっき能源は経験で変わるって言ってなかった? 亡霊と亡霊狩りでも、経験の差が無いんじゃ同じ能源の感触になるんじゃないの?」
私の質問責めに、春斗は言葉による説明を諦めたようだ。
「やっぱ、百聞は一見にしかずだな。澪、ついてきてくれ」
場所は変わり、私たちは今、沖亜駅から徒歩7分ほどの距離にある亡霊狩りの管轄下にあるという刑務所を訪れていた。ここには亡霊や能輩、能力狩りなどが収容されているらしい。
証明手帳を見せれば、一発で中へと入らせてくれた。亡霊狩りの権力が凄いということを、改めて痛感させられた。中を進んでいき、私たちは刑務所内の運動場へと辿り着く。
金属製のフェンスで囲われた運動場には複数の野球をしている人、そしてその他の人はそれを観戦していた。春斗は指を指しながら、私へと言った。
「まずピッチャー。あいつは亡霊だ。亡霊の能源をしてる」
ピッチャー。彼の能源は霞田さんの能源と同じような感触がした。
「オッケー。覚えたよ」
「次にバッター。あいつは能輩」
バッター。霞田さんのとは異なる、もっとドロドロとした感じのものだ。
「うんうん。ところで春斗。亡霊と能輩って何が違うの?」
「それじゃ、その説明のために場所を移そうか」
続いて私たちは刑務所の地下にある独房を訪れた。巨大な檻の内側には、私が以前見たあの化物のような何かがいた。それは首、手、足、胴体が屈強な鎖で繋がれ、身動き一つ取れない状態となっていた。
だがしかし、私の胸には不安が残る。春斗はそれを感じ取ったようで、私の前に立つことでその不安を少しだけ取り除いてくれた。
「こいつは“媒獣”。俗に言う悪霊みたいなもんかな」
「悪霊なの? ……お化けには見えないけど」
「俺たちが今こうして目に見えているのは、こいつと能輩が能源を用いた契約をしているからだ」
「契約……つまり、媒獣と契約をした人が能輩?」
「そういうことだ」
なるほど。じゃあ私たちがあの時遭遇したのは悪霊だったのか。そしてそれを扱っていたのが、事情聴取中に爆発したという能輩の筒井。
情報が繋がってきた。
私がこれから亡霊狩りとしての仕事を続ける以上、能力者連盟との対立は免れない。そしてその能力者連盟の中には、筒井のような媒獣を扱う能輩もいるというわけだ。
ほんと、嫌になる。ただ、それ以上に私は強くならなければならない義務を背負っている。夢幻はこの手で守らなければならないのだから。
「それじゃ、最後に能力狩りの能源を見てから仕事に戻ろうか」
「うん」
そうして連れられてきたのは、刑務所の中ではなく外。一般人が多く通る道の真ん中だった。
「いいか澪。澪が一番気をつけくちゃいけないのが、能力狩りの連中だ。奴らは相手の能力を奪う能力を持っている。そしてその能源は“一般人と全く変わらない”。奴らも言ってしまえば能力を持ってるただの一般人だからな」
「……!」
「人混みは極力避けろ。常に周囲を警戒しろ。俺が言えるのはこの二つだ」
「わかった。ありがとう春斗」
**
『何の用だ御影。私はあまり暇ではない』
「文句ですよ。澪に任務はまだ早い」
『……いいや、頃合いだと思うが?』
「直接見にも来ないあんたらに何がわかるってんだよ。澪はまだ能源の扱いすらままならない。一般人と同じようなもんだ」
『だからこそ一緒に一人手配しただろう?』
「……あんたらは澪の重要性を理解していない。彼女が連盟の奴らに渡ったら終わりだぞこの国は。大体、澪の管轄権は俺にあるだろ。勝手なことすんなよ」
『ふむ。だが御影。お前の管轄権は私たち上層部のものだ。お前が持つ管轄権も、私たちの管轄権になり得る』
「無茶苦茶だな。あんたら」
『褒め言葉として受け取っておこう』
「チッ」
御影は舌打ちと共に電話を切った。彼の傍らで様子を見ていた霞田は笑い混じりに言った。
「無理だっただろ?」
「ああ。あいつら、澪のこと殺す気だ」
「その方が自然に澪さんのことを処理できるからね」
ため息を吐きながら、御影は俯いた。
**
私たちは傀儡使いが戦闘を行ったという現場を訪れていた。
傀儡使いは過去二日間にわたって一般人、亡霊狩りを計七人殺害している。今最もホットで話題の亡霊だそうだ。
「澪。この現場を見てどう思う?」
そう言われたので、私は少し観察してみることにした。
人気のない路地裏を抜け、車が一つも止められていない駐車場の裏に、この空間はある。フェンスと建物の間のここは、多少窮屈ではあるが、人が二人向き合うほどの空間はあった。
特にそれ以外の特徴は無かったが、何よりも私の目に飛び込んだものがある。それは、地面や壁に血しぶきのようにこびりついていた亡霊の能源であった。
「何か……能源がめちゃくちゃ飛び散ってるね」
「ああ。これが探索の主の情報源となる“能力源”だ」
「能力源? 能源じゃなくて?」
「そうだ。似た名前をしてるが、そこには大きな違いがある」
春斗は能力源に手をかざす。すると不思議なことに、その能力源が彼の手に吸い付くようにして浮かび上がり、春斗はそれを胸ポケットから取り出した小さな瓶に封じ込めた。
「簡単に言えば、能力を使用した痕跡だ。さっき見てもらった通り、能源には幾つかの感触があるが、この能力源は個人によって大きく異なる」
能力の種類は千差万別。個人によって異なる。つまりはそういうことなのだろう。
「能力源にはもう一つ、面白い性質があってな」
春斗は瓶を人差し指と親指で挟んで私に見せる。
「能力源はその能力者が近づくと淡く光るんだ」
「だからそうやって持ち歩くんだね」
「そういうことだ」
瓶を服の同じ場所へと押し込み、彼は歩き始める。私はその横を歩く。




