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命の行方  作者: 焼魚
第1章:邂逅・啓発

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4:優秀な部下たち

「……なんですかそれ」


これまた聞いた事のない言葉だ。私の頭は既にパンク寸前だと言うのに。


御影さんは言う。

「君の能力『夢幻(ファントム)』は『見た能力を再現する能力』。俗に言うコピー能力だ。しかしこれは事象の2タイプどちらにも当てはまっている。こういった定義外の能力の分類を『特異』と言うんだ」

「へぇ〜……」


顔には出さないようにしていたが、内心少し嬉しかった。自分の能力は特殊なのだと、改めて知ることができたからだ。


「だから君は連中から狙われているんだ。理解したかな?」

「……はい」

「よし、それじゃあ少し実戦してみようか」


御影さんはミツハとハルトを道場の端に寄せ、道場の中心で私と向き合った。私の心臓が、その拍動を速めるのを感じた。


「俺を殺すつもりでやってくれて構わない。さあ、能力を発動してみて」


考え、拍動が元の速度に戻らぬうちに、私は御影さんへと告げた。

「で……できません」

「…………理由を訊いてもいいかな?」


いつだって私の頭の中には、鮮やかに、そして詳細にあの時の記憶が、光景が浮き沈みしていた。能力を使おうとすると、その記憶が私の行動を制限してしまう。


「トラウマです」


御影さんは顎に手を当て、考える素振りを見せる。そして私へと言った。

「わかった。無理強いはしないよ。ただ、今後は多少無理をしてもらうことになる。ハルト。その剣貸してくれる?」


ハルトは背負っていた剣を鞘ごと御影さんへと投げた。御影さんはそれを掴み、鞘から剣を引き抜く。

「ミオ。レッスン1だ。能源の扱いを知ろう」

「能源の扱い……ですか?」


御影さんは剣の先を私の前へと向けた。驚きつつ、私は後ずさりしながら御影さんへと言う。


「えっと……どういうことですか?」

「やはりまだ“見えない”ね。ミツハ。協力してくれ」


壁によりかかっていたミツハは、私の背後から抱きついた。

「えっ、どしたの? ミツハ」

「ちょっとじっとしててね。これが一番手っ取り早いから」


瞬間、私の体に変化が起こった。


全身から生気が立ち上り、力が溢れ出てくる。そしてその力────エネルギーは、私の目に形としてしっかりと映った。

エネルギーは、私の体全体を水蒸気のような状態で覆っていた。


「な……何……!? これ……!」


ミツハは私から離れ、言う。そんな彼女の体にも、水蒸気は立ち上っていた。

「これが目に見える能源の姿。能力や力の源だよ」

「能源……これが……」


生まれて初めて見る能源の明確な姿。思ったよりも、何だか、不気味な感じだ。

「さっ、そのうえで御影さんの剣見てみて」


私は言われるがままに視線を移す。すると剣の刀身に、能源と思わしきものが纏われていた。

「……御影さん。見えました」

「物に能源を込め、その攻撃力と耐久力を向上させる。能力者の基本的な技術の1つだ。能力無しで戦うとなると、君にはこれをマスターしてもらう必要がある」


と、その時、御影さんのスマホから着信音が鳴った。彼は「ちょっとごめん」と言いながら電話に出る。


話している間、私はミツハと話すことにした。

「ねぇ、さっきのあれどうやったの?」

「あれ? ……ああ、あれはね、ミオの目に私の能源を直接流し込んだんだよ。原理はよく分かってないけど、ここに来た時、私も御影さんから同じことをされて能源が見えるようになったんだ」

「へぇ〜」


御影さんの電話が終わった。深刻そうな表情に、私たちは彼を心配する。

「何かあったんですか?」

「いや、特に問題ないよ。話を続けようか」


御影さんはそう言ったが、その後、武器に能源を流す方法の説明をしている間、彼の表情はずっと暗いままだった。しまいには私を二人に任せ、自分はどこかへと行ってしまった。


    **


栄蕪さかえかぶ市北部。ここにはかつて、亡霊狩りが管理する施設があった。しかし、今となっては先の筒井の自爆により、地面までもが大きく抉れ、その面影の一切は見ることができなくなっていた。


爆発時、施設内にいた亡霊狩り数名と職員数十名は皆死亡。しかし、事情聴取の内容は数秒毎に本部とデータが共有されていた防犯カメラの内容により確認が可能であった。


仕事仲間からの連絡により、御影はこの現場へと訪れていた。

「よう御影。悪いな、こんなとこまで」

「構わないよ。電車で一本だし」


彼は『唐木(からき) (さとし)』。非事象のうち他者系の能力を扱うサポート専門の亡霊狩りだ。御影とは相互の信頼関係を結んでおり、一方の要請には応え合う仲だ。


「それで、筒井の死体は見つかったか?」

「焼けて灰になったか生きて逃亡したか、だ。爆弾は体の内部に仕込まれたのだから、後者はまずありえないだろうが、探知系の能力者の力を借りても見つからなかったことを見るに、前者が濃厚だ」

「……そうか」


御影と唐木は爆発の起こった中心────地面が最も深い場所にまで足を運んだ。そこには彼ら以外に十数ほどの人物がタブレットやら書類やらを持ち、地面を見ていた。


彼らは『調査班』と呼ばれる亡霊狩りの部隊の一つに所属する者たちである。今回のケースのように、亡霊などが引き起こした事故現場などの調査を行う。部隊に所属する殆どが他者系の能力を扱い、それを調査に活用している。


「“能力者連合”……厄介なことになりそうだな」

「その場合、押し付けられるのは確実に俺たちだもんな。やってらんないぜ」

「そのうえこっちは奴らの狙いのミオを教育中。なかなかハードなシーズンになりそうだよ」

「ああ、そういえばそうだったな。まっ、お前が死んだら俺がミオって子を引き取ってやるよ」

「助かるよ。まぁ、死ぬことなんてそうそう無いだろうけどね」


「ところで」と、唐木は何かを思い出したようにして御影へと訊いた。

「お前、そのミオはどうした?」

「今、俺の自慢の部下たちに預けてる」

「おいおい大丈夫か? あの二人の高校生だろ?」

「年齢の割に二人とも優秀な亡霊狩りだよ。心配ない。それに、二人は反省を次に活かせるタイプの人間だからね」


唐木は少し疑問を浮かべたようだが、それを口にすることは無かった。不自然な間を殺すように、御影は言う。

「さっ、仕事に取り掛かろう」


    **


「さあて、お前が煌然澪だよなあ?」


不敵な笑みを浮かべ、道場へと足を踏み入れる一人の男。その右手にはハルトのと比べ、遥かに大きな大剣が握られていた。


言葉と表情、そして何より、私たちとは全く異質の能源。何と言うか……淀んでいるというか、ぬるっとした感じの能源。ひと目で理解した。彼は敵であると。


その証拠に、ミツハとハルトが私の前へと、彼から私を隠すようにして歩み出た。ハルトが言う。

「ミオ。下がっていてくれ」


杖を出しながら、ミツハが続けて言った。

「今度こそ、私たちが完璧に守ってみせる」


知識を入れたうえで改めてこの二人を見ると、バランスの取れた組み合わせだなと思う。ミツハが遠距離から放出ブラストでの援護、ハルトが剣と追重力プラスグラビティによる近・中距離の攻撃。


私は彼らを信じ、後方で様子を見ることにした。

「二人とも、お願い」


私が視線をそのままで後ろへと足を進めると同時、ハルトは男へ訪ねた。

「おいお前。どうやって本部の中に侵入した?」


不敵な笑みを浮かべたまま、彼は答えた。

「教える義理はないな」

「そうか。じゃあ倒す」


ため息混じりに彼は言った。

「おいおい、ガキ二人が相手かよ。なめられたもんだな」


彼の言葉を気にする素振りを見せず、ハルトはミツハへと指示を出しす。

「ミオと距離を取りすぎるな。奴との距離もある程度保ったまま、俺を援護してくれ」

「わかってるよ。気をつけてね」

「ああ」


瞬間、三人は各々の役割を果たすため、戦闘態勢をとった。道場の入口近く、ハルトの剣と男の大剣とが衝突する。鋭く強い音が道場内に響き渡った。


両者一歩も譲らず、激しい攻防を繰り広げていく。剣が衝突する度に鋭い音が響き、私はその音を聞いて、内心ドキドキしていた。


私は先程まで、武器を能源に流す練習をしていた。しかし、私は自身に流れる能源の扱い方すら知らなかった。その方法を教えてもらっている最中に、彼が来た。


そして今、能源を駆使し、とてつもない速さで剣のやりとりをする彼らの姿を、私はこの目でしっかりと見ている。そこに抱くのは恐怖や焦燥の類ではなく、鮮やかな憧憬と高揚感だ。


ハルトは攻防の果てに、見事押し勝つ。

ミツハの放換ブラストの援護により、男の剣筋が鈍った。その影響下にて、ハルトは男の大剣をいなすと、それは床へと突き刺さって固定された。それを引き抜くまでに必要とした時間は僅か一秒にも満たなかっただろうが、ハルトはその大きな隙を見逃さなかった。


右肩から左腰にかけて大きく斬り、彼に傷を与えた。大剣を落とし、血しぶきと共に、男が地面に膝を着く。ハルトは彼の首に剣を当て、近づいたミツハは彼の顔に杖の先を向けた。


「終わりだ」

「…………」


男は沈黙していた。汗ひとつかかず、呼吸が荒れている様子はない。ただひたすらに落ち着いて見えた。

するとその時、突如として彼の能源が不気味なものから、私たちと同じような、一般的なものへと変わった。


男は両手を挙げ、静かに笑みを浮かべた。

「やっぱ強いな。御影の教え子は」


唐突に御影さんの名が出たことにより、私たちは驚く。彼が御影さんを知っていた理由は、次の言葉によって明らかとなった。

「試すような真似して悪かった。俺は亡霊狩りの『霞田かすみだ 勝太しょうた』だ」

「……証拠は?」


ハルトがそう問うと、彼は胸ポケットから小さな手帳のようなものを取り出した。その表紙に刻まれていたのは“対亡霊犯罪専門組織”という文字。二人が武器をしまったのを見るに、どうやら彼は本物の亡霊狩りのようだ。


霞田さんは言う。

「悪かったな。審査の材料として必要だったんだ」

「審査? 一体何のです?」


私は彼が仲間だと知って、会話がより鮮明に聞こえるように三人の元へと近づいた。

「君ら二人を“二級能力者”として任命するための材料だよ」


二級能力者? ……階級の話だろうか。兎にも角にも、もう少し聞いてみよう。


ミツハとハルトは目を見開きながら、霞田さんの話を聞いていた。

「実は最近、厄介な亡霊の組織が発足してね。その対処に人員を割くため、亡霊狩りに所属する強い能力者を確認しておきたかったんだ」


彼は立ち上がり、自らの傷に手を当てる。瞬間、能源が傷口に流れ込んでいった。すると忽ち、その傷は跡形もなく消え去った。


「これが俺の能力『不完全な回帰(インリバース)』。二分以内に受けた傷のみ、完治する。但し、一日に二回が限度だ」

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               「いいよいいよ。俺が元凶なんだし」


その時初めて、私は霞田さんに話しかけられた。

「そうだ、君。煌然澪さん。君に少し話があるんだ。ちょっといいかな?」

「あ、はい」


私は霞田さんに連れられ、一時的に道場の外へと出た。そしてこう言われた。

「今君には、二つの選択肢がある。あの子たちや御影と一緒に亡霊狩りとして過ごすかこの本部にしばらくの間身を潜めるか、だ。御影は君に前者を勧めたようだけど、君からの要望と説明さえすれば、後者であろうと御影も納得する筈だ。……君はどっちがいい?」


……愚問だな。

今の私には、亡霊狩りに対する憧憬がある。そして何より────マイやユウナのような犠牲者を、これ以上増やしたくはない。そのためにも、私は強くありたい。


「……私は一度、御影さんの承諾をオーケーしました。私の意思は変わりませんよ」


彼は微笑んだ。

「そうか。上層部にも、そう伝えておくよ」

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