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命の行方  作者: 焼魚
第1章:邂逅・啓発

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1:堕胎(1)

「本日は当電車をご利用いただき────」


電車の中に、車掌による車内放送が響き渡る。

私は電車に揺られ、“亡霊”が出たという場所へと向かっていた。


途端、耳をつんざく轟音が車内にまで届く。振り返り、窓の向こう側にて私はその音の原因を見つけた。


都市中央辺りに建てられた高層ビルが、亡霊によって大破させられていたのだ。恐らくは、爆破系の能力。建物全体が三日月型に欠けているのを見るに中々手強そうな能力だ。


轟音の影響により電車が緊急停止し、人々はドアへと走り出す。私は車内で一人、手に持っていた鞘から剣を引き抜いた。


「……やるか」


私の名前は「煌然こうぜん みお」。亡霊狩りという組織に所属している。

何故私がこんなことをしているのか、時は遡る。


    **


遥か昔、海外でサイコキネシスの力を持った赤子が誕生した。次に空を飛び回る赤子。次に火を吹く赤子。やがてそういった異常な力「能力」を持つ人間のみが生まれるようになり、やがて順当に世界は能力者のみのものとなった。


進化の過程で二足歩行を開始したように、脳が進化を経るごとに大きくなったように、我々人類は更なる進化を遂げたのだ。

神の力を体現したような我々の能力は、人類の科学の飛躍的な向上と共に、その悪用による犯罪の件数の倍増をもたらした。


自身に宿りし能力を、犯罪へと利用する者たち。政府は彼らを『亡霊』と称した。


そして以前までの行政機関では亡霊たちへの対処が追いつかない事態となってしまい、政府は国内に新しく行政機関を設けた。

その名も『対亡霊犯罪専門組織』。通称“亡霊狩り”。


これから先は、私とその亡霊狩りとの出会いについて記していこうと思う。


    **


本年四月、都内の鳥花(ちょうか)西高校に入学。

それから約半年は、友人との遊びの時間に費やし、高校生活を謳歌していた。


あの日の起こったことも、その遊びの際に起こったことであった。


「よしっ、それじゃあ行こう!」


駅前、複合商業施設内のシアター。人が密集する状況に遭遇することを避けたかったがために、私たち三人は朝一番の上映時間に合わせ、この場所に来た。そのため、休日とはいえど、館内にいたのは数えられるほど。


私たちは学生ということもあり、周囲のお年を召した方々と比べれば確実に浮いていた。


中学からの友人、マイが言う。

「今日見る映画はね、二十年前に公開された旧劇場版のリメイク作品なんだよ。映像の美化に加えて新劇場版オリジナルのストーリー展開がこの作品の魅力だね」


彼女は先週、個人で今日見る映画を見てきていた。そのため、今こうして私たち二人に作品の魅力をネタバレの無い範囲で教えてくれているのだ。


高校で出会った友人、ユウナが反応を示す。

「へぇ〜。じゃあ、旧と新とでの話の内容は全然違うってこと?」

「いやぁ、それがそうってわけじゃないんだよね。原作に深いリスペクトの心を持ちながら、新をより良い作品にしようっていう心意気が感じられるんだ」

「そこが良いってわけね」


スマホを見つつ、私はマイたちに訊く。

「映画終わった後ってどこか行く?」

「そうだねぇ、どうする?」

「取り敢えずご飯でしょ。ここにはいっぱい飲食店あるんだし」

「私はそれでいいけど、二人は? お金あるの?」

「もちろん」

「昨日お金下ろしたからね」

「ナイス」


それから見た映画は、確かに面白かった。ただ、私とユウナに関してはその映画に対する知識が付け焼き刃ほどのものであったため、マイ──原作ファン視点とはまた違った面白さを感じていたのだと思う。


映画館を出た後、エスカレーターを利用して一つ下の階へと降りる。その階は丸ごと飲食店で埋まっており、カフェから焼肉屋まで、豊富なラインナップが揃っていた。


とはいえ映画が終わったのは十時過ぎ。まだ昼食には少し早い。ということで私たちは今シアターのある建物から徒歩五分、国内最大級のゲームセンターを訪れていた。


「どうせ取れないのに意地張るからだよ?」


ゲームセンターから出た後、歩道橋の上を歩きながら、ユウナは二万円も消費したマイに対してそう言った。マイの表情からは、哀愁が溢れ出ていた。

私はマイの肩に手を回し、こちらへと引き寄せるようにして言った。

「元気出してよマイ。今日は私が奢るからさ」


すると、肩を落としていたマイはぱあっと笑顔になり「ほんとに!?」と喜んだ。マイの奥にて「やれやれ」と呆れたような笑みを浮かべるユウナ。私はこの穏やかな雰囲気が好きだから、この二人とつるんでいる。

そしてそれはこれからも。


その時、私は()()。というより、()()()という方が正しかったかもしれない。この歩道橋の下、ビルとビルとを縦断する道路、その果てにあるこの街のシンボル──望遠塔ぼうえんとうという巨大な塔が、根本からポッキリと折れていくのを。


望遠塔の根本、そこには人や車なんかを遥かに上回る大きさの“何か”がいた。私はその何かの名前を知らない。

だるまのような体、その体を覆う茶の体毛、体から生えた屈強な両腕。そして何より、その化物の一つ目に、私は引き込まれた。


足を止め、私は二人へと、震えた声で言う。

「ね、ねえ……あれってさ────」


反応するよりも早く、二人の体は大量の血飛沫を散らしながら、その場でバラバラになっていた。今あの望遠塔の根本にいたはずの化物が、瞬速でこの歩道橋にまで移動。二人を殺した。


その事実を理解するまでに、私は目の前に広がる化物の顔面を眺めながら、ただ強い恐怖を感じていた。歩道橋の上、膝をつき化物を見上げる。


化物は低い唸り声を漏らしながら、私目掛けて右手を振りかぶる。にも関わらず、私の両足は動かない。腰が抜けてしまったのだ。それゆえに、私はただ死を待つだけだった。


瞬間、化物の腕が私の顔に触れる寸前で、その腕は関節の部位からボトッと道路に落下した。

化物が咆哮を上げると同時、一人の男性が高欄の上に降り立った。


手に刀を握ったその人は、振り返り、私に告げる。

「悪い。そこの二人は間に合わなかった」


眉を顰めていた。一方の私は目を見開き、驚きという感情を顔面に染み込ませていた。

「少し待っていてくれ。今からこいつを片付けるから」と彼は言う。


その後で「ミツハ。この人を頼む」とも彼は言った。すると忽ち、弓手から歩道橋の階段を登ってくる足音がした。そこから現れたのは、こちらへと歩いてくる一人の女性。


「オッケ~、任せといて」


彼女が私の方へと歩いて来ると、しゃがみ、私と目線を合わせた。

「名前は?」

「……えと、煌然こうぜん みお……です」

「オッケー、ミオ。私の後ろに隠れててね」


その時、化物の腕の切断部に赤色の何かが揺らぐのが私の目に飛び込んだ。途端、化物の腕が瞬く間に再生する。対し、男の人は冷静なままに手に持っていた剣の先を化物の目に向ける。


そして一言。

「『追重力プラスグラビティ』」


彼の“能力”が発動した。化物が頭から捻り潰されるようにして、その全身がぺしゃんこになり、幾つもの肉塊となって周囲に飛び散った。


「すごい……!」と思わず口にしたその言葉。それはミツハと呼ばれた女の人によって訂正された。

「いや、今の攻撃は少し狙いが甘かったね。まだまだ未熟ないい証拠だよ」


高欄から降りた彼のバテ具合が彼女の言葉を立証していた。

「ダメ出しするくらいなら、手伝ってくれないか?」

「自分でこの子のこと頼んだんでしょう?」

「そりゃそうだけどさ」


「あの……えっと……」

二人が会話を繰り広げる傍ら、未だ腰が抜けて動くことのできない私。そんな私に気づきミツハさんは私に手を差し伸べた。


「ああごめんね。びっくりしたよね」


私はその手を握り、何とか立ち上がろうとしたがどうしても足腰に力が入らなかった。その様子を見たミツハさんが、軽々と私を背負う。


「ミオの家どこ? 私たちで送ってくよ」

「えっ、いや大丈夫ですよ! もう少ししたら多分歩けるようになるんで!」


私がそう言って断るも、ミツハさんは「いいからいいから」と言い、歩道橋の上を歩き始める。とその時、男の人が私たちを静止させた。


「ちょっと待ったミツハ」

「どしたの?」

「“能輩(のうばい)”の気配がする」


彼がそう言った瞬間、先ほどミツハさんがやって来た方向とは反対の方から、男性の声が聞こえた。

「お前ら、亡霊狩りか?」


その声の主──彼が姿を現す。黒い外套に身を包み、右の目を覆う形で顔面には包帯を巻いていた。彼から感じられる異常な雰囲気。私はそれに対し、身を震わせた。


ミツハさんは「そうだけど、誰?」と彼に返した。私の体を自身の体に強く引き付けながら。

彼は私に対して指を指す。


「お前らには別に用は無い。用があるのはそこの嬢ちゃんだ」

「私?」

……どこかで会ったことがあっただろうか?


私が疑問を浮かべていると、男の人がミツハさん、そして私の前へと歩み出た。

「何の用だかは知らないが、この人は一般人だ。お前みたいな輩に差し出すことはできない」


言われた男性は顔を手で覆い、俯いた。

「……仕方ない。戦闘は避けたかったんだけどなぁ」


途端、彼の足元から黒い煙のようなものが立ち上る。その煙は瞬く間に私たち四人を含む範囲で広がり、球体となって私たちを閉じ込めた。


「やれやれ」と、私の前に立つ男の人は刀を構える。対する能輩と呼ばれた男の人は能力を発動する。

「『可変方向チェングル』」


一見すると、何も起こらなかったように捉えられた。だが、確かな変化として、私の味方をしてくれている方の男の人がその場で背中から勢いよく倒れた。そしてそのまま、全く動かなかった。


ミツハさんが戸惑いつつ、彼へと言葉を投げかけた。彼女の背で、私は彼のことを心配そうに見つめていた。

「ちょっ……ハルト! 大丈夫!?」


そこで初めて彼の名が判明する。ハルトさんはミツハさんに対し、そのままの体裁で返答した。

「こいつの能力……恐らくは俺と似たようなものだ……! 気をつけろミツハ!」


その言葉を聞き、ミツハさんは私をそっと地面に降ろす。それから振り返り、しゃがんでから朗らかな笑みをしつつ私へと優しい口調でこう言った。

「ちょっと待っててね。すぐ終わらせるから」


瞬間、どこからか彼女の手に吸い付くようにして、上端に碧色の球体が取り付けられた杖のようなものが出現した。ミツハさんはその杖の球体側を能輩の方に向け、能力を発動する。


「『放換ブラスト』」


忽ち、球体の先からビームのようなものが射出された。私はそれを見ただけで理解した。このビームは相当の威力を有するものであると。


だが、ミツハさんの能力は彼に当たるよりも早く、突然くるりと方向を変えミツハさんの方へと戻っていった。

「えっ、何で────」


そしてそれは彼女の故意的なものではなかったようで、狼狽えるミツハさんの左側腹部を貫いた。肉が焼ける音と共に、彼女が低い声でうめき声を上げる。

「あがっ……!!」

「ミツハ!!」


私の目に、倒れる二人の姿が映る。そしてその二人の間を優雅に歩く能輩。彼は不敵な笑みを浮かべながら、私に話し始めた。

「俺の能力『可変方向チェングル』は、相手の能力の方向を自由自在に変えることのできる能力だ。故に、今こいつらは自分の能力の反動をその身を持って受けている」


私の体は、既に回復していた。立ち上がり、感じるのはただひたすらなる“恐怖”。それに伴った、この場から逃げ出したいという欲求。


ただ、それが叶うことはない。黒い煙によって道が遮断されているからだ。

頼れる味方もいない。逃げる道もない。私に残された選択肢は二つ。


この男の人と対峙し、能力による戦いを行う。

抵抗せず、大人しくこの男の人に従う。


「さあ、大人しくついてきてもらおうか」


私は……前者を選びたい。そう感じた。

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