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プロローグ
魂が肉体から引き剥がされるような衝撃。
次に目を開けた時、私は夜のブリストン通りに立っていた。
冷たい石畳の感触、馬糞と石炭の混じった匂い、そして肌を刺す冬の空気。
――間違いない。私、来たんだ。
震える手でポケットを探る。指先に触れた硬質で冷たい感触に、わずかに安堵した。
父から託された、唯一の道標である懐中時計。蓋を開くと、秒針は狂いなく時を刻ん
でいた。
よかった。時間の錨は、まだ私をこの時代に繋ぎとめてくれている。
でも、時間がない。
顔を上げると、通りの向こうに小さな包装店が見えた。控えめな看板が、風に揺れて
いる。
『ルンドベリ包装店』
あそこだ。全ての始まりの場所。
そして、私がこの時代で、たった一人、出会わなければならない人がいる場所。
急がなければ。あの人が、孤独に凍えてしまう前に。




