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おもいつき

ドワーフの盆栽教室

作者: ろびしょー

山間にあるドワーフの国。この国では盆栽が大流行していた。


突然だが、ドワーフと聞いてどんなイメージをするだろうか?


矮躯に長い髭を蓄え、鉱山で掘った鉱石で鍛冶仕事をし、仕事のあとには度数の高いエールで乾杯。


多くの者がこのようなイメージを抱くのではないだろうか?


”わびさび”の代名詞と言っても過言ではない盆栽とは、かけ離れているように感じるだろう。


しかし、そんなドワーフの間で盆栽が空前の大ブームを迎えているのだ。


なぜか?理由は様々だが強いて上げるならば彼らの気質と置かれていた状況によるものだろう。


先程ドワーフのイメージで挙げた通り、ドワーフと長い髭は剃っても剃れない…

…あ、切っても切れない関係だ。


彼らは、ただそういう体質だからとか、剃るのが面倒くさいとかいう単純な理由で髭を蓄えているわけではない。


ドワーフにとって髭とは誇りであり彼らのアイデンティティの一部である。


時には髭の立派さで優劣を決め、時には髭の整え方で身分を証明したりもしていた。


そのため彼らの髭に対する執着心は以上に高く、酒の次に彼らが関心を寄せる対象は髭であった。


そしてドワーフと言えばもう一つ、やはり鍛冶だろう。


彼らの主な産業は鍛冶である、しかしその需要が近年減りつつあったのだ。


魔王が討伐されたことにより世界の情勢は平和そのものであり、さらに徹底的な魔物討伐が進められたために魔物による被害に悩まされることもなくなっていた。


そんな背景があり、少し前までは武器や鎧が飛ぶように売れていたのだが急にその需要が減り、ドワーフの国の収入は全盛期と比べ半減してしまっていた。


そんなところに盆栽という文化が入って来る。


仕事は減ったものの直近まで大量の鍛冶の依頼をこなしていたためドワーフたちの中に経済的に困窮している者は少なかった。


暇を持て余して酒を煽るばかりだったドワーフたちはすぐにその”盆栽”に興味を持つ。


盆栽は彼らの気質にマッチしていたのだ。


ドワーフに豪快なイメージを抱いている者は多いだろう、それは間違ってはいないのだが、本来彼らは職人気質で繊細な作業を得意とする種族である。


そして何より盆栽は髭を整えることに似ている部分があった。


彼らの気質と彼らの置かれていた状況に、奇跡的なタイミングで入ってきた盆栽という文化が新たなトレンドを生み出した。


自らの髭を自慢するのと同じように、自らが手入れした盆栽を自慢するようになっていったのだ。


そうしてドワーフの間で始まった盆栽ブームは留まることを知らなかった。


ドワーフが実際に手入れした盆栽は彼らの異才を反映、繊細な仕事ぶりに喝采を受ける。


そうして瞬く間にドワーフの盆栽は世界中に広がった。


各国の金持ちが、美術的価値の高いドワーフ産の盆栽にこぞって大金をつぎ込み、再びドワーフの国は全盛期を迎える。


そして、高名なドワーフの盆栽職人はいろいろな場所に呼び出され、盆栽についての講義や盆栽教室を開くようになる。


「よっしゃ!じゃあ盆栽教室を始めるぞ!まずはこの酒!なるべく度数の高いのを用意せい」


「あの、まさか飲みながら剪定をするのですか?あなた方は酒に強く手先が器用なので問題ないのでしょうが、我々には…」


「たわけが!作業中に酒を飲むやつがいるか!作品には真摯に向き合え!魂を込めて仕上げるのじゃ!」


「す、すいません!ではその酒は?」


「これは捧げものじゃ。水をやるよりも酒をやる方がええ」


「そ、そんな植物があるのでしょうか…?」


「おお。言うのを忘れておったわ!これは世界樹の枝じゃ。ドワーフの盆栽は世界樹の枝を使うんじゃ。神聖な力を宿す世界樹は水よりも酒を捧げものとして与えたほうがよく育つんじゃ」


「なるほど!」


世界樹の枝を使った盆栽。それがドワーフが手入れする盆栽の美術的価値をさらに高めているのである。


「酒やりは頻度や量、タイミングが重要じゃ、まずは頻度じゃが………」


「ふむふむ」


「次に剪定!これが最も盆栽の魅力的なところじゃろう。ここで形を整えて個性を出しつつも風通しを良くし、養分を効率よく行き渡らせるために工夫することが重要じゃ。やり方じゃが………」


「ほうほう」


「まあ今日はこのくらいかの!一番大事なのは愛情を持って手入れすることじゃ。そうすることできっと盆栽は応えてくれるじゃろう」


「大変勉強になりました!」


ドワーフの盆栽教室は好評を博した。


そして驚異的な速度で世界中に世界樹の盆栽が広まっていく。




場面は変わり、禍々しい瘴気が漂う地下遺跡、一番深い階層にあるひと際大きく仰々しい扉、それを隔てた先の部屋から歓喜に満ちた笑い声が漏れ聞こえてくる。


「フハハハ…!()()()封印の力が弱まってきておる!我の復活も近いだろう!…()()たる人類に、再臨せし我が天災の如き力で采を下す!もはや救済はない!


世界樹の力によって封印されていた古の魔人が、刻一刻と迫る復活の時を察知し、狂気に満ちた笑みを浮かべるのであった。



この短編を書く際、盆栽について掲載しているサイトで奇才の作品を拝見しました。

高価なものだと億越えの価値があると記載されていて驚きました!


他にもいくつか短編を書いてますのでお時間がありましたらついでに読んで行ってください。

現在、毎日投稿中の長編もあるのでそちらもぜひ!

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