権力欲とは怖いもの
「念願の部長の座を手に入れたぞ!」
朝早く出勤し、俺1人の部屋の中、部長の席に座る。
そして、机に両肘を立てて寄りかかり、両手を口元に持ってきてほくそ笑む。
(さあて今日からどうしようかな……)
今までこき使われてきた分を、下にやり返そうかと考える。
前の部長も似たことをされて育ってきたはず。
なら、俺がやっても許されるだろう。
「日が出てきたな……」
雲に隠れていた太陽が顔を覗かせると、部屋全体が明るくなる。
「やれやれ。部長の初仕事がこれか」
俺はハニカムスクリーンを降ろしに窓辺に向かう。
(そういえば初めて出社した時もやったな……)
新入社員として配属が決まった日、朝一番で入社した時を思い出す。
(あの時は部長がいて、あれこれ教えてくれたっけ)
昔をしみじみと懐かしんでいると、新入社員が入ってきた。
「おはようございます!部長早いですね!」
「ああ、おはよう。部長初日だからね」
「僕も今日が初日なんですよ!手伝いますね!」
新入社員は笑顔でハキハキと動き、手伝い始めた。
輝きに満ちた新入社員の笑顔と朝日が、俺の心の闇を消していく。
(あの日部長が教えてくれたことは――)
仕事の手の抜き方や休憩タイミングや様々なことを教わった。
(権力は怖いもの。だから律する心が必要だっけか)
出世争いや同期との競争の日々が脳裏を駆けていく。
(どうして忘れたんだろう)
歴史を紐解いてみれば、権力者は時に暴走する。
(それはイエスマンばかりで固めたからか、権力を一点に集中しすぎたか)
反対意見もときには必要。
責任を分散してリスクを回避する。
パワハラモラハラなどに注意を払う。
(研修で教わったこと、ひとつずつ思い出していくかな)
作業を終えた新入社員にあれこれ伝えよう。
そう俺は心に決めて、新入社員に話しかけた。