表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第5話


 実際のところ、伯父がダイイングメッセージを残したこと自体には、とても驚いている。

 伯父のコレクションの一つ、彼が大好きだったナイフで、心臓をグサリと一突き。初めて人を殺す俺にもわかるほど、確かな手応えがあった。

 一撃で絶命したに違いない。そう判断して、俺は部屋から立ち去ったのだが……。

 明美に言われて、(あと)で牧彦と共に現場へ戻ったら、見覚えのない血文字が描かれていたのだ。びっくりして当然だろう。

 死んだと思った伯父が、実はまだ生きていて、最期の最期の力で書き残したメッセージ。しかし何を血迷ったのか、それは『あ』という一文字だった。

 俺の名前は『隆』だから『あ』は含まれていない。いったい伯父は何を考えていたのだろう? 正面から俺に刺されたのだから、犯人を見誤ることはないはずなのに……。

 結果的に見れば、このダイイングメッセージのおかげで、俺は嫌疑の外へ。『あけみ』の明美と『あーくん』の牧彦だけが疑われる格好だ。

 この点は、伯父に感謝しなければなるまい。そんな気持ちになるくらいだが……。


「三人は、これに見覚えありますか?」

 警部が掲げてみせたのは、一冊のノートだった。

 ダイイングメッセージの議論を中断してまで、わざわざ俺たちに見せるくらいだ。よほど重要な証拠品なのだろう。

 大切そうに、証拠保管用らしきビニール袋に入れられている。その状態でも、ノートの表紙に「2022年」と書かれているのは読み取れた。


「あら。それって、伯父の日記かしら……」

「えっ、日記!?」

 明美の言葉に、俺は驚いて聞き返してしまった。

 牧彦も「知らなかった」という顔をしており、そんな俺たち三人を見て、警部はニヤリと笑う。

「どうやら、ご存知の(かた)とそうでない方々に別れたようですな。こちらで中身を確認したところ、興味深い事実が記されていました」

 続いて、警部が取り出した別の書類。日記の一部を書き写したものらしい。

「少し被害妄想だったのでしょうか? 春樹さんは、あなた(がた)三人のうちの一人に殺されるのではないか、と考えていたようです」

「そんな……!」

 明美の悲鳴は無視して、警部は続ける。

「自分自身に対して言い聞かせる、覚え書きの意味もあったのでしょう。同じような記述が、何度も繰り返されていました。『死に際に犯人を示す暗号になるものを用意しておこう』と。『隆ならば赤いもの、牧彦ならば青いもの、明美ならば黄色いもので示す』と」

 そして警部は、改めて俺の方を睨んできた。

 その圧力に負けて視線を逸らすと、壁の時計が目に入る。この部屋に集められてから、まだ5分しか経っていなかった。

「どうやら『あか』と書き残すつもりだったようですな。しかし血文字で記す内容よりも、血を使うこと自体に意味があったのです。血という真っ赤なインクに我々の注意が向けられれば、それだけで十分なのですから」

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ