第1話
伯父の春樹が殺されたのは夕方だった。
食事の時間になっても、食堂に降りてこない。心配した明美が書斎を訪れたところ、胸を刺されて亡くなっていたという。
……と、他人事みたいな書き方で始めるのは、少し卑怯かもしれない。
この俺も、伯父の家で暮らしていた一人なのだから。
あの時だって、慌てふためく明美を落ち着かせてから、牧彦と一緒に伯父の部屋へ向かったのだ。
「なあ、隆。これって、殺人現場ってやつだよな? 刑事ドラマや推理小説で出てくるやつだよな?」
「そうだろうね」
「じゃあ、現場保存の必要あるんだよな?」
「うん、何も手をつけちゃいけないよ」
そんな言葉を交わしながら、部屋の入り口から覗き込むと……。
仰向けの格好で、床に横たわっている伯父の死体が、俺たちの視界に入ってくる。
その胸に突き立てられているのは、銀色のナイフ。柄には、ゴツゴツした模様が彫られていた。伯父にはナイフ蒐集の趣味があり、これがその中の一本であることを、俺はよく知っていた。
「なあ、隆。あれって……」
少し声を震わせながら、牧彦が伯父の手元を指し示す。
亡くなった伯父の指先は、赤く汚れていた。自らの血で、床に何か書き残そうとしたらしい。俺には『あ』という一文字に見えた。
「うん、そうだろうね。きっとダイイングメッセージだ」
このように、俺は立派に関係者の一人だった。
いや、ある意味では、一番の関係者と呼ぶべきかもしれない。
なにしろ、この俺こそが、伯父の春樹を刺し殺した犯人なのだから。