1 宿題はやらない方がいい
「あーあ、人生退屈だなぁ」
俺はペンを回しながら、いつもの口癖をつぶやいてしまう。
でも無理もないよな。
なんでこんなに俺の人生というのはつまらないんだろうな。
俺は至って平凡な家庭に生まれ、平凡な感じに育てられた。
特段不自由をした覚えはない。
毎日温かい布団で眠れるし、おいしいごはんも親が用意してくれたものにありつける。
むしろ世界の基準で考えれば、すごく幸せな日々を送れているのかもしれない。
でも俺はこうも思うんだ。
人生刺激があってなんぼのものだって。
そりゃ幸せなのもすごくいいことだが、やっぱりせっかく生きてるのだから刺激が欲しい。
ハラハラドキドキの冒険をしたり、すごく悲しい出来事があって、それに立ち向かってみたりとか……まぁそんな感じでとにかく感情が揺さぶられるようなことをしたいのだ。
そんなスパイスがない人生、何のためにあるというのか。
いや、そんなこと言うなら自分で何か挑戦してみたらいいのではと言われてしまうかもしれないが、それは俺のできる限りやってきた。
いろんな習い事をしたり、部活なんかも中学校にあった全ての部活をちょっとずつかじったりした。おかげで完全に変人扱いだったが、どんなことをやったとしても俺の心は満たされることはなかった。
そもそも俺がやれることなんて限界がある。
俺は普通の家庭に生まれた至って普通の高校生なのだ。
当然スリルのある犯罪行為なんて許される立場じゃないし、遠くに行ってみようにもお金がなかったりする。結局は何をしようにも高校生である俺を演じざるを得ないのだ。
そんな定めに縛られてしまっている。
ああ、本当に一度でいいから別の世界で、別の自分として自由に生きてみたいな。こんなくだらない毎日から解放されてさ。誰か迎えにきてくれたりしないかな。ほんとに夢でもいいからさぁ。
「ああ、めんどくさい」
また余計なことを考えてしまったな。
せっかくの休日なのに、またこんな感じで無為に潰れるんだろうな。はぁ、もう無理こんなことなら勉強なんてしてないでもう寝ちゃおうっと。宿題は徹夜でなんとかするわ。
ああ、本当に、退屈な人生…………
「目を覚ましたかの」
俺は目覚めると、知らない場所にいた。
見渡すかぎり真っ白な空間だ。
天井や壁があるかどうかも分からないほど白一色。
そんな中しっかり立てているのだから、足元には床が広がっているのだろう。
え……なんですかこれ。
「ここは?」
「ここは天国じゃ。お主に一つ頼みがあっての。呼び出させてもらった」
目の前には灰色の上品なヒゲを蓄えたおじいさんがいた。
昔ながらの衣服というか、古代ギリシャ人なんかを彷彿とさせる雰囲気のある見てくれをしている。
えっと、誰だ?
「ワシは神じゃ。驚くかもしれんがのう。まぁ落ち着くまで待ってやるから心配せんでいいぞ」
「神……? 俺はどうなっちゃったんですか?」
「心配せんでもお主は生きておるぞ。現実の世界で布団に包まったまま仮死状態となっておる。体から魂だけを抜き取ってここまで連れてきたという寸法じゃ。なに、全てが終われば、無事元の世界に帰してやる。勝手に呼び出したのは悪かったのう」
なんだ、何がなんだか意味がわからないぞ。
俺は天国にいて、そこで神と名乗る人物に会っている。おふざけなんかじゃなさそうだ。この白い空間は現実で表現できるようなクオリティじゃない。
本当に何なんだよこれ、まるでおとぎ話のような……
あれ? そうだ、こんなことが現実に起こるわけがない。
はは、なるほど。
「そうかこれは夢か」
絶対にそうだ。こんな不思議なことあるわけないんだ。
よくよく考えれば、こんな展開どこぞの漫画かなんかで読んだことがあるぞ。
主人公が死んでしまって、それで神様のお詫びとかいって異世界に転生させて貰うみたいな。
はぁ最近こういった漫画ばっかり読んでたから、ついにこんな妄想をするまでになっちまったんだな。妙にリアルだが、それがまた夢というものだよな。
「大丈夫かの?」
「ああ、悪いなおっさん。俺はすっかり元気だ」
どうせ夢なんだ、かしこまるだけ損だ。どうせならパーッと俺様系のお気楽ムーブでいかせてもらうぜ! 現実じゃこんなこと絶対できないからな。
「急に人が変わった気がするが……まぁよい。それで早速本題なんじゃが、今回お主には異世界に出向いてもらおうかと思うのじゃ」
異世界!? でた、本当に出たよ。流石は俺の夢。俺の希望を忠実に再現してくれるな。この調子で夢を自在に操れるようになればほぼほぼ無敵なんじゃないか。まぁそう上手いこといかないだろうけど。
「というのもじゃな、実はその世界には魔王という邪悪な存在が幅を効かせておっての。少々人間陣営の分が悪くなっておるのじゃ。このままじゃと人間が滅びかねんのだが、神であるワシが直接手を下すわけにもいかん。あらゆる世界は公平さが求められるからの」
「魔王ねぇ。そこで俺の出番というわけですか」
「そうじゃ、お主は他のどの人間よりも勇者の適正がある。どのステータスもピカイチなんじゃが、特に身体能力値がエゲツないの。過去のどのデータを漁っても例がない」
ほう、俺は勇者にならないといけないんだな。
流石にちょっとベタすぎて小っ恥ずかしいが、まぁ夢だしなんだっていいよな。
「仕方ない。勇者になってやる」
「よいのか?」
「ああ、俺が適任っつうわけだろ? 任せとけ、俺が諸悪の根源を全て立ち、世界に平和という名の鐘の音を轟かせてやるぜ」
ちょっとよく分からないことを言ってしまったが、これは夢ながらかなりキマったな。せっかくの機会だ、勇者プレイを存分に味わってやろうじゃないか。
「すまん、そう言って貰えると助かるわい。無事魔王を倒すことができれば元の世界に帰してやるからの」
「いや、そんな余計なことしなくていいよ」
なんでせっかくの楽園からわざわざつまらないリアルに帰還しないといけないんだ。それこそサクッと魔王を倒しちゃったりして、気づいたらリアルで目が覚めて夢オチでしたみたいなのが一番冷めるしな。
「よいのか?」
「ああ、現実なんて帰りたくないし、一生異世界とやらにいてやるよ」
「本当に大丈夫なのかの? 後で帰りたいとなっても帰れなくなるのじゃぞ?」
「ああ、問題ないって」
妙にしつこいな。帰るもなにも夢が覚めてしまえば嫌でも現実なんだから何も問題ないだろ。帰れないなんてことなるわけないんだからさ。
「分かった。それじゃあお主と現実の肉体とのリンクは切っておくからの。確かにこうした方がより本来の力を発揮できるのは確かじゃ。これでもお主も完全な異世界人じゃな」
「そんなこといいからとっとと異世界に連れて行ってくれよ。もう待ちくたびれてるんだこっちは」
「ふむ。ゴタゴタ言うのも締まりが悪いからの。それじゃあお主を異世界に転生させるからの。魔王の件、頼んだぞ~」
そんな声とともに、俺の意識は遠のいていった。
ああ、本当にラッキーだったな。まさかこんな夢をみれるなんて。せっかくの機会だし、目が覚めないうちに気が済むまで暴れ回ってやるかな!




