癒しの時間
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
日は昇り、寝ていないけれど、身体はすこぶる元気だ。
でも寝るという行為は、身体を休めるだけじゃない。
心も休める行為なんだと思う。
”ホントありゃ迷惑な力だね。心の疲れが取れてないよ”
今日の気分は100歳当時の心の在り様だ。
しかし昨日はいろいろと衝撃的な話があったね。
”建国とか言ってたけどホントにするのだろうか?”
偉く具体的な内容盛りだくさんだったと思う。
まあそこら辺はこの領の皆が決める事、私も何か手伝える事があるなら手伝う。
考えて見れば、この国と完全に縁を切るという事はいい事だ。
”帝国かぁ……… そういえば前々世知り合いがいたじゃないか”
確か帝国の、今は皇太子だろう。
この国へ親善大使の役割で来られた際に知り合い、いろいろと手紙のやり取りをした。
”お互い皇帝や王妃になり、いろいろと仕事で関わったのよね”
ワザとなのか必要な情報や世界の不文律を伝えない側近。
だから帝国に関係する事は、問題になる前に確認の手紙をよく出していた。
”その度にそんな国捨ててこい。無理なら助けを願えと言っていたな”
ほんと彼とは色恋の関係じゃなかったけれど、とにかく頼りがいのある人だった。
もし彼が結婚相手だったなら、助け合い支え合う充実した人生だったと思う。
”俺と結婚すればいいと、色気も素っ気もないプロポーズを、冗談交じりでされたな”
余りにも酷い私への扱いにキレた彼が、私を国から連れ出すと言った時の言葉。
「こんなクソみたいな国の為に、何故頑張らなければならない。それになんだアイツらは!感謝するどころか偉そうに、何もできないバカばかりだ!こんな国捨てろ!!」
帝国との交渉で偉そうに報告をしている内容が、事前に確認して知っている彼だからわかるこの国の内情。
だからこそこの国の者達の醜態が浮き彫りになり、その醜悪さにうんざりしていた。
「今世も逢えるかな。また仲良くなりたいね」
多分前々世で気心の知れた相手と言うなら、彼ともう一人。
隣国の公爵令嬢ローゼリア。
交換留学生で来た彼女も、また苦言を呈した人だった。
「その方を貶している割に、その方よりも知能やその他もろもろが劣っておりますわね。という事は自虐ネタなのかしら?フフフとても面白いですわ。ぜひ隣国にも伝えましょう」
ホント歯に衣着せぬ物言いで、周りをけん制してくれた。
今のうち休めと心配され、うちに遊び来いと言って、この国から離そうとしていた。
「ホント二人の気持ちを汲み取れず、意味もなくその場に拘っていたね、私は」
そういう風に育てられ、生かされていた私。
それをとても悲し気に見て泣いていた彼女。
この国を離れる事になった時、彼女はどうにか私を連れて行こうとしたけれど………
その手を振り払ったのは私だった。
周りの戯れ言に惑わされ、もう何がホントかわからなかったから。
「今世でも逢いたいね。謝っても意味がないけれど、友達にまたなれるかな」
ホント私は愚か者だった。
前々世の私はいろいろと足りてない者だった。
そういう風に育てられた。そうなる様に育った。
王宮の綺麗なドレスを着た使い勝手のいい奴隷。
正にそれが私だった。
「フー……… 前々世の事を考えるとホント気鬱になるね」
毎朝の作業をしながら考えるいろんな事。
頭を整理するには、ホントに都合がいい時間だ。
”今日も頑張ってるね。お疲れ様~♪”
”なんか暗いね。明るくなる所に行く?”
”森に美味しい果物見つけたよ。行こう♪”
”三郎がもう少し王都にいるからって言ってるよ”
そういえば麻薬関係を探って貰ってたんだ。
王都にいるっている事は、アチラ側の貴族が関係するという事。
どうやらハメられたという事か……… どうして?
「ウ~~~ン……… どんな内容だったかね。大体自分の両親が関係する話だったかもしれないのに、何で私は何も知らないの!それがいろいろとおかしいし不思議でしかない」
それだけ私自身もいろいろと欠落した可笑しな人間だったのだ。
あの当時思った憤りも悔しさも、人形のような仮面の笑顔に隠して私は生きていた。
一体何が楽しくて生きていたのだろう。
「とにかく思い出すんだよ。それがうちの領だったら大変だ。頑張れ私の記憶力」
前々世の記憶がどういう風に脳に定着するのか不思議だが、そこは深く考えてはいけないのだろう。
”考える時には糖分だよ。森に行こうよ”
”行っちゃえ♪行っちゃえ♪”
”楽しいよ。久しぶりに一緒に遊ぼう♪”
”お休みも必要だよ”
そうだね。最近ミミズ達と遊んでないね。
それに森の果物も気になる。どんな果物だろう?
「カーラ、ちょっとミミズ達と遊んでくる」
「朝食はどうされますか?」
”いらないよ。ご飯はこちらでいろいろ用意するよ”
”途中で風魔が合流するって言ってる”
”貴船一家も来るって”
”ミソンと小魚と米持って来るようお願いした。”
「なら久しぶりの日本食だね♪」
「わかりました。その様に伝えておきます。ただしちゃんと従魔様方の言いつけお守りください。怪我などなさらぬように、お願いいたしますね。」
”わかった。任せて”
”ちゃんと守るよ”
”悪い奴はやっつけてやる”
”ご主人様大切だからね”
「よろしくね、カーラ。お土産に森の果物持って来るね」
一輪君に道具を乗せて山を下りるカーラ。
その背に手を振り、久しぶりのミミズ達との遠出にワクワクする。
****************
ミミズ達と移動する時は、大体地下道を通る事になる。
まるでトロッコ移動をしている感じだ。
基本地下は真っ暗と思うが、どういう理屈かミミズ達の地下道は明るい。
なぜか灯りみたいな物が付いている。
”これはね。魔素灯って言うもので、壁にはヒカリゴケが生えている”
”ダンジョンとかにも付いてるよ”
”ここダンジョンじゃないよ”
”ダンジョン並みに魔素があるから使ってるの”
そういえば風魔が魔石の話をしてたね。
”風魔が魔石の話した?”
”ある場所を中心に発掘出来るようになってるよ”
”でもちょっと違う使い方するの”
”沢山あるから、発掘もそのうちできるよ”
「違う使い方って何だい?」
”需要があるんだ。だからいろいろと考えた。”
”美味しい物で溢れる世界って幸せだよ”
”美味しいは正義なの♪”
”美味しいで世界は変わる♪”
なんかミミズ一家がいろいろと、先の事を考えている事は伝わった。
”そのうちわかるよ。今はまだ内緒”
”そう内緒なの。楽しみだね”
”ワクワク最高♪”
”とりあえず森に行こう♪”
ミミズ一家がする事は、とても楽しく素敵な事ばかりだ。
だから内緒というなら、楽しみにそれまで待とう。
その分とても楽しい事が起こるのだから、ワクワクして待っていよう。
「森の果物楽しみだな。ナイフなくて大丈夫なの?」
”大丈夫♪美味しいよ”
”ご主人様、絶対気に入る”
”女の子にはおススメなの♪”
”とにかく美味だよ♪”
一体なんだろうね。
地下を通るから、今どの位置辺りか全くわからない。
それに早いんだよ。時速40キロは出てないかい。
地下道を見ると、あっちこっちに横穴がある。
”ちょっと休憩。おススメだよ。”
”地底湖のお水。美味しいよ”
”飲んで♪飲んで♪”
”力のあるお水♪”
青白く輝る地底湖。
中央辺りからいくつか気泡が湧いている。
湖の底を見ると、とても澄んでいて深さがどれくらいかわからない。
手をそっと入れ水を掬う。
舐めて見ると確かに水だが、少し含むと水の柔らかさがわかる。
飲み込むと清々しい程の甘みとのど越しの良さ。
「美味しい……… 」
たかが水、でもされど水だ。
この水を汲んで、うどんのだしに使いたい。
絶対美味しいだしが出来上がるはずだ。
うどんだって水の良さは不可欠。
”同じ性質の湖の近くで貴船が待ってる”
”大丈夫だよ♪”
””レッツゴー♪””
ヤレヤレ、今日はいろいろと忙しそうだ。
地下道を進んでいくと、結晶が沢山ある場所へ連れて来られた。
”ここ辺りは魔石山の場所。”
”沢山の魔石が取れると思うよ。”
”僕たち眷属の溜まり場なんだ”
”仲間もここで次々に生まれるんだよ”
ミミズ達は雌雄同体だそうだ。基本普通の動物の様に卵で増えるらしいが、分裂でも増えるそうだ。
ある意味最強ではないだろうか………
”ここが一番魔素が溜まるから繁殖に便利”
”いろんなところに移動しているよ”
一体のワームが私に種を渡す。
”それ桃の種だって、たまたま手に入ったから植えてね”
どうやら欲しがっていたのを、知っていたらしい。
”ケルピー達が待ち合わせ場所に到着したって”
移動速度を上げて目的地に向かう。
地下道にはなにもないと思っていたけど、意外といろいろと整備している様だ。
そうこうしているうちに、地上に出る為に上り坂を駆け上がる。
まるで黄泉比良坂のようなイメージだ。
”実際行った事ないけど、あの話を読んでイメージするとこんな感じかな”
行った友達は、戦死した旦那に手紙を出したと言っていた。
いつか行ってみたいと思いながら、行かなかった場所。
地上に出ると周りは森に囲まれ、コンコンと湧き出る泉の近くだった。
日もなかなか入らない森で、鬱蒼と木々が生い茂っている。
「姫様~、待ってましたよ」
「姫巫女、釣りでもどうだ?」
横では大河が火を起こして、魚の腸を取っている。
そしてその腸を泉近くの川に入れ、また魚を寄せて釣るの繰り返しだ。
泉はキノコや山菜を採取していた。
ガサゴソと音がする方向を見ると、風魔とマリリンがいた。
手にはヒノクニで手に入れた調味料や米など食材を持参している。
「お嬢来たな。ここならいろいろと気にせず報告が出来る」
「まずは果物を取って楽しむとしよう♪」
手に持った品を泉たちに預け、風魔は私を抱き上げた。
マリリンは海流の所へ行き、釣りをする様である。
ミミズ達は泉の中に入り、身体を綺麗にしているのか?
「一郎殿が言うには、アチラ側だったかな。ほらあの赤い実だ」
人差し指で指し示す所にあった果物はライチであった。
「うわー!私これ大好きだよ!!お土産に持って帰りたい。」
私が飛び上がって喜ぶと、ミミズ達がやって来て実を取り易い様に、ライチが生る所まで身体を寄せた。
”ご主人様、こうしたら実が取れるでしょ”
”取った物は水につけて冷やせば美味しいよ”
皆でわちゃわちゃと朝ごはんの準備をする。
最近いろいろと不穏な空気が漂い始めた。
だから無意識に気を張っていたのだろう。
このどこかも判らない所で、気心の知れた従魔達といる事が癒しになっていた。
肩の力も抜け、新鮮な空気を思いっきり吸う。
手でキノコを割いて、味噌汁の具材に入れる。
包丁などないから、手で適当に千切って料理を豪快にしていく。
前世で暇さえあれば、何回となくしていた作業。
”この何げない時間が、私には最高の癒しかもしれないね。”
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)