王都へ…… ④【 陛下視点 】
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
最近いろんな事があり過ぎて、碌に寝る事も出来なくなった。
なのに次々問題が浮上して、睡眠不足が祟り始める。
「陛下…… 少し仮眠を取られてはいかがでしょう?」
王妃の姉であるマリアンヌが、お茶を入れながら問う。
王太后付きの侍女だか、今は私の執務室で働いている。
どうやらライオネスからの依頼で、体調管理をお願いされたようだ。
「まったく遠くにいても、私の状態が分かるようだな。」
困った顔で呟けば、そんな私を見て面白そうに笑う、マリアンヌ。
一時期は体中に傷があり、精神的にもボロボロ状態だった。
もちろんやったのは王妃だ。
「誰がやったの!!」と言うあの女に、図々しさと残虐性は虫酸が走る。
あの出来事の後に、ドリアスとライオネスはアセリアへと旅立った。
だがあれからさほど経っていないのに、こちらの状況は日々悪化を辿っている。
「申し訳ない。もう少しこちらが終わるまで、いいだろうか?」
今手元にあるのは隣国の訴状だった。
それもコチラが送ったと言われる手紙付だっだ。
「そちらの手紙、王印が付いてますわね。」
そうだ、王印付の手紙が送り返される。
その出来事は前代未聞であり、この国の現状を知った。
「フフフ…… いくら偽王印でも送り返されるとは、それだけ信用を失ったようだ。」
私が送った手紙さえ、ノーと思えば送り返される可能性が出て来た。
「陛下……」
蒼褪めた顔を眺め、学園の頃を思い出す。
やり直せるなら、あの時間に戻りたい。
そしてやり直し、彼女と家庭を築きたい。
私の人生狂わされたのは、そうあの頃からだった。
何故あの時、父上に抵抗しなかったのだろう。
母上でさえ必死に反対したのに、周りの思惑に流され世間を気にし過ぎたのだ。
何が王族だ。自分の考えもままならず、盤上の駒の様に踊らされる。
「まったく、どうしようもないな。」
途方に暮れた様に呟けば、マリアンヌが私の頭を抱きしめた。
常日頃ならこのような事はしない。自分を律する人だから……
「私はそれだけ、弱った顔をしているのか、マリー。」
幼少の頃呼び合った名で呼ぶと、
「ええ…… とても困り切った顔をしてるわ、オリオン。」
耳に心地いい声を聞いて、目をソッと閉じる。
優しく頭を撫でられる手が、擦り減らした精神を優しく癒す。
段々と疲れた身体が重たくなり、知らず知らず内の睡魔が全身を包み込んだ。
「ゆっくり休んで、オリオン。大丈夫よ。」
優しく労わる様な声が、急速に眠りへと導いて行く。
それ以来、時々からいつも執務室にいるようになる。
手伝いも身の回りから、事務関係の仕事まで熟した。
意味の分からない陳情は、マリアンヌが側近達に返す。
ムダな作業をドンドンと省き、目を光らせている。
余りにもしつこい貴族は、王太后が対応するようになった。
それと同時に諸外国に対して、その国に関係する陳情を公開する様にした。
コチラ上層部では反対の意思だという事、最近偽の王印を使う者が現れた事を伝えたのだ。
そして……
「王妃と離婚調停中である事も伝えてある。その理由内容も織り込み済みでな。」
「そうですね。暗に偽の王印は誰が使っているかわかるでしょう。」
「信用を失いつつあるんだ。これ以上下げる訳にはいかない。」
「そうね。じゃないと国として成り立たなくなるわ。」
その国としてが、現状怪しくなっていた。
王太后の住まいに行き、疲れた身体と精神を癒す。
王宮は住まいというより、仕事場だ。
自分の寝室なのに、落ち着いて寝れそうもない。
「アセリアはどうやら離脱しそうね。」
目を伏せて、哀し気な表情の王太后、母上の顔に申し訳なく思った。
知らず知らずのうちに、どうしようもない所まで来ていたのだろう。
それなのにどうにかしてくれると、現状を気づかず放置した。
ずっと王妃と取り巻き王宮貴族達の難癖に、対応してくれていた公爵オスバルドに甘えた。
おかげで更にエスカレートし尊大になり、角が立たぬよう対応する公爵を侮る風潮が出始める。
その原因の一旦は、私達王族の態度にあった。
辺境地周辺の事は、オスバルドに頼りに任せていた。
従兄弟で兄のようなオスバルドに、ついつい無意識に甘えたのだ。
本来の姿は、王家が頼り寄りかかる状態だった。
だが王宮寄りの貴族達には、公爵が王家にすり寄っている様に見えたのだろう。
いろいろと無理難題を言い、負担を強いていたのは知っている。
なのに私達王族は、甘えて頼りにし何の対応もしなかった。
おかげで、何をしても王家は何も言わない、だから好きにしていいのだと侮ったのだ。
公爵のオスバルドと話した時を思い出す。
考えれば、ドリアスとの婚約話からだった。
全てあの時から、始まった様に感じるのは気のせいだろうか?
”あの時しっかりと状況判断をしていれば……”
オスバルドの態度や雰囲気が、いつもと違うように感じていた。
だが王宮貴族共が、また無理難題を言ったのだろうとしか思わなかった。
そもそもその考え方がおかしかったんだ。
いつの間にか私自身もアセリアを軽く扱い、侮っていたのだろう。
頼っていると言いつつ、王宮貴族と同じ気持ちを持っていたのだ。
「公爵も陛下の大変さをご存じなので我慢され、多少の事は目を瞑りしていたわ。我慢されていたのも、周辺の国や領地の動向を考えての事だった。でも……知らない内に、多少が積み重なって、多少じゃなくなっていたのね。」
泣き笑いの様な顔で言う母上に、眉を下げるしかなかった。
「気づかぬうちに、外の国との交易が盛んで影響力もありますわ。経済的にも軍事的にも、あの領に勝てるものが何一つない。信用もそうですわね。たった一年も経たずして成長している現状が、とても恐ろしい。なのにこの国の貴族達はわかっていない。それもおかしい。」
その理由は知っている。
私はドリアスとライオネスから、送られた手紙の話した。
「王都教会がなぜそんな事を?!」
「それをアセリアの所業にしようとは……」
そのアセリアが起こしたワームの壁は、世界に激震を走らせた。
それだけの戦力があるのだと、見せつけたに等しい。
そして周辺の魔物も、アセリアに牙を向ければ反撃に合う。
つまりワームだけが戦力ではないと、知らしめたのだ。
そんなアセリアにケンカを売るような事をする、王都教会。
「魔物はアセリアの味方の様に感じますわ。」
「実際そう言って、訴えようとしたようだよ。」
私は弱り切った顔で、ため息をついた。
「大司教が言っていた。王妃がそう言えばいいと話したらしい。」
唖然とした顔をする、母上とマリアンヌ。
「だから言ったそうだよ。信用もない我が国の訴えに意味があるのかとね。」
アノ時見せた大司教エステバンの、嘲り交じりな眼差しが全てを物語っていた。
アイツは憎んでいたんだ、この国を……
何を考えているか分からない奴だったが、ホントはこの国を壊したかったのだろう。
「とにかく手紙によると、わざわざ教会で作った麻薬を、巡礼神官を使いアセリアに持ち込んで、旅人に扮したスラムの連中に持ち帰らせ、王都で撒いていたようだ。」
「それなら先程の貴族達がおかしい理由は…… 」
「王都の民が妙に騒ぎを起こすのは……」
戦慄するような事だろう。
私も恐ろしく悍ましさに、目眩がした。
「ホントにとんでもない事だよ。見事八方塞がり状態。どうすることもできない。」
この国はどうしようもない程に、めちゃくちゃだ。
一体まともな者達が、どれほど存在しているのか……
どうしてこの様な状況になった?
私は一体どの辺から見落としていたのだろう。
毎夜寝室で一人になると、いつもいつもそう自問する。
気付けば日が昇っていて、またいつもの様に書類の束が山の様に積っているのだ。
そして思う。王宮にいる者達の中で、まともに仕事をする者がどれ程いるのだろう?
「ギルド経由で、アセリアは建国準備に入ったそうだ。後見国も揃っている。」
「どこなのですか?」
「帝国・隣国・教国。そしてドリアス達と一緒に、枢機卿も我が国に訪れるそうだ。その時、王都教会の粛清と王妃との離婚も成立する事になるだろう。」
それを聞いて、戸惑いと喜び、そして今後の見通しの不確かさ。
「フィラメント嬢が、一輪君を発明し大ヒットした時は、ホントに嬉しかったんだ。」
「ええ、そうね。私もあの子に付き纏った、イヤな噂を憂いていたわ。だからとても嬉しかった。」
「アレがあったから、我が国も何とか立ち直り始めたんだ。」
親戚筋の女の子、始めはドリアスとの婚約の打診だった。
そこからまた嫌な噂が蔓延し、公爵達は婚約をせず領地へと引っ込んだ。
「どうやらフィラメント嬢は、神のいとし子らしい。」
私がため息交じりに伝えると、母上とマリアンヌは目を剥いて私を見る。
「たしかエステバンも祝福持ちだった。」
「そうよ。だから前陛下が王都教会で保護したの。」
ここがキッカケだったのかもしれない。
あの女と結婚するハメになったのは、前陛下の命だった。
全て災いの元凶の種を蒔いたのは……
保護とは体のいい言い方だ。
実際はエステバンを得る為、家族をウソの罪で処刑した。
エステバンは一時期失語症になり、王宮貴族の恰好の贄だった。
私達も交流はあった。だけど……
“周りの目を気にして、虐めこそしてないが、助けもしてない。オスバルドは構い過ぎで嫌われていたな。”
エステバンの事を調べたのも、ドリアスに言われてからだ。
私はホントに、何も見えていなかった。
前ばかりを見て、周りの状況を疎かにした。
それによって周りが傷つき蹲ろうと、私は歩みを止めず進める。
それが当たり前であり、そうあるべきだと言われたからだ。
だがそれによって今、この国は破綻し始めているのだ。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




