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王都へ…… ③【 ライオネス視点 】

拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。


誤字脱字報告ありがとうございます。m(__)m






 “ホントに、ここは魔窟のようだ。膿んで腐れ堕ち、行き場を失った瘴気で溢れている。” 


 何処か饐えた匂いとかび臭い匂い、そして人々の体臭……

 遠く離れたアセリアを思うと、余りにも違い過ぎる。

 あそこはいい、皆の明るく穏やか空気で、清浄に満ちていた。



 帰りの途中、想い出の丘に近づくと、殿下の様子が僅かなに変化した。

 記憶がなくても、何かが残っていたのだろう。

 何処か落ち着きのない様子で、チラチラとコチラを見ている。

 私の座る座席の横には、アセリア公爵から預かった可愛らしい花束があった。

 魔法で枯れない様にされ、水につけるとその魔法は解ける。

 その花束を見ながら、アセリア公爵へ伝えた時の事を思い出す。



「コレは私個人の考えでお伝えする事です。今世では起こらない事ですが、お二人には亡くなられた子供がいらっしゃいました。」


 この一言で部屋の雰囲気は、殺気を帯びた状態になった。

 いったん私は頭を下げて、そして……


「殿下はフィラメント様に関しての記憶を失くされました。ならば亡くなられた子らの事も、記憶を失っていると思い、お伝えした方がいいと判断致しました。私は魂に関してよくかわかりません。ただ殿下はその子らの墓標を建て、弔われていた様です。」


 私がそう告げると、公爵はだまって話を聞いている。

 思う事はいろいろあるだろう。公爵の複雑な心情を察する。


「殿下は、フィラメント様にこの事を伝えていません。何故お二人で弔わなかったのか?と、私は以前お聞きしました。」


「そうですか。その時殿下は何と言われていましたか?」


 黙っている公爵に代わって、家令のロバートが尋ねた。


「フィラメント様が壊れてしまうからと……、墓標には、子らにつける予定の名が刻まれていました。それを見てフィラメント様が、ショックを受けるからだそうです。ただでさえ仕事が大変だからと、言われていました。」


「愚かな……… 」


 公爵が呟いた言葉は、皆が思った事だった。


「そこで私が気になったのは、その子らの魂です。殿下もフィラメント様も記憶がありません。その子らの魂は、どうなるのでしょうか?それがどうしても気がかりで、お伝えしなければと思ったのです。」


 ”コンコンコン” ガチャ………


「勝手に失礼するよ。」


 突然、フィラメント様の従魔の方々が部屋へ入って来た。


「マリリン、それに泉と大河もどうしたんだ?」


 突然の訪問に、公爵も驚いている。


「今の話を聞いてさ。ただこれで理由がはっきりしたよ。」


「名を付けてるんだもん。ダメじゃん。」


「名は特別なんですよ。確認しに行きます。」


「突然邪魔したね。そういう事だから、伝えに来たのさ。」


「「バイバ~イ!」」


「あ、あの?!」


 言いたい事だけを言って、そのまま従魔の方々は部屋を後にしようとする。


 “今から殿下の所へ行くという意味でしょうか?従魔の方々は、殿下に何をするおつもりでしょう?”


 そんな風に焦る私を無視したまま、部屋からさっさと出て行った。

 公爵は疲れた様子で椅子に座り、私にも椅子に座るよう手を振って促した。


「これに関しては報告待ちだろう。とにかく私は今、複雑な心境なんだ。子供であるフィルの、その子供の話なんだからね。ハア~……」


「申し訳ございません。」


 私は頭を深々と下げ、心苦しさに顔を歪めた。

 私一人が持つべき話でないと思ったのだ。


「イヤ…… 確かに気になる事だ。特に今回、魂云々の関係だからね。」


 泣き笑いの様な困った顔で、公爵はため息交じりに言われた。



 出立の時には、公爵は手向けの花束を、手ずからご用意されたという。


「変なモノだね。今世では生まれない子らでも、孫だった者達だからね。」


 複雑な思いを整理する様に、夫人と用意されたそうだ。

 いくら今世ではないとしても、別の次元軸でいたかもしれぬ子供達。

 そして殿下も…… 馬車の中で泣き腫らした顔はとても憐れで痛々しい。

 記憶がないのにここまで泣かれるお姿に、実が引き裂かれそうになる。

 己の無力さと、どうにもできない切なさが、ツラくもどかしいのだ。

 右の目がジグジグと痛みを伴い、熱が徐々に帯びてくる。

 この程度の罰で私はいいのだろうか、移動をし始めた馬車の外を見る。

 私はこの丘に来るたびに後悔するのだろう。

 気付きもせず、何もしなかった愚かな自分に……

 遠ざかる丘を眺めながら、私は懺悔した。



 私は泣き続ける殿下と共に立ち、頭を下げ祈る。

 墓標を建てたと言われた場所に置いた花束、今後もまた冥福を祈りに来るだろう。

 殿下の魂と結び付き、一つの魂となったと聞いた。

 殿下の起こす不可思議な出来事は、それが原因だった。

 無意識に神力を拒絶し、殿下の魂は壊れるはずが、寄り添う子らと融合した。

 互いに思い思われ、求めるモノ同じだった。

 今の殿下は新しい殿下へと生まれ変わる。

 それでも負担は大きく、神さえも憐れに思われた。

 殿下の今世に残された時間は短い、およそ30年ほど……

 殿下自身はその事に対して何も言われない。

 たぶん気づかれ、静かに受け入れているように思う。


 ”殿下、それは私にも言える事なのです。私も殿下亡き後、私も同じく消えるでしょう。”


 だから私も伝えないし、伝えるつもりなかった。

 眠られた殿下を見つめていた目を外し、窓の外へと動かす。


 “あと少しで、魔窟の様な王都に着く。”


 今まで慈愛に満ちて眼差しは、魔物の様な残虐な眼差しへと変わっていた。




 ****************




 王都の着いたので、寝ている殿下を起こす。

 腫れぼったくなった目が痛々しく、蒸しタオルを作る。

 今まで碌に魔法など使えなかった自分、魔付きになりスムーズに使える。

 はっきり言えば浮かれている。凄く便利でとても嬉しく思う。

 だから何枚も蒸しタオルを準備し、何度も魔法を使う。

 おかげで殿下から訝し気な目を向けられた。

 なにか感じていても、敏い殿下は聞かない。

 窓の外を見ると、ちょうど教会の近くを通っている様だ。

 無駄にデカく派手に作り、まるで肥え太った貴婦人のよう……


『……ライオネス様、……お着きになられましたね。』


 先に王都へ向かった神官から、念話が飛んで来る。

 よく見ると教会門の近くに、それらしい神官を見つける。


『今、麻薬商人もコチラにいます。終わりましたら、連絡があるでしょう。』


『分かった。それより大丈夫だったか?大変だったろう、ワームの騎乗は……』


 視線を交じり合いながら、会話をしていると……


「ライオネス、あの神官と知り合いなのか?」


 余りにも見つめ合っていた為、殿下が訝し気な顔をしている。

 いつもの調子戻った殿下にホッとして、私は静かに笑い告げた。


「彼はこちら側に寝返った神官です。今から教会の方でいろいろと動くつもりらしいですよ。」


 それを聞いて、目を大きくして驚く殿下の顔。


『…… すまないが二日は筋肉痛で動けなかった。もう二度とやらない。』


 神官からの返事は、至極ごもっともな事だった。


『それより……どうやら大司教が王妃を見限り始めているぞ。』


 有益な情報に、その場を忘れ思わず仄暗い感情の囚われる。

 コチラに有利な状況になっている事に、口の端が僅か上がった。

 殿下が私の顔を見て、戸惑いを含んだ目をしている。

 どうやら心情が現われ、常日頃と違う表情をしたのだろう。

 ため息をつかれた殿下は、何も言わず静かになられた。


『分かった。またこちらから連絡する。それと地下道へ来るように、料理を渡す。』


『……それが死ぬほど嬉しい。ここは地獄だ。』


 よっぽどこちらの食事に堪えている様だ。


 “この近くに、魔物のレストランがあるか確認が必要だな。”


 魔付きになって良かったと、この時ほど思う事はなかった。

 殿下を見ると、どこか穢れたモノを見るような、嫌悪感のある表情で民を見ている。

 そしてそんなご自身を戸惑われ、そしてもう一度窓の外を見られた。

 窓から目を離された後、複雑な思いを吐き出す様にため息をつかれる。


「父上の婚姻の件よろしくね。早く子供を作って欲しいし、私もいつ逝く分からないからね。」


 告げた内容に思わずビクリと肩が動いた。

 やはり殿下はご自身の寿命を知っていた。

 でも私はソレに対して、何も言わず深々と頭を下げる事にした。

 いずれ私の事も話すだろうが、それが今ではないという事だ。

 また窓の外を眺めている殿下、その瞳に映る疎んじた感情を整理している様だ。

 王都の対して知らず知らずのうちに印象は変え、何処か冷めたような眼差しだ。

 窓の外の騒がしさを、忌々しそうにしている、殿下。

 確かにこれでは王位は継げはしないだろう。

 国民を疎んじる王が、国を治めることなどできやしない。

 それは私だって同じ事、陛下に対した感情全く違っていた。

 王都に着いてそれが、如実にハッキリと自覚している自分がいる。

 それに私は…… 懐に入れたクリスティオ様の手紙を意識した。

 窓の外にいる騎士達が目の端に映ると、つくづく思う事がある。

 皆が皆苦味潰した様な顔で、忌々しそうにしている姿を眺めた。


『ライオネス殿、今から情報を集めます。』


 スラムや、暗部の者達がそれぞれ王都へ潜り込む為散って行く。

 私はその連絡の念話を受けて返事をし、、近づいて来る王宮を眺めて思った。

 それは殿下も同じようで、どこか挑発的な鋭い光が瞳に浮かんでいた。





読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)

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