王都へ……① 【 ドリアス視点 】
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせ致しました。
困った事だな……
周りを見ると、何とも憂鬱な面持ちで王都へと帰途をしているのだ。
普通なら辺境から王都へ向かう時は、とても清々しい思いで旅路を急ぐ。
だが今回は足を引きずるように、まるで家に帰りたくない犬の様に気持ちは向きで歩いている。
「ヒドイですね。周りの騎士は…… 」
「私達がいろいろやっている間、満喫していたんだろう。」
私が苦笑交じりに笑うと、周りの騎士達は申し訳なさげに笑った。
まあ気持ちはわかるんだ。
だってこれから向かう王都は、まさに悪の巣窟だ。
アセリアが天国なら、王都は地獄だろう。
飯も旨く、人々も優しく朗らかで、温泉という施設で身体を芯から休息させる。
ホントに人らしい生活、穏やかな暮らしのありがたさをまざまざと見せつけたのだ。
そんな世界を見た後に王都の在り様を見れば……
「クソみたいな場所だよね。」
私が笑ってライオネスに言うと、困った顔をしながらも否定はしない。
周りの騎士も聞こえただろうに、誰も訂正をしないのだ。
むしろ無意識に頷く者達がいる始末、歩きだってノロくなるよ。
「帰りたくないよ。継承権失ってもいいから、アセリアの民にしてくれないかな。」
私がそんな事を言っていると、お供しますと言う騎士達。
「殿下はアセリアの民になったら、まずどうされますか?」
もしもの話に花が咲く。
周りの騎士達も冒険者にでもなろうか、水夫になって旅をするなど言っている。
「私はとりあえず、アスレチックのロープの遊具を攻略したいんだ。」
とりあえずはそれだろう。始めに浮かんだ事だった。
どうやらアセリアの姫は、あのロープを登れるらしい。
ついでに一番早いとか、何故か分からないけれど負ける訳にはいかない。
周りは私の返答に目を丸くして大爆笑。
そんなに可笑しな事を言っただろうか?
私が頭を捻って、キョトンとした顔をしていると、
「怖れながら殿下、私は幼少の頃より木登りは大得意でして……」
「実は私もなかなかの速さで今も登れます。」
次々と私に申し出る騎士達、どうやら木登りとは必要スキルだったのだ。
知らなった、前世でも私は木登りをした事がない。
「そ、それは登り方のコツを、教えてくれると取っていいのだろうか?」
私が騎士達に恐る恐る問いただすと、皆がとてもいい笑顔で頷いてくれた。
「良かったですね、殿下。叶うかどうか判りませんが、アセリアの姫に勝てるよう頑張りましょう。」
ライオネスが面白そうな顔で言うと、何名かの騎士が首を傾げる。
そんな騎士達に、アレックスが理由を掻い摘んで教えている。
まだまだ子供だけれども、男の矜持はあるのだった。
“だいたい男の競技に負けるとか、ホント我慢ならないよ。”
力仕事は男の仕事、つまり木登りもロープ登りも男の遊びなのだ。
「王都に帰ったら、とにかくあんな感じの遊具を作るとしよう。身体を鍛える事はいい事だしね。」
「そうですね。アレはよく考えられた遊具でした。ぜひ取り入れたいものですね。」
ライオネスの鷹揚に頷き、賛成をするのだ。
今回も宿場町に着くと、相変わらず迷惑をかけるスラム街の者達。
騎士の者達も顔を顰めて、対応と前へ出る。
「待ちなさい。」
だがライオネスが騎士達を止める。何故だ?
私は振り向きライオネスを見ると、どこか遠くを見るような目でスラムの者達を観察していた。
「彼らの事は無視してください。別の者達が対応するそうです。」
そう言って、宿へそのまま行くように指示を出す。
私はいまいち納得いかず、ライオネスの横顔を見つめた。
日の光の影響か… その時に見えたライオネスの右眼は赤く染まって見えた。
部屋から窓の外を眺める。
時間は18時近いので、だいぶ薄暗くなって来ていた。
もちろんそれに合わせて、人の行き来も少なくなっている。
「不思議なモノだね。アセリアの景色を一週間程見ていたおかげなのか、外が真っ暗に見えるよ。」
「そうですね。辺りの賑わいもアセリアに比べると、呟きの様に聞こえます。あちらの生活を経験すると、外の暗さも段違いに感じますね。」
「そうだな。当たり前の暗さが、とんでもなく真っ暗に感じるね。人は案外慣れ易い生き物らしい。」
「そうですね。その分違和感を感じた時に動かないと、手遅れになります。」
「今回はそうならない様にしないとな。」
前世の事を踏まえて、私はそう言い気を引き締める。
「殿下、夕食は皆で食べようと連絡がありました。如何なさいますか?」
「それはアセリアの料理なの?」
「もちろんです。簡単なスープとパンに干し肉ですけど、味は保障します。」
それなら迷うことなく一緒に食べる。
でもここの宿場はまだアセリアに近い分、味はまだまだマシな方だ。
「いいのかな……ここで我慢して、いよいよダメだという時に食べる方がいいのかな。」
私がそんな事を言っていると、ライオネスが噴き出し笑いを堪えている。
イヤ、笑い事じゃないからね。死活問題なんだけどね。
「殿下…… 基本食べる事になるのは、その王都側の料理なのですが?」
早く料理を失くして、呆れめつつ王都へ進めって事なのか?
ライオネスを見ると、笑いを我慢したような顔で頷いている。
地獄の様な選択肢を提案するけれど、それが現実。
泣き出したいくらいな面持ちで、乙女チックな魔法袋を抱きしめる。
”できれば中身が減らない魔法袋とかないかなぁ……”
たくさん入る魔法袋だって国宝級。
だけどアセリアの料理が無限に出る袋ができるなら、私は大枚を払いてそちらを購入するだろう。
「殿下…… に合いますね。その袋……」
言われた事にちょっとムッと来るが、まだ子供だからね。
おっさん達が持っているよりは、まだ大丈夫。
「ライオネスが持つと、いろいろと気持ち悪いよね。」
私は嫌味な気持ちを込めて、ニッコリとほほ笑んだ。
皆が集まる会場へ行くと、枢機卿たち一行が先に席についていた。
「申し訳ありません。お待たせしましたか?」
思いのほか、ライオネスとの嫌味の攻防に時間を取っていた様だ。
「いいえお気になさらず、ただ楽しみで早々と会場へ来たのです。」
顔一面に満面の笑みを湛え、可愛らしい巾着袋に頬ずりをしていた。
その姿を見て、思わず顔を引き攣らせる。
そんな私の姿に、ライオネスから咳ばらいをされ注意が飛ぶ。
“イヤ…… だって仕方がないだろう。”
実際、枢機卿の周りの者達は、三郎殿以外ニヤニヤと笑っている。
“しかしホントに皆綺麗な人達だなぁ。”
圧巻とも言うべきだろうか、とにかく凄い。
三郎殿と四郎殿は護衛という事だが、とんでもない美丈夫だ。
そして双子の兄妹、大河と泉。
煌めく白い髪と澄んだ蒼い瞳が、とても神聖な気配を漂わせている。
そして水色の滑らかな髪で違った深い蒼の瞳の、どこか気の抜けた様な独特な女性だ。
その方には伝説と言われた妖精が、肩に鎮座している。
始めて見た時には度肝を抜いたが、彼女の魔道具熱でこちらの熱は一気に冷めた。
とにかく凄い人達が枢機卿に張り付いて護衛している。
宿へ向かう時など道行く者達は、彼らをただ茫然と眺める状態だった。
“綺麗過ぎると騒がれず、見送る状態なんだな。”
一つ賢くなったと思う事にする。
自分もどちらかと言えば綺麗めだ。目指す事もできるはず……
“前世は気安い感じだったけど、今回は遠巻きして欲しいんだよね。”
うんうん、と彼らを眺め観察し、参考にしようと思った。
そうなんちゃってってヤツだ。
イヤな思うで帰る旅路も、これで少しはやる気になった。
皆がイソイソと巾着袋が料理を出す。
インスタントと言われる塊と、パンに干し肉だ。
この干し肉、アセリアではジャーキーという名で売られている。
噛めば目むほど味が出て、とても美味しく酒が進む一品だ。
”ホント子供である事が歯がゆくなるよね。”
ガジガジ噛んでモグモグモグ…… 隣のライオネスの赤ワインをチラリと見るドリアス。
そんな私の気持ちが分かるのか、スッと私の手から遠くへ置いてニヤリと笑う。
周りの者達を見ると、固まりを器に入れ湯を注いでいる。
”ホントスゴイ技術だよね。フェンリルが魔法で塊にしたらしいけど……”
実際フェンリルが作る事自体、あり得ない事だ。
目の前の方々もあり得ないけどね……
アセリアの姫は、ホントいろんな意味で規格外な人なのだろう。
あんなに見た目は可愛かったのにな。
それでも何故か惹かれる女の子。
でも交わる事は出来ない。
“ホント残念だよね。仕方がないけれど、今は目の前の問題を片付けなきゃね。”
騎士達も今頃部屋で飲み食いしてるのか?
どちらにしろ、皆が大量にお湯を求める変な一行なのは変わりない。
「しかしホントに助かりますな。というかさっさと足を早めて済ませたいですなぁ。」
枢機卿が面白げな表情で私達に言う。
ノロノロな行動になる理由を察しているからだろう。
でもさっさと終わらせたい。その本音の内を吐露する、枢機卿。
「申し訳ございません。私としましても早く決着をつけたいです。」
「ですが、同時に辛さも増し増すか…… ならばなおの事決着つけなくてはいけない。世界の流れに取り残されてしまいますよ。」
ホントにそうだ。前世と全く違う流れが出来て、我が国は最悪だ。
「殿下、世界とはホントに世界ですからね。人だけでなく、魔物もその流れに乗っているのです。」
ライオネスが慎重に言葉を選び私に話し、チラリと三郎殿達を見た。
そんなライオネスの行動と言葉に、私は訝しげな顔をする。
「殿下…… 魔物が畑を耕すと言えば分かりますか?」
ライオネスが変な事を言っているぞ。
私が不思議そうに見ると、三郎殿達が私の方を見ていた。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




