ヤツを思う。
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
誤字脱字報告ありがとうございます。(>_<)
投稿遅くなりました。
王都組が帰りアセリアへ戻り、周りの忙しさに取り残されている。
一人のんびりとしていたから、たくさん人がいるのも落ち着かない。
ワームの壁も引き続き持続状態で、砦の一部だけ解除したらしい。
というのもこのまま建国準備を、ある程度まで行う事にしたそうだ。
「何とも忙しいね、アセリアは。」
一人のんびり朝食を取り、これまたのんびりとお茶をする。
一応予定らしきものはあるけれど、そこまで急ぐものでもない。
せっかくなら海流の所へ行こうか?
木登りを凄くしていたのだ。たぶん更にレベルアップしているはず!
「久しぶりに皆と競争しようかな♪」
ニンマリとほくそ笑み、窓の外を眺めるフィルだった。
フェンリル姿の風魔にまたがり、のんびり領内を眺めている。
道行く人らの挨拶に応えながら、暖かな日差しを浴びゆったりとしていた。
いつも一緒にいる一郎は、マリリンの所へ行っている。
何でも依頼する事がある様で、とっても忙しそうだ。
「お嬢、マリリンの所も後で行くだろう?久しぶりに砂蒸しがしたい。」
「そうだね。私も地獄蒸しで、お芋さんと卵を食べたいね。」
お昼ご飯代わりにしようかな……
たぶん水の御社に行けば、食材が手に入るはずだもの。
領内はとっても平和で、穏やかな空気が流れている。
時々ワーム以外の魔物もお目にかかるが、領民との関係は良好のようだ。
「クリス兄が、グリフィンと契約していた事に驚いたよ。ホントに鳥に獣だね!」
「グリフィンも有名か?」
「ネットの孫が好きでね。憧れていたよ。」
「ひ孫じゃないんだな。ネットという事は、文通相手って事か?」
「そうだね。実際にはあった事がないけれど、季節折々の果物を時おり贈られていたよ。実家が果実園経営していたからね。」
フンフン♪と鼻歌を歌いながら、たくさんいたネット上の孫やひ孫との会話を思い出す。
「風魔もとっても人気者だったよ。もしかしたら第一位かもしれないね。」
すると鼻高々になりながら、気取った態度で歩き出す風魔。
「まあな。そこら辺の魔物に負けるはずがないさ♪」
「そうだね、ドラゴンと張るね。」
「やはりドラゴンは強敵のようだ。」
そう言ってたわいもない話をしながら、水の御社を目指した。
御社につけば、たくさんの子供達が遊んでいる。
そう!私のライバル達だ。
「アアーー?!姫様遊びに来たの?」
たくさんの子供達が、ワラワラと周りに集まり出す。
水辺の近くでは海流がケルピーの姿で、水草を食べていた。
「そうだよ。木登りの鍛錬をしてきたらね。スピード上がったと思うんだ♪」
私は胸を張って言うと、子供達は呆れ返った顔をする。
「姫様大丈夫?お転婆が過ぎると大変だよ。」
「姫様がいない時、貴族らしき男の子が来ていたよ。」
「いろいろと遊びが下手だったけど、動きや仕草は上品だったよ。」
「それを見たら、僕達もいろいろと考えさせられたよ。」
ブハッ………… 遠くで笑う二人の声。
海流と風魔が獣の姿で笑っている。
もちろんそんな姿を、領民の子供達も見ている。
「あのね、笑い事じゃないんだよ。ホントに大丈夫なの、姫様?」
子供達の親達も思う所があるのか、一緒になって心配顔。
”ここは一番…… 前々世でも唸らせたカーテシーを見せようか。”
ここまで心配されると、大丈夫な姿を見せるのも貴族としての勤めだ。
「もちろん大丈夫だよ。私なんでも出来るもの。」
そう言って、ウンショ♪とカーテシーをお披露目してほほ笑んだ。
すると先程まで騒がしかった周りが、シーーーーーンと静かになる。
ヨイショッとポーズを止め、いつもの調子に戻った。
「どうだい!なかなかのモンだろう♪」
私はフフンと偉そうに、腕を腰に当て仁王立ちになった。
そんな私の姿を見て、どこかホッとした顔をする領民達。
「スゴイよ!さすが姫様だね♪僕安心したよ。」
「僕も安心した。だってここ国になるんでしょ。すると姫様はホントに姫様だもの。」
「うん!うちの姫様が一番じゃないとね。他と負けて欲しくないんだ。」
どんな勝ち負けか分からないが、子供達は安心した様で何よりだ。
「なら、木登りの競争をするよ♪」
私が腕を捲りイソイソとロープを掴むと、
「姫様、それどうなのかな?」
「僕もそれ思う。木登りの競争はないよね?」
領民達が大中小揃って、しかめっ面な顔をして私を見ていた。
どうやら今日は、ロープで遊ぶ事はダメらしい。
たぶんは原因はドリアスだ。
”ホント邪魔をするね。おかげで遊べないじゃないか!”
変に気取った態度のヤツの姿を思い出し、頭の中でタコ殴りをする私だった。
「クックック、どうだ?楽しめたか、お嬢。」
「姫巫女、おはよう。」
二人とも面白げに笑ってくれたね。
私は二人をジロリと睨み、ツンと顔を背けた。
そんな私を優しい目で見る二人。
何をしても許容してくれるから、ついつい意地を張る。
もちろんそんな事はお見通しだから、二人も穏やかだ。
「姫巫女、マリリンの所へ行くのだろう。持って行く食材はどれにする?」
そう言って社の中へ誘う。中には山と積まれた食材がある。
それを見て、横では風魔が口笛を吹いた。
「最近こちらの食材が新しく出来たそうだ。」
そう言って、目の前に入れ物を持って来て、ふたを開け食材を見せる。
中から現れたのはモチ米だった。
”ウソ―――、あったのかい♪ならばならば、作るのは決まったも同然だよ!”
頭の中で算段をつけると、使う食材が他にないかと探索する。
作りたいのは、中華ちまき。
せっかくマリリンの所へ行くのだ。
あの地獄蒸しで作った中華ちまきは、全体美味しいに違いない♪
考えるだけでお腹がグーグー鳴って来る。
私はあっちこっちへうろついて、食材を少しづつ集めて行く。
「姫巫女、他に何かいる食材はある?」
「キノコだね。」
「キノコ……」
毒キノコハンター海流、出動するのか?
私は人化している海流の目を、期待を込めてジッと見つめる。
その海流は誤魔化す様に咳ばらいをし、棚の方へ向かいゴゾゴゾと探っている。
そこから出て来たのは、干した状態のキノコでちゃんと食べれる物だった。
「海流、ちゃんと採取出来るようになったんだね。」
私は嬉しくなってほほ笑むと、気まずそうな顔をして言った。
「コレは領民から貰ったものだ。」
そっか…… まだまだキノコハンターの道のりは遠い。
食材を集めたら、そのままマリリンの下へ向かう。
火の御社には竹もどきがあるので、それを使って包むのだ。
「どんな味なのか楽しみだな♪」
「お手伝いします、姫巫女。」
「ありがとう、海流。風魔は?」
海流はホント気の利く子だよ。
周りのフォローに徹するところが、長男らしい。
「俺は砂蒸しへ行く。」
「そうかい。風魔は食べ専だったね。」
そして風魔は一人っ子気質で、フラフラと気まぐれだ。
何気ない日常でそんな事に気づき、日々楽しんでいる。
それが幸せって思える事が、何よりも嬉しい。
”ホントに前々世、私は人らしい暮らしをしなかった。アチラはどんな感じなんだろうね。”
権力と金が集まる場所には、魅力と暴力が渦巻いている。
野心家でそんな世界がいいと言って、自分から行く者達はいいだろう。
でもそうでない者達にとっては、ホントに憐れな場所だと思う。
気付かぬうちはいいけれど、気付けば苦痛が伴うだろう。
そう思うと…… クソなアイツの事を考える。
多分もう…… 関わる事がなくなったからだろうか。
ネコの様に毛を逆立てる気持ちはなくなり、今は冷静に物事が見える。
気付かない所で彼も戦っていたのだろうか?
跡取りが出来てから、私の扱いは酷くなり雑になった。
彼がではない、周りの者達がだ。
以前なら執務室で寝ても、起きていたのはベットの上だった。
それがなくなり、いつも執務室の机の上で目を覚ますようになる。
彼が顔を見せる事がなくなり、存在自体感じられなくなる。
”今の王都の状況を考えると、かなりヤバい状態で、交渉のする為国にいなかったとか?”
国同士の話し合いにはいつもヤツが調整役だった。
もちろん原案を作成したのは私だ。かなりダメ出しも受けていたが……
今考えれば、ほとんど部下から渡されていたモノだ。
部下が自分の仕事を私に振ったなら、私がいなくなった後はホントに大変だっただろう。
そこら辺のお詫びも手紙に書いてあったけれど、もしかしてヤツも忙しかったのではないか?
手紙を読んだ後、なぜかそう思えてならないのだ。
ヤツの手紙には心の底からのお詫びと、申し訳なさの気持ちばかりが綴られていた。
どこにも自分を弁解するところがない事で、そんな気持ちにさせているのだろうか?
”ヤツのコミュニケーション能力はバカに出来ないからね。”
だが疑い深くなり慎重になる。
それだけヤツに、不信感を募らせていたのだ。
”今更もう……考えても関係のない事だね。”
まだまだ王都に着くには早いだろう。
えらくノロノロと進んでいたから、旅路の時間はかかりそうだ。
アセリアの空気に触れた後、王都の空気はどう感じるのか?
ヤツは王都に着いて、王妃を排除するそうだ。
憎悪の籠った目で害悪だと断じ、クリス兄達と計画を立てていたらしい。
”哀しい事だ。それ程の事を、王妃はヤツにしたのだろう。”
親子で争う事ほど、哀しい事はないと思う。
だが私だって似たようなもの。
気づかずそのままにしていたのだ、両親が死んだ時……
私は前々世の、ヤツは前世の、お互い親の対応を後悔がない様にしたいものだ。
”何気にヤツはヘタレだからね。大丈夫なのかね?”
ふとそんな心配をする私だった。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




