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絵心はありますか?

拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。

 





 海流が帰って来たので、そろそろお暇をする事を伝える。

 これからも交流は続くだろう。

 だからまた遊びに来ると言う、私。


「俺としては、おせちを食べた後、相手国の反応が知りたいな。」


 そう言って面白げに笑う将軍に、王様は困った顔を浮かべる。

 だが苦言を言わないのは、たぶん王様も気になるのだろう。


「分かった。反応を見る事が出来る魔道具があるよ。」


 一郎は少し考えて返事を返した。

 クリス兄がついに、監視カメラの魔道具を完成させたそうだ。


「それは一体どういう物ですか?」


 気になった黒狼がオズオズと訊ね、詳しく説明を求めた。


「監視を人の代わりにしてくれる物だよ。例えばその魔道具を玄関に設置する。一日この魔道具が監視し、記録をつけてくれる。そして次の日、その魔道具の記録を見れば、その日の一日は、誰が玄関を通ったか分かる。記録として残る分、犯罪の証拠にもなる。」


 私が説明すると、話の途中で気付いた李・白夜は、一郎に欲しいと懇願をする。


「その魔道具があれば、いろいろと凄く助かります!船では盗まれる事前提で商品を買うのです。その無駄な支出が抑えられ、そのお金額で別の商品を買う事が出来ます。」


 目をキラキラと輝かせ、物欲し気に懇願する李・白夜。

 そんな李・白夜に思わせぶりな態度の、一郎。


「クリスは忙しいよ。次期当主?王太子??だからね。」


「もちろん存じ上げます。ただ購入できるようになった時は、ぜひ早めに頂きたいのです。」


「交渉次第だよ。」


「もちろんです。数も船の数だけ欲しいのです。」


「今度アセリアにおいでよ。クリスと話し合えば使い勝手が良くなるかも……船はかってが違うでしょ?」


「そうですね。その件お願い出来ますでしょうか?連絡お待ちしています。」


 話が大きく逸れて、二人はいい笑顔で交渉を終了をさせる。

 その隣では黒狼さんも、素敵な笑顔を見せている事からよかっただろう。


「それじゃ俺はその魔道具を楽しみにしているよ。姫巫女様、また一緒に遊ぼうな。」


 将軍は人懐っこい顔をして、私を見つめて言った。

 たった一日の町歩きはとても楽しかった。

 今日持ち帰ってくれた草まんじゅうも、とっても美味しくヨモギの香りが清々しい。

 だから私は将軍の顔を見て、満面の微笑みで返事をするのだった。

 そして中央広場で今回の概要を民に伝えた事で、今後はイヤな思いをする事もなくなるだろう。


「民達も姫巫女様に謝りたいようだ。知らなかったとはいえ、幼女に対する態度じゃなかったと後悔していた。」


「皆も今回の事で、余りにも身内びいきが過ぎる事を自覚した様だ。普通に考えてもおかしいだろうに、この島自体が閉じこもり体質だからな。よそ者を無意識のうちに毛嫌いしたんだ。」


 王様と李・白夜が、弱り切った顔でため息交じりに言う。

 これからは別の統治者になるという事で、そこら辺を改めなければ島としてもかなり不味い。

 今回の出来事はある意味、今後の課題を提示し実感するモノだった。


「姫巫女様、またぜひお越し下さいませ。皆歓迎致しますからね。」


 孫を見るような優しい眼差しで言う宰相に、私は思わず頷く。


「絶対また来るよ。桜の花も見たいし、石田さんがいる。ここは私の第二の故郷と思っているの。」


 前世幼い事過ごした海岸の風景と、どことなく似ている。

 ぜひまた今度はゆっくり逗留したいと思う、私。

 そんな私に王妃様が優しい手つきで頬に触れる。


「いつでも来られてください。私達も待っています。また一緒にご飯を食べましょう。貴女の食べる姿が、とても好きなのです。」


 そう言ってほほ笑み、小指をスッと出す、王妃様。


「指切りげんまんですわ、姫巫女様。」


 何処かおどけた仕草と柔らかな表情の王妃は、小指と小指を絡めて歌う。

 私にとっても、ホントに久しぶりの指切りげんまんだった。


 ”懐かしいねぇ…… 石田さん、貴方も何度となくしたんだろうね。”


 そう思うと、どこか泣きたくなるような切なさと微笑ましさ。

 遠い異世界、ヒノモト日本……

 指切りげんまんをしながら、懐かしい世界に思いを馳せた。

 どうしようもない望郷の念が、胸を締め付けた。



 *******************



 どこまでも蒼い空と青い海。

 これはどちらの世界も変わりがない。


「いろいろあったけれど、楽しかったな。」


「俺は不満だ。姫巫女、今度俺と出かけよう。」


 隣で走る海流は、一緒にお出かけ出来なかった事に不満らしい。

 あまり自分から欲求を言わない海流。

 確かに叶えて上げないと可哀そうだ。


「それじゃあ、明日朝駆けをしよう?」


 そう言った私に、目を細めて同意を示す、海流。

 明日は頑張っておせちも作らなくては……

 緑の刺し色に素敵な葉でも探そうと思う。


 ”食紅があったのは僥倖だったな。”


 お重の彩に赤は必要。

 折り紙もどきも見つかったし、水引もあった。

 なかなか見栄えの素敵なおせちが出来そうだ。


 ”問題は王都組のおせちだよ。絵を描いて、盛り付けて貰うしかないね。”


 そこでふと思いつく。


 ”コミュニケーション能力も高かったけど、芸術方面は得意分野だったな。”


 つまりは最悪ヤツに任せればいいという訳だ。

 でも今度は誰が、おせちの絵を描くのかだよね。

 出来上がりを見て、描いて貰う事になるのだろう。

 今いる3人の中で、一番絵心のある人は誰だろうか?


「ねえ、この三人の中で絵心ある?風魔や海流、絵を描ける?一郎はどう?」


 とりあえず聞いてみるしかない。

 いないならば知り合いにいるか、聞いて貰うしかない。




 気付けば日本家屋に着き、私は布団の中でぐっすりだった。

 やはり何気なく気疲れしていたようだ。

 大きく身体を伸ばしながら、首をグルングルンと回す。

 ついでに四つん這いになり、ウ~~ンと猫の様に伸びをした。

 そうすると背筋がスー―ッと伸びて、気持ちがいいのだ。


「ご主人様おはよう。凄く熟睡していたよ。」


 どうやらあのまま朝まで爆睡。

 ヒノクニにいた事が、夢のように感じてしまう。

 まあ…… 枕モノと置かれてあるアオザイに衣装を見ると、夢でないのが分かる。

 一郎が着替えを手伝ってくれるようで、衣装を拡げ着替え易い様に整えている。

 どうやらお船さんがしていた事を、見よう見まねでする様だ。

 着る服は海流と合わせた衣装、今日は朝駆けの約束をしている。


「今日は一郎も人なんだね?」


 ここにいる時はいつも本来の姿だった。

 だから本来に戻るのかと思えば、一郎は人のまま着替えを手伝っている。


「うん、この後おせち作るんでしょ?お船と作っている所を見て、手が込んでいるから見て覚えるの難しいと思ったんだ。味付けも繊細だし、今回は人で手伝うよ。」


 さすが魔窟レストランオーナー、やる事がしっかりしている。


「露と文は、調味料作れるかな?」


 一郎が首を捻り考えているので、私が教えようかと一郎に聞く。

 とにかく魔窟の分まで、ヒノクニで確保するのはなかなか困難だ。

 たぶん量がとてもとても足りないと思う。


「味噌が出来るまで、おおよそ一年が目安なんだよ。でも一郎的には手早くできた方がいいよね?」


「ウン、大食らいばっかりだもん。次々出来た方が嬉しい。ご主人様、もしかして作る方法があるの?」


「出来るかどうか、やってみないと分からないけれど……」


 そう言って一郎に、味噌が手早くできる方法を教える。


「わかった。たぶん何とかなるかもしれない。ご主人様、手伝ってくれる?」


「もちろんだよ。一郎の頼みだもの、私も楽しみ♪」


 着替えが終わると部屋を出る。

 日が昇ったばかりの時間だから、外の空気が澄んで少し肌寒い。

 外ではケルピーの姿で待っていた、海流。


「おはよう、海流。待たせたね。」


 私が黒色のつやつやした身体を撫でる、

 ほんのり暖かく肌触りがいい。思わずピトッと抱きついた。


 ”おはよう、姫巫女。昨日はお疲れだった様だ。今日は大丈夫か?”


 私の身体を気遣って、優しい眼差しを向ける海流。

 そんな海流の身体をポンポンと叩き、鬣を優しく撫でた。


「大丈夫だよ、海流。一郎行ってくるね。」


「いってらっしゃい。お風呂に入るなら準備しておくよ?」


 一郎がお船さんの様になっている。


「ありがとう。昨日入ってないからお願いしてもいい?」


「いいよ。今日はどんな服にする?」


 とっても楽しそうな一郎。

 だから料理がし易そうな恰好をお願いした。

 どんな服を一郎が見繕うのか、帰ってからとても楽しみだ。



 海流の背に乗り、澄んだ空気の中を駆けるのは気持ちがいい。

 頭を空っぽにして、自然と一体化した様に駆け回る。


「楽しい♪風が気持ちいいね、海流。」


 ”そうだな、海風と違って心地いい風だ。”


 海流も楽しいのか、声が弾んでいた。

 いつもの日常に戻り、今はとっても自分の自由時間。

 それももうそろそろ、終わりに近づいていた。



 家に戻れば、そのまま服を脱いで、露天風呂にドボン。

 暖かな湯船にホ~~と思わずため息が出てしまう。

 幸せというのは、こういうなんて事のない瞬間だったりするもんだ。


「ハア~~、気持ちがいいねぇ。ア~…小原〇助さん、な~ぜ~身上つ~ぶした♪朝寝~♪朝酒~♪朝湯~が大好きで~♪それで身上つぶした~。ハア もっともだ~♪もっともだ~♪」


「お嬢…… なんだそりゃ?なんだか身につまされるんだが……」


 酒を片手に風呂の入っていた。風魔。

 気だるげに縁に頭を預け、口の端を上げ面白そうに笑う。

 朝風呂入ったから、ついつい歌ってしまった、私。


「朝風呂に入る背徳感から、ちょっと歌いたくなる歌ってヤツ?」


 意味の分からない理由を言って、のんびりを湯船に浸かる。

 風魔が私にコップを渡し、魔法で水を満たす。


「お嬢には、冷たい水をどーぞ。」


 そして私のコップにカチンと、酒の入ったコップを当てる。

 何とも様になる、匂い立つ程の男っぷりである。

 そんな風魔を見ながら、疑問に思っていた事を聞いた。


「気になった事があるんだけど…… 魔物が人化したら美男美女になるのかい?」


「そうだなぁ…… 魔力量が多いとそうなるな。だいたい人化する事自体、魔力量が多くないと無理だ。ならおのずと人化=美男美女は決まったも同然だろう。」


「なるほど…… だから露姫と文姫にとっては、目の保養になる。でも本来は魔物って訳ね。」


「そう言う事だ。惚れても、本来の姿になればどうなる?見た目に騙されるヤツが馬鹿なんだ。ある意味修業だな。お嬢も気を付けろよ。もっともそういうヤツを、近けるつもりもないけどな(笑)」


 私は結婚できるのだろうか?とふと心配なった。



 お風呂から上がり、一郎が見繕った服を着る。

 アセリアのワンピースと、アオザイのズボンを組み合わせたもの。


 ”オオ!!一郎が初っ端から、オリジナルコーディーだ♪そして何気に可愛いし、動き易い。一郎センスある!”


 チェニックみたいな感じの赤のワンピースに、黒いズボン。

 そしてスモッグタイプのエプロンが、めちゃくちゃ可愛いです。

 一郎も私の姿を見て、頬を染めて満足気な表情を浮かべていた。


 今日の朝ごはんは朝駆けとお風呂で時間を取ったので、出来合いの物中心になった。

 昨日頂いた豆腐を使って、なめこと一緒にお味噌汁、ご飯はおかゆにして、数の子ともみ海苔を出す。

 そしてお船さんと作った筑前煮。

 デザートは朝駆けの合間に取ったライチ。


 ハア~…… ホントに美味しいね♪

 朝ご飯が終わったら、のんびりと料理を作り始めようかなぁ。

 明日には持たせる事も出来るだろう。

 風魔に絵心があって良かった♪




読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)

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