山の上の墓標
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
目を覚ますとモフモフに包まれていた。
どうやらいつもの様に風魔が、寝床の番をしたようだ。
それじゃあ、海流と一郎は?
一郎はアセリアと連絡を取り合っている。
海流は部屋周辺を見回っている感じだな。
それぞれがそれぞれの、仕事をしているそうだ。
「お嬢、お山の石碑を見に行くのだろう。」
目をうっすらと開けて顔を見た。
時の頃は夜明けが明けたばかり、ちょうどいい時間に目が覚めた。
「ウン行きたい。連れて行ってくれる?」
そう私が言うと、ノソリと立ち上がり顔を手に擦り付けた。
「もちろん、連れて行ってやるさ。」
暖かい丹前をくわえ、私に渡す。
それをイソイソと着ると、マフラーらしきものを追加で渡される。
今度は、それをグルグルと顔が隠れるほど巻くと、安心した様に頷いた。
「それじゃ行こうか。」
風魔そう言って跪き私がまたがるのを待つ。
そしてまたがれば、そのまま私を乗せ空へと駆けて上がった。
朝日を浴びながら、山へと向かって行く私と風魔。
それをヒノクニの民が見ている事に、私は気にしなかった。
海流と一郎ももちろん遠目で私達を見ていて……
「一応朝駆けに言った事伝えとこ……」
何処か不機嫌そうな顔で呟く、一郎。
「お前だってデートしたじゃないか。俺はまだだぞ。」
更に輪をかけ不機嫌な声を出す、海流。
とにかく置いてきぼりにされた事に、とても不満気な二人であった。
空から見る朝焼けの海は、とても穏やかで美しい。
所々に漁業を営む民らの、賑やかな声が聞こえる。
磯では子供らが何かを、一所懸命取っているのが見えた。
それが前世の自分と重なり、幼少時代をふと思い起こさせる。
どんな状況でも海は何処までも穏やかで、広大だ。
あの頃は海を見て癒され、そこから敵国が来ないかと怯えていた。
それからもいろんな事があり、死んで今またこの世界に舞い戻る不思議。
ホント人生とは、不可解で不思議なモノ。
”というか記憶のある全てを、人生と言っていいの?”
今跨いでいる風魔も、ひ孫らの話題に出た一番人気の魔物だ。
もしもひ孫に会えたなら、「ばあちゃんはその魔物とお散歩したよ」と伝えたいな。
「どうにかあっちの世界と連絡できないかな?」
「突然どうしたんだ?」
空の旅ついでに、グルンと運動がてら駆け回っていた、風魔。
「イヤ、ひ孫に自慢話したいなと思ってね(笑)」
「なるほど!俺達もひ孫とは話をしたいな。俺達の話いろいろとしていたんだろ(笑)」
石碑のある所へ降り立つと、辺りをフンフンと嗅いで安全を確認する。
大丈夫とわかると、跪き下りる様に促される。
「ひ孫はたくさんいたからね。いろんな話を聞かされて、まさかこんなに役立つとは思わなかった。」
ウンショと、用心しながら降りる私。
「俺達に言わせれば、なぜ俺達を知っているのか?だな。いないはずの世界にも、確かに俺達は存在している。実体としてでなく伝説としてか?ホント不思議な事だ。そう考えれると、連絡できそうな気もするな?」
そう言って、人化して私を抱き上げた。
辺りは結構草が生い茂り、私の身長では見通しが悪い。
「余り人は来ない様だが、道や辺りはちゃんとしてるな。」
石碑の近くに墓があり、きちんと掃除もされ花も活けてある。
誰かが通いできちんと、管理している様だった。
その事に意味もなくホッとしてしまう。
風魔は私を降ろして、周辺を見回している。
石碑を見れば、確かに文字らしきモノが書かれているが読みづらい。
だけど…… ため息をつき裏側を覗くと、名前は一名のみだった。
その辺りをウロウロして、近くにあった墓標を見る。
そしてそちらもやはり名は先程の方一名のみ……
その事からかの方は、家族などいなかったことが伺えた。
「初めまして、石田 信蔵様。私はフィラメント・フォン・アセリアと申します。あちらでは久保田 船と名乗っていました。名前で分るように海の近く、日本海側に住んでいた者です。」
手を合わせ墓標にソッと話かける。日本語で……
石碑に書かれた文字を読むと、いろいろと思う事がある。
だけど……
「どうやらご家族がいらっしゃらなかった様子、お一人で寂しくはなかったですか?」
私はそう言って、墓標をソッと撫でた。
お一人でどんなお気持ちだっただろう。
それとも友人という人達に囲まれ、幸せに暮らしていたのだろうか?
こうやって手厚く管理されているのだから、大丈夫とは思うけれど心配だ。
そんな気持ちの表れか、何度も何度も墓標を知らず知らずのうちに撫でる。
そんな私を見て風魔が、腰に下げた水筒を渡した。
「お嬢、これは酒だ。たぶん好きだろう?」
そう言って、米で出来た酒を渡す風魔。
私はソレを素直に受け取り、墓標の頭にかけようと思った。
だけどお子様の私には、あと一歩身長が届かない。
風魔がコップを指差すけれど、私は墓標にかけたかった。
だってちゃんと飲んでいる感じがするからだ。
「お嬢、今回はそのコップで我慢しよ。上にかけるのは、アセリアで酒が作れた時にしないか?」
そう言われればなるほど、確かにそれはいい考えだと思った。
「石田さん、焼酎はどうだった?」
私はそう言って、墓標をパチンパチンと叩く。
アセリアには麦があるから、ちょうど麦焼酎が出来るはずだ。
「焼酎は好き嫌いがあるから、どうかな?出来上がったら飲んでくれる?」
そう言って墓標に笑いかける。まるで目の前にかの方がいるかのように……
石碑の文字は、もう読みづらくて分からない。
だけど所々読める所を読むと、日本、愛しという文字、それから海機という文字。
墓標を撫でながら、ここから見える海をじっと眺める。
とっても穏やかで、海面のきらめきがとても美しくのどかだ。。
その海を眺めながら、石田さんは何を思い感じていたのか……
ただ石碑の近くに植えられた桜と椿を見ると、石田さんの気持ちが多少推測できる。
「石田さん、戦争は終わりましたよ。たくさんの人が死にました。それから先はとっても平和で穏やかでした。日本も世界屈指の経済大国になりました。皆がむしゃらに頑張りました。石田さんもこちらで、頑張ってらしたんですね。ありがとうございます。おかげで私は、醤油も味噌も味わう事が出来ました。ここで日本の息吹を感じる事が出来ました。石田さん、貴方ががんばってくれたおかげです。本当にありがとうございました。」
私は心から感謝して、墓標を撫でた。
そうやって撫でていると、撫でている所から、文字らしきモノが現われる。
「風魔、私ちょっと掃除しようかな?ほらココに文字があるだろう。ここら辺の苔を取れば綺麗になるかな?」
そう言ってナデナデを繰り返す、私。
するとその周辺が、やはりポロポロと剥がれていく。
だから手で、せっせと撫で繰り回していると、
「力加減の度合いが分かった。早速やってみようか。」
そう言って風魔が、魔力で墓標の周りを綺麗にし始める。
表面に生えていた苔やカビが絶妙の風圧で剥がれ落ちていく。
ピカピカにすることは出来ないが、コケやカビはなくなった。
そして現れた文字を読んで見ると、
「何々…… 玉藻をよろしくお願いします。私の大切な人です。 信蔵ってなんだろう?とにかくちゃんと家族がいた様だね。」
「イヤ待て、それなら墓標に何故書く必要があるんだ!」
「そんなのわかる訳ないよ。ただ家族はいたようだね。良かったよ♪」
私がニコニコ笑顔でいると、風魔がジッとその文字を見ていた。
城に戻り海流達と合流すると、ちょうどお船さんがやって来た。
手には鮮やかな衣装を持っている。
「姫巫女様、おはようございます。」
ニッコリとほほ笑んで、手に持った衣装を見せる。
それは何処から見ても日本の着物。
子供の着るタイプの物だった。
私はソレを見て驚いた。
「今日はこちらをお召しになられて下さい。お似合いになるでしょう。」
お船さんが着物を羽織らせ、付いてる紐で着物を整える。
そして帯を結んで完成。
「外に出られる時は、ちゃんと飾り結びした帯にしましょうね。」
そう言って短い髪にも、可愛い椿の髪飾りを付けた。
着物は黒をベースに、大きめな赤の水玉柄という大胆なモノ。
帯は白に蝶の刺繍があしらってあった。
「お嬢とっても可愛いぞ!」
「凄く素敵です、姫巫女。」
「ご主人様、可愛い。僕その衣装好きだよ。」
私も久しぶりに着る着物のテンションが上がる。
やっぱりあったんだ、着物♪
「お船さんありがとう。すっごく可愛いね♪」
どこか懐かしい柄に、嬉しくなる私。
「喜んで貰えてよかったです。絶対お気に召すと思いましたわ。」
そう言って嬉しそうにほほ笑む、お船さん。
その眼差しは、何処か懐かしく優し気なモノだった。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




