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神は見ている

拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。


【 クリス視点 】 






 父の執務室に向かうと、家令のロバートがドアの前で佇んでいた。


「もうそろそろお出でになると思い、お待ち申し上げておりました」


 そう言って頭を少し下げドアを開けた。


「伝達事項は終わったのか?クリス」


 机の上には俺達が買ったおやきがあり、それをちょうど味わっている最中だった様だ。


「父上、それ美味しいよね。俺気に入ったよ」


「そうだな。腹持ちもいいし旨いな。特にこの肉が入っているのが好きだ」


「ロバートも食べた?俺も肉の方が好きだな」


「先程頂きました。男はやはり肉に行きますね。女性はそのカボチャを好んで選んでおりました」


「これか……… クリス半分食べるか?」


「俺カボチャ苦手なんだよ。」


「ロバート?」


「三人で分けませんか?」


 意外に多いのがカボチャを苦手とする男子。

 どうしても腹持ちが良過ぎるし、少し甘くてくどい。


「三人でならまあいいかな。あと一時間半ほどで夕食の時間だ。ロバート分けてくれ。」


「かしこまりました。ついでに飲み物は、紅茶になさいますか?」


「俺は麦茶の冷たいのがいい」


「私も麦茶がいいな。同じく冷たい物を」


「了解しました。私も麦茶に致しましょう」


 ロバートはほほ笑んで退室し、ドアを閉める。


「さていろいろと報告があるようだな。実は私の方もあるんだが、先に報告を聞こう」


 どうやら父の方もいろいろとあった様だ。

 父が向かったのは、港を一括管理する一族の屋敷と商業を監査する代官所。

 そして冒険者ギルドと商業ギルドなど………


 ホント厄介な事が次々と集まるよな。

 のんびりフィルと遊びたいぞ、俺は………



 カボチャのおやきのカボチャは、うちの領のカボチャを使用しホクホクしたミソン?の味が決め手の、コクのある素朴なお菓子の様なおやきだった。


 ”さすがうちの領のカボチャ。他のカボチャだとここまで美味くはならないぞ。”


「やっぱりうちのカボチャは最高だな。他のカボチャならこうはならない」


「全くですね。うちの領の野菜の良さが引き立つ料理です」


 思っている事は同じ様で、互いに満面の笑みを浮かべておやきを食べた。


「使用人達もおやきを喜んでおりました。具材がホントに豊富で楽しめたようで、皆が少しずつ分けながら食べ比べておりました。お土産ありがとうございます。」


「アレはフィルが選んだ物なんだ。店主も好人物でね、フィルが余りにもジッと見るから、小さめのおやきをプレゼントされていたよ。お代を払おうとしたけど、売り物じゃないからと固辞されてね。フィルなんか毒見させずに食べて幸せそうな顔をして。全く淑女は教育しっかり出来ているんだろうけど、不安で仕方がない」


 あの時の事を思い出し、フィルの行動を一応チクっておく。

 ちゃんと王妃並みに出来るのに、行動はどうしても庶民ぽくて不安でしかない。


「アハハ、こればっかりは仕方がない。前世の価値感に引っ張られてしまうんだろうね。しかしなかなかの人物だな。今度は是非ともあってみたいし、違う味も試したい」


 父は仕方ないで済ませているが、ロバートは違う様だぞ。

 困った顔をしてため息をついている。

 でもやっぱり同じに思ったのか、父の言う事に相槌を打つ。

 どうやらこの二人は、フィルを甘やかす事にしている様だ。

 余り甘やかし過ぎると後が大変だぞ~と思う俺。


「そうですね。私は葉の物が気になりました。見た目は不安な品でしたが、食べた者が次回もコレがいいと言っておりましたので、凄く気になります」


 そして使用人達と食べた気になるおやきを話す、ロバート。

 こんな時大人数で食べる利点は羨ましい。


「そういう物があったのか。確かに気になるな」


「他にもゴマの風味がする物がありました。最近取り扱った食材ですよね?」


「いろいろあったのは知っているけど、一つ一つを見ていなかった。今度はしっかり確認して選ぼう」


 ゴマはフィルが見つけて料理長にススメた食材の一つだ。

 香りがよくサラダなどタレに使っても美味しい。


「近々使用人達が行く予定ですが、頼んでおきましょうか?」


「それならその葉の物とゴマ風味と肉かな」


「俺もそれがいい」


「カボチャはよろしいので?」


 からかい気味に聞くロバート。

 ホント最近のロバートは柔らかくなったと思う。

 融通が利くと言うか、応用力が格段に上がったと思う。

 でもカボチャはないな。


「「アレは美味いが肉がいい」」


 どうやら父と同じで言葉被りになった。


「さよう…… でございますか」


 そんな俺達の様子に笑いのツボが刺激されたのか、顔を背けて返事するロバート。

 ホント変わったよな、性格が丸くなったようだ。



「さて教えてくれ、クリス」


 市で会ったのに、他人のフリをする事態になったフィル。

 どうやら風魔から念話で他人のフリをしろと、指示が飛んできたそうだ。


「風魔達が言うには、香辛料に麻薬の素材を混ぜて売っている店があったそうだ。」


「なんだって?!」


「まことでございますか?!」


「ああ、黒ケルピーが買いに行った現物がある。どんな麻薬素材か今調べて貰っている。それからフィルが背後関係やその他いろいろ調べる様に指示を出していた。三郎が今中心になって調べている様だ。」


 俺の説明を聞きながら、眉を顰めて厳しい表情をする父。

 ロバートも思案気な表情で、父と目線をとばし会話している様だ。

 つまりこれに近い案件が、父にも情報として挙がって来たという事か。


「それから風魔がその周辺を聞き込みすると、ここ最近越してきたそうだ。時期的にちょうど領が、盛りあがった時期らしい。今もまた聞き込んで来ると、遊びに行っているよ。」


「ホントありがたい事ですね。風魔様が戻られたら、日本酒でも差し上げましょう」


「今まさに飲んでいるんじゃないのか?」


 父は自分の飲む分が少なくなるのが嫌で反対をしている。

 ホント父もフィルの影響で大分変わったと思う。

 自分の気持ちに凄く正直になったのだが、最近ケチな所が目立つ様になった。

 とにかく酒に関してはかなりケチ臭い。

 ロバートもため息をついて、それ以上何も言わなかった。


「それから三郎は王都の方へ移動を開始したそうだ。つまり背後には王宮関係者がいるという事になる。そしてここからが本題かもしれないけど、フィルに関して2点ほどあるんだ」


 父とロバートが先を促すように、静かに次の言葉を待っている。

 王都に向かった事も予測済みという事だな。


「どうやらフィルが今回の事案を知っている可能性があるそうだ。そしてこれが一番問題なんだけど、風魔が言うには、フィルが前々世に生まれ変わった理由なんだけどね」


 父が突然立ち上がり、俺に詰め寄る。

 ロバートも突然の行動に、反応が遅れた様だ。


「旦那様、落ち着いてください」


「クリス、フィルの此度の転生は偶然じゃないのか?」


 父は怒りと憎しみの籠った目で俺に聞く。

 多分俺も同じだったのだろう。


「フィルに念が二つ存在するらしい。一つは神の念。どうやら憐憫が籠っている。」


 父は俺を放して、舌打ちをする。

 ロバートも眉間にシワを寄せだんまりだ。


「ただこれが原因で、前々世に来た訳じゃないんだ。むしろもう一つの念。誰のかわからないけれど、執着の念。これがどうやら引き金となって今回の事が起こったのだろうと」


「執着……… 」


「執着ですか……… 」


「これまで再三婚約の打診があって、いろいろと可笑しいと思ったけれど……… 」


「その執着した者は、記憶持ちの可能性があるな」


 父が無表情で淡々と、最悪の事態を提示する。

 そしてその可能性のある人物は………


「実はな、周りから建国しろとか離反しろとか、まあそんな催促の打診があってな」


 実は俺もそれ考えたんだよ。

 確実にフィルを守るならその方がいいんじゃないかって。


「それも考えた方がいいよ。相手だって俺達を貶めようとしているんだ。迷惑ばかり被ってる」


 俺はとてもいい笑顔が出来ていると思う。

 ホントにもうフィルの前々世の話を聞いてから、あの国に対しては見限り、二度と関わりたくない。

 あんなクソみたいな国なくなっちまえとさえ思う。


「最近変な手紙もあるんだ。何でも「こちらの作物が美味しいのは俺達の研究の成果だ。横取りをするな。返せ」という意味がわからない手紙。」


「どこからの手紙ですか?」


「魔術団の研究機関だな。それからフィルに関しても研究したいから連れてこいとか、ふざけやがって!!」


 ホントアイツら一体何様なのだろう。

 一応こちらは公爵を掲げているんだけど、大人しくしていれば舐めたマネをする。


「よくそんな馬鹿げた理由を書いて、公爵家に手紙を出せましたね」


「馬鹿なんだろう。一応抗議文を送ったさ。こんなふざけた手紙を書く機関に意味があるのかとな」


「ヘエ……… で王宮からの返事はどうだったの?」


「できればお願いしたいと馬鹿げた返事だったから、迷惑ですと返事した。」


「ついでに旦那様の意志を汲んだ一郎様が、防御態勢のレベルを引き上げられました。」


「今頃あちらの王宮は大わらわだ。フンw」


 そうだろうね。ありとあらゆる間者を始末または、見せしめにしているだろう。

 状況次第で離反、または建国もありって訳だ。


「王様家業いいんじゃないの。それでフィルが守れるならさ。もうあの国とは関わりたくないし、執着の念の懸念もあるからさ」


 ホント何でこんな話が、周りから出て来たのだろうか?

 この領に住んで関わった人達が、ソレを言うという事は何かあったんじゃない?

 これは聞いた方がいいだろう。


「父上、建国や離反はどこから出てきた話?ついでに理由もあるのかな?」


 すると父とロバートは、互いに目でけん制し合い譲り合っている。

 どうしてだろうな?そんなに面倒なの??


「仕方ありません。私からお話いたします。実は隣国からいろんな催促がありました。直接輸出量を増やして欲しい。肥料も輸出項目に加えて欲しいなどです。今まで野菜など鮮度ある物は直接輸出で、ジャガイモや玉ねぎなど日持ちのする物は、国預かりの商会経由です。それもうちの領から直接輸出で欲しいとの事です。」


「確か輸出物は従来の畑だよね。味は土臭いし、苦味もあるヤツ。」


「そうです。ですがよその物に比べると、大きさや密度など出来がいいのです。」


「他領や王都の奴らがうるさいそうだ。難癖やら嫌味やら、ヒドイ話ではかどわかしまである。とにかくうちの領に住んでいる奴らから、いろいろと情報を奪おうと躍起になっているらしい。」


 何だよソレ。かどわかしってえげつない。


「おかげで領から一歩も出たくないと言われてな。代わりに隣国の者達が、商品を引き取りたいという話だろう。そんな国がいくつもあるから、それならそっちに流した方が安全だし、輸送料もかからないんだ。あっち持ちでいいらしい。」


 うん、もう決定でいいんじゃない。

 だって嫌な思いも危険も冒したくない。

 人を見下したような奴らに、やる道理もないじゃないか。


「とにかくいろいろあったんだよ。ホント王都の奴ら腐ってやがるが、他領もひがみ根性に嫌気がさすし。教会もそうだ。フィルを魔女扱いしたかと思えば聖女扱いにして渡せと言うし、アイツら人の娘を何だと思っているんだ!!」


「そんな話が沢山ありましてね。とにかくこんな国から離脱しろという事です。ギルド経由で帝国の皇族、教皇など後ろ盾になるとさえ言われています。だからフィルの件は王都教会の独断だな。」


 ホントまさかこんな事になるとはね。

 でもあんな国に足を引っ張られ、フィルを無理やり取り上げられる心配さえある。

 帝国はしっかりと統治された実力主義な社会らしい。

 功績をあげ三代何もなければ降格と、爵位関係なく適用されているとか。

 その分不正や汚職など監視の目も厳しい。

 教皇はどうやら神託経由らしい。

 つまり憐憫の念か………


「一番重大なのは教皇が動いた理由なんだが、神託があったそうだ。それによるとフィルの手助けをしろというもの。教皇も名指しだった分、一部のみの秘匿事項扱いだ」


「神の憐憫なのでしょう。だから先程の執着の念ですか?余りにも辻褄が合いまして驚きました」


「つまり離反は決定事項だね。神の導きという事でしょう。」


 さすがに今回は神が動いた様だ。

 そうなると今まで蔑ろにし、文句も罵声も上げた事が気にかかる。


「これからはちゃんと教会にも行こうかな」


 俺の何気ない一言に父もロバートも頷いた。

 俺だけじゃないからね、蔑ろにしてたの………

 神もちゃんと見ているという事がわかった分ちゃんとしないとな。








読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)

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