魔付きという者
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
誤字脱字の報告ありがとうm(_ _)m。
嬉しく思います。
【ライオネス視点】
可笑しなものだが、魔付きになって良かったと思う自分がいた。
始め聞かされた時、自分の立っている基盤が、ボロボロと壊れていく姿を頭に浮かんだ。
もう人ではないと言う。それを理解すると途轍もない絶望が襲う。
これからどうやって行けばいいのか、なぜそうなってしまったのか……
後悔という感情ではなかった、ただ漠然とした思いだ。
そこに思い至った時、自分がいかに第三者目線で、物事を見ていたのか気づかされた。
「ライオネス、君にわからない。何故だと思う?周りが君を教育した。君の役目に必要だから。」
次郎様が私に言う。私が私という人間は……
「君はナレーションだ。君にピッタリだ。」
回りの流れを読み、その状況や心理状態を説明する。
先回りして、情景やその時の筋書きに乗って語るのだ。
「君は無意識にそれをする。とっても便利。周りが望む事、自然に汲み取り流れを作る。」
殿下の言う前世も、そうだったのだろうか?
私は無意識に、そういう流れに乗ったのか?
「君は、近くの人の影響を受ける。無意識だから、質が悪い。」
もしそうなら……… 陛下が王妃に会わなければ、頻繫に会う事になるのは私だ。
殿下の前世の話が思い浮かぶ。私は確かに後悔した。心の底から………
”殿下が王妃の話のおかしさを話され時、なぜおかしいと言わなかったのかと、私は確かに後悔したのだ。”
そこに気づくと私は、確かに存在する事に気づいた。
「フム?……… 」
次郎様が首を傾げ、私を見る。
そしてニンマリと笑い、とても可笑しげに目を細めた。
「面白い。魔付きになって、人になる。変わってる。」
次郎様が言われた言葉を、私は呆然と耳にする。
「君は人じゃない。魔物だ。でも本当の魔物でもない。人だ。君は君でしかない。意味わかる?」
私は意味を理解し、何かに解放された心地になった。
「クリスはキーパーソンと言う。確かに分岐点に立ち過ぎ。変… 」
変って…… 何故か魔付きより傷ついた自分がいた。
「役貰い過ぎ。大きく変……」
「……… そうですね。忙し過ぎますね。」
舞台にいる自分の状態を考えれば、陛下の横で手助けし、分岐点で助言をして、裏へ返ればナレーションとは、忙し過ぎで大変だろう。
「前世は追加で、王妃のおもり。嫌過ぎる……」
「……………」
「仕える人考えるべき。」
「確かにそれは、熟慮する必要がありそうです。」
頭に浮かんだ自分の姿に、泣きたくなるライオネスだった。
前世の自分を責めていたが、お前はよく頑張ったと労たくなった。
「これからの話。いい?」
次郎様が私の様子を見て聞いた。
私は頷き、部下だと言う者達を見る。
麻薬商人に神官が数名。スラム街の者から破落戸までいる。
「彼らは麻薬入りに関わる者達。改めて紹介。」
次郎様の号令で、皆が次々自己紹介をしていった。
「麻薬入りの販売と拡販を担当、ジエン。王国教会を担当する商会長の次男です。」
「リ・セランダ、元はアセリア領の司教でした。」
後ろにいる神官達も、元はアセリア領教会にいた者達。
スラム街の者達は、王都への拡販が目的。
その中にはスラム街のまとめ役補佐がいた。
そして破落戸と思った者達は……
「王国の暗部所属の者達と、王国教会の密使の者達だったとは………」
なんてことだ……… ここまで腐敗していたとは。
「どこからの命令か言いなさい。」
「陛下からの命と王妃より窺っています。王印付の手紙付きで…… 」
「その手紙を読みましたか?」
「見たのは私達の上司のみ。」
つまりこの者らは、手紙の中身を見ていないと言う。
”何という事だ!ただ真面目に仕事をしただけではないのか?!”
「救えない。死んだ者もいる。王宮門に吊るされた。」
ギョッとし次郎様を見ると、
「見せしめ大事。しつこい。面倒。」
淡々と言う次郎様。それを聞く暗部の者達も、仕方ない事だと目を伏せる。
「王印はまだ話してない。ライオネスの仕事。」
「了解しました。………教会の密使の方は、大司教ですね。」
私が聞くと頷いた。目を瞑り後悔している様だ。
「どのような話で、動かれたのですか。」
「魔物を操り、美味しいモノを使い魅了し、人の欲を刺激する領なのだと…… 神の意志に反する行為だと言われました。」
「ですが、何故王都へ麻薬を運び、使うのでしょう?」
「人の味覚をマヒさせるからです。欲も緩和される。」
「………美味しいから遠ざかる、変態。」
「「「「………………」」」」
さすがに変態は言い過ぎではないか。
言われた密使もショックを受けている。
聞いた他の者達も、気まずげな顔をし俯いた。
皆口を噤み、二の次の言葉が出て来ない。だが………
どこの世界でも、空気を読まない者はいる。
「確かに美味い物を素直に食べず、遠ざけるとか、マゾなんだろう?確かに変態だな。」
教会の密使たちは泣きそうな顔をしている。
私はそっとしておく事にした。
「後はライオネスが司令官、好きにする。お前達、王都で頑張れ。」
何名かの者は、何処か嫌そうな顔をいている。
俺は気になり、今ここで聞くべきだろうと思った。
だが聞いて見ればなんて事はない。
それは私だって、思っている事なのだから……
「次郎様、考え方次第では私達宿主ですよね?」
「そう、ライオネスの人間の寿命が来たら、その後はワームのモノ。」
「つまり肉体は大事ですよね。」
「大事。」
私がチラッと麻薬商人を見ると、頷いている。
他の者も決意を込めて、私を見ている。
「でしたら肉体のメンテナンスに、月に5回ほど出来れば3回でもいいので、定期的にアセリアの料理食べさせて下さい。中のモノも、そう思うはずですよ。月一ハンバーグは絶対です。」
他の者達からの、盛大な拍手が起こった。
そうハンバーグは正義。ポテトフライ付でお願いしたい。
次郎様はため息をついたが……
「わかった。風魔がインスタントと、真空魔法を作ったから大丈夫。」
一体どういう意味なんだろう?解らないのは、わたしだけか?
チラッと見れば、皆が疑問顔だった。
「あの次郎様、風魔とは?インスタント?しんくう?」
「風魔はフェンリル。インスタントはスープを個体にする。お湯注ぐ。スープになる。し「ちょっと待ってください。」」
「もう一度、インスタントを教えて下さい。」
「スープが個体。「ソレ!」」
かぶせて行かないと、続けて言いそうだ。
「そのスープが個体の意味わかりません。」
「わかった。固形だ。」
もっと意味がわからなくなりました。
「あ、あのちょっといいですか?」
麻薬商人が手を挙げるので、言う様に促す。
「スープが液体から、個体に変わったという意味でしょうか?」
「そう言ってる。」
「その個体になったスープにお湯をかければ、液体のスープになるという意味でしょうか?」
「そう、味も変わらない。美味しい。」
ニッコリと幸せそうに笑う、次郎様。
だが俺達はそれどころではない。何そのでたらめなモノは。
「先に進んでいい?」
「どうぞ。………」
聞いても良く解らないから、先に促す。
「真空は、中に空気がない。」
「空気?」
「水で息出来る?」
「無理ですね。」
次郎様は、出来るのかもしれませんが……
「僕も出来ない。つまり空気、息で取り込み吐く。」
「息でですか………」
「だから食べ物痛まない。長持ち。」
「………………」
俺はよく意味が解らず、またチラリと見ると……
蒼褪めているリ司教がいた。どうやら意味が解るらしい。
「という事は………」
「定期便、了解。」
「「「「やったー!」」」
「ありがとうございます。」
良かった。それさえ判れば、後はどうでもいい。
ホントこれからずっと、あの不味い料理を食べる続けるなんて無理だ。
魔付きになって良かったと思うとは驚きだ。
たぶん王都にいる時は、始終そう思うのだろうけど……
抱き合って、泣いて喜んでいる者達までいる。
「「「「俺達頑張りますから、よろしくお願いします。」」」」
王国の暗部の者達まで、頑張るという。
確かに美味しいは、最強なのかもしれない。
大司教の言った事は、ある意味当たっているのだろう。
ただ身体に害もなく、いい事ばかりで幸せなだけだ。
敢えて身体にも精神にも悪い、麻薬を進める教会が可笑しいのだ。
「それじゃ、後はよろしく。」
そう、次郎様はアセリアの者だ。
つまり、国の事はその国の者がしろという事だろう。
「ライオネス様、後の事とは?」
「王国をどうにかしろという事です。国の後始末は、自国の者で始末しろと。もう他国なのですよ、アセリアは……」
今この場にいる者達は驚いているけれど、今の私はよく今まで我が国にいてくれたと思う。
”少しずつこういう風に、価値観が変わっていくのでしょうね。”
魔付きになった自分、なのになぜか解放されたような面持ちになるのだ。
「そういう意味で自国の尻拭いに、他国を当てにするなという意味です。わかるでしょう?」
私がグルリと辺りを見合わせると、頷いているのはスラム街の者達だけだった。
私がそちらを見ると、スラム街の者達も不思議そうにしている。
「なあ俺達がおかしいのか?自分の不始末は、自分で片付けるのが当たり前だろう?」
暗部の者達も密使の者達も、苦味潰した顔をしている。
「魔付きになって気付くが、あの国はいろいろとおかしいと思う。なぜか今が、一番人らしい生活をしている。地下だけど…… 」
「ワームだから、地下なのは正解。」
「とにかくここにいるのは、身分も何もありません。だって私達は魔物ですからね。それを踏まえて、王国の話をします。ある意味、この話も魔物である私達には、もう関係のない話でしょう。」
「だがここにいる俺達は、それに巻き込まれて今ここにいるんだろう」
「そうだな。なら知る権利がある。」
「話せばいろいろと思う事があるでしょうが、最後まで聞いてから伺います。いいですね。」
身分も関わりも、全く関係のない者達。
なのに巻き込まれて、今ここにいるという事実。
”王妃、貴女はホントにどうしようもない方ですよ。”
アレを王妃にした先王を、そして私をそう教育した先王の家臣達を、心密かに俺は憎んだ。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




