フィル妹とを思う クリス視点
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
今日は家族皆で港へ向かう。
王都から戻る時、家族皆で馬車に乗るのはそれ以来だ。
フィルにとっては初めてのお買い物、初めての港。
そしてこちらの海を見るのは初めてという事だった。
フィルには前々世のこちらの記憶がある。
どういう訳か前世別の世界で100歳も生き、またこちらに舞い戻ったそうだ。
それも一度生きた時代の舞い戻り。
素敵な人生ならいいけれど、聞けば聞くほど胸糞悪くなるクソ人生。
そんな悲惨な事になっている妹に、俺は一体何をしていたんだ!!
もちろん両親の慟哭のような謝罪と叫びのような泣き声。
はっきり言ってその瞬間、王族に対しての敬愛の念は消え去った。
それはそれは綺麗さっぱり消し去った。
自分達の仕事を人に押し付け、自分達は贅沢三昧するなんて、王族の風上にも置けない。
そしてそれを推進し、更に助長した周りの取り巻き貴族。
そんなに地位や名誉が欲しいなら、それ相応の仕事をお前らがやれよとばかりに押し付けた。
そして俺達はサッサと領地に引っ込んだのだ。
地位と名誉にはそれなりの責任と仕事が付随する。
当たり前の事だろう。
それをする事により周りが尊敬し、自分の存在を確固たるものにする。
それなのにその面倒な責任や仕事をフィルが肩代わりし、その功績と地位を奪い貶めていた王宮の者達。
そしてそれが原因で30歳の若さで死ぬなんて、それに王宮以外知らないという話。
一体何のための人生なんだ?
確かに「神なんてクソだ」と言われても仕方がないだろう。
俺だって思うさ、今じゃお祈りもしない。
それはうちの両親と、この話を知っている者達もそうだろう。
またこの世界の同じ時代を生かせようなんて、何を考えているのか信仰心まで消え去った。
とにかく波瀾万丈な人生を歩んだフィル。
今世はどうか思う存分穏やかで楽しい人生を送って欲しい。
それが俺達家族と屋敷皆の願いであり、懺悔でもある。
時々こんなのもあるのねっと呟きが聞こえると、胸が締め付けられ何とも言えない気持ちになる。
今だに印象深いのは、俺達家族の名前を知らないと言った事。
一体俺達家族は前々世ホントに何をしていたのだろうか?
あの時は何事もない顔を皆でしていたけれど、フィルが寝た後皆で集まり、悔し涙とヤケ酒とぐちゃぐちゃなカオス状態に落ちいった。
それでも少しずつ少しずつ皆で歩み寄り、フィルの100歳のおばあちゃん人生を受け入れ生活する。
ただ穏やかとはいかなかったが、というか爆弾をドンドン投下していくフィル。
王宮でそれだけ仕事のできたフィル、優秀なのは当たり前だ。
そしてここよりも発達した世界に100歳も生きたフィル。
その間溜め込んだ知恵は常識を覆し、領内に広がって行く。
始めは勿体ない精神の説明から始まった。
ゴミを作り出すのは、人がそれを使う工夫と想像をしないから。
如何にして使う事が出来るかを、考える事が大事だとフィルは言う。
捨てる予定の食材の皮や骨を集め肥料にすると言い、裏山の空き地でコツコツ毎朝毎朝飽きもせず続ける。
それにそれを持って行くために、道具を設計し鍛冶屋に頼む。
「クリスその道具の特許を申請した。多分すごい事になると思う」
父がため息をついて、困った顔をしながらも笑っていた。
実際その商品は短期間で世界的大ヒットになり、うちの領を潤し知名度を上げていく。
「とんでもない事になったぞ。どうにかフィルを守らなきゃならない。」
父の警告通り王宮から使者が来て、横柄な態度でフィルへの婚約の打診が来た。
だがもちろん父はそれをすぐに断る。
使者は驚き再三言うが、その話は以前お断りしていると伝え、今の婚約者を大事にすればいいと伝える。
そんな事を何度も繰り返せば、俺達がホントは凄く婚約を嫌がっている事は誰だってわかる。
今まで横柄だった態度は、下手になりお願いする様なる使者。
それと共に領には、不審な者が現れ不穏な空気が流れる。
そんな状況でもマイペースなフィルは、いつもの通り裏山で生ごみを処理し肥料を作る。
使者にはもう来ない様に言う。
貴方方のせいで領内が不穏な状況になった事、理由は婚約の打診で今の婚約者の一族が暗殺者を差し向けている事を伝える。
こちらもとても迷惑だから帰れとさえ言った。
さすがに内容の重さに使者も謝り一旦帰る。
実は不思議な事に、暗殺者を無抵抗にしたのは俺達じゃない。
いつも裏山の空き地に束になり、放り出されている。
暗殺者を地下牢に入れ、父とも話すが原因不明だった。
そうこうしているうちにフィルは肥料を大量に作り、仲良くなった使用人達と畑を作り野菜を育てる。
使用人の元農家の者達は懐かしげに、生き生きと率先して手伝っている。
実はたわわに実り、色合いも大きさも申し分ない。
味を見れば驚く程に旨く濃厚だった。
そして野菜の味を損なわせていた、独特の青臭みとアクがない。
おかげで今まで食べていた料理が途轍もなく不味い物と認知し、領内の民もそれは同じ状況で、皆は思ったのだ。
もう俺達よその野菜食えないし、ここから離れられない。
だから、この領の野菜畑と国内の野菜畑とを分けている。
だって取り分が減ると困るから、この味を知ったらとんでもない事になる。
それは領内の民が一致した意見であり、死活問題でもあった。
出入りする商人や冒険者も、そこは言わずともわかる。
そして我が国にいろいろと思う事があるのか黙っている。
むしろせっかくなら国外に輸出し、信用と絶対的地位を作る方がいいと言う。
俺達も前々世の件があるから、それに同意し細々とでも確実に国外の需要と信用を増やす。
もちろん関係各所は出所を黙っている。
それはお互いのメリットの為、我が国の中枢、王宮の者達は余り国外によく思われていない事がよく判る。
変に出張って来られても、損する事ばかりで旨味がなさ過ぎる為だ。
最終的に婚約の話は今後来ないだろう。
フィルがワーム5匹と戯れる姿に、使者らは恐怖していたから。
そしてフィル自身が婚約は絶対しないし、王宮に行っても楽しくないと伝えた。
婚約者になりたい人がなればいい。私はなりたくも遣りたくもない。
ここまではっきり言われれば、大丈夫なはずだ。
そして襲撃した元婚約者の一族は消えて行く。
自分達の力不足を人のせいにした者達の末路だ。
おかげでそれからわが領は平穏で穏やかな時間が過ぎている。
と言っても騒動は毎回起きているが、概ね歓迎方向だった。
まずはフィルのテイム種族が増えた。
そしてわが領には御社が出来た。
俺も神に祈らなくなったが、この御社には欠かさずお参りする。
まず目の前に存在する。ご利益も日々授けてくれる。
とても身近でありがたい存在だった。
土の御社……ワーム。ミミズ一家
水の御社……ケルピー。
火の御社……サラマンダー。
そしてわが屋敷にはフィルの警備担当兼食材アドバイザーにフェンリルの風魔がいる。
俺自身にもいい影響を及ぼしてくれる者達。
いつも俺に助言をしてくれ、時には先回りして手伝ってくれる。
とてもありがたい存在だった。
そんな者達に以前聞いたことがある。
君たちは神の存在をどう思っているのかと?
すると要るのは確かで、虚空の中にいる存在する不確かな存在。
だから気にしなくていいと、意思を向けるのはよほどの時のみ。
そして………
「お嬢は確かに神の意思がある。だかそこにはあるのは憐憫の念だ。」
つまりは神は確かにいて、フィルの人生に涙したという事か。
だがなぜ同じ人生を歩むハメになるのだろう。
「それはまた別の意志だ。よく判らんが執着の念も微かにあるんだ」
また別の思いがフィルを呼んだという事か?
「とにかく生きているんだ。後悔がない様、真っ直ぐ思いのまま生きればいい」
そう言ってニヤリと犬顔で笑う中型犬サイズのフェンリル。
フィルは実際思いのままに生きている。
異世界の知識を思う存分使い、次々と領内に変化をもたらす。
領民もそれに対して臨機応変に対応し、平然と受け入れる。
「うちのお嬢様はちょっと変わっているけど、やっている事はとてもいい事だし楽しいからな」
「お姉ちゃんがまたやった♪」
「やったぁ♪今度はどんな事が起こるんだろう」
今ではお楽しみイベントになっている。
その度に驚き楽しみ親しみ、そして領内は団結していく。
とても賑やかで楽しい未来へと………
そこにフィルの魔物達がいて、いつも穏やか平和が維持されている。
「しかし港で麻薬を香辛料と混ぜて扱うとは……… 」
「実際わからないだろう。香辛料の香りで、独特な麻薬の香りが分かり辛い」
「どんな効果の麻薬なんだ?」
「精神に作用するモノだ。錯乱と混濁する。量を調整すれば、洗脳や暗示の効果もあるだろう。今バックにいる者を探っているさ。ミミズの三郞がな」
「サブローの事?しかしまたなぜうちの領かな?そこまで大きな港じゃないのに……… 」
「店の周りの人間に聞くと、最近越して来たらしい。時期的にちょうど領がだいぶ盛り上がったりしたあたりか。フフッ三郎も王都の方へ進路を変更している。つまりそういう事だ。」
どうやら陥れる為に、越してきた可能性が高いという事。
ならばこちらもそれなりの準備をした方がいいのだろう。
「他にも何か伝えたい事ある?」
「フェルの前々世に何かヒントがあるかもしれん。訊ねてくれ。俺ももう少しこの辺を探ってみようと思う」
「なんかごめんね。頼りにしているよ、」
「すまないと思うなら、美味い酒と料理を頼む」
そう言って人化し、今までの可愛いワンコは野性味のあるイケメンへ変化した。
「じゃあな。お嬢に晩御飯はいらないと伝えてくれ。しかしホントここの領の飯はどこもかしこも旨いよな。世界一の食道楽天国だぜ♪」
そう言って出て行く風魔を見送り、父に先程の話を伝えに行く。
ホント王宮の奴らのやり方の汚さにはうんざりするな。
いろいろと対策を考えていた方がいいだろう。
それに………
「執着の念も微かにあるか……… こちらも警戒だな」
フィルの転生に関わる不気味な念。
あんな嫌な思いをした人生に一体誰がこだわっているのか。
よっぽど怠け者なのだろう、執着を拗らせるほどだ。
呆れ返って言葉も出ない。
死なれて困った者が沢山いてもおかしくはない。
「一応コレも伝えた方がよさそうだ。ホントにフィルは巻き込まれ体質だな。」
騒動を起こすのもフィルだが、巻き込まれるのもフィル。
今回の麻薬は案外早いうちに見つかり助かった。
今のうちに芽を摘み、証拠を掴み関係者らを処罰しなければならない。
「でも最悪……… こちらで処理もありか」
それは彼らからの申し出によるもの。
フィルの生活を脅かす者は速やかに対処する。
それに対し我々もそれに反対の意志はない。
前々世の話を聞けば、情けをかける道理などないからだ。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)