ラッキーガール
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
【クリスティオ視点】
医療特化地区へ向かった。
ドリアスはまだ病室にいる状態だった。
本調子じゃないのもあるが、ここだとお互い都合がよかった。
トントントン……
ドアが開き、護衛騎士が案内する。
「よう♪」
俺が手を挙げ挨拶すると、ドリアスは苦笑し挨拶をした。
「ライオネスから伺いました。建国なされたと、お祝い申し上げます。」
ドリアスが頭を下げ、護衛騎士二人も頭を下げた。
「面倒な王太子ってヤツになったよ。ドリアスって呼んでいいか?」
ドリアスは快く頷き、イスを進める。
護衛騎士二人は複雑な顔をしている。
「紹介しよう。名はグランド、ご意見番と言ったヤツだ。」
「初めまして、しかし変わった魂じゃの?クリスどういう事じゃ……」
俺はドリアスを見ながら、黙っていた。
護衛騎士の二人は、不可解な表情でグランドを見ている。
言われたドリアスは、ただ静かに笑う。
「フフッ、面白いお方ですね。私の魂はおかしいですか?」
その様子から、本人はわかっているのだろう。
「歪じゃな…… それに……… 」
グラ爺も不可解に感じているのだろう。
泉が言うには、今のドリアスはドリアスではないそうだ。
ドリアスだが、ドリアスではない何かがドリアスになったという。
ライオネスが疑問に思ったのだ。
「魔付きになって思うのですが、殿下は人なのでしょうか?魔が付いた時、浸食し変っていく自分を理解します。だから思うのですが、魔でさえ逆らえぬ人が、何故二度も神の御意思に逆らえるのですか?一度なら偶然で済みますが、二度だと……違いますよね。」
ライオネスはそれに気づいた時、心底恐ろしく思ったそうだ。
今まで見ていた殿下は幻想に過ぎず、真の殿下は一体どういう人物なのだと。
見てはならない者を見る恐怖、想像に難くない。
「申し訳ないが、護衛騎士の二人には、席を外して頂きたい。」
俺がそう言えば、もちろん二人の騎士は拒否をする。
俺がドリアスを見れば、笑いながら言う。
「この二人には、王にならない事を伝えています。もちろん前世の話もしています。」
「では今から話す事を聞かれて構わないという事でいいな?」
「ええ、構いません。彼らは私個人の騎士ですので………」
「そっか…… ならば、自分の命に関する事を知っているのか?」
護衛騎士二人は目を剝いた。
「大体は…… 何となくですが、仕方のない事です。 」
二人の騎士は、静かに佇んでいる。
「どうしてそうなったのか、理由を知っているのか?」
「私は神に二度逆らいました。いいえ…… ずっと逆らい続けているのですよ。」
ただただ静かに、ほほ笑むドリアス。
「お前は一体誰だ?」
俺は確認の為に聞いた。だが………
「私はドリアスです。前世から舞い戻った愚かな男ですよ。クリスティオ・フィラメント卿。今はクリスティオ・フォン・アセリアですね。私を王から引きずり降ろし、地下深い坑道へ突き落した男。貴方は前世、しっかり家族の仇を取られましたよ。」
そう言うと、頭を深々と下げ謝った。
「貴方には改めてお逢いしたかった。貴方にもう一度謝りたかった。全て私が周りに言われるがままに、流されながら生きた過ちです。」
私は前世の自分が、どんな奴だと思っていた。
だがまさか仇討ちをしていたとは思わなかった。
”やるじゃねぇ~か、俺。”
俺は初めて、前世の俺を褒めた。
いままで散々馬鹿にしたが、それだけに嬉しさもひとしおだった。
「クリス、なかなかやるの。さすが主人と見定めただけの事はあるの。」
ホッホッホ……… と、とっても嬉しそうなグラ爺さん。
そんな俺達をドリアスは、微笑ましそうに見ている。
「クリスティオ様は、帝国へ魔道具を学びに行かれていたのです。なので巻き込まれずに済みました。」
確か帝国は実力社会。俺はあちらで力をつけ仇を討ったらしい。
「もともと帝国には、………すみません。記憶が途切れました。ただ…… 次期皇帝がクリスティオ様に力を貸された。それと隣国の女公爵ローゼリア。この二人が特に関わりがありました。」
顔をしかめ苦しげな表情で話すドリアス。
たぶんその辺りは、フィルに関連する何かがあったのだろう。
「ドリアス、お前は何故それ程無理をする?」
「自分が許せないのですよ。どうしようもない程に…… 跡形もなく消えてしまいたい。だけど…… それをよしとしないモノがあるのです。」
「お前ホント不器用な奴だよな。不憫なほどに…… 」
「どうでしょうか?結構ズボラに前世は生きたと思いますが…… 」
ドリアスはキョトンとした顔で首を傾げている。
護衛騎士の二人はため息をついている所をみると、無自覚なのだろう。
”ライオネスに聞いてみるか。”
フィルの前々世を考えると、いろいろムカつく思いはある。
だけどコイツに言ってもなぁ……… 記憶なしだし………
そう考えると前世の俺、ホントお前よくやった。
「そういえば、ライオネスが言っていたぞ。なぜ神に逆らう?」
「起こった事を認めたくないからでしょうね。その意味は良く解りませんが。」
「人でありながら、逆らうか…… 」
グラ爺さんも呆れた顔で、ドリアスを見ている。
「お前はホントにアホだのう。そんなアホ、今まで見た事もなかったわい。」
騎士の二人がグラ爺さんを睨みつけている。
だけどケンカ吹っ掛けるのやめてね。
コイツグリフィンだから………
そして、グラ爺さんに何か言ったが、
「騎士ども、悪いがお主らは黙っとけ。邪魔じゃ!!」
何らかの威圧か殺気をかけたんだろう。騎士どもが気を失った。
「ホント呆れ返るの。ここまでアホなヤツがいるとは思わなんだ。クリス、人生とは恐ろしいモノじゃの。」
「だな、グラ爺さんがそう言うのなら、そうなんだろう。」
ドリアスは騎士の二人を心配しながら、グラ爺さんと俺を見ていた。
「ドリアス、コイツはグリフィンという魔物だ。それはもう長い年月生きてるぞ。」
「長い年月……… 私は… それほどアホだと言われたのですか?」
「お前はかなり不器用で不憫な奴で、今までにないアホだという事だ。自覚するといい。全てはそこから始まる。自覚はとても大事だ。わかるだろう、ドリアス。」
「……… 自覚… 」
納得いかない様なでも言い切られると自信も無く、何とも言えない顔をして落ち込む、ドリアス。
「さて、前振りはおしまいだ。」
「前振りなんですね…… 」
ブスくれた顔でジドリと睨むドリアスに、俺は尋ねる。
「つまりそれだけ長い年月を生きたグラ爺さんに、ドリアスは聞きたい事があるだろう?例えば王妃の魔術とか……」
ハッと気がついたように、グラ爺さんを見るドリアス。
そうだろう、そうだろう、ただの年取ったグリフィンじゃないんだぞ。
「お伺いしたいのです。魔力がない者が使える魔術はあるのでしょうか?」
ドリアスが早速グラ爺さんに、尋ねている。
俺はその間王妃について考える。
"ホント不思議な生き物なんだよな。"
ドリアスが、グラ爺さんにいろいろと聞いている。
これで王妃の不思議が解けたらいいんだけどね。
****************
グラ爺さんとドリアスの話を聞いていると、何とも不思議な女だと思う。
「話を聞けば聞くだけ不可解な女じゃな?どう考えても阿呆で間違いない。」
「そうですよ。アホなんですよ。やる事成す事ザルなのですよ。」
ドリアスもそうだそうだと言う。なのに捕まらない。
ライオネス曰く、示唆するだけだからと言っていたが…
「じゃが話を聞くと、本人もしっかり犯罪をしておるぞ。」
「そうですよ。実の姉だって虐待していますし、それを見ている使用人がいるはずなんです。」
なのに、「一体誰がやったの?!」と言って、おしまいになったらしい。
ウソだろう…… グラ爺さんも呆れ返っている。
「おかしいのう?貴族共もそれこそ揚げ足取りして、地位から引きずり下ろして、代わろうと思わんのか?」
そうなんだよなぁ。言われてみたらそうだよな。
何で王妃には誰も言わないんだろう。おかしいよな?
やっと違和感の正体が分かったような気がする。
あれだけ脚を引っ張る王宮貴族達。
王妃に対して、大人しいのだ。
王族にも言うヤツらが、何故王妃には何も言わないのだろう。
「なんで俺、気付かなかったんだろう?」
「クリスティオ殿。それを言うなら私もです。グランドさんから言われて、初めて気がつきました。」
違和感というか、モヤモヤしたモノがあったのは確かだ。
「………そりゃあれじゃよ。思考をずらすじゃな。」
グラ爺さんが、ニヤリと笑って言った。
思考をずらす?いったいどういう意味だ?
「次々と違う問題が起こるじゃろう。全て同時に起こるのじゃ。すると早く処理せねばならぬから、とりあえず問題解決に奔走する。するとまた違う問題が起こる。棚上げしたものが溜まりまくって、訳が分からぬ状態になる。」
「ですが誰かが、おかしいと気がつきませんか?」
ドリアスの言う通り、誰かが気づくだろう。
それこそ書類作成する者達とか、
「じゃがのふと思った事を記憶で残すより、忘れると思うぞ。それに見慣れれば、当たり前になるじゃろ。人の脳は状況に合わせて、思考を変えるからのう。」
思考をずらす…… 俺とドリアスは、グラ爺さんの説明を聞きながら、理解しようとするが……
「あの~……… いくらなんでも母上が、そんな高度な技術を持っているとは思えないのですが?」
ドリアスは考えるのを途中放棄して、納得のいかない顔でグラ爺さんに言った。
確かに…… アホなはずなのに、何さっきの訳の解らないヤツ……
「たまたまそう都合のいい状況が出来上がっておったんじゃ。運がいいの。」
「「………………」」
「馬鹿じゃが、運はすこぶるいいじゃな。」
「「………運?」」
「そうじゃ。ラッキーガールって奴じゃな♪」
「「ラッキーガール…… 」」
「自分が欲しいと思うモノが、向こうからやって来るヤツじゃ。次々そんな事が起これば、『私運がいいわ♪』から『世界は私を中心に回っている♪』と思う奴じゃ。花畑思考じゃの。」
「「花畑………」」
「せっかくじゃ、息子の特権で試しに、宝くじなどプレゼントしたらどうじゃ。どんな結果になるかワクワクするの♪」
「でもそれと貴族達が母上の上げ足を取らないと、どんな関係があるのでしょうか?」
しまった?!これこそ思考をずらすか!!
ドリアスよくやった。俺はハマったぞ。
「フフッ、まあ聞け。それだけ運がいいんじゃよ。例えば絶対見つからない隠し場所が欲しいと思うとするじゃろ。するとな……物を隠すには最適な亜空間収納の指輪なんかが手に入るかもしれん。」
今までの陽気さがウソの様に、冴え冴えとした目で俺達に話す。
「それは世界大戦前に合った魔道具で、かなり貴重な物じゃよ。」
それも王印と同じように、所有者契約をすればいいらしい。
「契約を無効にするのに簡単な方法は、墓場で逆呪文を唱えればいいんじゃ。闇魔法の一種じゃよ。」
やっぱりグラ爺さんは知恵袋だ。
「さてなぜ貴族が上げ足を取らないかじゃが、それこそ魔物の私がわかる訳がないわ。ただ王妃は麻薬を使う。大司教と懇ろ。後は阿呆だから扱い易い。便利な人物、お得な人??」
次々と王妃を貶していくグラ爺さん。
ドリアスも顔を引き攣らせている。
だがたぶんそういう事なのだろう。
要するに……
「「ラッキーガールか………」」
たぶんそういう事なのだろう。
ドリアスと俺はその亜空間収納の指輪をどう手にするか、知恵を振り絞って考える事にした。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




