下された者
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
【 ライオネス視点 】
私はドリアス殿下の様子を見る為部屋へ向かった。
行く途中アレクが慌てた様子で、私に近づいてきた。
「ライオネス殿、警報が鳴り終わり街へ向かった騎士達の報告で、巨大な壁が領を覆っていると。」
「そうだね。確かに囲っているよ。建国に向けて、警戒態勢に入っているんだ。」
「公爵家の方が言われたのですね。しかし建国…… されるのですか?」
「ああ、もうギルド経由で、各国に伝わっているだろうとの事だ。」
「残念です。………麻薬の件はどうなったのでしょうか?周囲の目もあり、まだ調査が」
「その件はもういいよ。公爵家もご存じだった。それにもうないからね。」
「ハッ?あ、あのもうないとは?」
「もう建物があった場所は更地になり、子供達の遊び場にするそうだよ。」
「………ライオネス殿?」
「仕事が早いですね。もう何も残ってないですよ。証拠はしっかり押さえているそうです。」
「………………確認に向かってもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いません。私はこちらにいる予定です。ドリアス殿下の所へ向かいますね。」
「それでは失礼します。」
「それから、いくら街灯があるからと余り遅くまでウロウロしたらダメですよ。何だかんだと今のアセリア領は、厳戒態勢なのですから……… 私達は領民ではありません。王都民です。この意味わかりますね?」
「ハイ。それでは。」
頭を下げ店があった方へ、足早に向かうアレク。
彼の後ろ背中を見ながら呟いた。
「私は今までの私ではないのですよ。」
右目がほんのりと痛みを伴った。
****************
意識を取り戻したと言われて、慌てて私はドリアス殿下の元へ戻った。
部屋へ入ると、殿下はとても静かな顔でどこかを見詰めている。
「殿下、お加減はいかがでしょうか?」
目覚めてからも、どこかをボ~と眺めている殿下。
返事を待っても、ただ静かで口を開く様子も見受けられない。
「飲み物をお持ち致しました。」
私はとりあえずそう言って、殿下の手を取りコップを持たせる。
だが持った状態のまま、ただジッと見つめ続けるだけだ。
見ているのは、何の変哲もないただの壁………
”やはり何らかの影響があったのだ。”
この領に着いてから、美味しそうに食べていた殿下の笑顔を思い出す。
トマトの味に腰を抜かし、パプリカの肉詰めを睨み付け文句を言う殿下。
これ程長く殿下とご一緒した事は、今までなかったと思う。
とても優しく周りを気使い労う。ときおり困った顔で相談する殿下を思い出す。
今はただ人形の様に、じっとしている殿下のお姿が痛々しく、そしてツラかった。
部屋にいる表情の乏しいメイドが私を見て、温かなタオルを私に手渡した。
「まずそちらは貴方様にお渡しします。余りにも顔色が悪うございますので……… 」
そう言うと、ポケットから何かを取り出した。
「コチラはお嬢様お気に入りの、あめ玉というモノでございます。砂糖に味を付け丸く固めたモノです。中には滋養に良いミルクと蜂蜜、そして薬草が入っております。殿下にもよろしければお渡し下さい。」
温かなタオルを顔に押し付けると、スーとする薬草の香りが心を落ち着かせる。
「ボーっとされているんですよね。ですからそちらです。甘さは直ぐに、身体の力に変わるそうです。お嬢様の受け売りですが、お役に立てればと思いました。では失礼します。」
頭を下げ静かに退室する、メイド。
殿下はその間も身じろいをせず、ただ壁を見続けていた。
****************
次の日の朝、殿下の部屋へ行くと私の顔を見て笑顔を見せる殿下がいた。
「やあ、ライオネス。大変だっただろう?」
困った様に眉を下げ、笑っている殿下の様子にホッする。
見る限りどこもおかしい所はない。
「不思議だね。アレほど重たかった魂が、今はとっても軽いんだ。でもそれがとても寂しい。ライオネス、私は一体どうしたんだ?」
とても静かな目で私に問うドリアス殿下。しかし私には言える事などない。
「私はアセリア領で何かを失っているね。わかるんだ!それが私の罰だと……仕方がないのだろう。だけど私はなぜ生きている?私は死にたいと、こんな生はいらないと思う。けれど… 理由がわからない。なぜかぽっかりと空いているんだ?私は…… 私が煩わしいよ。」
ホントに私に、言える言葉など持ち合わせていないのだ。
ただ言える言葉………
「申し訳ございません。ドリアス殿下。これは神のご沙汰でございます。」
これだけだ。
何と無慈悲な言葉なんだろうか。
それからはただ窓の外を見て、アセリア領の事を聞く殿下。
「そっか……… ここは医療特化地区と言われている場所なんだ。凄く賑わっているね。」
何事もなかったかのように振る舞う。
これでいいのだろうか?
今までの私なら、それでいいと思うだろう。だが………
「殿下、我慢なさらないでください。我慢は良くないと思うのです。」
私は何か言う事で傷をつけないかと、ハラハラしながら言葉を紡ぐ。
今の殿下は儚くて、一体どうしたらいいのか?
「我慢か……… そうだね。敢えて言うなら死にたいかな。ごめんね。ライオネス。」
殿下はそう言うと、また窓の外を眺め出した。
私は何も言えず、ただ殿下を見続けるしかできなかった。
窓の外から聞こえる。人々の笑い声。
温泉に浸かっているのだろう。のんびりとした声が聞こえる。
風が吹いて木々のザザーという音が、ゆったりとした時間を刻む。
王宮にいる時に、こんなにものんびりとした時間を過ごした事があっただろうか。
「ねぇ、ライオネス。私のお願いを聞いてくれないかな。」
ドリアス殿下が振り向き、私を見つめ言った。
「お願いでございますか?」
「そう……… お願いだ。」
確認をすれば、やはりお願いだと言われる殿下。
「私が出来る事でしたら、致しますが………?」
私はどんな願いだろうと思いながら、出来るだけ叶えたいと気持ちのままに返事をする。
「私が王妃を排除したいのは知っているよね。」
「ハイ、もちろん伺っております。」
「それじゃあ、その後の事なんだけどね。元婚約者だった実姉を、王妃に据えて欲しいんだ。」
どんな事を言われるのだろうと思っていたが………
”言われる事は、国の行く末ですか。”
間違った事ではないのだ。だがとても悲しくて歯がゆい。
顔を歪めた私を見て、殿下は言った。
「これは私の願いの過程に過ぎないんだ。ライオネス。」
気が抜けた様な、どこかホッとしたような顔で殿下は言った。
「私は全てが終わったら、神職に就こうと思うよ。私に王は無理だからね。私は多くの民の幸せを考えるより、ただ一人の幸せを願いたいんだ。」
殿下の言葉を聞いた時、私は思わず戦慄する。
”殿下はフィラメント様の記憶をお持ちなのか?!”
神の思惑を狂わせた殿下、まさか貴方はまた………
一体どうしてそんな事ができるんだ!!
「その様子だとライオネスは、私の失せ物を知っているんだね。」
静かな目で、心の底まで覗き込む様に目を眇める殿下。
これまで心優しく聡明な方だと思っていた。
だがそれは間違いだったと今さら気づく。
いったい私は何を、今まで見て来たのだろう。
この胆力と覇気に恐れおののく、自分がいた。
「神のご意思だ。聞かないよ、ライオネス。安心するといい。私に記憶はないよ。」
そう言うと、今までの事がウソの様に、ふんわりと笑う殿下がいた。
フウとため息をつくと寝台へと戻られる。
まだ本調子ではないのだろう。水を入れたカップを殿下に渡す。
「ハア~…… 水の味まで違うんだね。ホント困るよね。これからどう生きていけばいいんだろう。」
私が返事にこまねいていると、殿下が笑われた。
「水さえ美味しい。王都に帰る時どれだけ地獄に思うだろう、という意味だよ。」
私は肩の力を抜いて返事をする。
「それは皆思っている事です。美味いのに、苦味潰した顔で、皆食べておりますよ。おかげで料理人がオロオロしておりました。一応説明いたしましたが、何とも言えない顔でございましたね。」
「だろうね。わかるよ、ホントに。」
困った顔で笑う殿下の顔を見て、先程の返事をする事にする。
「先程言われました件、確かに承りました。」
私は頭を深々と下げ、殿下に敬意を表した。
「ありがとう、ライオネス。よろしく頼むよ。」
私はホッとしている殿下の顔を見て、私もホッとしたのだ。
どこか脆そうなところが消えたから………
だがそんなのんびりした時間は、けたたましい音で終わりを告げた。
****************
殿下は無理やり身体を押して、公爵家へ行かれたが………
目の前を歩くクリスティオ様に、撃退された。
先にマリアナ夫人達に連れられて、医療特化地区へ戻される。
私はため息をつき、これから起こる事を考えた。
公爵に打診された側近の話。
私としては断りたい。だが………
”美味しいはすごく魅力的なのですよ。”
どっち付かずな自分に嫌気が差す。
私に選択肢はない。クリスティオ様がどちらを選ばれるかだ。
話を聞けば、クリスティオ様は側近には考えていないと言う。
そして私の至らなさを指摘される。
そして自分という人間の、存在意義を言われた。
"私はこれからどうしたらいいのか。そんな重要な存在とは思えないのです。”
キーパーソンだと、水先案内人だといわれた。
その言葉の重みが圧し掛かる。
私は登場人物の添え物程度で居たいのだ。
だが言われ思い当たる事があり、自分の至らなさを痛感する。
自分の出来る事をコツコツとしなくては、それが自分が出来る償い。
だが全て賭けで決めようと言う、クリスティオ様。
”一体どんな賭けをするのか。”
クリスティオ様は用事がある為、砦に向かわれた。
隣に次郎様が残られた。一体私はどうなるのだろう。
****************
「ウウ…グッ!グッ!!ッ……!!…」
突然体じゅうに稲妻が走った様な激痛が走り抜ける。
そして度々無数の針に刺された様な痛み………
ジワジワと何かが身体を浸食していく。
抵抗すればする分だけ、激痛が身体を支配する。
「無駄な抵抗はしない方がいい。精神が壊れちゃうよ。」
無情な言葉を投げかけ、私を見ている。
目を閉じ苦しみに耐えようとするが………
全身を焼き尽くす様な激しい痛みが身体を襲った。
「アアアアアアア!!!」
私はそのまま意識を失う。
「………………」
ペチペチ………
「………きろ。」
ペチペチ………
「……起きろ!」
「………ハッ?!」
私はガバッと起き上がり………
「ツツツ!!」
右目に激痛が走る。一体どうなったんだ?!
右目を押さえた手のひらを見ると、血が付いていた。
もう一度右目の辺りを触ると、べっとりと血がこびり付く。
「地下道に鏡はない。でも大丈夫。見た目は変わらない。」
ニンマリと月の様に目を細め笑う次郎様。
「もう用は済んだ。帰っていい。」
一体何があったのだ。先程の激痛は一体………
私がジッと次郎様を見ると、私を見て言った。
「………おいで。」
ある洞穴の一室に連れて行かれる。
そこには数人の男達がいた。
「あれが麻薬の店主。隣が運んだ神官………」
次々挙げられる者達。私はそれをただ茫然と聞いていた。
「ライオネス、お前の仲間だ。王都にも同じ者がいる。お前はまとめ役だ。頑張れ。」
一体何を言われているんだ。仲間?まとめ役??
「こいつがリーダー。わかった?」
次郎の言葉に頷き、次々と挨拶をされる。
一人一人役目がある様で、私がこの者達のまとめ役だと言う。
「お前は自分がわかるの?お前は流され易い。逃げる人生だ。臆病者だ。でも分岐点に居る。正す事が出来る位置にいる。この重要性がわかる?だから魔物は見張る事にした。お前をその場に留める為に。」
そう言って、指先を目の前に差す。
そしてその指先を、先程紹介した者達に向けた。
そこで見たのは、右目だけ次郎様の様に赤い瞳。
「お前の仲間。お前は人間で魔物。魔付きって言葉、今もあるのか?」
私が食べたモノは何だったんだ?
人じゃないってどういう事だ?
「次郎様、アナタは先程何を私に……… 」
私はおそるおそる聞いた。するとニンマリと笑う次郎様。
「ワームの肉は美味しかった?」
これが私に…… 与えられた罰なのでしょうか。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




