砦にて、美味しいが消えた世界
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
【 クリスティオ視点 】
地下道をドドドドンてな感じ進んでいる三郎に、思わず言ってしまう。
「あのさ……… 手があるのも善し悪しだな。速さはあるが、振動もある。普通のワームに乗った時は、こんな振動なかった。ついでに掴む場所がないから、どうにかしてくれ。フィルは大変じゃないの?」
「ご主人様は、一郎が乗せてるから大丈夫だよ。ご主人様至上主義だから♪」
「お前は俺に対して雑だよな?」
ホントいろいろと大変。
腕・腿・腹筋…肩も背中も来そうだな。筋肉痛………
「馬乗ってるから大丈夫でしょ?無理なら抱きつけばいいよ。」
「ソレだけはイヤだ。俺にも次期当主としての威厳が必要だから。」
「僕達に乗っているから、威厳あると思うよ?」
「領民も乗っているじゃないか。」
俺が胡乱気に言えば、「ファンサービスだから~♪」と暢気な声で言う。
所詮俺の威厳など、三郎にはどうでもいいのだろう。
「そういえばさ♪威厳が欲しい?」
三郎から突然、変な質問が飛び出す。
「そりゃあ威厳は在った方がいいだろう。舐められるより。」
特に王都には、ガンガンに威張り倒したいぐらいだ。
「そっか~、クリスは男だねー♪」
「お前俺を馬鹿にしてるのか?」
なぜかイラっと来たぞ、俺は………
「ホント家族思いだよね、クリスは。僕、そういう所好きだよ。」
「お前はホントに唐突に言うな。一体どうしたんだ?」
「うん、僕はもうすぐ王都に行くでしょ。だから友人枠が、僕である事を強調してる。」
まったく……… こそばゆい事を言う三郎に、笑いがこみ上げる。
クソ恥ずかしい事は言わない主義だが、まあ三郎だからな。
「お前以上の友人は俺にはいない。裏も表も、どちらの世界でも一緒だろ?」
「もちろんだよ。ただし、僕はご主人様が一番だけどね♪」
フフン♪と弾むように言う三郎。それを言うなら俺だって………
「今世フィルの幸せが一番だ。当たり前だろ!」
前々世の分まで幸せにしたい。それが公爵家の希望………
「僕達同じだね♪嬉しいなー♪」
「そうだな。同じだと楽しいな♪」
もうそろそろ砦に着くだろう。
一体何があるのか?何が見えるのか?楽しみで仕方がなかった。
「ジャジャジャジャーン♪」
砦入り口近くの穴から飛び出すように出て、ピタッとポーズを決める三郎。
ヤツに乗っていた為に、それに巻き込まれた俺。
「皆お疲れ様……… 」
俺はシラ――― と何事もなかったかの様に、声をかけ三郎から降りた。
兵士と騎士達は唖然とした顔で、俺達を見ている。
ニョキッと一匹のワームが俺にカゴを差し出す。
”何だこれ?”
俺が首を傾げていると三郎が、
「ソレ差し入れだよ。クリス頼んでいただろう。」
そういえばそうだった。すっかり忘れていた。
「ありがとう。持って来てくれたのか?」
俺が顔らしき所をヨシヨシと撫でると、ウニョウニョと動く。
恥ずかしがっているのかな?三郎が以前した様な動きだ。
「クリス~~♪」
四郎がブンブン手を振りながらやって来る。
後ろからは五郎が、騎士達と肩を叩き合いながらやって来た。
この二人に関しては、ホントワームとは誰も思うまい。
人と馴染んで違和感なく存在している。
それに比べて………
人化した三郎…… 相変わらずの無表情だ。
ホントどうにかしないとな。俺はソッとため息をついた。
しかしここに来ると圧巻だ。
目の前にはワーム達が作った、そそり立つ巨大な壁。
その壁をナデナデと撫でると、ニョキッと顔らしきものを出し、手に擦り付いた。
「その子クリスに甘えてるね。頑張る♪って言ってるよ。」
「そっか、ありがとうな。おやつを持って来たから、皆で食べてくれよ。」
三郎が用意したワーム専用のおやつ。
御社の土を、兵士達がウンセウンセと壁に沿わせて置いて行く。
その土をウニョウニョと突起が出来、内へ取り込んでいく。
無くなった所に、ウンセウンセと補充する兵士達。
その中の兵士の一人にちょうだいと言う様に、目の前に突起が現れた。
兵士はその突起を軽く叩いて言った。
「よくわからんが、順番だ!」
そう言うと、土近くの突起以外、出る事がなくなった。
それを見た他の兵士達も、突起をペチンと叩き「順番だ。」と言い始めた。
壁の上では噴水の様に波打って上下に動く。
壁全体でウエーブをして、遊んでいるのだ。
「フフフ、喜びのダンスだよ♪」
四郎が笑いながら教えてくれた。
”遠くで見たかった。”
近すぎて全然わからない。ホント残念だった。
「ところで四郎、俺に何の用だ?」
三郎と五郎は、兵士や騎士達と楽しそうだ。
差し入れの物を、どうやら一緒に食べているらしい。
俺達は少し離れて壁の向こう側、領の外を覗いていた。
「これ便利だな。」
壁は見たい所だけ隙間を空けてくれる。
アチラ側では、ロープ内の者と魔物達が仲良く戯れていた。
さながらふれあい動物園のようだ。
「なんかおかしくないか?変に思う俺がおかしいのか?」
うちの領民は、順応力がめちゃくちゃ高過ぎないか?
3つ首のある犬と、笑いながら遊んでいる子供達。
サイクロプスだろう?!手の上に乗り、話をしている様だ。
ハーピーとダンスをして楽しむ者達、ケンタウルスと競争しているヤツまでいる。
「なあ、3つ首があるヤツは犬だよな。変異種ってヤツだよな。」
「ケルベロスに決まってるじゃん。」
………の割にはめちゃくちゃ犬みたいじゃないか?
いや犬の魔物だけどな、獰猛じゃないの?
というか他の魔物達もそうなんだけどな。
一人ボケ突っ込みをする俺。
「ここにいる魔物達は皆ご老体様なのさ。それでちょっと面白い話を聞いたから、クリスにも聞いて貰いたかったんだ。」
四郎がふんわりとほほ笑み、ご老体だという魔物達を見る。
ご老体と言っても後300年は大丈夫らしい。
一体どれだけの年月を生きて来たのだろう、と俺は思った。
そんなご老体達のリーダーが、眼光鋭いグリフィンだと言う。
威圧も凄いし、迫力も凄い。うん、威厳も凄いな………
とにかく凄いんだ。存在感がな。
「お初にお目にかかる、アセリア領の次期当主殿。」
ついでに知性と教養も兼ね備えていた。うん、もう何も言うまい。
「こちらこそ、いつもご尽力頂きありがとうございます。」
「フムフム…… 堂々とし若々しい。良きかな良きかな♪」
目を細めて眺める姿は、まるで祖父の様だった。
四郎が面白い話というのは、とても驚くべき話だった。
美味しいは昔、存在していた。だけど………
「私もまだ小さい雛だったのでな、その時何が起きたのか、理解できなかったんだ。」
全世界を巻き込んだ戦争。
この世界の魔力を根こそぎ奪う戦禍。世界は突然様変わりした。
たくさんいた魔物達も一気に減り、魔力の溜まる場所で休眠状態で過ごした。
「大型の大人達は少しでも世界を回復させようと、その身を捧げていった。世界が回復するまで、若い世代を休眠させ種族を守った。私も母親に抱かれて、どれくらい寝ていたのかわからない。ただ魔守り主が、子守歌の様に話を聞かせていた。」
母親は膜になり子を守り、魔守り主はその子らを守る。
子らが目覚めるその時まで、もうほぼ岩の状態になっても、守り続け語り続けた。
そして自分の役目をただただ全うして、静かに眠りについた。
「いろんな話をしてくれた。私達がモノを食べていると、とても淋しく哀しい声で言うんだ。昔はホントに美味しい物があったんだと……… こんな不味い物しかない世界になってしまって、すまない、と詫びるんだ。私達より大きいモノは記憶があるのだろう。とっても苦し気だった。」
魔物にも魔物の役割がある。数少ない魔物達は世界を彷徨う。
魔力を巡らせる。龍脈だけでは足りないから………
そうして少しずつ少しずつ回復して行く世界。だけど………
「食べ物だけはどうする事も出来ない。それは私達魔物の役目ではないからね。」
魔物は本能と進化で智慧を頂く。
だから自分達の役目をするし全うする。
「だけどお前達は違う。我らが言おうにも何を言えばいい?役目が違う故、やり方もわからない。美味しいがなくなった世界。それを知らないお前達。それを伝える事を出来ず、私達魔物は歯痒かった。」
稀に魔物は美味しいを手にする事がある。
たまたま実ったモノを食べたら、美味しいだった。
それじゃあ次もと思うがそうじゃない。だからこそ美味しいへの渇望は深い。
「でね、グリフィンさんと約束したんだ。だからクリスにその約束を果たして欲しいんだ。」
突然四郎から、約束を果たせてと言われて困惑する俺。
俺は何か約束をしただろうか?記憶にない??
「クリス言ったじゃん。どんな事をしてでも、アセリア領を守るって言ったよね?」
確かに言ったかもしれない。三郎に………
「僕達もともと分裂した個体だから~♪」
四郎はニマニマと笑顔を作り踊る。
つまり三郎にいえば、四郎に言ったも同じ事。
「でもこれはクリスにとってもいい事なんだ♪ね、グリフィンさん。」
「ウム… 私もお年寄りだからの。のんびり余生を送りたいのよ。」
グリフィンも偉く年寄り染みた話し方をする。
あざとい、実にあざとい有様だ。今までの威厳がウソの様………
「わかった。約束したんだもんな。俺も男だ!二言はない!!」
と啖呵をきりつつ、ため息をつきたい俺。
何か俺、魔物にいい様に転がされてないか?コロコロと………
「ウムウム、何、簡単な事じゃ♪ただ私と契約して欲しいのよ。ワームの様にな(笑)」
「そうそう♪お互い納得すれば大丈夫と思うんだ。クリスも魔物に対して嫌悪感ないしね。三郎は少しごねたけど、今は納得してるもんね。」
騎士達と武器を見せて貰い、会話している三郎を見る。
”なるほど……… 先ほどの友人枠の強調はそれが原因か。”
「お前はこれから大変だろう。建国すれば、あっちこっちといかねばならん。だが私なら一っ飛びよ。ついでに相談にも乗れるぞ。伊達に長生きしておらんからな。のんびり悠々自適な暮らしは良いのう♪」
「ねぇ、いい事ばかりでしょう。それに今魔物達がいる場所は、中立地帯なんでしょう♪」
「だから魔物達も今いる場所で、のんびり余生を送ろうかと思っての♪こういう事を……」
「セカンドライフ♪フィルがそう言ってたの。定年なのね~って。」
フィル……… 魔物の定年って何だよ。
「いい言葉じゃの♪セカンドライフ!ここを魔物達のセカンドライフの地にするぞ!!」
「楽しみだね~♪魔物の生活見て度肝抜かしやがれ♪」
「だの~♪ただの獣と思うなよ…… ほっほっほ♪」
なんか最後のボソッと言った言葉に殺気を感じたけど、俺としても確かに凄く助かる。
だってすぐ領に帰れるって事だよね。ホント凄く嬉しい。
「グリフィンさん、ありがとう。俺としても凄く助かります。ホント死活問題だったから……… 」
「この領以外飯マズじゃからな。早く全世界に拡がって欲しい。」
「僕達ワームも頑張っているんだけど、長年の放置状態で大変なんだよ。」
最終的には人の手で頑張らないとだ。
じゃないと余りにも人として情けなさ過ぎる。
「これからよろしくお願いします。グリフィンさん。」
俺は感謝を込めて、頭を下げお願いをした。
「そこは名をつける所じゃないか?ついでに爺を付けるなよ。」
「なんでグリ爺にしようと思った事がバレたんだ?!」
「昔からよくある名だと記憶にあるからじゃ。」
フンとそっぽを向くグリフィンさん。
「だって喋り方が爺さん臭いから……… 」
「本来の喋り方に文句があるのか?」
「……… 何て名前にしようかな?」
グリフィンさんからの威圧は凄かった。
ウン、怒らせない様にしよう。
「それで何て名前にするの?」
ウ~~ン……とにかく大きいよな、存在感が………
それに話す内容も、さすが年の功と言わざるを得ないんだよ。
「グランドとかどうかな?俺どうも苦手だ…… ごめん。」
いやもうホント、やっぱり俺もフィルの兄だった。
フィルごめん、名付けってホント難しいな。今度褒めてあげよう。
「グランドか、まあいいじゃろ。言い易いし、名もすんなり馴染みよった。さてと…… 常日頃はなるべくこちらで居るわ。その方が美味しいを食べられるでの♪」
「………………」
「よかったね、グラ爺。一緒に買い食いしようね♪」
「おお、そうじゃ♪クリス、ちゃんと賃金は貰うぞ。買い食いせねばならんからの♪」
茶色に少し白髪交じりのソバージュ、深い蒼の瞳の老齢な男性。
何処かの司教の様に髭を蓄えて、なぜか眼鏡を嵌めていた。
「人化出来たのかよ。それに何処から眼鏡が出て来るんだ?」
「ホホ… 疑問はそこか?年寄りだからの、魔力的に人化は出来る。もちろん他のモノもじゃよ。年の功じゃからな♪ついでに眼鏡はイメージじゃ♪」
俺はほとほと疲れた………
これから振り回されるんだろう。たぶん………
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




