後回しのツケ
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
【 クリスティオ視点 】
父上とライオネスが、無言で互いに確認し合っている様だ。
大司教関連でなにかあるのだろう。
そんな二人を、不思議そうに見つめているドリアス。
俺はそんなドリアスを眺めていた。
ドリアスは俺の視線に気づくと、目を伏せて頭を下げる。
いろいろと思う事はあるのだ。ぶん殴りたい程に………
だが同時に思ってしまう。
”まったく…… なんて不憫で、不器用なヤツなんだ。”
コイツはもう、十分に罰を受けている。
自分が心底愛した者の記憶を失う。一体どういう気持ちだ?
彼の絶望と喪失感の悲鳴に……… 俺は絶句する。
それでも本人は納得しないのだ。だから………
”本人はそれ以上の罰を受けたがっている。”
ホント世界は残酷で無慈悲で救われない。
嫌になるほど、つくづくそう思った。
****************
俺はドリアスに話をする。まず国から離脱する事を告げる。
理由は度重なる王宮の対応の不味さだろう。
「今回王宮の悪事の証拠もこちらは握っている。特に王国教会はわかっているだろう。アセリア領を守らねばならない。王都に帰ればわかる事だから、ココでは言わない。自分達の耳と目で判断すればいい。俺達は同じ轍は踏むつもりはない。そちらの事はそちらで片付けてくれ。巻き込まれるのはごめんだ。」
ドリアスは目を閉じ無念そうに、顔を歪めた。
だが何も言わない、イヤ言えないのだ。
自分の場所を守るのは当たり前、守る伝手があるなら利用して、守る事は当たり前な事だ。
前世では保身の為に切り捨て、国を守った者達が一体何を言えるだろうか。
「ココからは別の国として対応する。そこでいくつか感じた事を個人的に話そう。」
俺はそう言って、目の前に置かれているお茶をゆっくりと飲んだ。
ドリアスとライオネスは、そんな俺を見つめている。
俺は飲む様に促す。ドリアスの顔色が悪いからだ。
”コイツ、飯は食っているのか?クソヤローだが、ホント大丈夫か?”
俺はドリアスの状態を確認する為に、海流とマリリンを見た。
二人は首を振り、無理だと判断している。
そんな俺達を見て、母上とロバートが動いた。
「ドリアス殿下、ご体調余りよろしくないのではなくって?」
「いえ、大丈夫です。それ程大したことはございません。」
ドリアスは首を振り、弱々しい笑顔で言う。
「ドリアス、お前自分が今幾つかわかってんのか?」
「私は…… 今6歳です。」
俺の変な質問に、不思議そうに振り返りながら答えた。
「だよなぁ、よく考えてみろ。今のお前は歪だ。行動が大人だ。身体は子供なのに。」
それを言われて気づくライオネス。
ヤッパリコイツは、殿下を大人のような扱いをしていた。
「お前さ……… チビのまんまでいいのかよ。」
「エッ?!」
ドリアスが目を見開き固まる。それはライオネスも同じ。
「受け売りだけどな…… ガキは早めに寝ないといけないんだ。日が変わる時間になると、成長を促すモノが身体に降り注ぐそうだ。」
俺がジックリ見つめながら話すと、二人も真剣に見つめている。
「わかるか、ただ寝ればいい訳じゃない。その降り注がれるために3時間前に寝ないと……… 」
「ど、どうなるのですか…… クリスティオ殿。」
ゴクリと唾を飲むライオネス。すごく焦った様子で聞いてくる?
ドリアスに至っては、不安そうな顔で唇をブルブルと震わせていた。
「成長の扉は閉じたままだ。ついでにその状態が続けば、錆びたドアの様に開かなくなるそうだ。」
「な、なんと?!と、いう事は……… 」
どういう訳かライオネスが、ドリアス以上にパニクッてないか?
まぁドリアスもフラフラして、ロバートに支えられている。
「もう一度聞こう。お前チビのままでいいのかよ?」
「わ、私は後で話を伺います。チビはイヤです……… 」
「ああ…… それがいい。俺もいろいろ聞きたい事があるけど、今回はライオネスに対応して貰う。お前はまだ休息が必要だ。用が出来たら呼ぶよ。」
「ありがとうございます。クリスティオ殿。」
そう言って部屋をフラフラと、ロバートに支えられて出て行った。
その後ろを母上とマリリンが続いていく。
部屋は、5人の男だけになった。
「わ、私の身長が弟より大分低いのは、子供の頃の睡眠時間が原因だったんですね!」
「お前まだその事、根に持っていたのか?」
「当たり前です。私が髭を生やしている理由ご存知でしょう!」
「似合うから、いいじゃないか。」
「大変なんですよ。手入れが!!」
父上と言い合うライオネス。身長に何か思い入れがある様だ。
でも俺は心底思った。「アホくさ!」っと………
ときおりライオネスは、こんな風に壊れる。
多分これがライオネス本来の姿なのだろう。
「なるほど~、睡眠はバカになりませんね。寝る子は育つと言いますが、身長にも影響するとは…… 」
「もちろん、親からの流れもあるでしょう。」
「そうですねぇ。しかし身長は男性にとっては死活問題です。」
「でしょ。いくら生真面目君でも、ココを責められたら一溜りもないよね。」
「フフフ、実際ライオネス殿がそうでしょう。」
未だギャイギャイと言い争う父上とライオネス。
ホントそんな姿のまま大人になり、王宮に関わって行けば良かったモノを………
「この国の中枢は、ホント人を歪める所なのでしょうね。と言っても、私どもとて同じ事。権力ある所には、どうしてもなり易い。」
ヤレヤレと首を振り、ため息をつく枢機卿、俺は聞いた。
「選出制だから、澱みは余りないと思っていました。」
「派閥の澱みが濃いのですよ。ですが選ぶのは私どもではなく神ですから、誰も文句は言えません。」
ニッコリと笑う清々しい顔に、いろいろとあるんだろうなぁと俺は思った。
”ホントどこもかしこも大変だ。”
さて未だギャイギャイやっている父上達。
「父上達は大司教を知っているの?」
俺が呆れた様子で聞くと、枢機卿が話す。
「私の中では、とても真面目、信仰深い方の様にお見受けしましたが?」
父上とライオネスは、苦味潰した様な顔で考え込んでいた。
つまりそんな人物ではない。
なんだかんだと学園時代の出来事が、いろいろと絡みがありそうだ。
巡り巡って棚上げしたことが、次世代に降りかかったパターンの様な気がする。
まさかな……… ハハッ……
「後回しにすると、最悪面倒になるんですけどねぇ……… 何事も…」
ボソッと呟く枢機卿。最悪だ………
****************
ライオネスと二人、地下道へ降りていく。
父上と枢機卿は、建国に関して手続きをのんびりとしている様だ。
隣国や帝国など他の国にも連絡を取り合い、タイミングを図る。
「さてココでは、隠し事なくざっくばらんに話すよ。俺が思った事をね。」
ライオネスは、気を引き締めて俺を見た。
「まず最初にライオネスという人物を観察していたんだ。というのも三郎から君に関して報告があってね。それでね、父上から言われたんだろう。俺の側近にどうかと?」
ライオネスは目を伏せて頷いた。だろうなと思っていた。
「だがなぁー、俺はお前を側近にするつもりもない。確かにお前は側近の側近だよ。相手が思う事を察するのが上手い。だけど時には自分の思いを、口にする事も大切だと思う。だがお前は自分の思いを口にする事が出来ない。どうしてかわかるか?というか気づいたか?」
「はい、時々何を言っていいのか頭が真っ白になります。言葉が出なくなる。私は誰かに付いて考える事で、動く人間なのです。」
ライオネスは苦し気な表情で、俯きながら言った。
ある意味今回の旅は、自分を見つめ直す旅になったのだろう。
「そういう風に育てられた。が正しいよな。お前は周りの影響を受け易い。無意識的に知らず知らずのうちに影響を及ぼす。だから判断が曖昧になる。ココでお前自身の意思を乗せないといけない時に、お前は無意識に周りの流れを読み促す、いい事も悪い事も全て。そしてどういう訳か、お前はいつもいつも重大な分岐点の一等席にいるんだ。キーパーソンそのものだ。お前気づいていたか?」
話を聞いていつも思っていた事だった。
コイツは重要な時ほど、必ず存在する。
そして分岐点に立つと、コイツが流れのキーパーソンになるのだ。
主人公たる人物が相談する時、状況の流れに影響されて、その流れに沿おうとする。
主人公の気持ちなど一切考慮しない、もちろん自分の気持ちもない。
だからいい流れならいいが、悪い流れだとこの通り、気がつけば押し流されている。
はっきり言って、道先案内人としては最悪な人物だ。
”本人無自覚なだけに、治らない。”
何処か感情に、虚空な空間が存在しているのだろう。
「言ったよな。俺と賭けをしないかと?」
ライオネスが俺をジッと見ている。
どういう事だと多少警戒しているのだろう。
「まずお前自身の考えを知りたい。父上に俺の側近の打診を受けた。お前はその後どう思った?感じた?」
泣きそうな顔をして、どこか遠くを見る瞳。そして声を震わせて言った。
「受けなければならないと思いました。国の為にも仕方がないと……… 」
「だが今現在、建国をする事は決まった。ライオネスはどうする?」
「わ、私は……… 陛下を殿下を助けたいと思うのです。ですが心のどこかにアセリア領で暮らしたいという思いもある。」
苦悩した顔をするライオネス。
「そりゃあ、領以外の飯は不味いから大変だろうな。」
シンプルに俺が言えば、眉間にシワを入れ「それもありますが……… 」と素直に認めるライオネス。
コイツ本来の性格は、基本的な生活に由来する物に惹かれる人物なのだろう。
「そんな惑うお前だから賭けをする。いいな……… 」
「わかりました。しかし……… 確かにツラいのです。美味しいは正義。ホントにそうですね。」
ため息をつき遠い目をするライオネス。先程までの苦悩はない。
そして俺を見て言った。
「確かに私は、キーパーソンだったのでしょう。ありとあらゆる場面で、私が無意識に犯した罪です。陛下があの女と婚約という話になった時も、何故がむしゃらに反対しなかったのか……… 」
「ただ楽な方へ流れて行ったんだろう。ドンブラコと……… 」
そう言って話していると、三郎と次郎がやって来る。
「クリス、ライオネスと話し終わった?」
「ああ、大体はな。」
「それじゃあ、僕クリスを四郎の所へ連れて行くよ。地下道つながっているんだ♪」
そういえば、砦に来るように言っていたな。
「それじゃあ、賭けの内容はライオネスお前だけに留める様に。後日手紙で知らせる。」
俺はそう言ってその場を離れ、砦へと向かう。
アノ巨壁を間近で見るのが、実は楽しみだった。
****************
【 ライオネス視点 】
クリスティオ様がワームに乗って、砦に向かった。
私は人化からワームに変わった事よりも、手がある事に驚いた。
ムキムキな腕に……… なんで手があるのだろう?
「ねぇ……… 手は便利だよ。」
次郎様が首を傾げ言われる言葉に、私もそう思うので頷いた。
「手はないと困ります。あると確かに便利です。」
ただこの会話の意味はわからない。
「僕が温泉で言った言葉覚えてる?」
”選択肢は公爵家のモノ”
私は思い出し、次郎様を見る。
「今回かなりの数の魔物達が動いたんだ。このアセリア領を守る為に……… 」
つまり王都はそれだけの魔物の敵になった状態だと………
もう何というか……… 言葉も出なかった。
「クリスは魔物の親玉に会う。」
「魔物の親玉ですか?」
「そう、親玉は美味しいが好きだから。」
「美味しいがですか……… まさか畑を耕していらしゃる?」
「彼は耕していない。別の種族、ゴブリンだ。」
「ゴブリン……… 」
「そう、親玉はグリフィンだ。」
ゴブリンでさえ美味しいの為に、畑を耕しているという事実。
王都の民はそれ以下だと言う事実に、グリフィンの言葉は耳に入らなかった。
ただただ……… 情けなさが身に染みて泣き出すライオネスだった。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




