まさに天国 これこれフィーバー
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
言われた通りに行くと、確かに独特な雰囲気のお店が一軒あった。
「クリス兄なんかごめんね。せっかく聞きに行ってくれたのに」
私が申し訳なくすると、クリス兄は首を振って気にするなと言う。
「俺の聞き込み不足だったよ。取り扱う店がない様に言われてね。逆に違うモノを勧めてくるし、イラっと来たくらいだ。」
「クリスティオ様のイラっとするお姿に、店主も慌てふためいておりました。」(笑)
「そういうハロルドだって、冷笑を浮かべていたじゃないか。女性店員が話しかけても無視して」
「仕事中に不謹慎な方は大っ嫌いですので……… 」
二人の話を聞くと相当ストレスが溜まる状態だったという事かな。
見目のいい者は、いろいろと面倒な状況に巻き込まれる。
私は苦笑を浮かべて、ヒノクニという店の中へ入った。
店の中はお香が焚かれているようで、懐かしい香りが店内に漂い異国情緒な雰囲気を醸し出している。
そして店内を見ると湯飲みや茶わん、更には箸まであるではないか。
あちらこちらに心惹かれる物が、所狭しと置いてある。
「これとこれとこれとこれと……… 」
これこれエンドレスが勃発。
あれもこれもそれもと、クレクレコールだ。
店内奥にいた店主も、ビックリした顔で固まっていた。
怒涛の如く次々と店主の前に積みあがる買う品数。
一角進む毎に、どんどんと積みあがっていく。
おお!!コレは麹菌じゃないのかい。
やったこれは大量買いだよ。
「ハロルド、コレをあるだけ買うと伝えてくれる。それからこの鰹節もあるだけちょうだいと」
「お嬢様、この木は何に使うのですか?廃材ですよね??」
顔を引きつらせて、訳の分からないハロルド。
その隣にはクリス兄が不思議そうに鰹節を両手に持ち、カンカンと叩いて鳴らしている。
「ハロルド、多分これは楽器だ。とてもいい音がするから子供達のお土産じゃないか?」
クリス兄が独自会見でハロルドに言っているが的外れだ。
それにしても高い音がしているから、出来がとてもよくキッチリ乾燥している。
”うんうん、この店は当たりだね。月一で来たいくらいだよ”
手に持っている物は昆布にワカメだ。
その隣にはところてんの原料天草もある。
”全くここは天国じゃないか!ホントに海藻が恋しくて堪らなかったよ”
前世生まれは海の近くだったから、戦争中でも海藻を切らしたことはない。
その隣を物色すれば、貝の乾燥物が目に入る。
でもお目当ての味噌と醤油そして、イリコが見当たらない。
探すのが面倒になり、店主に聞く事にする。
「おじちゃん、味噌と醤油?だしが取れる小魚?調味料とかどこに置いてあるの?」
店主の机の上には私が買う予定の品が所狭しと乗っていて、店主の顔は隠れて見えない。
だから聞きたい事を大きな声ではっきりと聞く。
今まで唖然としていた店主も、ハッとして急いで場所移動した。
私達の顔が見え、頭を下げ今更ながらの「いらっしゃいませ」。
それはそれで生真面目な店主の性格を表している。
「大変申し訳ございません。挨拶も碌にせず、お尋ねのミソンとしょうゆ?ションユの事でしょうか?だしを取る物は、魚やイカがございます。調味料も幾つかございます。すぐに暗室から持って参りますので、少々お待ちくださいませ」
そう言って店主が店の奥へ引っ込んで行った。
「フィル、店主が茫然自失するのも仕方ないぞ。来たと同時にこの勢いは俺でも驚く」
「物欲のないお嬢様と思っておりましたが、思い違いをしておりました。ただホントに欲しい物がなかったんですね。よく判りました。」
「これだけ食材を買うんだ。どんな飯になるか楽しみだな」
「姫巫女、ミミズ殿の求める種を探しているが見当たらない。」
「この食べ物どうですか?」
白ケルピー妹が見せる物は梅干し。
私の心は歓喜に打ち震えていた。
でも漬けられている為、その種は使えないと思う。
”梅の木は欲しいな、そこら辺も聞かないといけないね”
ワクワクしながら待っていると店主がやって来た。
お盆の上の小皿に、だしの素材と調味料が少しずつある。
クリス兄がその中の食材カメの手を、不思議そうに見ている。
「これ何?海の岸壁に張り付いていた記憶がある」
「おお!!このだしは旨いんだよ。身も旨いが食い応えがないけどな」
私も春先から夏場に取れる物で、戦時中はホントごちそうだった思い出がある。
”懐かしいねぇ。これにアオサを入れると美味しい”
「確かめたいから降ろしてくれる?」
抱っこしてくれた黒ケルピーに降ろして貰い、始めに調味料の匂いを嗅ぐ。
「お嬢様、味を見られる前に、私に必ず渡すようにお願いします」
「フィル、ハロルドの話ちゃんとわかった?」
うんうんと頷き、一つ一つ香りを嗅いでいく。
魚醤・醤油・もろみ醬油・味噌・酒・オイスターソースだね。
だしに使う物もきちんと干され、何より均一にされて美しい。
作り手の丁寧な手作業にありがたみを覚える。
昆布だってちゃんと厳選して肉厚だ。
何よりちゃんと商品を管理している店主の信頼関係だろう。
「おじちゃん、これらの商品を定期的に納品お願いしてもいいですか?」
味を見るまでもない。一つ一つがとても丁寧だ。
店主も信用が置けるから、これだけのいい品を扱える。
「フィル味を見なくてもいいのか?」
「うん、品物一つ一つがとても丁寧に作られているもの。それだけで信用できる」
私がニッコリして言うと、店主が頬を染め恥ずかしそうに咳ばらいをした。
なかなかかわいらしいおじさんの様だ。
風魔がだしのスルメを一つ取り口に入れる。
黒ケルピーは酒を手に取り飲んで、舌で唇を舐めた。
白ケルピーの妹は、砂糖を使った物に手を伸ばす。
「姫様、こちらのまぶしなどいかがですか?」
ニッコリ笑って差し出された物は栗のグラッセだ。
とても嬉しくなってクリス兄を見る。
受け取って、半分に割りハロルドに渡す。
”できれば一口で頬張りたかったねぇ”
顔はニコニコしながら、心で泣いて食べられるのを待つ。
「凄く美味しいです。」
ハロルドはホントに美味しかったのだろう。
素なコメントを残し、店主に購入する旨を伝えている。
「お嬢様、どうぞお食べ下さい。物足らないと思うので、購入致しました。馬車の中でお食べ下さい」
ニッコリ笑い私の気持ちを汲んでくれたハロルド。
凄く嬉しいが、そんなにまるわかりな表情だったのかしら?
「ほら食べてごらん。」
クリス兄が残り半分を私の口に放り込む。
久しぶりのグラッセはとても美味しく、懐かしく素朴な味がした。
店主がクリス兄にグラッセを渡している。
「こちらは先程の物に酒を漬け込んで作った物です」
クリス兄が半分ハロルドに渡し、確認して食べる。
「ハロルドどちらが好みだ?」
「私はどちらも美味しく思います。酒が付けてある物は、高級感があるので贈り物にも最適です。つけてない物はとても素朴な味がして、身近な者に贈りたく思います。相手を選びませんし」
「一応父上や母上に土産で買ってみよう。俺も好みだ。ついでにこの酒もお願いしたい。」
白ケルピーの妹が、また違うタイプの砂糖漬けを渡す。
「凄く美味しいですよ。」
どうやら桃の砂糖漬けの様だ。
桃は私の大好物だった。こちらの国には桃がないけど、ヒノクニにはあるみたい。
どうにか種を手に入れたいな、栗の木だって欲しい。
もしかしら、桜の木だってあるかもしれない。
ふと去来する望郷の念に囚われ、桜が散りゆく様が脳裏に浮かぶ。
いつか領で桜並木作って、花見をしたいなぁ。
そんな気持ちに囚われている私を置いて、欲しい物を店主に伝える。
とても忙しそうに店主は持ち帰りの準備をする。
しかし今回の買い物を、一人でこなすのは大変だ。
私も自重せず、いろいろと買い漁った自覚がある。
おかげで机の上は山ッと詰まれ、先程まで店主がいた所も購入予定の品が占領している。
そうこうしていると、両親から連絡が入ったのか、馬車へ戻らなければならない。
「おやきも出来上がり合流したようです。」
白ケルピーの兄は馬車に戻り、馬に戻った様だ。
「なら荷物は俺が持って来てやるよ。先に帰ってろ」
風魔がそう申し出て戻る様に言う。
一応予定の物は購入できたが、種などがまだだった。
「店主、一旦栗のグラッセ?を二種と、お酒を持って帰っていいですか?風魔、後はお任せで大丈夫?出来たらミミズ一家のお願いも出来るかな?」
「ああ、店主が落ち着いたら訊ねてみよう。無理ならあちらに行けばいい事だ」
優しい目線を寄こしほほ笑む風魔。
私が先程どんな気持ちだったか、判っているのだろう。
「ありがとう。お願いね風魔。店主バタバタさせてごめんなさい。また改めて伺うわ。じゃあまたね。グラッセ凄く美味しかった」
「では店主。またな」
「ありがとうございました。こちらこそ手が回らず申し訳ございません。またのご利用お待ちしております。」
そう言って頭を下げる店主。
その姿勢がとても懐かしく好ましい。
ホント今日はとてもいい日で、幸せな時間を過ごしたと思う。
馬車に戻るとケルピーは元の馬に戻り、白ケルピーは馬車に繫ぎ、黒ケルピーはハロルドを乗せ辺りを警戒し前に進む。
「どうだった?お買い物は楽しかったかしら?」
マリアナがほほ笑みながら聞くので、先程頂いた栗のグラッセを渡す。
オスバルドにも酒でつけたタイプのグラッセを渡す。
「アラ、貴方の違うタイプの様ね。」
「半分に割って食べるか?」
「イヤね~、そんな事しないわよ」
そう笑いながら一口で食べるマリアナ。
淑女の食べ方としてはなかなか豪快な食べ方だ。
オスバルドもそんなマリアナを笑いながら見て、一口で頬張る。
二人ともとても幸せそうな顔をして、うんうんと何か納得している。
「これはとても美味だわ。素朴で大好きだわ」
「酒漬けか、なかなかの物だな。酒もあるな。飲むのが楽しみだ♪」
クリス兄が酒を片手に持ち上げて、存在をアピール。
そしてどんな物を買ったか、どういう使い方か話していく。
でもいろいろと動き回っていたから、途中で気を失う様に寝た。
気がつけばベットの上だった。
いろいろと気を張り探し回り、初めて見る物に終始興奮していた。
だから馬車に入った時から、多少眠気はあった。
”でも知らぬ間に寝るほどだったとはね。一部記憶喪失だよ”
今の時間がどれくらいか全くわからない。
室内を見ても風魔がいない。
まだ店の方にいるのだろうか?
”コンコンコン”
「ハイ」
「失礼いたします。」
そう言って入ってくるハロルド。
「お目覚めでしたか。もうそろそろ夕食の時間ですので、準備を致しましょうか」
そう言って、簡単に髪を整え上着を着せる。
「今日のご飯は何かな?ケルピーと風魔は?」
「今日のご飯はいつも通りです。明日からよろしくとガルム料理長が言われていました。ケルピー達も一緒の夕食を頂くようです。風魔様はまた出て行かれ、夕食はいいとの事です」
そういえば、ケルピー達の名前決めなきゃだった。
そうなるとサラマンダーもだよね。
どうしようかな?
ホント名前を考えるのは凄く大変だ。
なのに昼寝をして考える時間が凄く少ない。
”でもないと凄く面倒なのも確かだわ。今日の昼は実際大変だった”
黒ケルピー白ケルピー兄白ケルピー妹って面倒。
ヤレヤレ、頑張って考えようかね。
考える時間は余りにも少ないけどね。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




