作戦ネームは大事。
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
誤字脱字報告ありがとうございます。
凄く助かります。
領の砦に伝達が届いた。
それにより大きな裂け目の橋の手前に、大きな札が立てられた。
「これより5日間アセリア領への入門を禁ずる。」
突然の知らせの札に、待っていた者達は驚く。
橋を渡れば、すぐそこはアセリア領なだけに………
アセリア領関係者らは、大人しくその命に従う。
“何か理由があるのだろう。”
近くにテントを張り、5日間の野宿の準備をし始めた。
アセリア領以外から来た者達は、状況に戸惑い訳がわからない。
そんな者達にアセリア領の兵士が、同じ説明を何度か繰り返した。
これから、とんでもない事が起こるので、大人しくコチラで待機する事。
何が起こっても、騒がずコチラの指示に従う事など……
アセリア領から、食事を提供される事にほとんどの者は、一応安心し指示に従う。
仕方なくテントを張る準備をする者、座り込みそのまま茫然とする者など。
様々な反応があるが、計画通り行動を開始する。
コチラと言われた所で数名の兵士らが縄を張り、簡易的な休憩場所を作っていく。
ついでに辺りの警備と警戒を同時に行う。
大人しく従う者もいれば、そうでない者達もいるからだ。
王都から来た者達が特にそうであった。
「クソ!!こんな所で野宿なんかできるかよ!」
「ふざけんな!冗談じゃねぇ!!」
うっぷんを晴らす様に騒ぎ立て、野宿をする者達の邪魔をする。
王都民の中にも、それを諫めようとする者もいた。
しかし……
「うるせぇ!田舎の領が偉そうにしやがって!俺達は王都民だぞ!!」
そう言って、周りの者達に八つ当たりをするのだった。
中には殴り飛ばした者達もいる。
それでも橋を渡る者はいない。
下には沢山のワームがいるからだ。
だからと言って、モノを投げる事も出来ない。
落ちてワームに当てれば、どうなるか判らない。
どうする事もできない苛立ちが、頭をもたげる。
だからこそ、余計に自尊心が疼き、腹の底から怒りが湧いてくる。
“ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!”
膨れ上がる、渦巻く、どうしようもない残虐性。
そんな似た様な感情を持て余す、王都民や悪意ある者達。
少しずつ少しずつ寄り集まって、怒涛と喧騒のうねりをあげる。
「クソがッ!!今に見てろよ。その内この領は、オレたち王都民の領だ!!」
そう嘯いて喚き散らし、脅しと威嚇を繰り返す。
集団で似たような言葉を吐きながら、従う者達を、特に羽振りの良さそうな者達を狙い始める。
前にはアセリア領の兵士達。
従う者達を守るように、コチラを監視している。
その様がどうしようない苛立ちと殺戮の衝動を増幅させ、怒声を上げて襲い掛かる。
だが守りをする魔物達も動き始めていた。
兵士らが守る者達、アセリア領の民!
目印もちゃんとある。
ガアアアアア!!
喚き散らし襲い掛かる者達の前に、牙を剥き出した魔物が躍りかかる。
「ウワアアアァ?!た、助けてくれー!!」
ゴォアアアアアッ!!
噛みつかれ、振り回される。鋭い爪で引き裂かれ、潰される。
当たりに大量の血が飛び散る。
まるで地獄絵図の様相だ。
立ち止まり茫然と見ていた一人に、飛び散った血が頬に付く。
「ウワァアアア?!に、逃げろぉー!! 」
血のついた男の絶叫に、現実を認識し後ろを振り返る。
すると…… 無数の魔物に取り囲まれていた。
どういう訳か、従った者達は誰も襲われておらず、それどころか食物を貰い戯れていた。
魔物達の対応の差に驚愕し、焦燥感に苛まれる。
そんな惑う者達の前に、天災級のグリフィンが強風を巻き起こし舞い降りた。
「ア?…アアァ?!!……!!」
さらなる最悪な事態に、戦慄する。
呼吸が粗くなり、思う様に身体が動かせない。
無意味に逃走する者は、捕食される。
”逃げたい!逃げ出せない!どうしてこんな事に!!”
無数の魔物達が残虐な本性を現し、ジワジワ距離を詰めた。
「お前達は、王都の民か?」
グリフィンの怜悧な眼差しに怯える。
魔物に尋ねられた事に、頭が付いていかない。
グルルルル………
あちらこちらで魔物の威嚇音が響き渡る。
王都民でない者は、王都民じゃないと言い、許しを請う。
だが悪意ある者は、その場で別の魔物の腹に収まる。
それを見た者達は、身体全身を震えながら静かになった。
彼は王都の貴族より頼まれ、アリセア領へ来た。
騒ぎを起こし、王都から騎士らを呼び寄せるという簡単な仕事のはずだった。
しかし………
「そうか……… 」
眼光の鋭く底の見えない魔物の瞳には、獰猛な捕食者の感情が見え隠れする。
身体中の体温が下がり、戦慄するほどの恐怖が身体を支配する。
ドン!!!ドドドドドドド………………
突然、雷鳴の様な大きな音が轟く。
腹をえぐる様な重低音が、更に続き響き渡る。
ドドドドドドド……… ガラガラ!…ドカーン!!…
足元から畝るような地響きと、地軸を引き裂く様な爆音……
大きな裂け目からは大量のワームが
ゴーゴーと畝の様な鳴音を上げて、天へ天へと立ち昇って行く。
響いていた音が段々と聞こえなくなる。
裂け目に出来上がった、アセリア領を囲む様に聳え立つ巨大な壁。
どす黒く時折蠢めく不気味な壁を、ただ茫然と見つめた。
へたり込む身体に力は入らない。
自分達の置かれた状況も忘れて………
****************
数刻前 地下道
「概要を説明する。王都への警告と差異を認識させる事。そして、あちらが仕掛けた罠と阻害するモノの徹底排除。方法は各自のやり方で対応。作戦のコードネームは『損して得を取れ。』。騎士と兵士関係は五郎。領外の魔物対応は四郎。店舗はクリス・三郎。そして僕はオスバルドのとこで待機。王都対応。」
淡々と説明する次郎。今は地図の上をを指差し、細かく説明している。
皆真剣にうんうんと頷いたり、質問して確認しているが………
「お前らいつもそうじゃないだろう?どうしたんだ?」
大体その場その場の対応で、「どうにかなるさ~♪」と歌っているじゃないか!
「だってコードネームがあるもの、カッコよく決めたい。」
「そう!ビシッと決めなきゃね♪」
「ワクワクするな!!腕が鳴るぜ♪」
「やる気を上げるのに、コードネーム大事。」
力説しているが、そのコードネーム名もどうなんだ?
そんな感じで聞いても、フィルが良く言うからで取り合わない。
俺は顔を引きつらせ、凄く不安になる。
ミミズ達はやる気に満ちているが、この作戦大丈夫か?
それこそ「どうにかなるさ~♪」の心境だった。
ミミズ達はニコニコと笑っている。(三郎除く)
そして次郎は周りを見回して、おもむろに言う。
「とりあえず一郎に連絡入れてる。作戦内容も決まった。」
「それなら僕が入れるよ。他に連絡したい事あるし。」
そう言うと四郎が目を瞑り、念話を送っている。
送り終わったのか、顔に呆れた様な表情をのせた。
「頑張れ~!だって。ホント一郎はご主人様第一主義だもんな。」
肩をすくめて、ヤレヤレと首を振る。
ちょっとブス暮れ顔の次郎。
「今、フィル何してるの?」
皆はウ~ンと言って、目を瞑る。
「ご飯作ってる。研究中…… 」
「遊んでる。木登りやり放題だそうだ。」
オイオイ……
「怪我しない様に伝えてよ?」
全く木登りやり放題する令嬢が何処にいるんだよ!
100歳のばあさんは何処へ行った?!
「きっちり見張ってるそうだよ♪」
「でもクリスは、そういう意味で言ったんじゃないよね?」
三郎が俺を見ながら確認する。
「そうだよ。なるべくお転婆は遠慮してほしい。」
俺がそう言うと、すぐ伝えてくれた。だが………
「とっても楽しそうに笑ってるって。」
俺は諦める事にした。諦めが肝心なんだ。
なんか最近こんな事ばかりだ。
がっくりと肩を落とし俺は言った。
「ほどほどにしてくれ。と伝えて。」
「「「「了解!!」」」」
兵士らに事情説明と、対応は五郎がする。
店外の警備と制圧が目的だ。騎士達と対応する。
検問や砦は、ワームと兵士らが担当。
その周りにいる魔物らに、連絡するのは四郎。
作戦を決行した後、何らかのトラブルを担当する。
もちろん、王都への脅しを込めて……
俺と三郎は店側。どんな奴らがいるのだろう。
「証拠も探すんだよね?」
「そうだろう。損して得だろ。」
「そうだった♪そうだった♪愉しみだなぁ♪」
「偉くご機嫌だな?」
俺が訝し気に聞くと、三郎はニヤリと笑う。
(そう三郎は、ニヤリだけは出来る。)
「そりゃあ!久しぶりの狩りだからね♪滾るな~♪」
ホント王都の奴らは一体何を見てんだろうな。
まあこれで、キッチリ誤認が訂正されるでしょ♪
王都の方々、ご愁傷様w
****************
俺と三郎はのんびりと、麻薬入り香辛料を販売する店へ向かう。
いつもの様に領内は賑やかで、いろんな人に声をかけられた。
それに笑顔で対応し、話をしながらこの日常が変わらない事を願う。
「幸せだね。」
三郎がポツリと言った。
俺は頷いて、周りを見渡す。
「大切な宝物だ。守らなきゃな…… どんな事をしても。」
三郎を見ると、瞳に獰猛な本性が垣間見えた。
「僕たち、この領の人達大好きなんだ。守ってみせるよ♪」
三郎は渾身のニヤリをした。(どこまでもニヤリだけかよ!)
周りには、港の外から届いた品がたくさん並んでいる。
フィルが好きそうな物はないかと、せっかくだからと物色する俺。
三郎もキョロキョロと眺めている。
そうしながらも、足は確実に店に近づいている。
そして………………
警告が鳴り響く。辺りは騒然とし、慌てふためく。
「皆!訓練行動を忘れるな!!」
「慌てず急がずだよ!助け合いね!!」
俺達の大声にハッとする民達。
深呼吸を3回し、落ち着かせている。
そして…… そこからの行動は素晴らしかった。
目を真剣な物に変え、迅速に行動を開始する。
火元がないか、まず確認する民。
皆が助け合い、声をかけ合いながら避難している。
「凄いね!クリス♪皆カッコいいね!!」
「そうだな。凄いな…… 俺は誇らしいよ。」
日頃の訓練の賜物だろうけど、凄く嬉しく思う。
大丈夫だ。この領はこんなにも凄い。
さっきまでたくさんいた人々は………
四半刻で誰もいなくなった。
「クリス……… 」
イヤ、………多少いるな。
領民が声をかけ、従わなかった者達だ。
大層大きな声で怒鳴り散らしている。
「ほっとこう。五郎と騎士達が対応するだろう。」
「そうだった♪」
ギャーギャーと騒ぎ、喚き散らす声は遠退く。
ーそして作戦は開始された。
ドドドドドドドドド………
下から重低音が響き渡り、振動が足にも伝わっていく。
「振動が足に気持ち悪い…… 」
不機嫌そうに呟く三郎。
砦の方角を見ると、巨大などす黒い不気味な壁が、聳え立っている。
「スゲーなぁ!!」
俺は素直に絶賛した。あれだけ高く聳え立つ壁は見た事がない。
船の上の船員達も、その光景に絶句し騒ぎ立てる。
「うんうん♪インパクトパーフェクト!!」
「ヨシヨシ♪出だしはオッケーだ!!」
次は四郎。どうするんだろうな?
「クリス、店の前に着いたよ。」
「だな。では俺達も作戦を開始しましょうか。」
「うん♪コードネーム『損して得取れ』を開始する。」
馬鹿げた作戦ネームを告げると………
ザワリ………
辺りがじわじわと騒ぎ始める。
トントン……
「ごめんくださ~い♪」
****************
【 次郎視点 】
作戦コードネーム「損して得取れ』の詳細を説明する為、僕はオスバルドの所へ行く。
執務室に入れば、相変わらず書類の束が積み上がり、探している人物は埋もれていた。
「相変わらず凄い量。」
二人掛けソファーには、マリアナとマリリンがお茶をしている。
ロバートは書類の仕分け作業を、隣の席に座って頑張っていた。
「いろいろと問題が起こっているんです。手伝ってください。」
「次郎、一緒にお茶しましょ。」
「何かやるのかい?さっきから変な動きがあるね。」
マリリンはわかるだろう。地面仲間だもの。
「次郎、今日は相手できないぞ、国から離反する話を各所に通達している最中ですな。」
ロバートは疲れた様子、ため息をつき書類の束を見る。
「何度も何度も似た様な文書を見る羽目に…… クリスティオ様、出来ればもう少し待って頂きたかった。」
見るのもウンザリだという風に、書類を投げ捨てるロバート。
オスバルドも机に突っ伏し動かない。
「全く仕方ない方たちね。フフ…」
「クリスも考えがあっての事さ。その理由を次郎は知っているんだろう?」
コチラに目を向ける、マリリン。王都の話をする。
でも差し当たり、目的の話を伝えよう。大事。
「建国関連で、今日あのお店を潰す事にした。だから警告音が領内に鳴り響く。」
「「ブーーー……ツツ?!」」
ガチャン……
「なるほどね。」
オスバルド達は目を剝いて、僕を見る。
「王太后が狙われた事で、状況にいろいろ齟齬が出始めていた。だからその差異を無くす。作戦ネームは『損して得取れ』。一郎以外動いてる。」
「フ、フィルちゃんが良く使う言葉ね。素晴らしいわ。」
「さすがマリアナ、よく分かってる。」
さすがご主人様のお母さんだ。
作戦ネームの良さが、わかってくれて嬉しい。
「そういう訳じゃないと思うけどね。」
マリリンは何故か呆れた顔をしている。
どうしてだろう?
とにかく今から起こる事を説明する。
これが僕の今回の役目。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




