混迷状態の王都
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
たくさんの方に読んで頂き嬉しく思います。
ガクブル状態ですが、頑張りたいと思います。
ホントにありがとうございます。
後、誤字脱字報告ありがとうございます。
【 ライオネス視点 】
殿下はとても静かに眠っている。
もう謝りと許しを求める言葉を呟く事はなくなった。
ときおり静かに涙を流される事はあるが、ただそれだけだ。
表情はとても穏やかで静かだった。
「ライオネス殿、寝られましたか?」
「ああ、温泉に入ったよ。外にある風呂は趣があっていいモノだね。」
「そうですね。私もこんなにいいモノかと思いました。それだけ治安がいいのでしょう。」
「穏やかで満ち足りているね、この領は。」
私は朝の光差し込む、窓の外の景色を眺める。
何処までも拡がる澄み渡る空は、王都の方まで拡がっているだろう。
「羨ましい限りです。余りにも王都とは違います。」
アレクのため息交じりの言葉が、ジワリと心を蝕む。
この領に来てつくづく思い知らされる。
人の営みとは、本来こう在るべきなのだろう。
王都はさながら、魔物の住処ではないだろうか?
「帰るのがとてもツラくなりますね。いろいろとホントに……… 」
王都から来た我々は、知らず知らずのうちに公爵領から罰を受けているのだ。
****************
目の前にはアリセア公爵と子息クリスティオ様、そして家令ロバートがいた。
今いるのは公爵の執務室、完全なプライベートエリアだ。
「きたな…… ライオネス」
「お待たせして申し訳ございません。」
私は頭を下げ公爵家の方々を観察する。
当主席に座る公爵オスバルドと、後ろに待機しているロバート。
フッと王都にいる陛下の顔が頭に浮かんで消えていく。
”まるで陛下と私の様だ……… ”
ため息を付きそうになり、思わず唇をきつく結んだ。
クリスティオ様は一人掛けソファーに座り、頬杖を付きそんな私を見ていた。
「適当に座ってくれ、ライオネス。早急に片づけたいのでな。今から情報のすり合わせをしようと思う。前の記憶も一緒にな。」
公爵は淡々と今後やる事を告げ、私を見て情報を求めた。
私は頷き王宮側の情報、殿下の話から伝えた。
「まずは、殿下は王妃は害悪で元凶だと言われました。また王妃は魔術を使える様です。」
殿下が特に重要視し、警戒していた王妃の事を伝える。
そして王妃が魔術を使えた事に公爵も驚いた。
「それはホントなのか?」
「殿下が目撃しています。アリセア領に来た目的の一つは、王宮から届いた手紙を確認する為です。あってはならない事ですが、王印偽造の疑いがあるのです。」
告げた内容の重さがツラい。今すぐなかったコトにしたい……
公爵達も愕然とした表情をしている。
「どういう事だ?王印を偽造されるなどあり得ない。アレには偽造防止の魔法と契約が結ばれている。」
「そうなのですが、実際使うところを殿下は見られています。」
「まさか……… 」
あり得ない事が起こると、その現実から目を逸らしたくなる。
だが逸らすには起こった事がデカ過ぎた。
「まだ調査中です。この件が発覚したのも、婚約打診に使者が向かった事からです。」
「その手紙には、ちゃんと王印はあったはずだ……… 」
「旦那様、王宮からの手紙を持って参ります。」
「……… ああ、よろしく頼む。」
公爵は眉間にシワを寄せ、難しそうな顔をしている。
私は何も言えず黙るほかない。
そんな中クリスティオ様が口を開いた。
「ただでさえこの国は、諸外国に嫌われているのに…… 偽王印なんてどうするつもり?信用どころか滅亡危機だよね?」
諸外国の対応に追われているうちに、更に状況が悪化していた事は確かだった。
原因がコレの可能性があっても、我が国はどうする事もできない。
調査は難航していて、解決の道すじが視えないのだ。
「偽王印の疑いが出た時から動いていましたが、次々と問題が起こり、後手に回っておりました。今も事態を収拾しようと努めている状態です。」
お二方に白い目で見られながら、申し訳ない顔でそう告げる他なかった。
公爵はため息をついた。クリスティオ様は呆れた表情で私を見ている。
「その事も関係しているのだろう。コチラの現状を伝えると、諸外国から直接輸出の打診が来ている。理由は言わずもがなだ。うちの領もいろいろ被害に遭っている分、領内は建国の気運が高まっている。私達もそちらに傾いている。支援国も複数存在しているんだよ。」
「だいたい王都の対応の悪さは壊滅的だよ。かどわかす・脅す・騙し取るって最悪じゃない。商売にならないんだ。ボランティア活動じゃないんだからね。相好利益の関係なのにわかってんのかねw」
何を言えばいいのか………
フィラメント様の商品のおかげで、多少国の信用回復になっていた。
それがなくなると、こちらはかなりイタい事になるだろう。
それに王都民の質の悪さには、いろいろと気づかされた。 今回私達も領に向かいながら、対処し辟易したのだ。
「私達もその件は気になったので、移動しながらトラブル対応をしてまいりました。王宮へ戻り次第、早急に対処したいと思います。それから、王都の商業ギルドには商売の正当な対処を迫る事にします。そして建国に関しまして、もう少し待って頂けないでしょうか?どうかお願い致します。」
私は頭を下げて、頼み込む。
カチャ………
「旦那様、持って参りました。」
ロバートが、王都から届いた手紙を持ってきた。
公爵はそれを確認すると私を見た。
「いったん保留にし、手紙を先に片付けよう。王印があるとないで仕分け、片っ端から確認するのだ。全てはそれから考える事にしよう。」
公爵がそう切り上げると、作業を開始した。
「ライオネス殿、偽装確認の魔道具設置をお願いします。」
「直ぐ準備します。コチラのテーブルを使っても?」
「使いなよ。僕も手伝おう。サッサと済ませたい。」
皆で総出で確認をする。
面倒で厄介な作業だが、王妃の悪行の突破口ではあるのだ。
それでも状況は最悪なまま、救いは何処にもなかった。
「さて中の文字もかなり似せて、かなり巧妙なモノだな。」
「一番古くても、ここ半年です。」
「下位の貴族には、頻繫に送ってんじゃないの?」
偽王印の押された手紙を数枚読むと、
”諸外国の輸入品の開拓を推し進める事……… ”
”教会の要請に従う事”
”我が国の魔術発展の為貢献されたし………”
”アリセア領の土地は魔術研究の為、その土地の寄贈されたし”
「こんなモノに王印を使うとは……… 」
手紙の内容は予測でき、覚悟していた。
だが実際にその内容を目にすれば、呆れ返って言葉も出ない。
「こんな感じの手紙を諸外国に送るとか凄いね。人間性疑っちゃうよ。」
クリスティオ様が馬鹿にした様に笑っている。
諸外国の手紙もどのような内容かこの目で確認したい。
そして謝罪して回り、この様な手紙を全て破棄してしまいたい。
「ライオネス、この件はキリがない。対応するには無意味だ。」
「しかしこれは陛下のお立場に関わります。こんな馬鹿げた手紙を、陛下が出した事になるなど、我慢できません!!」
私は怒りのあまり身体が震わせた。
一体何を考えているのか?ふざけるにもほどがある。
まともな思考をした者ならば、如何に馬鹿げているかわかるはずだ。
「だが今更だろう。あの女は昔からそうだった。違うか?」
学生時代のあの頃………
いつも遠くから眺め、直接行動するような女性ではなかった。
ただ、困った顔をしながらお願いし、庇護欲をそそる様にしていた。
高位出身の者は、そういう輩を見抜く目は養われている。
だから適当に距離を取り対応し、関わらない様に努めていた。
なのに訳の判らない状況へと一変する。
こういう時特権階級とは面倒なモノだ。
全く違うのに、体面と体勢を整えなければならないのだから………
「あの女をどうにかする事には私達も賛成しているよ。確かにアレは禍の元でしかない。」
ウンザリした公爵の顔に、私は思わず学生時代の自分に戻った。
「私もアレに関わるのはウンザリです。もう目の端にも入れたくない程…… 」
私が少し気安い感じで告げれば、オスバルドもニヤリと笑い「だろうな」と、無音で呟いた。
「でもいろいろと不思議だよね?偽王印の謎・王妃の魔術・そして人間掌握の巧さ。なんか違うんだよな~。そこまでの人物に思えないからさ。それに何故か凄く曖昧な存在に感じるのは、俺だけかな?」
クリスティオ様が首を傾げ考え込む。
王妃に関してはわからない。
だがその謎はホントに問題だった。
そして言われて気づく違和感、曖昧とは一体?
それは公爵も同じらしく、机を見つめて考えていた。
クリスティオ様は、王妃が曖昧な存在に感じるという。
だが私や公爵には、何処までも自分勝手な強欲な女でしかなかった。
****************
………時は昨晩に戻る。
パシャン………
のんびりと温泉に浸かり、何も考えず空を眺めた。
外に設えた風呂は、自然の風が火照った身体に心地良い。
ただゆったりと何も考えない。イヤ考えたくない。
夜の星は瞬いて、遠くで人の賑わう声がする。
こんなに外は暗いのに、裸で風呂に入っている今の自分。
「本当にアリセア領は安全なんですね。魔物の脅威の心配もいらない。」
余りにも違う王都とアリセア領。
この現実を知らず、この領を侮り馬鹿にする王都貴族達。
「私達は一体何を見ていたのでしょうか。」
この現実の差をどの様に伝えればいいのか?
一体いつの間にこれ程の差を付けられていたのか?
他人だったなら力量の差だと簡単に片づけられるのに………
”陛下……… ”
心の中でソッと呟き考える。
あの魔窟の様な王宮で、今も一人戦っておられるのだろうかと………
パッシャン………
近くで水の音がした。
人がいる事も気づかず、独り言を呟いていた自分を恥じる。
「人がいるとは思わず…… 」
お詫びを言おうと、音のする方へ振り向けば………
先程見た黒髪と赤い瞳の麗美な男性。
ただ先程長かった髪が、とても短くスッキリとしていた。
「何?僕は次郎だよ。」
その男性は突然、自分の名を淡々と告げる。
「………?次郎様ですか?」
名に何か意味があるのだろうか?
私はその意味がよく解らず戸惑った。
「貴族は名がとても重要で大切なんじゃないの?」
やはり淡々とした物言いで、質問に疑問で返す次郎という名の魔物。
確かに名は、とても取り扱いがデリケートなモノだ。
それを魔物に諭され、更に今の現状に違和感が拭えない。
「さっきは三郎。ここにいるのは次郎だ。」
そう言えばワームは5体。
つまりこの様な人物が後3体はいるという。
「申し訳ございません……… 」
「別にいいよ。気にしていないし……… 」
のんびりと返事を返す次郎様に戸惑い口を噤む。
チャポン………
それ以上何も語らず、ゆったり湯に浸る次郎様。
私もそれに倣い、ただ湯に浸り静かにしていた。
時折聞こえる虫の鳴き声と葉のざわめき。
そして遠くでは、楽しそうな人の声が聞こえる。
どれくらい、そうしていたのだろう……
「さて…… 僕がここにいる理由を言うね。」
二郎様は私を見て、唐突に話し出す。
「君は選択を迫られた。」
「ハイ… 」
「だがその選択肢は公爵家のモノだ。」
私をヒタリと見つめる赤い魔物の瞳に深淵を見る。
「ただそれだけ、伝えたかったんだ。」
そう告げると次郎様は、風呂から立ち上がり出て行った。
温かな湯に入っているはずなのに、何故かとても寒く思えた。
魂の底から………
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




