不在の一週間
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
ここから主人公以外の人物視点で話が進みます。
読みヅライかと思いますが、よろしくお願いします。
(._.)ぺこり
【 ライオネス視点 】
先程の喧騒がウソの様にこの部屋は静かだ。
あれからどれくらい経ったのか………
殿下は事切れる様に気を失い、今だ目を覚まさない。
時折聞こえる呟きの声は、謝りと懺悔の言葉だった。
どうしてこれほどの苦しみを背負わなければならない?
殿下は確かに悪い事をした。
だからこそ悔い改め行動されていた。
なのにその時間を、割いてくれる事はない。
これ程後悔し苦しもうと、それ以上の苦痛を与える世界。
哀しかった。どうしようなく悔しく、そして苦しい。
なぜなら私達は、公爵家に同様の苦痛を与え犠牲にし殺した。
更には娘を幼少の頃から取り上げ、奴隷のように扱い苦しめ、死んだ事さえ気づかない。
「ライオネス…… ノックをしたけど返事ないから、勝手に入らせて貰うわ」
アリセア夫人が寝台横の灯りのボタンを押した。
仄かな光が心を和ませる。
「殿下を心配する気持ちはわかるわ。でも今はどうする事もできないの。それに貴方まで倒れたら迷惑よ。わかるわよね?」
「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。……… 」
私は静かに頭を下げ謝る。
夫人の冷たい言葉が、今現在の状況を物語る。
「主人が貴方を呼んでいるの。こちらは他の者に任せなさい」
そう言うと夫人は踵を返し、部屋を出て行った。
その対応で公爵家全ての、思いが突き付けられる。
「殿下……… 」
自分の思いや考えを、公爵家に伝える事は叶わなかった。
もし私が聞いていなければ、一体どうなっていたのだろう。
世界とはかくも残酷で無慈悲なモノだったのか?
この方の想いや願いを全て否定する。
この方はただ彼女を守りたいという想いそれだけだった。
「殿下、しばし席を離れます。今はどうぞごゆっくりお休みください。後の事は私が責任持って致しましょう。」
私は静かに頭を下げた。
私はドアの前に待機していた、アレクとマリオットに殿下をお願いする。
アレクとマリオットは何か言いたげな様子だったが、何も言わず私を見送った。
****************
突然の横から聴こえる呻き声に、私は頭が真っ白になる。
ただでさえ緊迫した状況、いつ殺されてもおかしくない状態。
それ程の確執が公爵家との間に横たわっているそんな中で、殿下が身体を抱え蹲る。
思わず公爵家からの攻撃かと思い睨めば、唖然とし驚いた表情のお三方がいた。
「とにかく寝かせよう!!」
「違うよ!ライオネス、殿下を抱き締めた方がいい!!」
「な、なぜですか?!」
「わからないよ!でも何となく!!」
部屋にいる皆が慌てふためき、意味のない言葉を言い合い対処する。
夫人は急いで外にいる使用人を呼び、指示を出す。
急激に体温が下がって行く、息遣いの粗さと汗の量が尋常じゃない。
必死に何かに堪える様に歯を食いしばり、苦し気な声はときおり漏れる。
双方の目に宿る力強い眼差しは、壮年の大人のモノだ。
その眼差しが私を捕らえると、懐の手紙を押し付け眼差しで乞われる。
「殿下………?!」
その行動すべてが、今起こっている事を物語る。
殿下に今起こっている事は、私など到底力の及ばない何か。
殿下の瞳に宿る哀しみ・後悔・懺悔・そしてどうしよもうない程の切愛。
時々漏れ聞こえる謝りと許しの言葉が、私の魂を何度も突き刺す。
バタバタと付き従った騎士がやって来る。
屋敷の使用人達は殿下の様子に驚き、浮足立った状態で指示に従っている。
それなのに私は、殿下を抱きしめただ祈るばかりだった。
”どうか殿下をお助け下さい。神よ、どうか…… ”
殿下は、そんな私の腕を振り切る様に離れ頭を抱え………
「ああああああああ!!!」
この世の全てを絶望し無くした様な悲痛の叫び……
その後は事切れる様に、殿下は気を失った。
****************
使用人の後をついて行くと、庭のデッキがあるスペースに案内される。
そこには公爵のお三方以外に、黒髪と赤い目の美麗な男と鮮やかな紅い髪の妖艶な女性。
そして幾分か若い白髪の双子兄妹が待っていた。
皆は和やかな様子で席についている。
テーブルの上には、今まで見た事もない料理が並んでいる。
「ライオネス殿、腹が空いただろう?これから話す事は重要な事だから、ある程度食べるといい。」
公爵はそう言って食事を始めた。
他の皆もいろんな思いを抱えているのだろう。
時折私の様子をうかがい観察している。
”針の筵だな。美味いとわかるのに、味がしない…… ”
人生でこれほど舌が馬鹿になった事はないだろう。
食事が早く終わって欲しいと密かに願う。
ある程度食事が進むと、おもむろに公爵が口を開いた。
「まずはコチラの者達を紹介しよう。三郎殿、マリリン、そして大河に泉。ワーム、サラマンダー、ケルピーの者達だ。娘フィラメントの従魔となる。」
紹介された者達は私を見て、ニヤリと笑う。
人化する魔物……… その事実に恐怖を覚えた。
「そしてこの方達はいろいろと規格外でな。殿下の状態もそれが理由だ。遅くとも2・3日後には目覚めるだろう。」
「今回の事は~、こちらの都合で起こった事なんです~♪」
「そうそう!殿下と姫ちゃんの縁をチョキンと切ったんだ♪」
ニコニコと笑顔で告げるケルピーだと言われる双子の兄妹。
だがその内容は、縁を切ったという在り得ない事柄だった。
「執着が酷くてね。面倒になりそうだし、彼女もそう望んだからね」
「死んでも執着するとか、さすがに問題じゃない?」
茫然とする私に、更なる容赦のない言葉。
私は殿下のお立場を思い、恐怖心を叱咤して弁明する。
「執着などではございません。ただ殿下はフィラメント様を守りたいという想いだけです。」
だが従魔達の言葉は追撃の様に降り注いだ。
「だからそれが執着だって言ってるの。わかる?」
「その想いの根底は何ですか?無償の提供ではないですよね?」
「人間は欲深いからね。どこかに欲が潜んでいるモノさ」
「とにかくご主人様はいらないのさ。その想い全てが!」
殿下の想いは従魔達に悉く否定される。
今起こっている事が、とても悔しくて哀しかった。
「僕たち従魔は、ご主人様と繋がっているんだ。この意味わかるかな?」
「あんた達があの子にして来た事は、体感としてまざまざとわかるのさ。話程度じゃない体感だよ。」
「ホント困っちゃうよねー。僕達魔物がこんなの感じちゃったらさー♪」
「壊したくなっちゃいますよねー。王都♪」
フィラメント様の記憶を体感として、理解していると言う従魔達。
そんな者達に、一体何が言えるだろうか。
殿下のお気持ち全てを否定され、更には王都も危うい。
私は己の力量のなさに愕然とする。
どうする事もできないのか!何かないのか?!
ここで引く訳にはいかない。
諦める訳にはいかない。
「申し訳ない事をしたとホントに思っているのです。全ては私が怠った事が原因です。どうかどうかお願いです。私の全てを命さえも差し上げます。ですからどうか話だけでも聞いてください。お願い致します。」
私は必死に頭を下げ、頼み込むしかなかった。
それくらいしかもう、手立てがなかったのだ。
ただ聞いて欲しい、それがダメなら……
せめて手紙だけでも、フィラメント様に渡したい。
それができなければ、陛下と王都が守れない。
私という人間は、所詮その程度なのだ。
嫌悪したはずの、前世の私と同じ様な行動をしている。
だからこそ自分が情けなく、殿下に只々申し訳なかった。
「それじゃあライオネス殿、貴方にお聞きしたい。殿下より話は伺っているのだね?」
「ハイ、殿下より前世の話を伺っています。」
私がそう言うと、従魔達とクリスティオ様がクスクスと笑う。
「そう…… でもフィラメントにとっては、前々世の出来事なのよね。」
夫人は困った表情で仰った。
だが私はその内容の意味がわからない。
「つまりだ。殿下が死ぬまでフィルは別の人生を歩んでいたという事さ。結婚して子供も産んで、孫も出来た。とても幸せな人生を過ごしたんだ。それなのに!死んだらまたクソみたいな人生に舞い戻るって…… アンタ解るか?この意味を?!どんな気持ちだ?人を何だと思ってるんだ!!」
クリスティオ様の語られたフィラメント様の現状に愕然とする。
知らず知らずのうちに、更なる大罪を犯した殿下。
”何という罪深い事をされたのですか…… ”
何度目になるのだろう……
私は頭を下げる事しか本当にできない……
もう…… 魂が張り裂けてしまいそうだ。
****************
「ライオネス殿、大丈夫ですか?」
どうやって殿下のいる部屋に、戻って来たのかわからない。
ただどうする事もできない現実に、頭をかかえ考えるしかできない。
聞かされる話の内容は、どれも戦慄するモノばかり………
現状の打開策のなさに、途方に暮れる。
「失礼を承知で伺います。話し合いは決裂でしょうか?」
アレクとマリオットの向ける、静かな双方の瞳を眺め首を振る。
そんな私を訝しげな表情で見る二人。
「情けないが敵前逃亡だよ。話し合いにもならない。もうなにもかも調査されていた。」
私はため息を付き、殿下の寝ているベットへ近づいた。
「殿下は相変わらず、涙を流されていました」
「そっか……… 」
私は返事をしながら、哀しくてやりきれない思いでいっぱいだ。
どうしてこんな事になってしまったのか。
殿下の思いも、フィラメント様の状態も解る。
それだけに余りにも哀しく罪深い。
「私達には話せませんか?」
アレクが苦し気な様子で私に聞いて来る。
それはマリオットも同じらしく、哀し気な目線を私に寄越す。
私は口を開きかけ、話す事を躊躇う。
"殿下もこんな気持ちだったのですか?"
それに気付けば、自分の裏切り行為に胸を抉られる。
「私達は信用なりませんか?殿下を護りながら考えていました。国の現状も聞いています。実際この場が正念場なのでしょう。一体今何が起こっているのですか?」
「大事な事なのでしょう。私達も国に命を捧げた騎士です。殿下の剣になりたいとも思っています。どうか教えて下さい。私達も殿下の力になりたい。」
部屋から出て行く前の私は、もうどこにもいない。
私は懺悔の思いで、全ての話をするのだった。
もう私の出来る事は、何一つ残されていないのだから………
私は殿下の前世の話をし、フィラメント様の話をする。
二人の騎士は蒼白顔だった。(但し前々世は言えない)
話を進めていくうちに、事の重大さもわかって来る。
そして国の行く末と未来の暗雲たるぶ厚さに………
だが一番の問題はそれじゃない。
「神の介入ですか……… 」
そう、殿下は神の邪魔をしていた。
神の思惑とは違う反対の方向へ向かわせる。
それにより今回の出来事が起こる。
”神の御手”
それは起こるべくして起こったのだ。
「殿下はどうなってしまったのでしょう?」
従魔達の話では、フィラメント様の記憶一切を失うという。
だがその事が殿下に、どう影響を及ぼすのかは未知数なのである。
「とにかく医療特区へ移送される事になった。あちらの方が治癒師もいるからね。」
いつまでもこの屋敷にいるなという事だろう。
私としてもこの屋敷にいるのはツラすぎる。
とにかく居心地がいろいろと悪過ぎるのだった。
****************
「ところで私達は君達に殺されたそうだね?」
公爵が静かな声で私に聞いて来る。
「先程の様に、私達を国の為に切り捨てたんだね。」
私はただ頭を垂れるしかなかった。
「ホントどうしようもない人。信用できなくってよ」
夫人の言う事も反論出来ない。
殿下の信頼をある意味裏切ったのだ。前世から………
「君達だけで、これの対処はできるものかな?」
クリスティオ様が見せたのは、殿下が見つけた麻薬入りの香辛料……
つまり公爵家もそちらについては、もう動いていた。
”殿下……… 私達にはもう成すべき事はございません。”
私はただただ頭を垂れる事しか出来ない。
選択を迫る事など、コチラには初めから出来なかったのだ。
逆に選択を迫られたのは私だ。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




