私は生きる
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
誤字脱字報告ありがとうございます。
昨日はのんびり温泉に入り、ゆったりとした時間を過ごす。
今までいろんな事でバタバタし、精神面ではピリピリしていた。
いくら気にしない大丈夫と思っても、記憶というモノは厄介だ。
どうしたって怯えるし、警戒する。
またあの当時の様にならないか?
またあの頃の様な思いをさせられないか?
それほど魂に刻まれた疵は、そう簡単に治せない。
神でさえ別の世界に飛ばし、治療させるほどの疵だ。
でも縁を繋げ続けた者の記憶は失われ消えた。
”相当ストレスだったんだ。ヤツが私の記憶を消した事で、これ程気楽になるなんて”
今ヤツがどの様に変わっても関係ない。
これからヤツがどうするのか、どう動くのか興味ない。
関わる事は、もうないのだから………
「今日は何をどうする?」
風魔がくつろぎ本来の姿でダラ~ンとしている。
海流は水辺周辺を散策に出かけた。
「そうだね。のんびりと日本食でも作ろうか。一郎が山芋を手に入れたんだよ。」
他にもタラの芽・フキ・蕨とか、いろいろな食材を見つけた。
「日本食とは凄いな。そんな雑草が飯のタネになるとはな」
「そうだろう。まるで宝探しの様な気分だよ♪」
「まさにそうだな♪そんな顔をしていた(笑)」
昨日一郎以外のミミズ達は屋敷に一時帰宅する。
そして長期滞在用に、調味料や米、小豆と大豆などいろいろと持参した。
お陰で日本食を作り放題、ここでいろいろと試作したいと思う。
「たぶん山菜は変わらないと思うけど、一応試食した方がいいだろう?」
「まあな…… のんびりいろいろ試して食わせてくれ。俺達にとってはラッキーだ」
水辺に置いた山菜を取りに外へ出る。
風魔も一緒に外へ出ると、日の当たる場所で日向ぼっこする。
海流も本来の姿で水辺でくつろいでいた。
どうやら散歩は終了し、戻って来ている。
「姫巫女お早う。辺り周辺は穏やかなモノだ。今度一緒に散歩でもどうだろう?」
ブルルンと鼻を鳴らし、こちら向かって歩いて来る。
とっても立派な黒馬の威風堂々とした姿に思わず見惚れてしまう。
「朝の早駆けは楽しいだろうね。と言っても私、馬には乗れないよ?」
「ちゃんと安全面を考慮するが、本来の姿をお望みか?」
「もう少し大きくなってからがいいかな?」
「では手を繋ぎ、ゆっくりと散歩する事にしよう」
そう言うと人型の姿になり、山菜を持ち上げた。
「今日はコレを朝ご飯にするのか?」
「海流は食べた事あるの?」
馬型の魔物だから聞いてみると、
「馬と違い肉も食べるからな。コレはまだ食べた事がないな(笑)」
「ごめん、考えが足りなかった。馬と一緒にしたらイヤだよね?」
「気にするな。似た様なモノだ。それより泉と大河は水の社に戻っている。」
「マリリンも戻ったんだよね。屋敷にはまだヤツがいるの?」
あのままこちらに滞在する事になった理由は、ヤツが屋敷に滞在しているからだ。
縁切りした反動で、気を失い意識を戻すのに数日掛かるという。
「イヤ屋敷ではなく、医療特化地区へ移送された。あちらの方が最適だろう?意識を取り戻しても、体調を崩して入院と言えばいい。」
なるほど……… お付きの人達も温泉を楽しみ、のんびり出来ていいだろう。
何だかんだと、王都から領地までは長旅だからね。
「温泉で癒され、身体の調子も整える。ついでに旨い飯もある。アイツら王都へ戻れるのか?」
海流が私を見て言うけれど、それに返答できると思う?
「ある意味罰だな。これから大変だぞ、ヤツらはw」
風魔がゆったりと人型で歩いて来る。
「アレ?日向ぼっこ終了??」
「腹が減った。飯はまだか?」
図体のデカいワイルド系が首を傾げて、ご飯を強請る。
”オイオイ、可愛いか?!急いで作らなきゃ!!”
「すぐ作るわ!待ってて!!」
ドピュンっと家へ戻り、ご飯を大量に作る為に仕込み始める。
後ろでは、海流と風魔が何かを話し合っていた。
始めに大量のご飯を仕込まなきゃならない。
米は大量だと重たいから、一郎の頭に鍋を乗せ量っていく。
”それじゃコレを海流達の所へ持って行くね。お水で洗ってと、お願いして来るよ。たぶんお魚釣りでもしてるのかな♪”
「よろしくね。さて次は何をしようかな?」
お味噌汁作りと、和え物でしょ。
それに塩漬けにしたお肉があったから、山芋と一緒に蒸すのもいいね。
ココはホントに異世界かというほど、日本家屋に似せた建物だ。
せっせと朝食を仕込み、日本食の香りを楽しむ。
ここまで来るのに、ホントいろんな事をして来た。
不味い野菜に四苦八苦して、いつもひもじい思いに腹を抱えた。
チマチマ肥料づくりに時間を費やし、いつの間にやら仲間も増えた。
更には手助けしてくれる従魔達。
そこから一気に、望郷日本の景色が見えてくる。
「ホント長かったけど、思ったほどではなかったな。ありがたい事だ。」
何だかんだとあっという間に、ここまで来る事が出来た。
トントンとリズミカルに包丁を使い、山菜を切って和えゴマを振る。
その横では沸かした湯にせいろを乗せセットする。
中には塩漬けした肉と山芋、そしてキノコや山菜が入っている。
味噌汁は、最後の仕上げにざく切りした山菜を散らす。
入り口を見ると風魔と海流が戻って来た。
囲炉裏に刺すだけの状態にした魚を置き、海流が塩を貰いにやって来る。
「結構釣れたね!凄いじゃないか♪」
「なかなかのものだった。風魔が5匹、俺は6匹釣れた」ニヤリ
「1匹の差か!勝者には塩漬けの肉を多めに一枚足そうかね(笑)」
「ありがたい。嬉しいな♪」
「クソ!次は負けねー」
今日はなにかと可愛い姿を見せる風魔。
ほのぼのとして何とも平穏でいいモノだ。
風魔にも頑張りま賞で少し小さめの肉を足す。
囲炉裏には味付けした魚が刺され、香ばしく焼かれる匂いが漂い出した。
今日も素敵で楽しい一日になりそうだ。
****************
最終的にはのんびりと一週間近く過ごす。
お陰様でたくさんの日本食を再現する事が出来た。
それ以外でも薬草などを使いお茶を作ったり、乾物作りに勤しむ。
また家の周りを散策し、泳いで魚を掴んだり、いろんな遊びをした。
今世は子供らしく、遊びを楽しむ時間を過ごしている。
「そろそろヤツも出立する頃だろう。どうする?後ろ姿でも覗き見るか??」
風魔が私を見て聞いて来る。
「遠慮するよ。今世逢う事があるなら、それは偶然だ。」
そう…… 出逢い縁が生まれるのは、全てその時の状況と偶然の産物。
コチラから彼らに接触する事はない。
もう縁も所縁もない人達だ。
私は生まれ変わったのだ。
全てが新しく生まれ変わった。
「ここでゆっくり出来て良かったよ。気持ちも頭も整理が出来た。これからは後ろ振り向かず、ズンズンと前へ進むよ♪ひ孫が言っていた、異世界でトーチをする為に!!」
フンと鼻息荒く宣言する私に、風魔が申し訳なさそうな顔で言う。
「ア~~… それを言うならチートじゃないか?トーチは松明の事らしいぞ」
「ああ、チートだ。ズルという意味らしい。」
”神様、今爆笑中だよね~♪”
「無理に若者語は、使わない方がいい」
何だって?!チートだと!!
恥ずかしい…… カルラに訂正しないといけない。
まさか使ってないわよね?!
震える体で顔を赤らめ、キッと空を見つめて言った。
「やっぱり神様は意地悪だわ。黙っとけばいいじゃない!!」
そんな私に爆笑する従魔達。
そんな出来事もまた楽しいと思う私だった。
「さあ、領地に帰ろう!美味しい日本食を携えて♪」
「ああそうだな。わが家へ帰ろう」
「楽しみにしてるぞ、ご両親は」
”いろいろと大変だった様だよ。ご褒美♪ご褒美♪”
今回は地下道ではなく風魔と共に空を駆ける。
一郎は小さくなり、海流に乗っている。
「海流も空を駆けれるんだ!凄いね!!」
「泉と大河はまだ無理だが、もう少し進化すれば可能だろう」
”僕も空を駆けたいな。進化したらできるかな?”
「そりゃわからん。それこそ神に聞いて見ろ」
「確かにチートより重要だ(笑)」
まだ言っているの?忘れておくれよ……
だいたい教えなければわからない事じゃないか!
もっと大切な事があるだろうに、神も気まぐれになんで教えるかな。
”教えて欲しいけど、だんまりだなぁ~”
そうこうしているうちに、屋敷の屋根が見えて来た。
「アレはヤツらの移動集団だな。偉くグズグズと進むもんだ」
「仕方ないよ。旨い料理は身に沁みる」
後ろ髪を引かれるように旅路に着く一行を眺め、心の中でソッと呟く。
”さようなら。ドリアス殿下”
ここから私は、ホントに生まれ変わり生きていく。
その夜フィーが作って見せた日本料理は、疲れた身体にしみじみと染み入るモノだった。
素材その物を生かし、一つ一つ丁寧に仕上げられ、見た目も味も追従を許さない。
木の素材で出来たお重という名の三段箱に、彩りよく詰められ豪華だった。
フタを開けた瞬間は、目を楽しませ心を躍らせる。
ミソンを使った味噌汁も、じわりと身体を和ませた。
この時出された料理は、ホントの意味でご馳走料理だった。
「もうホントに美味しいって幸せね。私フィルちゃんのお母さんで良かったわ」
「それを言うなら、フィル私の娘に生まれてくれてありがとう。ホントに美味しいよ」
「俺も!ありがとうな、フィル。素晴らしい妹がいて嬉しいよ!」
家族皆に言われた言葉に、何とも言えない気持ちになった。
同じ苦労をするなら、この方がいい。
労われ、喜ばれる気持ちがとても嬉しいと思う。
これからもずっといろんな事に挑戦し、いろんな困難や苦労があるだろう。
だけど今世は、一人で孤独にするのではなく、助け合い支え合い、協力しながら成し遂げていく。
「私も皆と家族で嬉しいよ。ホントありがとう。これからもよろしくね♪」
まだまだやる事は沢山あるのだ♪
****************
手には二つの手紙がある。
縁を切った時、必死な様子で渡したという。
どうやら今世のドリアス殿下は、物事に慎重で洞察力があるのだろう。
可愛らしい手紙を開き読めば、年相応な想いと気持ちが綴られ、君を尊敬しているよ。頑張ってという内容の手紙。
そしてもう一つは………
「相変わらずこのレターセットをお使いになるのかしら。」
シンプルな白の透かし柄が入った手紙。
これは私が初めて、自主的にプレゼントした品だった。
なかなか会話も合う事もままならず、すれ違いばかりで当時は寂しく思ったものだ。
だからせめて手紙を書き、返事の手紙を期待した。
そんな密かな思いを込めて贈ったレターセット。
「まさか今世で貰えるとは思わなかったわ」
周りにその手紙を使い送られるのに、私には一つも届かない。
いつもいつもそのレターセットを使われ、私には送る価値もないと言われている様だった。
そんな思い出の手紙を読んでいく。
そこに綴られていたのは、前々世のドリアス殿下の想い。
まず初めにお詫び挨拶、そして後悔と懺悔の想い。
どんな事でも、君が望むなら叶えると結ばれていた。
死んで侘びてもいいのだと……
それから、王妃を警戒して欲しいという言葉。
それ以外にもいろいろと書かれてはいたが………
「今更じゃない……… 」
そう全く今更なのだ。
もう彼に記憶はない。この想いも消えて亡くなった。
他人は私を酷いと言うだろうか?
彼に会いお詫びの一つでも聞いて、許してやれと?
確かにもう100歳も生きた婆さんだ。
それぐらいの度量や経験だってあるかもしれない。
「だけどね。人間酷く傷つけられたら、なかなか忘れられないもんさね。」
会えばやはり思い出し、傷ついた疵はパックリと開く。
精神だって怯え怖れ、逃げたくて堪らなくなる。
どんなに離れていても、関係する事柄だけでストレスが溜まっていく。
そんな状態で生きていくのは、余りにもツラく憂鬱な事になるだろう。
「それに彼だってそうさ。どんな想いでも忘れた方がいい事もある。」
彼がどんな想いで償おうとしても、私はその想いが心底恐ろしい。
もう関わりたくない。顔も見たくない。
彼の中の自分を、全て消し去りたい。
そこまでしないと、全然安心出来ない。
「ごめんなさい、ドリアス殿下。私は私を生かしたいの」
もう前々世の悪夢に、悩まされる事はないだろう。
王妃は王妃でいつか裁かれるのだから………
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)
 




