前前世9 【 ドリアス視点 】
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
幾つかの香辛料のブレンドを買ったライオネスが戻った後、怪しまれない様に宿へ戻る。
そして護衛騎士に匂いを嗅いで貰った。
「どうだ?コレには何が入っているか判るか?」
クンクンと嗅ぎ考え込む騎士の様子を見ながら、鑑定を使える騎士が来るのを待つ。
「殿下、率直にお伺いします。一体何をお探しなのでしょうか?」
真っ直ぐ目を向け私を見る護衛騎士。
「君の名前は何というの?」
「アレク・グリウッドです。グリウッド男爵家の三男です。」
「アレクこれは極秘だ。父上、陛下もまだ知らない事だ。この重大性わかるかな?」
頷き私を見る護衛騎士アレクに、多少の話をする事にした。
「詳しくはまだ話せないけれど、かなり困った事が起こっているんだ。そしてこの香辛料にも、僅かな嫌疑の可能性がある」
「でしょうね。私ども獣人が嫌う香りが僅かに致します。香辛料で判り難くありますが間違いないかと……… 」
「ライオネスに鑑定のできる騎士を呼びに行って貰っている」
かなり眉間のシワが刻まれ考え込むアレク。
「これは別に公爵家とは関係ないんだ。逆に陥れの部類だね」
「でしょうねぇ。好調な公爵家がする意味がありません。それに関係者がコチラの側ですし……… 」
ため息をついて天井を眺めている。
現実逃避ってヤツかな?
まぁいろいろ考えを整理したいよね。
ノックの音が聞こえ返事をすると、護衛騎士がドアの方へ向かい慎重な態度で確認を取る。
「殿下、鑑定を使える騎士を連れて参りました。」
「そっか、一応確認してくれ。黒だと判断はついているが鑑定で判りそうか?」
「種類はジクテリアです。精神系に作用するモノで、戦場などに使われていたとか……… 」
ライオネスが鑑定騎士を促し、買って来た香辛料を見て貰う。
慎重に一つ一つ確認していく騎士。
「どうだ?わかったか?」
鑑定をした騎士はため息をついて、目の上を揉みながら言った。
「間違いございません。確かにジクテリアです。ただ問題はそのジクテリアの産地が我が国である事ですね」
「それならどこで栽培されているか判ります。王都の教会です。いつも秋ごろ花粉が飛んで来るので、獣人の血がある者はうんざりしているのです」
「その件を教会側に伝えたのか?」
「ハイお伝えしました。その時言われた事は、特殊な治療に使う薬草なので、監視付で栽培しているというものでした。」
「殿下、これで神官とスラム街の者達が繋がりましたね」
「そうだな。スラムの者は王都へ持ち帰り、麻薬は神官がという訳だ」
「最近市井の者達が暴れまわるのも、コレが原因でしょうか?」
「それなら最近貴族の方々が横柄過ぎる事も、関係あるのではないか?」
少しずつ王都を浸食しているのだろう。
依存して、そこから更に根深く深みに嵌めていく。
人の心の隙間に入り込むのがホントに上手い。
母上は前世同様に、己が思うがままに欲を撒き散らす。
自分がいなくなった後、母上は一体どうなったのか?
「この件は内密にして欲しい。これに関しては慎重に対応しないと、我が国は滅亡だ。」
「そうですね。これがわが国だけに留まっていればいいのですが……… 」
ライオネスの危惧した呟きにゾッとする。
前世でもその辺りはまったく関知していなかった。
”ヤバいなこれは…… "
「とにかくよろしく頼む。アレクは引き続き内密に調べてくれ。コッソリとな。そして……… 」
「マリオットと申します、殿下」
鑑定を行った騎士が名を告げる。
「巻き込んですまない、マリオット」
「いいえ、お気になさらないでください。私の方でもコッソリとですね」
「ああ、お願いするよ」
最悪の想定を上回る出来事にうんざりする。
明日また港に向かい、外航していないか確認しないといけない。
"公爵じゃないけど、あの店秘密裏に始末したいよ"
二人の騎士は頭を下げ退室した。
「殿下……… 」
「最悪だな。全く…… 」
ため息しか出ないとはこの事だ。
母上はなぜそこまで欲深くいられるのか?
人を貶めてまで、平気でいられるその精神が凄い。
イヤ……… 前世の私もそうだったじゃないか。
その状態が慣れてしまえば、誰だって平気になれる。
前世では誰もがそうだった。
上位の者が愚かで残虐だと、国民だってそうなるのだ。
「王都が心配です。陛下は大丈夫でしょうか?」
「速達で獣人の騎士を配置する様にお願いしよう。食事には特に気をつける様にと…… 」
「そうですね。しかし前世でもこの様な状況だったのですか?」
「どうだろう?もうどうしようもない状況だったと思うよ。国全体が母上の様な有様だからね」
そういう中でも、コツコツと仕事をしたまともな者達。
陛下が殺され、フィーも死んでいた時、一体彼らは何を考え思ったのか……
夜は迷走状態のまま更けて、朝を迎える。
****************
次の日の朝、公爵家から連絡が来る。
遂に会談をする時が来たのだ。
屋敷に着くと、公爵とその家族が出迎えた。
そして………
”フィーはいない。それに公爵達の目を見ると………”
どうやら前世の所業を知っている。
ならフィーがいるはずもない。
”ホントに私は罪深い男だ”
全て身から出た錆であった。
ライオネスもその状況に気づいた。
部屋には私とライオネスのみ。
二人だけで会談に臨む事となる。
「公爵会ってくれてありがとう」
「一生会いたくありませんでした」
子息から痛烈な言葉が飛んで来る。
それに対して何も言わない公爵と夫人。
「フィー、フィラメント嬢から話は聞いているのだろう?」
「そうですな。おかげで死んでしまいたい程の後悔に苛まれました。」
「私共は一体何をしていたのでしょう?親失格ですわ」
「フィルは私達の名前さえ知らなかった。貴方方はどれだけフィルを縛り付けていた?」
公爵達の言葉を聞く度に、ジクジクと痛む懺悔の思い。
貴方方は亡くなったから、どうする事も出来なかったのだ!と言ってしまいたい。
国が貴方方を殺し、親の権限を奪い取り、更には罠へ貶めた。
そして………
”子息は帝国に渡り仇を討ったんだ”
憎しみに染った目で私を見つめ、地下の坑道へと落したクリスティオ・フィラメントル卿。
今あの頃よりも若い姿で、私の目の前にいる。
私は謝る以外何が出来るだろう……
「申し訳ありませんでした。全て私の行いが招いた事です。申し訳ありません。ホントに申し訳ありません。顔を見たくないと思われる事もごもっともです。ですがどうかお願いです。どうしてもお伝えしたい事があるのです。どうか話だけでも聞いて貰えないでしょうか?」
私は頭を下げ公爵達にお願いをする。
図々しい事は判っている。
ライオネスも一緒に頭を下げお願いする。
前世の話を聞いている分、頭を下げる事に迷いがない。
「前世の話は私も伺いました。私にも責任の一旦がございます。誠に申し訳ございません。」
ごめんなさい、ライオネス。
自分の気持ちのまま、素直に行動を起こせばよかった。
こんな後悔ばかりの想いを抱えている私は愚かだ。
そして公爵達もあれほどの状況にならなかった。
私がフィーと仲が良かったら、あんな事は起こらない。
そして突然それは起こる。
私を構成する何かが綻ぶ様な、消えていく様な、何とも言えない感覚に襲れる。
今迄考えていた事、思っていた事が指先からすり抜ける様に消えていく?
違う?!コレは…… フィー…だけ …が……
永い地下の坑道では姿を忘れ、声を忘れていった。
だが今度は………
急激にフィーとの想い出や感情が、苦痛を伴い消え始めていく。
「あ、あぁぁ…… 」
「殿下、どうされましたか?!」
胸を掴み抑えて、少しでも消えない様に歯を食いしばって抗う。
滂沱の涙は後から後から流れて、悲痛な叫びが口の端から洩れる。
でもそんな事意味がないのだという様に、どんどんと消えて逝く、想いと記憶。
哀しかった。どうしようもない後悔が胸を埋め尽くし消えて逝く。
もしもの時に考えた手紙を、ライオネスに2枚必死な思いで託す。
今の自分の精一杯の思いを綴った手紙。
フィーにはありがた迷惑だろう。
だけどフィーにどうしても伝えたかった。
そしてどうしても今度こそ君を守りたいと思った事を………
痛みも意識も朧げになっていく。
身近な想いの記憶は滲んで、朧げになり消えて逝く。
すれ違い知らないふりをし、いつしか君の悲しみや苦しみに気づこうともしない。
今思えば何故あの時、素直に行動しなかったのだろうと後悔ばかりだ。
君の事をいつも欠かさずホントは想っていた。
何故正直に自分の気持ちを、伝えなかったのだろう。
今世の君は、自由気ままに渡り歩いて行く。
君の未来に私はもう存在しない。
そして私は今一人ここにいて、もう二度と前世の君を思い出せなくなる。
段々と消えて逝く、君と過ごした数少ない想い出。
碌でも無い想い出でも、君と過ごした日々は愛おしい。
だけど、想い出す事を許されない。
君はそれほど私を憎み、拒んでいる。
私がここにいる事は、君にとって苦痛なのだろう。
それだけの事を、前世私はしていたのだ。
こんなに求めていたのに、私は何もかも遅すぎた。
流す涙に何の意味があるのだろう。
もう二度と君を想い出せない。
もうあの頃の自分の想いは、君に届かず消えて逝く。
全てはもうあの時終わったのだ言う様に……
分かっていたんだ。
だけど、ずっとずっと君だけを愛していた。
最後の想いの欠片が消えさる時、私は魂の底から泣き叫び声を上げた。
私はそのまま、身体から力が抜けるように気を失う。
心にはポッカリと空いた穴。
心の虚空を埋めていたのは誰なんだ。
君が誰なのか知りたい。
私は一体誰をずっと思い続けていたんだろう。
なんとなく虚しく感じる心の奥を、寂しさと後悔で埋め尽くされていた。
たぶんこれは前世私が犯した罪の証。
夢を見ていた。
真っ暗な暗闇で私は、涙を流し砕け散った何かの残骸を必死に拾い集めている。
謝りながら、許しを請いながら、震える指先で大切に大切に一粒一粒。
手は最後の時のように汚れ、傷だらけになっていた。
それでも必死に見失わない様に、なくさない様に拾い集める。
それは光り輝いて、そこから浮かんだ想いは………
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




