前前世7 【 ドリアス視点 】
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
あれからいろんな話をする中で、ライオネスは言う。
「殿下も辛く苦しかったでしょう。貴方様も孤独で寂しく、報われない人生だったのです。そんな人生を選択させたのは、傍にいた私達大人のせいでしょう。殿下、あなた一人の罪ではございません。」
涙が頬を静かに流れ、罪悪感で苛まれる魂に沁み込む。
孤独で地下深く坑道で一人死んで逝った。
そんな私も少しは報われてもいいのだろうか……
だがライオネスには、別にやって貰いたい事があった。
「ありがとう、ライオネス。でもその罪は私一人で背負うつもりだ。ライオネスには別にやって貰いたい事がある。それがさっきの手紙なんだよ。」
ライオネスにもう一度先程の手紙を見せる。
「その手紙には、一体どのような事が書かれているのですか?」
「この手紙は私が前世、よく好んで使っていた手紙なんだ。もしフィーが前世持ちなら、この手紙を添えて渡して欲しい。そしてもう一つの手紙には、私がフィーを尊敬しているという事を書いている。それにもし記憶を持っていたら、私に会う事なく避けるだろう。それに公爵もご存じなら、私を捨て置いて欲しい。私一人で事足りるならいいだろう。私は二度と国が滅亡する姿を見たくないんだ。」
しっかりとライオネスの目を見てお願いをした。
今起こっている現状は、なによりも恐ろしい可能性を示唆している。
わかるだろう、ライオネス。
もし公爵が知っていた場合、迷わず建国へ舵を切るはずだ。
そうすれば確実にフィーは守られる。
「しかし殿下一人がそこまで背負う必要もないでしょう!今の殿下は子供で、原因は王妃ではないですか!」
「でもフィーはそれを判らない。知らないかもしれない。フィーに直接命令していたのは私だ。母上の願いもだいたい私を経由してがほとんどだ。だが母上はそれ以外にフィーになにやらやらせていた事を知ったのは最後辺りだ。とにかくフィーが母上をどこまで理解しているか疑問がある。」
だからこそ知って用心して欲しいと思った。
母上が魔術を使える事さえ今世で初めて知ったのだ。
あれだけ緩々とした風なのに全く知らず、父上やライオネスさえも知らなかった。
「ですがもしそうなった場合、どんな要求が来るのかわかりません」
「それだけの行いを私は前世でしたのだ。出来れば今度こそ大切にし幸せにしてあげたかった。でもそれは無理だろう。全ては私自身のせいだし、どうしても償いたいのだ」
「殿下……… 」
私のどこにも行き場のない想いや願いを、ライオネスだけには伝えてもいいだろうか?
今だけ私のホントの気持ちを吐き出してしまいたかった、
「ライオネス、前世の私のまた違った話を聞いてくれる?恋バナって奴なんだけど……」
たぶん顔は真っ赤で、情けない顔をしているだろう。
だけどライオネスにだけは伝えたかった。
前世立ち去るライオネスに縋り付けず、途方に暮れた自分。
「いいですよ。前世殿下のコイバナですね。酒の肴に伺いましょう。食事をこの部屋に持って来るよう手配します」
窓の外を見るとすごく真っ暗だった。
先程見た時は太陽が少しずつ沈んでいたのに、話し込んでいるうちに時間が経っていた様である。
宿の明かりは魔石で賄っているらしく、暗くなると明かりが灯る仕組みの様だ。
”凄いな。宿でこれほどの魔道具を使っているとは…… ”
王宮の者達は田舎者だと蔑んでいるが、コチラの方が最先端の技術を保有し使いこなしいる。
”現状を見るととんでもない事になっているぞ”
侮ればどれほど危険か予想がつかない。
「殿下お待たせしました。ああ、その魔道具は公爵家のクリスティオ様が考案されたものだそうです。今では各家庭に一台配布され喜ばれているとか、ここは山の外れでありませんが、人通りが多い道には街灯が設置されてるそうですよ。」
ホントにアリセア領は、恐ろしい速度でドンドンと発展している。
そのうち停滞している王都とは比べモノにならない程、凄い領へと変貌するだろう。
部屋には美味しそうな料理が並べられていく。
宿の者が料理の説明をし、その時渡されたメニュー?というカードを眺める。
そこにはどのような料理かわかり易く説明され、食べる楽しみが増す。
「これはいいですね。一目でわかり易く、心憎いモノです。演出として素晴らしく、取り入れたいですね(笑)」
「そうだな。どれがどの料理かとついつい見比べてしまうよ。期待感が高まるね」
「私はカボチャが苦手なのですが、チーズと和えてあるサラダの様です。苦手と好物のハーモニーですか。気合が入りますね」
「ライオネス子供か?!私はそれよりも何故ピーマンに肉を詰めたんだ?嫌がらせか!それもピーマンがまるッと器になりやがって、偉く肥え太ったムカつくピーマンだぞ」
「殿下、それピーマンではなく、パプリカだそうです。」
「色がハデか緑かの違いだろう。妙に肉厚で主張してまるで私の様だ。私はこの試練を受け入れよう」
「さすが精神年齢が私より上ですね。尊敬します」
「ライオネス、お前なかなか言う様になったな」
「子ども扱いをするのも妙な気分でして……… 申し訳ございません」
「別にいいが、ライオネス食べるぞ。たぶん大丈夫なはずだ」
ライオネスと見合わせナイフに切れ込みを入れると、ジュワーと肉汁があふれ出る。
それを見て思わずヨダレが垂れそうになり、ごっくりと生唾を飲み込む。
「殿下、これは案外あれですよ。アレ!」
「ライオネス、お前ホントに私の扱い雑になってないか?」
「とにかくですね。これは凄い事です。私この手のカンは外れないのです」
「今まで見ていたライオネスはどこに行ったんだよ。」
「今は出張中です。食べましょう殿下」
そう言って早々に食べ、目を見開き高速で嚙み合わせているライオネス。
表情を見るに、旨くて食べているのだろう。
とても嬉々として幸せそうな顔をしている。
つまりこのパプリカは旨いという事だ。
「うまっ?!! 」
信じられない!相変わらずこの領の野菜は、苦味も渋みもなくこの野菜に甘みを感じるとは?!
「私初めて悟りました。野菜はやはり不可欠です。肉にパプリカがなかったら、これ程の感動はありませんでした。私は今心の底から感動しています」
涙を流しとんでもない事になっているライオネス。
この様な状態のライオネスに話す事に多少迷いが生じる私だった。
最終的には話す事にしたんだけれど………
「私はいつも冷たい態度で接していた。周りが話す言葉を信じて、フィーを叱咤していた。どうして周りと巧く交流できないんだとか言ってね。でも周りが排除しようとしているのだから、意味がない話だよ。周りもどう思っていたんだろうね、馬鹿みたいだろう。鉱山で黙々と掘り起こしながら、どうすれば良かったのかと考えていたんだ。いつもいつも巻き戻せるなら、やり直したいとも思っていた。だからこんな事になったのかな?」
「さあ……… ただとても不思議な事ではありますね」
気持ちを切り替え、とにかく私がいかにフィーに惹かれ愛していたのかを話す。
周りに気づかれない様にホントは気にかけていた事も含めて………
****************
今更素直になれるはずもなく、でもどうにかしなくてはともどかしい想いは持っていた。
フィーは知らないけれど、私達はいつも同じベッドで欠かさず寝ていた。
何故フィーが気付かず、知らないのか?
それはフィーをいつも部屋へ抱いて戻していたのは私だからだ。
フィーは使用人の誰かが寝かせているとでも思っているだろう。
執務室に行くと、フィーが疲れて果て机で寝ているんだ。
せめてゆっくり寝て欲しくて、それが私の楽しみでもあったんだよ。
隣で眉間のシワが寄った時とか、少しでも安らぐように子供にする背中トントンをする事もある。
してあげるとニコーとして笑うフィーの顔がとても可愛いいんだ。
夜は私が熟睡しているフィーをベットに寝かせ、朝はフィーより早く起き遠出するのが日課だった。
何故遠出するのかというと、そこに私とフィーの子供の墓があるからなんだ。
フィーは知らないけれど、私が流れた子供をそこに埋葬した。
欲しかったんだ。子供が出来たらフィーも楽になり、幸せになるだろうと思っていた。
子供が流れる度に、その墓につける予定の名前を私は刻み込むんだ。
居なくても確かにいた証だし、忘れたら可哀想だろう。
フィーは、不健康な状態で子など育てる身体じゃなくなっていた。
ボロボロの疲れ果てた身体を、私は彼女を気持ちのままに抱いた。
周りはいつもフィーに仕事を回そうとする。
だから私が抱く時には、ゆっくり何日か休ませる事を強硬したんだ。
それがフィーにとっていい事かわからないけれど、そうでもしないと誰もフィーを気にしないんだ。
そんな状態でも私は真実に目を背けて、自分の都合のいい部分だけを意識し日常を送った。
最後の時は私も忙しくて、久しぶりの王宮に戻ったんだ。
するとフィーはとんでもない状態になっていた。
身体は痩せ細り、高熱を出して机に突っ伏していた。
「机の上はたくさんの書類があるし、とにかく急いで医師に見せたら絶対安静だと言われた。でもその日の予定は隣国へ食糧援助の交渉があったんだ。母上がフィーの領を治める様になって、覿面に食料自給率が格段に下がり、国としても見過ごせない状況になっていたんだ。」
フィーの伝手で隣国が支援を名乗り出てくれ、フィーも一緒に外交へ向かいたかった。
だけど身体を壊したフィーは連れてはいけない。
母上にフィーの代行をお願いし、休ませるようにお願いした。
「でも母上はフィーの療養を取り上げ働かせた。そしてフィーは亡くなっていた。」
「陛下も王妃がでしたか……… 」
「そうだ。だから母上は全ての害悪だと言っているんだ」
ホントどうしようもない男なんだ。
一番の元凶に、自分の大切な者を預ける浅はかさ、腸が煮えくり返るようだ。
「ハァ……殿下、とりあえず言いたい事いろいろとありますが、何故フィラメント様に仰らなかったんですか。それこそ子供の墓標は貴方とフィラメント様お二人で参られるべきでしょう。」
「フィーの凄く嘆き悲しむ姿を見たくなかったんだ。墓標にはそれまで流れて逝った子供らの名が刻まれている。それにその人数を認識したらフィーは壊れてしまうよ。墓は私がフィーの分までしっかり管理していた。フィーにあれ以上心労の負担は大変だろう。私は判らない様に最低限守らなければと思っていたんだ。今思えば馬鹿な事をと思う。周りの目を気にせず、愛しい者を最大限に守り庇護するべきだった。私はホントにどうしようもない程愚かな者なんだ」
「貴方だって哀しかったんでしょう。そんな時ほど二人で慰め合い励まし合い、やり直せばよかったんです。そうなる様に仕向けた周りの者が憎いです。だからこそ私は私が許せない。貴方も犠牲者です。王妃が貴方を歪めてしまった。正しい事を教えなかった。人を信じる人に、人を信用しないやり方を教えるなんて!最後に孤独の中で死ぬ、それも一国の王が奴隷に堕とされるなど……… 貴方はどれほどの苦しみの中にいたのですか」
ライオネスが、前世の私の為に泣いている事が嬉しいなんて言ったら怒られるかな。
でもホントにどうしもない程、考えが足らず、不器用で残念な男だったんだ。
「だからね。私の願いを叶えて欲しいんだ。もしも何かがあった時は後の事を頼むよ。私は前世の過ちを償うつもりでいるんだ。でも同時に国を存続させる事も、また私の願いなんだ。」
ライオネスに頭を下げる。
ライオネスがイエスの返事が帰るまでは上げるつもりはない。
「わかりました。それが殿下の願いなら私も全力を持って叶えます。ただしそこには独自判断で行動をさせていただきますので、ご容赦くださいませ。」
「うん、もちろん任せるよ。よかった。私はかなり肩の荷が下りたよ。ライオネス」
「それならようございました。ただ状況は一段と厳しくなったと思います」
「うん、ごめんなさい。私はそれほど罪深い男なんだ……… 」
前世を思い出すと、いい事も苦しい事も走馬灯のように蘇る。
そして色褪せ擦り切れそうな程朧げなフィーの声と面影。
もうどれ程離れているのだろう………
「殿下もう遅いですし疲れたでしょう。明日はフィラメント様の領を堪能致しましょう」
「そうだね。私はとても楽しみだよ」
ライオネスにニッコリと笑い、窓の外を眺める。
確かにこちらは山側だから辺りは真っ暗だが、うっすらと空が明るい所がある。
「殿下、アチラ側がフィラメント様がいらっしゃる側です。」
フィーのいる場所辺りは、温泉や医療特化の地区近くにあるらしく、夜遅くまで賑わっているそうだ。
「同行した騎士達も今頃あちらで、数名温泉を堪能しているでしょう」
そっか……… フィーはあの明るい方にいるんだね。
まるで、今世の私とフィーの状況を表している様な景色だ。
フィーにとって私は疫病神そのモノだろう。
凍えてしまいそうな魂が、フィーを求めている。
今すぐフィーに逢いたい。
逢いたくて、恋しくて、どうしようもなく求める想い。
でもフィーは、疎ましく憎く恨んでいるかもしれない。
それでも彼女の中にどんなカタチでも私がいるのなら嬉しいと思った。
「お休みなさいませ、殿下。いい夢を……… 」
「うん、お休みライオネス」
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




