前々世6 【 ドリアス視点 】
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
人とは驚き過ぎると、それぞれそれなりの反応をする。
私も食べ物で腰を抜かすとは思わなかった。
今、護衛騎士に抱かれ領内を移動している情けない姿だ。
”フィーには絶対見られたくないな”
周りを気にしながらも、せっかくなら領を見て回りたいと思った。
恥ずかしいが、歩けないから仕方ない。
「領民たちはみな楽しそうですね。とても幸せで満ち足りた表情です」
ライオネスは嬉しげに目を細めほほ笑んでいる。
道を走り回る子供ら、道の端で井戸端会議をしている女性達。
皆が笑い合い楽しげな様子は、旅で荒んだ精神を癒す。
「殿下あれを見てください」
抱き上げている騎士が指差す方向を見る。
そこには綺麗な池と川があり、独特な形の木で作られた門らしきものがある。
子供達がワーワーと騒ぎ遊んでいる様だ。
広場らしき所には身体を動かす遊具があり、男の子達がそれを使って一生懸命遊んでいる様だ。
「あの綱をどちらが速く登るか競争しているようですね」
結構な高さから下がっている綱を、器用に上っている子供達。
綱を繋げた部分の印に触り、グループでどちらが速いか競い合っている。
「綱を登るのは結構難しく大変なのです。」
「サルみたいにスルスル登って行くな」
他の騎士達も感心した面持ちで子供達を眺めている。
他にも木の板の中心に支えを作り、その端に座ってお互いの体重で上下運動をする乗り物。
縄で吊り下げられた木の板に座り、揺らしながら遊ぶ物。
他にもいろんな木枠で作られた建造物を子供達が昇ったり、下りたり。
いろいろな動きをして楽しんでいた。
あの建造物からの眺めもなかなか良さそうである。
「殿下、行ってみませんか?」
私を出しにお前達遊ぶつもりじゃないだろうな?
というか、私は行きたくないので首を振り嫌だと示す。
「私とライオネス殿がお共します」
だから私はまだ、腰が怪しく遊べそうにないんだ。
”それに私ぐらいの子達がいる所で、抱かれた姿など恥ではないか!”
ジロリとライオネスと抱き上げている騎士を睨みつける。
ライオネスはわかっていて、含み笑いをしとても楽し気だ。
「明日行けるなら行こう。今日は無理だ。まだ歩けそうにない」
恥を捨て言う私を、まだ駄目なのかと見る騎士達。
「お前達脳筋と一緒にするな!こっちは王子だぞ。いろいろと繊細なんだ。」
ブスくれた様に言うと、ライオネスと騎士達はクスクスと忍び笑う。
バレバレなのに一応隠れて笑う紳士な皆の姿に、何とも言えない気持ちになった。
****************
宿に着き一人部屋で休んでいた。
窓からフィーの住む領地を眺める。
この領地の何処かにフィーがいる。
そう思うだけで満たされ、寂しいという気持ちが癒される。
どうしようもない自分に唯一残った宝となった思いは。
太陽が少しずつ地平線に、ゆっくりゆっくりと沈んで行く。
戻った当初は君とまた一緒になり、今度こそ君を幸せにしたいと願い想った。
もう叶う事はない。
後ろを振り返り机を見る。
心の中にまだ迷う気持ちがあるけれど、もしもの準備はしておいた方がいいだろう。
バックから可愛らしいレターセットと、前世の私がよく使用したレターセットを取り出す。
可愛らしいレターには、フィーの偉業に対する賛美と敬愛の念を込めて年相応な文章で書く。
そしてもう一通のレターには、前世私の行いに対する謝罪と懺悔の気持ちを綴る。
今更私の想いを知っても、フィーには迷惑なだけだろう。
だけど君にも前世の記憶がもしあったなら、今世で君は私と関わる事を厭うだろう。
だから今世で私は、君を害する事はない事を伝えたかった。
君が望むならどんな事でも、それこそ死を望むなら死んでもいいと………
私は君の願いを何でも必ず聞き叶えると綴る。
そして同時に王妃についても伝え教える。
フィーは王妃の事を、私ほど理解していないと思う。
人に対して、興味があまりなかった様に思うからだ。
どこまで理解しているかもわからない。
それに他に意識が向かうほど、暇がなく仕事に明け暮れていた。
「フー……… 」
一つため息をつき、手紙を封じて自分の印を押す。
この手紙がフィーの手に届く事を願いながら、手紙をジッと意味もなく見つめる。
ホントは自分の想いを綴りたい。
どれほど君を想っていたか、君との間に子供がホントに欲しかった事を。
大切にしたかった。ヒドイ事を言いながらホントは自分自身もどこかで傷ついていた。
それに気づく事も判らない程、心は凍り付いて麻痺していた事を。
裏腹な自分自身が一番滑稽で馬鹿みたいに思っていたんだ。
前世を思い出す。
糞みたいな王宮の者達に、媚びる様に気を使い笑う日々。
その片隅で必死に仕事を這いずる様にする者達。
そしてそんな者達を馬鹿にする、糞みたいな王宮貴族。
有能な者達を評価せず、無能な者が謳歌する国。
滅亡して当たり前なのだと今更ながらに思う。
部屋のドアの前にいる護衛騎士にライオネスを呼んで貰う。
明日は領内を見て回る予定だそうだ。
フィーのいる屋敷には、まだ伝令を飛ばしていない。
公爵と交渉する前に、領内の情報を少しでも手に入れたいのだろう。
私自身も領地をゆっくり見て回り、フィーの事をいろいろ聞きたいと思う。
「殿下、お呼びとの事ですが……… 」
「うん、忙しい時にごめん。実は伝えたい事とお願いしたい事があるんだ」
私は座る様にお願いして、座ったライオネスに先程したためた手紙をテーブルに置く。
「この手紙はどなたに送らればいいのですか?」
「フィラメント嬢に渡したい」
「屋敷に行かれた時にお渡しになられたらいいのでは?もう一通はどなたでしょうか?」
私の顔を見ながら不思議そうに首を傾げるライオネス。
「こちらもフィラメント嬢に渡して欲しい。渡すかどうかは私が判断するから、手紙の存在を覚えて欲しいんだ。」
「ハッ?!」
一段と意味がわからず、思わず出た声を手で塞ぐライオネス。
咳ばらいをし、私を見ている。
「申し訳ございません。仰る意味が理解が出来ず……… 」
「コレからその理由も話そうと思っているんだ。聞いてくれる?愚かな男の情けない話を……… 」
私はポツポツと前世の話をする。
ライオネスは唖然とし、驚いた表情をしている。
それでも私は話を止めず、話し続ける。
如何に愚かで馬鹿な男だったかを………
フィーをどのような態度で接してきたかを………
「ライオネスはちゃんと私に伝えてくれたけれど、馬鹿な私は意味がわからず母上の言う様な行動をしていたんだ。馬鹿な王宮貴族と同じように、周りを嘲笑し叱咤しながらね。その間父上もライオネスも、そしてフィーや有能な者達もどんな思いで仕事をしていたんだろう。」
悲痛な表情で俯くライオネス。
今もさほど変わらないだろうが、そこから十数年で状況はもっと悪化するのだ。
「じわじわと苛む様にいろんな事が起こるんだ。でも今ならその理由がわかる。全てその先に母上がいたんだ。あの人は自分本位な欲にとても忠実だからね。その為なら蜘蛛の様に執念深く、用意周到に準備するんだよ。その過程さえも楽しめるほどにね」
皇后が亡くなって特に悪化した事を伝える。
そしてその原因が、その頃流行していたフレーバータイプの紅茶だった。
「その辺りはフィーが王妃教育の最終段階だったから、母上の執務の手伝いをしていたんだ。その関係で交易が特に盛んに行われる様になり、外の国から流れて来る物が流行り出したんだ」
あの頃からいろんな事を、虎視眈々と狙っていたのだろう。
たぶんその頃フィーが気付かぬうちに罠に嵌められた。
その罠を張り巡らせたのが、侍女で実の姉アンジェリカだった。
「皇后は少しずつ身体が衰え病死という事になった。ホントは麻薬により幻覚と呼吸制御の困難で亡くなられたんだ。その当時似たような症状の患者が少しずつ出ていたから、流行り病と思われ片付けられたんだ。」
「だから王妃の贈り物には、気をつける様にと言われていたのですね」
そして今世の王印の事もある。
もしかした前世でもそういう事をしていたんだろう。
「公爵家が麻薬を流した者として断罪され、廃爵されるんだ。その後なぜか港の利権は王妃のモノになった。何故フィーじゃなく、王妃に利権が渡る事に不思議だった。フィーは25歳の大人で仕事もできる。それに父上も可笑しな事が沢山あるのに、なぜか何も言わない。公爵がやったかわからない罪状は、余りにも曖昧で微妙なのに刑を執行される。その刑の内容も嚙み合わない。それなのに公爵らは、なぜか反論もせず静かに死刑の判決を受けた。」
ライオネスは涙を溢れさせ泣き出した。
ホントは泣き叫びたいだろう。
公爵達は国の権力で脅され殺された。
それが忠臣なんだとでもいうのだろうか?
公爵の香辛料に混ざった麻薬の輸入を許可したのは、多分王妃だ。
輸入を許可するにはかならず、王印の許可が必要だ。
そして輸入の許可書を作成したのがフィー。
練習用に書かされ、その書類を使用されたのだろう。
そのせいで王妃が関与した証拠はどこにも見当たらない。
そしてフィーを罠に嵌めたアンジェリカは、事件の発端で起こった麻薬入りのお茶で亡くなっていた。
つまり証拠も証人もおらず、父上とフィーに罪状がかかる状況だったんだ。
「その当時ホント交渉であっちこっち行く毎日だった。今思えばおかしな事ばかりで、たぶん母上が使った偽王印のせいでだったんだろう。諸外国からクレームが起こり、気を使うような事態だったんだ。ただ諸外国との間に帝国と隣国が入り、その頃手伝って頂きどうにか対応していた。」
「何故ですか?帝国と隣国と我が国にはそれ程の信頼関係はありません」
「前世のフィーは学園時代、帝国の皇太子と隣国の公爵令嬢と仲が良くてね。私は何度も皇太子に睨まれ、令嬢にも蔑まれた。最後の頃は地獄の様な苦しみを味わされた。」
「最後とは?地獄の苦しみとは?!」
「フフッ私はね。陛下だった期間はたったの5日なんだ。それからは鉱山奴隷になり、地下深く死ぬまで永遠に掘らされていたんだ。死なない程度に癒されながら……… でもそれだけの事を私はずっとしていたんだ。二人は何度となく注意や警告を発していたんだ。だけど私は態度を直さず、更に酷くなった」
「殿下……… 」
「だから父上にもライオネスにも見放された。仕方ないんだ。それだけ私は酷い事を何十年もしていたんだ。それなのに私はフィーに愛されたいと願い、フィーを愛していた。唯一無二の存在だった。」
私の行動は自分本位で相手の気持ちを全く考えていない。
それでいて私はフィーを愛していると言い、唯一無二と言いながら大切にしないのだ。
何を考えていたのか全く訳の分からない男だと思う。
実際あの側近達や側室でさえも、呆れ返り哀れんだ理由が今ならわかる。
それぐらい私は自分本位で愚かな者だったのだ。
「今回私は、場合によっていない者と思ってほしい。前世の行いは公爵家にとっても最悪で取り返しのつかない事をしているんだ。私が言いたい事わかるでしょ、ライオネス?」
ライオネスは涙を流しながら私を見つめていた。
そして突然膝をつき頭を下げる。
「申し訳ございません。私が一番の大罪人です。なぜ曖昧な返答を私はしたのでしょう。ハッキリと王妃の話はおかしいと、やってはいけない事だと言うべきなのです。私自身も王宮貴族の様に、曖昧に濁す言葉を常用し、相手の年齢や状況を考えず話している。私がきちんと対応していればそんな事にはならなかった!更には殿下を見捨て、国さえも捨て去っている!!私は一体何という事を…… 」
申し訳ございません、申し訳ございませんと何度も呟き、手で顔を覆い号泣し身体を震わせていた。
たぶん前世では多くの者がすれ違いと過ちを犯し、最悪なルートへと国を導いて行ったのだ。
その中で一番最善で有効な手を打っていたのが母上だったのだろう。
慎重に時には大胆に自分の欲を満たす為に行動し、タイミングを見定め狡猾に進めて行った。
前世、机上の盤上遊戯なら勝者は母上だ。
私が敵国に捕縛された後、地下に幽閉されていた母上のその後を私は知らない。
”案外ちゃっかり何食わぬ顔して、生き残っていそうだ”
一番の大罪を犯した者が勝者となった前世。
勝者が全てにおいて正しいとするならば、罪も罪ではなく策略の為の布石にしか過ぎないという事だ。
「殿下はまだ子供です。もちろん私も今度は一今度はお供します。」
ライオネスは涙に濡れた目を細め、静かに私を見つめほほ笑んだ。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




