前前世5 【 ドリアス視点 】
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
フィーの領地へ向かいながら、ライオネスが今起こっている出来事を詳しく教えてくれた。
・辺境周辺の動きの活性化。
フィーの領地の活性化により、周辺領地も同様の動きがある。
周辺諸国との繋がりが密になり、活発に交易が行われている。
・治安悪化。
フィーの領地を包囲する様に治安が悪化している。
領地に近い近郊はワームなどの従魔のおかげで平穏だが、そこから外れると一気に悪化する。
それにより領地内の商人達は王都へ向かう事を見送った。
「問題なのはアリセア領の者に対して、貴族や王都寄りの商人達が言いがかりや恐喝まがいな事をして、まともな商売が成り立たないそうです。ヒドイ話では金も払わず作物を奪う者もいるそうで…… 安全確保を含め、諸外国に品が回されているそうです。仕方がない状況です。」
王都に持って来ずとも、アリセア領の作物は世界的に人気がある。
需要はたくさんあり、売る場所を選べる立場だ。
王都には利益がないどころか損しかない。
更には身の安全がなく、無事領へ戻れるか不安。
そうまでして行く意味がないのが、王都だ。
「愚かですね。おかげで王都にはほとんど入らない。海の向こうへ流れ、隣国や諸国へと流通しています。それを王都を拠点にしている貴族達が、陛下に訴えているのですが、現状仕方ないとしか言えません。もちろん伝えましたが、大層不満気でした。」
よく話を聞けば、輸送もほぼ相手方持ちで行われているとか、それならそちら優先するのは当たり前だ。
欲しければ、自分達も取りに向かえばいいのだ。
つくづく意味のない虚勢を張るものだ。
まるで前世の私を見ている様である。
私達は馬車を進め向かっている。
他にもいろいろと王宮の者が遣らかしているそうだ。
フィーを実験したいと狂った者が手紙を送った。
それに対し王宮側はやってほしいという返信をする。
”誰だそんな返事を書いた者は!”
おかげで公爵より王家には今後一切の関わりを持たないという返事が返って来た。
「確かに殿下が仰る様に、王宮には愚かな者達が多いのでしょう。只今詳しく調査しています。」
最近目に余る言動が跋扈して、辟易する状態だ。
そこに漠然とした括りがあるのか、それともないのか……
「とにかく今は公爵家、アリセア領との交渉です。もし離反するような事になれば、うちの国は一気に立ち行かなくなるでしょう。それ程今あの領は影響力があります。」
ライオネスは目を伏せ、ため息をつき遠くを見ている。
私はなぜここまで拗れる前に、手を打たなかったのだろう。
前世フィーとの婚姻は、公爵家との繋がりを強化する目的だった。
そうする事で食料自給率が安定し、国も潤うからだ。
だが周りの貴族達は、フィーを見下し笑い者にしていた。
それにフィーの両親の記憶が余りにもなさすぎる。
”これはよくよく考えないと、手痛い思いをするかもしれない”
交渉は慎重にする方がいいだろう。
前世で公爵に対応したのは、ほとんど母上だったはずだ。
それでもパーティーで挨拶くらいはしたかもしれない。
そこから糸口を掴み、いい状況と場を作り交渉しなければ………
前世、愚かな私でも、交渉術のコミュニケーション能力だけは良かったと思う。
今世では母上の力をそぎ落とし排除する目的がある。
フィーとの婚姻はもう望めない。
だが、フィーを見守る事は出来る。
”その為にも一番危険な母上を排除しなければならない”
彼女はフィーにとっても害悪になるはずだ。
公爵と交渉し味方になって貰わなくては………
それに国からの離反も出来れば止めて貰いたい。
王都に不快感があるアリセア領。
私達はフィーの領地に立ち入る事ができるのか。
いろいろな意味で不安は募る。滅亡か存命か………
全てのカギは、アリセア領にあった。
****************
アリセア領に着くまで、ちょっとした旅が堪能できる。
今回ライオネスにワザとお父さんと言って、旅を楽しむ。
お父さんと呼ぶと、顔を引きつらせとても嫌そうだ。
”こんな可愛い子に言われて、嬉しくないのかな?”
前世私はよく子供のスリに財布を掏られた。
”フィーと似た髪色の子を見ると、もし子が生まれたらと想像していたな……”
考えてみれば、たくさんの仕事を抱えていたのだ。
メイドも碌に仕事をせず、食事もちゃんと取っていたとは思えない。
子だって、そんな状態の母体で育つはずがない。
だから私とフィーの子は何度か流れてしまった。
全ては仕事を丸投げした私と王宮の者達が原因なのだ。
なのに私はフィーを責めた。
フィーには伝えてないが、流れた子を弔う為に小さな墓標を作る。
毎朝遠出の帰りに、一人お参りするのが日課だった。
その度に去来するどうしようもない切なさと悲しみ。
”ホントどうしようもない人間だな。私は………”
原因は自分達なのに、フィーを責めた。
そうすれば子が帰って来るとでも思う様に責め続けた。
前世を思い起こせば、いかに禄でもない男だったかわかる。
それなのに今世でもやはり私はフィーを求める。
これが慕情による執着なのか、懺悔して罰して欲しいのか。
ただ彼女を一目見たいという思いが確かにあるのだ。
宿につき周辺の聞き込みをすると、アリセア領の話をよく聞く。
例えば温泉施設ができ、そこに入ると腰痛が良くなった。
歩く事が出来なかった足が動くようになったなどだ。
そして同時に、王都の現状が嫌でもわかる。
態度が横柄で客の扱いがヒドイ。
運んだ作物に難癖をつけ、正規の値段より安く買い叩かれたなどだ。
「ライオネス、王都の評判かなり悪くないか?」
「そうですね。この地点でこれでは先々が思いやられますよ。」
馬車で移動しながら、王都の現状についていろいろ考えさせられる。
王都の民の人に対する態度の悪さだ。
道を訊ねると人を見下し馬鹿にするのは当たり前、嘘を教え困らせる事さえあるという。
「ライオネス、王都に人が来なくなるぞ。国外の情報が入りづらくなるな」
「実際王都に向かう者が少ないですね。逆方向は多く物流もその様です」
王都の民をどうにかしないと、アリセア領関係なく流通の悪化は止められないだろう。
「ライオネス、なぜ王都の民の態度が悪い?」
「実は周辺の諸国からも苦情が相次いでいます。その中のいくつかは王妃の仕業なのもありますが、概ね王都の民の問題行動ですね。なぜと言われましても、私もわかりません。どうしてなのでしょう?」
”人が国を造る”
前世帝国の前皇帝が言っていた。
実力がモノをいう国なだけに、人に対する判断も手厳しかった。
だが今ほどその言葉の重みが凄くわかるのだ。
****************
アリセア領に向かいながら、いろいろな事を思い知らされる。
宿に着けば宿泊している王都の民の横柄で醜悪な態度に辟易するばかりだ。
市場に行けば、チンピラかと見まごうばかりの振る舞いにあきれ果てる。
これには護衛騎士達も、冷ややかな目で見ていた。
護衛に入っている最中は、なるべく他所と関わる事を良しとしない。
だが今回は間に入り、収束する様にお願いした。
それにより、諍いの間に入る騎士達と罵倒し文句を言う者達。
その者達が一様に言うのが、「俺達は王都の者だぞ。お前達田舎者とは違うのだ」という言葉だ。
それに対し騎士達も「私達は王国騎士だ」と言うと、態度がコロッと変わり、へこへこと頭を下げる。
そして大人しく従い帰って行くのだ。
「殿下、あの者らは王都在住のスラム街の者達です」
「どうも先導した者がいるようです。着ている服も旅費もスラムの者達が賄えるモノではありません。」
詳しく話を聞くと、アリセア領までの道すがら騒ぎを起こし旅をする依頼だそうだ。
そんな事をして一体何になるのか、全く意味がわからない。
「ライオネス、これはどういう意図があるのだ?」
ライオネスもジッと考え首を振りため息をつく。
騎士達を見ても、皆一応に思案気味で答えは出なさそうだ。
不可解なばかりの出来事は、この後もアリセア領に着くまで続いた。
何とも精神的に疲れる旅をした。
確かに意味のある嫌がらせだったと思う。
だが本来の目的は別にあるのだろう。
それだけの為には、金が余りにもかかり過ぎるからだ。
アリセア領の砦近くなると、手前に大きな裂け目が出来ていた。
裂け目を覗き込んだ者の話では、無数のワームがうごめいている。
皆礼儀正しく並び順番を守る気持ちもよく判る。
「ここの橋を渡るとアリセア領です。昔はこんなものがありませんでした。襲撃事件後に出来あがったのでしょう。」
橋を渡り切った後には、検問が敷かれている。
そしてそこにはまたワームらがウネウネと身体を動かして存在していた。
「ねぇ…… テイムしたワームは5匹だったよね」
「そうですね。私もそう伺っていました……… 」
検問の至る所にいる何匹かのワーム。
遠くの場所では衛兵の者とボール遊びに興じている。
「アレだけ小さくても単体でBクラス扱いの魔物です。いやはや凄いですね。」
アリセア領の民はワームを普通に受け入れている様だ。
検問を通過する際、こちらの身分を提示する。
だがその前に何匹かのワームが私達を認識し、動きを止めジッと顔を見ているようだ。
護衛騎士達は静かに、だが確実に戦闘態勢へ移行し様子を見ている。
皆顔をこわばらせ、額には脂汗が浮かんでいた。
「領の注意事項は、悪さをしない事です。見えなくても見ていますからね。そして領内にも魔物がいますが、討伐はダメです。その魔物たちは居る事を許されたモノ達ですからお願いしますね」
つまり、あのウネウネが至る所にいるという事だろう。
フフッ…… 参ったな。
ここまでホントに私は精神疲労がピークだったのだ。
無事検問を通過出来た事で、気が抜けたのだろう。
私は知らず知らずの内に意識を手放した。
領へ入ると直ぐ近くに休憩スペースがあり、そこで休息が取れるようになっている。
さすがにあれだけのワームの群れを見れば、皆恐慌状態に陥いる。
だが領に入っても状況は変わらず、あちらこちらにワームがいるのだ。
皆休憩スペースで、領民とワームの戯れる風景を見ながら途方に暮れる。
つまり私が意識を取り戻した場所はそこで、目に飛び込んできた景色は子供らがワームに乗り移動している姿だった。
「殿下お戻りになられましたか?」
「イヤ、多分まだ夢の中だ……… 」
「残念ながら現実です。」
そっかぁ……… 現実かぁ………
その風景に慣れた者は、休憩スペースの屋台で食品を買い飲食していた。
”ワームを横目に飲食が出来るんだね”
人は案外図太く出来ているそうだ。
買った食品の旨さにすっかりワームの事など忘れ一様に行動的になるらしい。
皆ニコニコ笑顔で休憩スペースを後にし、ワームに挨拶する強者までいる。
「殿下、騎士達も今休息し飲食しています。食べてみて下さい。こちらに来るまでも食材の旨さに驚きましたが、こちらの物は遥かに比べるモノではございません。天上の食べ物です!」
ライオネスもワームの事など忘れている様だ。
ニコニコと真っ赤な生のトマトを私に差し出している。
私はその食材を見て、身体を思いっきり背けた。
”ウエ~~?! 何でトマトだよ!青臭くカァーと口が開く様な苦味と渋みの激マズ食材だよ!!”
それでも涙目になりながら、イヤイヤ受け取りライオネスを見る。
ニコニコ笑顔でさぁさぁと進め、周りの騎士達も一応に食べる事を期待している。
ため息をつき、渋々仕方なく震える手を叱咤くしながら口に恐る恐る運ぶ。
だがそこからなかなか先に進まない。口を開けたくないのだ。
「殿下、騙されたと思って一口食べてみて下さい。」
「絶対食べないと後悔します。一口食べて見ましょう」
「凄いですから、天上が見えますよ。殿下」
意味の解らない事を言う者もいるが、とにかく今までのトマトとは違うという。
だがな、トマトは元々すこぶる不味いんだぞ。
多少変わっても不味さが薄れる程度で不味さは変わらないだろう。
覚悟を決め目を瞑り、口を開けトマトに歯を立てた。
”ブシュッ…… ”
口の中に溢れたトマトの汁は今迄と一線を改する味がする?!
”私が今噛んだ物はホントにトマトか?!”
余りにも驚き、生れて初めて腰を抜かす。
もちろんトマトはしっかり持ったままだ!!
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




