前前世3 【 ドリアス視点 】
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
どうしようもない時ほど、どうしようもない事が起こるのが常だ。
いつもの様に勉学に励み、今はライオネスに統治者の目線というモノを学ぶ。
見ると聞くの大切さ、選ぶという難しさ、切るという虚しさなど………
ありとあらゆる人の一生を背負うという事。
それを考えれば自ずと、自分自身の手足となる側近という者の重要性が見えて来る。
「一人で抱える事など、出来るものではありません。だからこそしっかりと選び、共に学び成長するのです。己の命を預け、託せる者が見つかる事を願っています。」
思い出すのは、前世の父上とライオネスのあり方だった。
確かに父上はライオネスに己の宝を預けた。
逆に私の周りに残った者達は、己の平穏の為に率先して敵に私を差し出した。
”今いる婚約者殿もそうだし、その父親など最悪の一言だな。”
すぐに逃げ去った者と、戦争へと導いた者。
ホント排除したくて堪らない。
それに母上、あの人こそどうにかしたい。
まだ侍女の実姉は存在している。
たぶん彼女が母上に変わって、政務をしているのだ。
助け出すには、ライオネスに手伝って貰えばいいだろう。
それに母上も早いうちに退場して貰いたい。
まだ祖母の王太后は健在で、影響力もあり母上には何もないのだから……
”国を滅亡へ誘った元凶だ。今はまだ息を潜めているが、その片鱗はもう視えている”
前世王太后の身体が弱ったのは、母上の贈ったお茶が原因だった。
その後侍女の実姉が死に、麻薬入りのお茶だと発覚する。
それにより、そのお茶を輸入した罪で、フィーの両親は処罰され廃爵となる。
だが実際は、手引きし輸入したのは母上で、公爵の領地は経由しただけでしかない。
母上はフィーの身柄を脅しの材料にし、港の利権を奪い騙して巨万の富を築いた。
そしてその利益から周りの貴族を自分の力に変え、父上の権威を脅かしたのだ。
”フィーの予算を横領して、更には無駄遣いまでフィーのせいにする。ホント母上ほど腐りきった人間はそういない”
祖母が亡くなってから特に酷くなり、類友の如くその様な者達で王宮は溢れかえった。
「ライオネス、私は母上が嫌いだ。何故父上は母上と婚姻した?アレこそ役立たずだろう」
「殿下、実の母に対して役立たずなど、言うものではございませんよ。」
「そんな建前はいい、フッ… すまない、ふと可笑しくてな。フフッ」
前世の事を思い出し、思わず笑いが沸き起こる。
「いいえ構いませんが……… 何か可笑しな事がございましたでしょうか?」
ライオネスが不思議そうに首を傾げ、聞いてくるが教える事は出来ない。
「とにかく知りたい事がある。何故母上は実姉をこき使うのだ?それも侍女にして?」
私は率直に聞く。意味のない事を言って、無駄な事に頭を使いたくない。
私は基本的に頭の出来が良くない。
記憶力がないし、忘れっぽい。そして思い込みも激しい。
「ライオネス、ごまかしはなしだ。私はいろいろと知っているぞ。」
「どういう事でございますか?」
「ライオネスは味方だと思う。だから聞いている。なぜ実姉を侍女なんだ?」
もう一度ライオネスの目を見て問う。
お互いの眼差しを見て、その真意を問う様に沈黙する。
「殿下はそれを可笑しいとお思いになるのですね?それに何故それをお知りになられたのですか?」
「たまたまな。母上が侍女をそう呼んでいた。不思議に思い観察すれば顔形が似ている。そのまま観察すると、他にもいろいろ知り得たのだ。私が疑問に思った時期はかなり前からだぞ。」
「それなら子供と侮り、いろいろと見聞きする事もあったでしょうね」
「そういう事だ。私は母上が嫌いだ。あの人の存在は害悪となる。」
「ドリアス殿下……… 」
「私を子供と思うな。私は母上が嫌いだ。あの人をこの国から排除したいと思っている」
私は何度も言う。母上が嫌いだ。と………
子供の様な言い分だろう。だが単純で明快な答えだ。
私はそれほどあの母の行いを嫌悪している。
つまりそれ程の事を、隠れてしているのだと示唆をする。
どうだ、ライオネス?
私は少しでも成長しているのだろうか………
「ご一緒に陛下にお会いになられますか?」
「うん、一緒に昼ご飯が食べたいな」
ワザと子供っぽい返事をして、ライオネスを見る。
そんな私を面白そうに見て手を差し出した。
私はその手を掴み、ライオネスと一緒に父上の執務室へ向かった。
ここからは前世とは全く違う、親子関係を結ぶ様になっていった。
父上との話し合いの結果、証拠不十分のため監視をし、決定的証拠を集める事になった。
そして侍女は母上と離され身体検査された。
その結果はやはり思った通り虐待されている。
だが誰がしたのか、一切口にしない侍女。
そんな姿に父上が皆を下がらせ、二人で静かに話していた。
侍女は祖母の王太后が預かる事になった。
ついでに父上が婚約していたのは、実姉だった事を知った。
それを学園時代周りに陥れられ解消し、母上が繰り上がり的に婚姻。
たぶんそれも母上が、計画的に陥れたのではないかと思う。
母上は哀れを誘う様に姉から引き離されたと嘆く。
父上が虐待の跡があると告げると、驚いた顔をし「誰がそんな事を」とぬけぬけと言った。
そんな母上に冷めた目で見る父上。
だが実際は腸が煮えくり返るほど憤っている。
ライオネスが言うには、父上と実姉は穏やかな恋情を育んでいたそうだ。
それなのに後妻の娘である母上が、実姉が暗殺の指示をしたと訴え騒ぎを起こす。
実際その様な事はなかったが母上が泣いて怖いと言い、世間の目も母上に同情的で実姉に疑惑の眼差しを向けたそうだ。
そして何故か父上の思い人が母上である様に言われ、先王が騒ぎの幕引きを母上と婚姻する事で収めた。
市井はそんな実情を知らず、「真実の愛」などと馬鹿げた事を言って祝ったというのだから笑える。
とにかく後ろ黒い事ばかりし、己の欲を満たすのが母上だ。
私もそんな醜い母上の顔を知っている。
影で母上が憎々し気に皇后を見る顔にはゾッとする。
お茶の麻薬はまだないだろうが、母上の贈り物には気をつける様父上に伝えた。
そしてその流れで、フィーのいる領地の話を聞く事ができた。
「いろいろと可笑しな子だが、発明の才能があったのだろう」
何だかんだとフィーの事を心配していた様だ。
父上と公爵は従兄弟に当たり、子供の頃は兄の様に慕っていたらしい。
「一輪君と言う可愛らしい名前だが、とにかく優れた代物なのだ。王宮も早々に100台注文を入れたようでな、単純にして明快、革命と言っても過言ではないだろう。なっ、ライオネス!」
「そうですね。とても便利な物です。世界的発明でしょうね」
父上もライオネスも絶賛する物を作るとは!やっぱりどんなに変わってもフィーだった。
確かにローゼリア嬢の言う通り、フィーは世界を相手する人物だった。
嬉しいと思う反面、寂しいと思う私がいる。
「貴方達の様な無能者が、使い潰すような人物ではありませんのよ」
ホントだね、ローゼリア嬢。
確かに私達はそんなすごい人物を、己の欲と欺瞞の為に使い潰し殺した。
「それだけじゃない。どうやらその発明は過程だそうだ。つまり大物が控えているぞ。楽しみだ♪」
「フフ……嬉しそうですね、陛下。私も興味があるので観察しているのです。いつも裏山で食材のゴミを土に埋めていますよ。多分この土に拘りがあるのでしょうね。よく判りませんが楽しみです(笑)」
土に食材のゴミを埋めている……
何をしているのだろう。それだけでは何もわからない。
ただ可笑しな子である事は確かだ。
「その過程で出来上がったのが一輪君だからな。」
「ええ、その一輪君に乗って山を下りるフィラメント様が可愛いと影の者が言っておりました。髪の短さもとても似合って可愛いらしいと、兄のクリスティオが整えたようですよ。あの領地の女性騎士やメイドが数名、同様に髪を短くお切りになられたとか、意外に好評な様です。」
「それはまことか?!」
へぇー、凄いな。切る女性がいるとは思わなかった。
父上も意外そうな顔をしている。
「ええ、影の中にもマネて切った者がおります。身体を動かす者ほど好評ですね。性別関係なくいろいろと大変ですからね。髪の手入れは…… 」
ライオネスは以外にも素直に受け入れているな。
かなり好意的な感じがするのは気のせいか?
「確かに…… 短い方が手入れは簡単だろうな」
「見た目や印象が変わりますよ。イメチェンにはよろしいかと思います(笑)」
「そっか!私は前向きな女性は好きだぞ♪」
「陛下のお好みはどうでもいいのです」
父上とライオネスは好意的に受け入れられ楽しそうだ。
父上の女性の好みも知ってしまった。
そこから考えると母上は外れまくりだ。
「なんかすごく気になる。フィラメント嬢に会ってみたいな。どんな感じの髪型なんだろう」
フィーの短い髪の姿を想像するけど、短い髪というモノが想像つかない。
でもどんな髪型でもフィーの美しさが損なわれる事はないだろう。
それに健康で身体を動かす生き生きとしたフィー。
想像すると嬉しくて堪らない気持ちになる自分がいた。
「とにかくフィラメント様は、食べ物の好き嫌いが激しい様で、いつもお腹を空かせていらっしゃいます。特に野菜はいつも睨みつけているようで、公爵が以前喉が枯れていたのも、それを直そうと頑張られた後遺症です。」
「そっか、大変だな…… 」
父上が遠い目をして同情をしている。
「えぇ、今回の土遊びもそこからの起因だそうですよ。」
「なるほど作る大変さを知り、好き嫌いをなくそうという考えだな♪」
昔は好き嫌いもなく食べていたのに、腹を空かせてまで食べないなんて……
そんなフィーを身近に感じ、可愛いと思ってしまう。
「まぁいろいろと大変なお嬢様です。ご両親も過保護になるのは仕方がないでしょうね。陛下、会うのは難しいと思いますよ。」
「だろうな。私も同じ様にするだろう。世間から隠し好きな様にさせ、スクスクと思うがままに生かす方が良さそうな娘だ」
出来れば逢いたいな。
会いに行く事は出来ないのだろうか?
この話は内々での話だった。
なのにどういう訳かフィーのいる領へ使者が向かい、婚約の打診をすると言う事が起こる。
それもなぜか王印が押されている手紙を持って………
これには父上も激怒した。勝手に王印を使われたのだから……
するとタイミングよく変な噂が流れ始める。
その印を使ったのは侍女の実姉で皇后の指示したものだと、
判を押した様なやり方に、あきれ果てる。
犯人は自分ですと言っている様なモノ、馬鹿の一つ覚えとも言える。
「これで間者が潜り込んでいる事がわかったな。」
「ええ、特定もつきましたね。ただ問題は公爵の対応ですね」
「ああ、最近冷え切っているな。ろくでもない貴族のせいで、更に距離をとられ始めている」
父上が寂しそうな顔で頭を悩ませている。
「公爵と何かあったのですか?」
私は前世でも公爵と余り面識がなかった。
そういえばフィーだって、両親と会う機会はあったのだろうか?
その事に今頃気付く自分の不甲斐なさに嫌気が差す。
「いろいろとな。例えばあの領は農業と牧畜特化だ。そして近くには港があり、近隣諸外国との繋がりもある。考えて見ればわかるように我が国の玄関口だ。だからその港の利権を国に渡すべきだと言う困った者達がいるんだよ。」
実際それを実行したのが母上だった。
なるほどそんな苗床が存在するなら、さぞやし易かっただろう。
「ですがあの港は、先々代公爵が領だけで作り上げたモノです。国は一切関与せず、それどころか馬鹿にし邪魔をしていたとか……… それ以来あの領と王家は拗れています。先代に王家の者が嫁いだのも関係を改善したいからでした。ですが王都にいる貴族達の性格の悪さに距離をとられた。ただ一応の融通は利かせてくれましたが、その事を知り理解する者は余りにも少ないのです。」
前世の王宮の貴族達も確かにそうだった。
フィーを田舎者と言い、臭うとかよく嫌味を言っていた。
「あの領は我が国の食糧生産を半分請け負っている。つまりあの領に何かあれば困るのは我が国、王都なのだ。食べる物があるのはあの領のおかげであり、諸外国の食品が入るのも、あの領の生産量が多いからだ。」
公爵家がなくなってから国の食糧が減り、隣国に食糧支援を依頼する事になる。
フィーを心配しながら渡った交渉条約はそれが目的だった。
そして全ての原因を作ったのは母上だ。
”やはり母上はいない方がいい。今すぐ排除しなくては……… ”
私は固くそう胸の内に誓う。
だが時はそんな悠長に待ってはくれない。
母上が邪魔である事は判っていても、排するには時間が必要だった。
なのに状況は思った以上に刻々と悪化していく。
まるで国が滅亡した時の様だった。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




