前前世2 【 ドリアス視点 】
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
王宮に着くとまず初めにライオネスが現れた。
その顔は憔悴し覇気もなくどこかぼんやりとしている。
その後現れた大臣達も疲れた顔に、幾日か寝ていないのか目の下の隈が濃い。
「一体どうしたのだ?」
王宮はどこか陰鬱な雰囲気をし、慌ただしく落ち着きがない。
フィーの体調はどうなった?
それに離宮にいるはずのライオネスが、何故王宮にいるんのだ?
そして大臣達だ。一体何がこの数日で起こったのだ?
それに宰相が姿を見せない。
「おかえりなさいませ、殿下。そしてこれからは陛下とお呼びいたします。緊急の案件が幾つかございます。心してお聞きくださいます様………」
ライオネスが頭を下げ静かに告げた。
それに合わせる様に、その場にいたすべての者が頭を下げた。
その状況を見つめながら、私は漠然とした不安が的中した事を悟る。
やはり母上はこの国の元凶だった。
だから父上は母上から離れ、国の行く末を見据えていたのだろう。
私は知っていた。自分に年の離れた弟がいる事を………
アノ出来事の後、父は妾を囲い込んだ。
それがこの国の王の決断だったのだろう。
もしもの時の備えは必要だから………
父上は離宮に向かう前に私に告げた。
「元凶は断たねばならん。時には厳しい選択を迫られる。それを国の為、無慈悲に決断を下せるのが王だ。お前は選択を間違えた。判断が他人任せで曖昧で、王になるには余りにも愚かだ」
そう言って悲し気なため息を一つつき、私を見て王宮を後にした。
ライオネスも静かに頭を下げ付き従う。
それが父との今生の別れとなるとも知らずに……
「まず陛下は皇后によりお亡くなりになり、弟君と奥方はご存命です。また殿下の正妃フィラメント様は度重なる無理が祟り、お亡くなりになられていました。医師の話によりますと、殿下は妃殿下に休息をお求めになられていたとの事でしたが、皇后が撤回され仕事をお与えになられたようです。」
両こぶしを握り締め憤りを抑える。
フィーごめん、私は何もかもが遅すぎた。
「亡くなられたのがいつなのかは、申し訳ございませんが不明。陛下の件でご相談に向かった折にわかったそうです。ご冥福をお祈り申し上げます。そして大変申し訳ございません。私どもの至らなかさが招いた事態でございます。正妃をその様な状態になるまで放置などあるまじき事です」
何も言えない……… この国の要にもなる人物の二人が亡くなった。
一人は太陽たる陛下である父。
そしてもう一人は、この国を影から支えた月たるフィー。
この国はまさに暗黒の時代に突入した。
さすがに側室と側近達も事態が飲み込め、蒼白状態だ。
誰がこの国のかじ取りをとり、いや出来る者がいるというのだ。
私では無理だ。いつもフィーにお願いしていた。
文句も嫌味も、そんな自分の嫌な部分を誤魔化す私自身の虚勢。
苦手な事は人任せで褒めればいい。
それが父上の持論。全て自分で出来るはずがない。
その代わり部下をうまく使い褒め、国のいい状況を見据え誘う。
母上も苦手なら人任せで、うまく使い分けなさい。
ただ………
特に自分の身近な者は縛り付け、身動きが出来ない様にすればいい。
能力ある者が現れたなら、そちらに移り同じ様にすればいい。
身代わりになる者など幾らでもいるのだから。
今思えば母上は、人を信用しない人だったのだろう。
私には父上の様な信頼出来る部下がいない。
ゴマを擦り保身に走る者はいれど、仕事ができる者が一人もいなかった。
だからフィーがその全てをフォローしていたのだ。
今更どうする事も出来ない。
気づくのが遅過ぎた。
「あの皇后様は今どうされて?」
何故そこで母上の事を聞く。私は思わず側室を睨みつける。
「だってこの状態を引き起こしたのは皇后よ!事態収拾を願いたいわ!!正妃だっていないのよ!」
「お前はいつでも正妃の代わりになれると言っていたではないか!」
私が冷めた目で側室を見ると、側室も嫌味な目をして私に言った。
「あら、それは私だけではございませんわ。殿下もそう仰っていましたわ」
私は自分の虚勢を張る時、知らず知らずのうちに言っていたのだろう。
歯を食いしばり自分自身の愚かさに虫唾が走る。
私も他の者達と同じなのだ。
「ライオネス、母上もだが、宰相はどうした?」
「皇后は地下牢へ幽閉。気が御触れになり、まともな状態ではございません。そして宰相は更迭。帝国にケンカを売り宣戦布告を告げられました。つまり、陛下と正妃の葬儀が終わると戦争へ突入するという事です。」
「どういう事ですの!!お父様に会わせてくださいませ!!!」
「何故そのような事に……… 」
ただでさえ最悪な状況なのに、更に戦争などと言う。
身体がユラリと揺れ眩暈が起こる。
もう何が何だか、もうどうしようもない状況だった。
あの時母上を信頼などせず、フィーを預けなければ………
イヤ違う。ホントは初めからフィーを大事にするべきだったのだ。
愛していた。心から大切な者だった。
それなのに周りの言葉に惑わされ、彼女自身を顧みなかった。
どうにかしろといつも彼女に文句ばかり言った。
それこそ一度として褒める事も労う事もせず、散々こき使った。
私に苦言を言う者は、フィーに懸想を抱いているという言葉を信じ放逐した。
フィー自身には身動きが出来ぬ様、仕事を増やし負担を強いた。
それによってフィーが弱り疲れ果てる姿に目を瞑り、そんなフィーを見る事で自己満足していた。
何と醜い姿だ!醜悪過ぎて反吐が出る。
だがそれが今まで自分が行ってきた事だった。
彼女は私をどう思っていただろうか?
愛してくれていた?
そんなはずはない事ぐらいわかっている。
憎みこそすれ愛される事などあるはずもない。
私という者に関わったが為に、幼い頃から無理を強いられ、両親は脅し殺され、自由も何もかも存在しない。
それが私とその周りがしてきた事全てだった。
彼女は一体何のために生まれ生きたのだろう。
今更だ。ホント全て今更なのだ。
私は面倒で母上がする事を見て見ぬフリをした。
彼女が変わりなく傍にいてくれるなら、それでよかったから。
どんなに弱ろうと、いるという現実と自分の平穏が保たれるなら………
そう私の行動は、自分本位で支離滅裂なのだ。
****************
どうする事も出来ずに時間だけが過ぎていく。
二人の葬儀もどうにか執り行う事ができた。
その間逃げる臣下は多数いた為、思う様にいかない。
「ライオネス、宰相になって貰えないだろうか?今いる者で出来る者がお前しか思いつかない」
私は今後の事を考え、どうにかして貰えないかとお願いするが、
「申し訳ございませんが、私にはこの後の予定も前陛下より賜っています。それを行う事が何よりの手向けになるでしょう」
「この後どうするつもりだ」
「はい、弟殿下を他国へ連れて向かいます。妾殿の故郷へ行き生活支援が私の最後の仕事となります。」
「お前もまた私を捨てるのか……… 」
私の下には誰もいない。
周りに沢山いた側近達も逃げる様に離れて行った。
側室達さえそうだ。
有能な部下達は正妃を慕う者達だった為、残るはずもなく国を去る。
どうやら私は裸の王様だった様だ。
手元に何も残らず、これが私のホントの姿だったのだろう。
宣戦布告の内容も、正妃の弔い合戦。彼女の尊厳を踏みにじる害悪。
それにより彼女と親しい隣国も参加し、我が国は戦う事もせず敗戦を受けいれた。
「フフッ学園以来だな。このような様で逢う事になるとは思わなんだ」
目の前には帝国の皇帝。
学園の頃の同級生であり、正妃を慕う者だ。
そして………
「やっぱりあの時無理にでも出国させるべきでしたわ」
底の見えない暗い眼差しを向ける隣国の女公爵ローゼリア。
「フィルほど魅力的な方はいませんでした。貴方達の様な無能者が、使い潰すような人物ではありませんのよ。彼女はその気になれば世界だって相手にできるほどの人物でしたわ。怨みますわ。楽に死ねると思わない事ね」
「それには同意だ。フィルの何十年という苦しみを思い知れ」
アレからどれくらいの時が流れたのだろう。
地下深く当時の部下達と共に堕とされ、鉱山奴隷となり永遠に働かされている。
死にたいのに死ねない。
死なぬ様に最低限の治療をするからだ。
逆に部下達は次々に治療を受ける事なく死んで逝く。
亡くなった部下達の亡骸の横で、私は死なない程度の痛みを抱えながら、働き続けている。
気づけば地下でただ一人、淡々と黙々と手を動かし掘り続ける日々………
死にたい。死んでフィーの傍へ行きたい。
誰か私を殺してくれ。死なせてくれ!
これ以上私をフィーから離さないでくれ。
もう思い出せない。フィーの姿が………
声もどんな声か忘れてしまった。
どうか………
****************
気づけば私は綺麗なベットに横たわっていた。
目に映るのは以前よく見ていた王宮の天井。
恐る恐る起き上がる。
その動作で目に映る自分の手の小ささに驚く。
両手を目の前に持っていき、傷一つなく汚れていない手を眺める。
静かに両目から涙がこぼれ落ちていく。
”ああ、神は居られた!もう一度生き直す事が出来るのか!”
胸いっぱいに喜びが溢れる。
次こそは間違えない。
待っていてフィー。
今度こそ君に最高の幸せを捧げるよ。
だがフィーとの婚約は成されない。
父上の相談という打診に、公爵はフィーには無理だと断られたそうだ。
「相当なお転婆でマナーがな……… 公爵の喉は枯れていた。つまりそういうことだ。」
父上が「大変そうだな……」と呟いて、違う令嬢を選定している事を告げる。
私はもう一度正式な打診をしてくれないか?とお願いをした。
「あの公爵の令嬢です。今はまだ幼く拙いけれど、私は逢ってみたい」
私は一目でも彼女に逢いたい。
それが今世に戻って来た意味なのだから………
彼女が生きているという実感を私は感じたいのだ。
「そうか。確かに一度会わせる事もいいだろう。聞いてみよう」
「ありがとうございます。」
私はやっと彼女に逢えるのだと心の内から喜んだ。
しかし………
「どうやら寝込んだ副作用で、気がふれているそうだ。枝で食事をするし、木から飛び降りたりと大変らしい」
父上の話から聞くフィーの奇行。
あのフィーがそんな事するとはあり得ない。
「とにかく公爵の娘は無理だ。他の令嬢を選定する。良いな」
「ハイ…… 」
私は心あらずのまま、頭を下げその場を辞した。
この世界のフィーは、フィーであってフィーではないのだろう。
”私のフィーはもういない…… ”
受け入れがたい現実。
生き戻り、時間を遡ったと思っていた。
でも実際は、違う流れの同じ世界に生まれ直したのだろう。
それからただ漠然と生活をした。
以前しなかった勉強に武術に勤しむ。
鉱山であれだけキツイ思いをしたのだ。
これぐらい大した事ではない。
そのうち側室だった令嬢が私の婚約者となる。
相変わらずどうでもいい話ばかりで面白みもない。
小さい頃から性格の悪さの片鱗が見え隠れしている。
「ドリアス、婚約者と仲良くできそうか?」
父上は私に聞くが、父上だって知っているはずだ。
隣にいるライオネスも澄まし顔で控えている。
「無理です。教育だって私にどうにかしろと文句ばかりで、頭が可笑しくなりそうです。こんな事なら先の公爵令嬢の方が余程よかった。面白みはありそうですからね。」
ホントこんな怠慢で、よく私にもできると言えたものだ。
それを信じた以前の私も、いろんな意味で馬鹿だったのだろう。
「公爵令嬢のフィラメント様は、領地にて療養されているようです。家族揃って、そちらにお住まいを移されました」
「まるで王都から逃げる様だ。よほど婚約したくないのだろう。嫌われたなドリアス」
そう正にその様に思う。だがしかし………
「ですが髪を大層短くお切りになり暴れていたとの事。隠密で向かった医師も、余りなお姿に言葉にするのも憚れると言っておりました。いくら嫌だからと、そこまでするでしょうか?」
髪を項がスッキリ見えるほど切ったと言われるフィー。
修道女のほうがよっぽど長く、バッサバッサに切った髪は、まるで生まれたての赤子の様に短い。
その姿を見た医師は、想像以上の気狂いの様に戦慄したそうだ。
”一瞬記憶があるのかと疑ったけどやっぱり違うかも。いくら何でもあり得ないよ。”
だからと言って今の婚約者もどうにかしたい。
そんな事を考えていたからだろうか………
”全くどういうつもりだ?何故そこにいる?”
部屋に戻るとヤツがいた。
「殿下御機嫌よう。今よろしいでしょうか?」
可愛く見える様に首を傾げ、媚を売る様な眼差し。
周りの者達はそんな幼女に、庇護欲を掻き立てるのか顔が緩んでいる。
こんなガキの頃から、こういう狡賢さだけは頭が回るようだ。
私の不機嫌な顔に、控えの者が彼女を窘めてた。
だが………
「私は殿下に話しているのよ。邪魔よ、あっちに行って!」
窘めた者に文句を言い、私の様子も気にもせず自分の欲求を押し通す。
全く反吐が出るほどろくでもない女だ。
「フン、こっちにはお前に用がない。お前こそどこかへ行け。勝手に入るな!」
「あっ、殿下?!」
ホントに何故このような事になるのだ。
不安だが、やはりフィーがいい。
どんなに頭がおかしくても、姿形は間違いなくフィーなのだ。
”前世であれだけ言っていた分、多少はできるのかと思っていたがやはりあの女はダメだ。別の者を選定しなくは……… それに私も今世では違う。側近となる者もきちんと選ばなくてはな”
今世のフィーはいろいろと問題を抱えている。
だからこそしっかり迎え入れる体制を作りたい。
今はとにかく前世のフィーが恋しくて堪らなかった。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




