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召喚聖女の返礼  作者:
19/43

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 え、なんでこんなところに亮君が?

 いや、それを言ったら私も”なぜこんなところに”か。もしかして、亮君もどこかの国に召喚されちゃったの?

 それとも、亮君に会いたすぎて幻でも見ているんだろうか。


 目を離したらいなくなちゃうような気がして、じっと見つめたまま一歩進む。一歩、もう一歩。


 気が付くと小走りになっていた。


「亮君っ亮君っ、会いたかった!ずっとずっとすごくすごく会いたかった!会えて嬉しい。どうしてこんなところにいるのか分からないけど、それもどうでもいいっ。亮君がいれば他のことは全部全部どうでもいいっ。亮君!あいたかったよぉ、亮く……」


 触れられる近さまで来て手を伸ばしたら、すいっと亮君が後退した。


「え、なんで、亮君……。怒ってるの?私、結婚式から逃げたわけじゃないんだよ。誘拐……召喚されて聖女だって言われて、でもどうにかして亮君にところに帰りたくて一生懸命だったんだよ。ねえ、亮君、私のこと嫌いになっちゃったの?」


 やだよ。嫌いにならないで。私はずっとずっと亮君にところに帰りたかったんだよ。


 亮君が怒っているのかもしれない、私のことを嫌いになってしまったのかもしれない。何を言っても結婚式の直前に姿を消してしまったことは変わらないけれど、それでも私は言い訳を重ねた。

 召喚されたこと、帰るすべはないと言われたこと、それでも諦めずに聖女のお仕事をする代わりに帰る方法を探してもらっていること、自分でも城にある禁書まで漁ってどうにか帰れないかと足掻いていること。


「亮君、私のこと嫌いになっちゃヤダよぉ……」


 泣き落としと言わば言え。勝手に流れてくる涙が止まらない。


「すまんな、娘御。わたしはその亮君とやらではない」

「……え?」


 亮君の姿をしているのに声が違う。話し方も違う。


「私はこの神霊山に住まう神霊獣――神の使いだ。マナを統べ管理し浄化する役目を戴いている。娘御の心の中に住むは会えぬものだったのだな」


 神霊獣……?


「私にあった者は、その者が一番愛し大事にしている者の姿を見る。これは定めだ。神霊獣が害されることの無いよう、決して刃向かうことのできぬ相手の姿を見せるのだ」


 例えば親であったり我が子であったり、恋人、恩のある相手、主君、神の姿のこともある。そう神霊獣は続けた。


 ああ、そういう仕組みなら、私は亮君を見るだろう。決して傷つけようと思うことの無い相手。亮君が傷つくくらいなら私が身代わりになることすら当たり前に思うほどに恋しい人。


 なんだ……。本物の亮君じゃないのか。会えたと思ったのに。絶対に亮君のもとに帰ると誓っていたけど、それが日本でなくてこの世界でも構わない、亮君と一緒ならどこでもいいと思ったのに。


 会えぬもの?会えたと思ったのに……。会いたいのに……。


「ああああああああああああ――――っ!!」


 中身が空っぽになるのではないかと思うほどの全てを吐き出すような慟哭。身も世もなく私は泣いた。このまま干からびて死んでしまっても構わないと、いっそ儚くなりたいと、そう願った。


 幸せな夢を見た後に叩き落されてもう立ち上がる気力もない。


 崩れ落ちてそのまま地面に頭をつけ泣き続けた私は、もう、今まで無理やりにでも持ち続けていた希望が粉々になってしまったような気がして、涙を止める努力すらできずに泣いた。




 どれくらい時間が経っただろう。


 涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を服の袖で拭って頭を上げると、お日様が真上にある。朝に入山して、ここに来るまで1時間半ぐらいだったと思う。今はもう真昼だ。そうか、私は2時間以上も泣いていたのか。


 身を切られるほどに辛くて、泣いて泣いて死ぬほどに泣いて。それでも実際に死んだりはしないんだなぁ。


「なんでまだいるんですか」


 亮君の姿をした神霊獣が、私が泣き出す前と同じ位置に立っている。2時間ずっとそうやってただ立っていたんだろうか。私は周りを見る余裕がなかったから分からない。


「泣かせてすまぬ。決して娘御に悪意があったわけではないのだ」

「ああ、はい、大丈夫です。分かってます」


 鼻水をすすりながら答えた。きっとひどい顔をしているだろうけど、人外相手だから気にしなくてもいいだろうか。


 害されないように見るものの好ましく思われる人間の姿を取っただけで、私を騙そうとか虐めてやろうとかそんな気持ちじゃなかったことくらいは分かっている。初対面で私の事情なんか知らなかったんだし。


「この山は人が足を踏み入れることは出来ないと聞いています。いや、私は入っちゃってるんですが、どうしてそんな仕様になってるんですか」


 誰にも会うことが無い山で身の危険を感じることがあるんだろうか。


「うむ。基本的にこの山は守られているが、数百年に一度無防備になることがあるのだ」


 数百年に一度。

 そのフレーズで私は王子の話を思い出す。


 今この国に起きている災害が300~500年に一度と言っていた。それと関わりがあるのだろうか。


「そもそも私の役目は、マナの管理と浄化だ。マナの浄化は私の体を通して行われるが、不浄は私の体に蓄積されていく。その不浄にこの体が耐えられなくなったとき管理者の世代交代が行われるが、新しい神霊獣が山に結界を張れるようになるまでの数か月は、山は人を阻むことは出来ない」


 数百年に一度の数か月の為にある仕組みときた。


「マナってなんですか?」

「マナとは全ての源。この山から流れ世界を巡りすべてをを癒し潤してまたこの山に還ってくる。ヒトが使う魔力の元でもある。しかし巡っている間に穢れ孕むために、私が次の巡りまでに浄化している。それが私のお役目だ。穢れを取り込みすぎて然程の力はないが」


 分かるような分からないような説明だけど、マナは循環していて巡る間に汚れるから神聖獣がその汚れを取り除くフィルターの役割をしていると。でもってフィルターが汚れすぎると取り換えの時期ってこと、だろうか。


 それが神聖獣の言う数百年に一度で、王子たちの言う300~500年に一度ということだろう。


 フィルターが汚れてくると穢れを取り除く機能が落ちてきて、汚れが残っている状態のマナが巡回してしまう。それがおそらく私がプラークと呼んだ魔脈の異常に繋がる。


「……私たちが魔脈と呼ぶエネルギーの川に異常が発生しているのは、その穢れが原因ですか?」

「そういうことになるな。私はもうお役目を終える時期で、マナを浄化する力が落ちている。浄化しきれていないマナが巡れば世界は澱む。しかし、新しき神聖獣がお役目を拝すれば一気に浄化されるであろう」


 なんというか、効率の悪いシステムだ。


 取り込んだ穢れをそのまま体内に蓄積させている神聖獣。役に立たなくなるまで使われて、それからやっとお役目交代するせいで起きる正常化とのタイムラグ。


 フィルター交換する前にお掃除すればいいと思うし、交換するならダメになる前に新しいものを取り寄せておけばいいと思う。そもそも体内でないとマナの穢れは落とせないんだろうか?


 私がそう言うと、神聖獣は亮君の顔で目から鱗とでもいうように驚愕の表情を浮かべた。

 え?考えたこともなかったの?


「なるほど。それはよき考えだ。定まっている理を改変することなど思いもしなかったが、神に進言してみよう」


 ……ああ、うん。

 魔脈の乱れへの対応とかでも思ったけど、この世界の人……と神聖獣は基本的に受け身の姿勢なんだね。

 困ったことがあってもそれを改善しようじゃなく、やり過ごすことが当たり前の思考回路で。


 そう考えると、誘拐犯たちはこの世界においては進歩的な思想とそれを成す実行力があったということなんだろう。理不尽を受け止めて縮こまるのではなく、一歩踏み出しす精神構造を持っているのはこの世界では稀有なことなんだと思う。


 召喚された人間が私じゃなければ、彼らの考えに同意するよ。うん、私が巻き込まれてなきゃね。


 巻き込まれた時点で、私が彼らに友好的になる理由はない。


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