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召喚聖女の返礼  作者:
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 まっすぐくれば城から馬車で半月と聞いていた神霊山に到着したのは、出発してから二か月後のことだった。

 そりゃ、あっちで浄化しーのこっちで正常化しーのと寄り道ばかり……必要な寄り道だから仕方ないけど、時間はめちゃくちゃかかった。


「本当に聖女様おひとりで行くっすか?」


 陰口騎士Dが言う。先日、陰口騎士Aを見かけたと思ったら、A~Dまで全部いた。副隊長の姿は見えなかったし、ほかのメンバーが前回と同じかどうかは交流を持っていない私には分からない。

 初回の魔脈正常化で奇声を上げて喜んでいた神殿騎士は、クオーツとグレインを如何に効率的に散布させるかという配分の責任者だそうで、今回は同行していない。

 実行犯も城でのお役目があって、何か月も空けることは出来ないとかで来ていない。侍女は前回と同じ人たちだ。正直いい印象はない彼女たちだけど、かといって別の人に変えてくれというほどでもない。


「私が入れるかどうかもまだ分からない」


 魔脈の乱れの根本原因がここにあるだろうと予測はしても、人が足を踏み入れることができないという神霊山。私が聖女であること、異世界人であることからもしかしたら拒まれないかもしれないという希望的観測を持ってここまで来たけれど、やっぱり入れませんでした――という結果になることも大いにあり得る。


 入れても原因がここではない、あるいは私には見つけられないという可能性もたっぷりある。


 麓から一歩踏み出す時に結構気負っていたのだが、私はすんなりと神霊山に入ることができた。


 あれ?これ、ほんとに前人未到の山なの?どこかと間違ってない?


 そう思って振り返ると、阻まれて足を踏み入れることのできない騎士たちが見えない壁を叩いたり蹴ったりしている。ここが神霊山で間違いはないらしい。


 入れることが確定したので、私はいったん見えない壁の外に出る。まだ、山登りの準備はしていないのだ。

 準備万端用意していざ入ろうとしてダメでした――というのは悲しいので、まずは入山可能かどうかのテストだった。


「さすが聖女様……」

「まさか神霊山に受け入れられる人間がいるとは思いもしなかった」


 などと騎士のつぶやきが聞こえてきたが、入れたのは私は聖女だからなのか異世界人だからなのかは不明。今はこの世界生まれの聖女はいないと聞くし、召喚もそうそう行われることではないので検証は難しいだろう。


 さて、荷造りをしよう。


 異世界ものあるあるのインベントリやストレージはこの世界になかったし、この世界にない魔法をラノベの知識だよりに行使する私でも取得することは出来なかったが、マジックバッグは作れた。

 ちなみにマジックバッグもこの世界にはなかった模様。


 なにはともあれ水と食料。神霊山の中に飲用できる川や湖があるかどうかも不明なら植生も不明で可食の果物や木の実があるかも不明。だって誰も入ったことないんだもんね。神霊山に日本で聞いたことのある山の知識が通用するかどうかわからないけど、山に登るなら基本は重ね着のはずなのでインナーからシャツ・アウターまで一通り。靴下と手袋も忘れない。


 雨に降られることも考えて撥水性の高いマントも入れる。

 本格的な登山をしたことが無いからあっても使えるかどうかわからないけど、細引きのロープやピッケルも。後はタオルも入れて……ああ、テント張りの練習もしたんだった。一人用の小さなテントと毛布。


 いつもの聖女風ワンピースではなく、山登りを想定してあらかじめ用意していた私サイズの騎士服を着用する。靴もごついブーツだ。


「聖女様、くれぐれも、くれっぐれもお気を付けください」

「なんならやっぱやーめたって言ってもいいっす」

「私も入れたら……」


 私一人で神霊山に入ることを懸念した騎士たちが口々に言うが、やめたとかいうわけないし気を付けるし入れないものはしょうがないし。侍女たちも不安そうな顔をしているけど、こちらは何も言わない。


 確かにね、ここで私が死んじゃったり行方不明になったり、あるいは自分の意思で出奔しちゃったりしたらこの国のこの先をどうしてくれるんだって気持ちだろう。王子たちが渋々でも神霊山に入ることを了承したのは、おそらく私もこの山に拒絶されるだろうと予想していたからだろうし。


 主犯は「いつまでもあがいていないで聖女の役割と全うしろ」王子は「入れなくて元々なのであまり落ち込まないように」実行犯はストレートに「入れないのに馬鹿じゃないのか」と言っていたから。


 残念だけど、私は入ることを許されたみたいなんで、周囲の思惑は放っていざ入山。


 見えない壁の内側は広がった草原で向こうに森が見え、その先は見通せない。森まで2kmはあるだろうか。神霊山に入れない騎士たちに、食料問題があるから10日以内には帰ってくることを告げて進む。

 背中に痛いほどの視線がビシバシと刺さっているけれど振り返らない。


 人が入れない山なので当然道などない。山を一人で探索するなんて無謀だとも思われるだろう。

 けど、道の問題はともかく魔脈を可視化することができる私なので、魔脈さえ見つけられればそれをたどって根源を目指すことは可能だという目算はある。


 神霊山という名前を持ち人を拒む山なので、もっとこう……普通とは違う何かがあるかとおもったんだけど、私にはそれは感じられない。観光地になりそうな美しい草原、怪しげな雰囲気の欠片もない森。


 登山というよりピクニック?


 本当に魔脈の異常の大本がここにあるのかと首をひねってしまうくらいだ。


 草原を超え森を抜けたとき、それは唐突に現れた。


「え……亮君?なんで……亮君、亮君、亮君……」


 私の、最愛の、人。




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