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「聖女殿の言いたいことは分かるが、それは不可能なのだ」
王子が苦笑して言う。
「原因を探り問題を解決したいとはどの国の上層部も思っていることなのだが、神霊山に足を踏み入れることは出来ない」
「ん?それは聖域であるから、とか?」
「いや、それもあるが物理的に侵入を弾かれる」
なんで根本的解決をしないのかと思っていたけれど、理由があったのか。そうか、そうだよね。私は誘拐犯たちに良い印象は勿論ないけれど、この世界から見れば彼らは賢明な道を選んだということになるんじゃないのかな。
そんな誘拐犯たちや、国王、他国のお偉いさんたちだって原因を取り去れるものなら取り去っていただろう。でなければ300~500年ごとに1~5年の災害を甘受していないか。
昨日や今日やってきた私が思いつくようなことは一通りやってみて、それでもどうにもならずにいるから思い余っての聖女召還。本来ならこの国で――それが無理でもこの世界で聖女を見いだせれば良かったのだが、そうそう現れる存在ではないそうだ。で、思い余って他所の世界に聖女を求めた。
私は許さんけど、もしかしたら慈悲深い人だったり奉仕精神がある人だったり俺TUEEEEが好きな人だったり承認欲求の強い人だったりが来た可能性もある。
そうだったらWin-Winだっただろうに。なのになんで……
「そもそも、なぜ私だったのか」
「……こちらでは恣意的に人物を選ぶことは出来ない」
あら、常々思っていたことだったからつい口から出ちゃったか。実行犯が忌々し気に答えてくれた。私は勿論だけど、こいつも召喚された人間が私だったってことが不本意なんだろう。反抗的で意固地で帰りたがりの扱いにくい人間なのに力だけはあるから。
「招いた人物がどのような環境にいるのか、年齢や性別も選択できない。ただ、陥っている危機から国を救い出せる人間であること、その一点だけは間違いない」
「ああ、追及しても意味がないから今まで聞かなかったけど、前々からなんで私なんだろうって思ってたことがつい口に出ただけ」
話を戻そう。2年もかかるような事態は回避したい。なので出来ること
「今迄にいたこの世界の聖女も侵入は出来なかった?なら、この世界の外から来た私でも神霊山に弾かれるか試したい。最大2年なんて悠長にしている時間は、私にはないから」
「まだ帰れると思っているのか!?」
主犯が言う。なんだよ、ずっと帰りたいと思っているよ、私は。
「帰れるかどうかじゃない、私は帰る」
「だから、その手立てはないと……!国を救う聖女となったのだ、いつまでそんな愚かしい妄念に囚われているつもりだ。お前はただこの国に尽くせばそれでいいのだ!」
「ふざけんな、誘拐犯のくせにっ!誰が聖女になりたいなんて言った!?勝手に人を攫っておいて国のために働けってばっかじゃないの。瘴気の浄化も魔脈の正常化もやりたくてやってるわけじゃないわっ。交換条件だろうがよ!私が帰る方法をアンタらは探す、その間、私は浄化をする。そういう話だった筈だけど!?」
主犯のふざけたセリフについカッとなって怒鳴ってしまったら、背後の神殿騎士がひゅっと息を呑む男が聞こえた。神殿騎士、グッジョブ。その音で冷静になれた。頭に血が上った状態では話ができない。
「あー、この話は平行線になるだろうけど、私は帰ると決めているから。何を言われても」
まだ物申したそうな主犯を王子が身振りで抑えて、自分が話すからと頷いて見せる。
「神霊山に聖女が赴いたという話は聞いたことがないので、聖女が弾かれるかどうかは分からない。ましてや外世界人においては」
「そう。試してみても?どうせ、神霊山方向に魔脈の乱れは密集してるし、浄化と正常化を道々成しながらなら道中も無駄にもならない」
「聖女殿がもしも神霊山に拒まれなかったとしよう。だが随行の者たちが同行できるとは思わない。それでは肝要の聖女殿のみに危険があるかもしれない。なにせ、何人たりとも足を踏み入れたことのない聖域だ。内方の情報は全くないのだから」
ああ、王子も誘拐犯の一味だけど、この男が一番話が早い。
主犯は尊大な上に短気ですぐ怒鳴るし、こちらの気持ちを逆なでするようなことばかり言う。実行犯は嫌味な男で私の顔を見るたびに顔をしかめて、厭味や誹りを繰り返す。まぁ、お互い様だけど。
王子だって腹の中では何を考えているか知れたものではないし、私と対峙しているときの顔は表向きのものだろうけど、それは王族として当然なんだろう、たぶん。
仲良くする気はさらさらないが、話が進まないのは面倒なので打ち合わせは王子とだけっていうわけにはいかんかなぁ。
「報告が行ってると思うけど、私、結構強いよ?それに、日本に帰ることが私の唯一にして最大の目標だから、危ない橋を渡る気は無い。絶対に無理はしない」
「しかし……」
「とりあえず逃げる予定は今のところはないけど?」
そういうと、王子がのどに物が詰まったかのような呻き声を出した。あ、図星ですか。
私が一人で行動することを許可したくないのは、いつ逃げ出すかと思っているからだよね。信用無いな。私も信用していないけどさ。
それでも、話し合いの結果で私の意思が通った。誘拐犯たちにしたって、原因が分かるに越したことはないからだろう。
「あとさ、あの町の人間に瘴気で枯れた果樹の責を負わせるのはどうかと思うんだけど」
「責、とは?」
「知らないの?町の人たちが言ってたんだけど、何とかっていう果実をお気に入りの太后さま?が木が枯れたことにたいそうお怒りで、その木をもとに戻すまで町の人間が逃げ出すことを禁じたんだってさ」
乱れた魔脈の真上にあり、瘴気のせいで植物は枯れ人は動物は病み、それでも逃げることを許されなかった彼らに、いったい何の咎があるというんだ。
瘴気を人の手でどうにか出来るんだったら、そもそも私は召喚されていない。
「太后のお気に入りの果実ならばグラナディアだと思う。その件はこちらで調べ、町の者たちの禁足を解くことを約束しよう」
王子が力強く頷いてくれたのでこの件はよし。
「もっとも、瘴気が払われ聖女殿が復興させた町から出ていくものなど一人もいないと思うがな……どうした、聖女殿?」
「あ、いや、ちゃんと普通に笑えるんだなと思って」
驚いた。貼り付けたような作り笑いでもなく、なだめるような愛想笑いでもなく、ちゃんと心からこぼれる普通の笑みをこぼした王子を始めて見た。
私の言葉を聞いてきょとんした王子は、さらに笑みを深くしていった。
「聖女殿からの頼みがこの国の民のためであること、それを私が叶えられることが嬉しいし、書物など以外では初めての願いが真っ当で有難かったよ」
民のための願い……そうとられちゃったか。間違っちゃいないけど、ちょっと迂闊だったかも。
王子の言う通り、あの町はもう大丈夫だから出ていく人はいないだろうし、放っておいても大丈夫だったのになぁ。太后のことムカついたせいで、意外といい人だと王子に誤解されてしまったかもしれない。
王子にどう誤解されようと知ったことじゃないけど、付け込む隙を見つけたと思われたら面倒くさいから、もう退散しよう。




