表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚聖女の返礼  作者:
12/43

12

「おねえちゃん、行っちゃうの?」


 目を潤ませて私のスカートを掴んで帰らないでくれという女の子の手を、実行犯が嫌な目つきで少女の振り払おうとしたので、逆に実行犯の手を振り払ってやった。

 目を丸くして驚いているけど、こっちがびっくりだよ。こんな小さな女の子に何をする気なんだか。


「うん。おねえちゃんはね、ミラちゃんのおばあちゃんみたいに困っている人を助けに行くんだよ」


 ミラは私が最初に治療した女性のお孫さんだ。怪我の治った祖母を見て大喜びし、私が成長促進して収穫した果物を見て目を丸くしていた姿が可愛かった。ほんの少しの滞在ではあったが、ミラは私の後をついて歩き、同じくついて回っている陰口騎士たちに怯えることもなく楽しそうにしていた。


 祖母のことを言われては駄々をこねられないと悟るだけの賢さも持っている。


「寂しいけど、我慢する。おねえちゃん、また来てね」


 また来るよと嘘をついてもいいが、良心の呵責を覚えるので曖昧に笑っておく。頭をなでれば濁りのない瞳で見上げてくる、この純真さが微笑ましくも眩しい。私もこんな頃があったんだろうになぁ……なんて思う。


 それから町の人たちが口々に感謝の言葉を述べてくれ、跪いて潤んだ目で”聖女様に感謝を”と訴えかけてくる人がいる。滂沱の涙を流しながら万歳三唱が始まったりとか、中には五体投地ばりに地に伏せている姿も見える。


 町の人々の盛大なお見送りを背に、私たちは帰路に就く。


 ちょっと疲れた。けど、行ってよかった。


 この国に召喚されてから半年、初めて作り笑いじゃない笑顔を見て自分も飾らずに笑えた。他人と距離を置くのは柵を作らないためだが、ほんの一時だけの滞在地でこれから会うこともないだろう町の人たちには、肩ひじ張らずにいられた。


 あの人たちを救えてよかったと思う。それでも、帰還方法が見つかったら、この国にどれだけ困っている人たちがいても私は帰る。そう決めている。



 ◇◇◇


 行きと違って、帰りの街道に人々の姿はない。瘴気の浄化と魔脈の正常化を成した後の様子見期間中に、騎士たちが町は安全を取り戻したと触れ回ったために、訝しみながらも帰還したのだ。もちろん、町の様子次第ではまた出ていったろうが町に残っていた人々の様子を見て真実だと悟った様子だった。


 よかった。一番ましな人でもテント住まいだったからね。


「町の者に対する姿は、まるで別人だったな」

「さようにございましたね。やはり下賤の身ゆえに高貴な方々には怯み、気後れして構えていらっしゃるのではないのでしょうか。氏素性も知れない”聖女様”ですもの、下々のものたちのほうが、気兼ねなく相対できるのかと」


 野営中、気分転換に散歩に出たら、実行犯が侍女と話している声が聞こえてきた。なんというか、間が悪い。それとも実行犯たちがうかつなのか?或いはわざと私に聞かせようとしているんじゃないかと勘繰ってしまうぞ?


「構える?そんな殊勝な女ではない。我らに対しては敵愾心を隠さぬ女のどこにそんな繊細な心持がある」

「さようですか。ですが、あの町の者は使えるかもしれませんね」

「そうだな。聖女殿は隠しているのだろうが、元の世界に戻りたい様子。だが、この国のものに情を持てばその気持ちも薄れていくであろう。下々のものであることは忌々しいが、そばに置くことも一考しよう」


 ああ……。


 この人たちは、ほんのちょっとの安息も私から奪うのか。周りすべてを敵とみなして生活していた城と違う、聖女に対する思惑も姦計もない人たちとの接触ですら私を引き留める枷にする気があるんだ。


「んっ、んんっ」


 私についてきた侍女が咳払いをして実行犯たちに”ここに人がいる”ことを知らせると、彼らは慌てたように私たちを見つけ、気まずげに視線を逸らした。


 散歩に行きたいと言っても一人で行かせてもらえるわけはない。当然のように侍女付きだ。気分転換にならないような気もするが、侍女と二人きりでゲルの中というのも息が詰まる。


「せ……聖女様、あの、これは……」


「おかまいなく」


 実行犯と話をしていたほうの侍女が言い訳をしようとしたが、それを無視して私はゲルに戻ることにした。もう、散歩という気分でもなくなってしまった。

 実行犯が不愉快極まりないという表情を隠すことなく見送ってくれたよ。笑える。

 城でも私が出歩くたびにあんな顔をしてたっけ。出歩くっていったって図書館に行くくらいだったのにね。


 くそったれ。

 いつかぶっとばす!


 ムカムカはこれだけでは終わらなかった。城に戻るとなぜか王弟である私誘拐事件の主犯が出迎えに出てきたのだ。おい、主犯。アンタ謹慎中じゃなかったの!?


 城門までわざわざ出迎えに来たはいいが、主犯の口から出てくるのは自画自賛・先見の明がある俺様すごい・だから皆の者、頭を垂れて感謝せよ――などなど自分上げアピールばかりで、私を労わることも感謝することもなかった。


 なにしに来たんだ、こいつは。


 聞くまでもないか。自己顕示欲を満足させるためだろう。


 兄である王が消極的だった……というより反対していた聖女召還を強行して謹慎させられたものの、呼び出した聖女が瘴気を浄化して魔脈の乱れを修正したもんだから、聖女召還はやはり正しかった、そう持て囃す面々もいるだろう。

 当の聖女である私の気持なんかお構いなしで。


 あー、ますます聖女の仕事への意欲が目減りしていく。というかもうすでにマイナス。


 亮君の所に帰るためというモチベーションがなきゃ、やってられんよ。


「聖女殿をお招きした功績?いやいや、そのようなもの欲しさの我欲からではないぞ?私はこの国のため、民の為に立て直しに苦心惨憺しただけだ」


「さすが王弟殿下にございます。そうそうこんな噂が……」


「何々?、兄より私のほうが王にふさわしいなどと、戯れにでも言ってはならん。いや、そうか?貴殿のお気持いやちは有り難くいただくが、私は兄の一番の家臣だと自負している」


「それでこそ殿下にございますなぁ。ちなみに聖女様の次回の行幸はもうお決まりでございますか?我が領でも瘴気被害が著しくございますゆえに」


 なるほど、主犯の周りに人がわらわらいると思ったら、自分のとこを優先させてほしくてのおべっかか。聖女に頼まないあたり、私の扱いが分かるってもんだ。


 うん、私はこいつらの道具に甘んじるつもりなんかないぞ?








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ