紹介するレジ機能 その6:目の前のことを解決してもその先まで見越さないと営業はしんどい
視察したお店の改善点がわかった。
改善できる案を見つけ出す柳瀬だが、もっと解決しないといけないことを見越して考えてなかった…。
想像していた以上に過酷なミッションと感じつつ、お店のレジをどうするか見つめ直す柳瀬。
「ん〜まずは何から手をつけたらいいのかさっぱりわからない」
「まずお客さんによって値段を変えるのは問題だから、それを解決しないとダメだね」
「けど、このお店は繁盛している」
「すぐお客さんが会計待ちで並んでるからすごいな」
「お客さんの顔色見て値段変えるから、このお店はお客さんから見たら良い店なのかな?」
レジが混むイコール繁盛しているお店と思い込む柳瀬。
しかしそれは間違ったことだとリンリンは教えてくれた。
「それは違いますよ!!」
「このお店の評判はそこまで高くありません」
「私も何度かこのお店で購入しましたが柳瀬さんが思う良いお店ではありません」
リンリンはこのお店に詳しいのか話してくれた。
リンリンの口調からすると何度かこのお店を利用した雰囲気が漂った。
「へぇ〜リンリンさんもこのお店を利用するんだ」
「それなのに、なんでそこまで評価しないのかな?」
「何か嫌なことでもされたのかな?」
「顔色1つで値段が変われば得すると思うけど…」
リンリンが順番している魔物たちに向かって指をさした。
「よく見て下さい!会計待ちをしている魔物の持ち物を…」
言われるがままに柳瀬は順番待ちをしている魔物たちを観察した。
「ん?持ち物ですか?お店の商品を持っているだけですけど…」
柳瀬が想像もしないことが起こっているのに全く気づかないのも無理はない。
人間界ではあり得ない光景がそこにはあった。
「あ〜〜!!そっかわかった!!」
「お店が繁盛して会計待ちが多いんじゃなくて、ものすごく会計処理が遅いんだ!!」
「複数商品を持って会計する魔物に対して、何度も魔金のやり取りをしてると思ったら、1つ1つ会計しているんだ!!」
このお店は値段を顔色で変える以外に、複数の商品を1度に会計することができなかったのだ。
「そうです!この周辺の魔物の殆どが魔金の計算が出来ないのです」
「その為、1つ1つ会計をおこなうので時間がものすごくかかります」
「売っている商品は良いものが多く、顔色1つで値段が安くなるなら優良店なんですが、毎回毎回会計されるので、その会計分の顔色を作り続けるのは無理なので、後半につれて商品の値段がどんどん高くなるのです」
「良い商品はすぐになくなるので、まとめて買いたい魔物にとっては点数が多いほど割高になって大変なんです」
少ない商品を持って何度もレジに向かうと、そのレジ待ちしている間に、ほしい商品が無くなっていく。
だからと言ってたくさんの商品を持ってレジに行くと後半の商品が割高になるお店だった。
「なんだそれ?」
「全く意味がわからない…」
「普通、たくさん買ったら安くなるのが人間界の基本なのに、ここでは全く別の発想になる」
「もしかして!!それを解決するためにレジを導入するってことですか?」
柳瀬はこのお店の改善する内容を把握した。
その改善するためにレジを新たに作らなければならないことも理解した。
「はい。そうです。」
「魔王様もこのお店の商品を気に入っているんですが、毎回毎回同じものを購入しているのに魔金が変わるので困っておりました」
「そこで、人間界のようにレジを使って商品価格の安定と長蛇の列の緩和をおこないたいのです」
リンリンは目をキラキラさせながら柳瀬に言った。
「え〜魔王がお金を作っているんだから、そんな細かいこと気にしなくていいんじゃないかな」
「けど、それを解決出来たら元の世界に帰れるかも…」
「このお店なら頑張ったら解決できそうなので頑張ってみようかな」
「リンリンさん、お城に戻りたいので護衛お願い致します」
柳瀬は解決できそうな光が見えたので早速お城に戻ることにした。
「え?もう帰られるのですか?」
「私は構いませんが本当によろしいですか?」
リンリンは本当に解決できるのか疑いながら質問した。
「はい!大丈夫です」
「お城に戻ってこの悩みを解決できる様に取り掛かります」
リンリンと一緒にお城を目指す柳瀬。
何かを閃いたのか、自分のカバンのノートにメモを取り始めた。
ノートにメモを書いている間にお城に着いた。
「さてさて、無事戻ってこれたので、レジを作成する前に…」
「リンリンさんこれを用意して下さい」
そのメモした内容をリンリンに共有し始めた。
紙(A4サイズで白と黄色の2種類を各30枚)
ボールペン・マジック(書く太さを変えたいので大・小を2種類づつ)
リンリンに準備して欲しいものを渡した。
「結構量がありますね」
「けどこ用意できますのでお持ちいたしましょう」
柳瀬が最初に取り掛かったのが、商品の値段を明白にする価格表の作成だった。
更に値段表の大きさを変えて商品の購買欲をそそる仕組み『ポップ』を作る準備を始めた。
その光景はリンリンにとって初めて見るので質問を投げかけた。
「何に使うんですか?」
「紙に商品名と個数、さらに魔金まで書いて」
リンリンが初めて見るので理解できないのも無理はない。
そもそも魔界に価格表やポップが存在しないからだ。
「リンリンさん、これが人間界で言う価格表です」
「人間は買いたいと思った商品の値段を見て購入するか判断するんです」
「その値段を見てからお客さんが商品を買うので、レジで値段をコロコロ変えることができなくなります」
「これで顔色で値段を変えることが無くなりますね」
人間界では当たり前の手法をリンリンに伝えた。
「お〜それは名案ですね」
「購入する側としたら事前に値段が分かっている方が安心して購入できますね」
当たり前過ぎることでも魔界では当たり前ではないことに改めて理解した柳瀬。
「そうです、値段を明白にしてあげると【安心】が生まれます」
「その安心をお客さんに持たせれば、今まで以上に商品を購入して頂けます」
人間界では冴えないサラリーマンの柳瀬がリンリンからすると冴えてるサラリーマンに見えていた。
人間界の情報を魔界で披露しているだけだがリンリンにとっては衝撃的だった。
「すごいですね〜。さすがレジを扱うものとして、この世界に来た意味がありますね」
「ところで、柳瀬さん!!」
「たくさんの商品を購入できる仕組みを作っても会計する魔物が1つ1つしか会計できないので、今以上に時間がかかって大変じゃないですか?」
「ほとんどの魔人は計算ができませんよ」
柳瀬は大事なことを見落としていた!!
「あ〜!忘れてた〜」