幽霊
ゴミ収集車が街を周り始めている。
暗い色のうちに汚れた街を朝日が照らし、カラス達が人間の不要な物を取り上げていく。
夜明けと共に、世界が動き出す。
人々が外の世界へと歩き出し、動物達が本能のままに餌を探す。
この世界は、本当に面白い。
顔、体、声、話し方、性格、職業、…
全く同じ人間なんて、何処にもいない。
私は、世界の中でもこの、日本という国に興味を持った。
一人一人が、持っている物が他の国とは違うのだ。
それは、真面目さとか、清潔さとか、礼儀を重んじるとか、協調性とか、そういうものだけではなく…
人間が、次のステージに進む為の何かを、この国の人間達は持っている気がするからだ。
それは、この国の人々が私と、どことなく、似ている気がするからだろう…
女は、動き始めた街中でショウウィンドウに映る自分の姿を見ていた。
秋物の服を着たマネキン達と被って映る、その姿は
平日の朝の時間帯には、明らかに浮いている格好だった。
出勤途中のサラリーマン達が、女の姿を見て口元を緩めながら、後ろを通り過ぎていく。
「服だけ変えるか…」
そう呟くと、
白いキャミソールに、ベージュのショートパンツ姿の女は、一瞬で姿を消した。
10秒後、
女はショウウィンドウの中のマネキンが着ていた服と全く同じ服装をしていた。
そして、ガラスに映る顔を見ると、ふっと微笑み、その場を後にした…
『コンコンコン』
楽屋のドアを叩く音に、ヒカルは持っていたスマホを画面を下にして机に置きながら返事をする。
「はーい」
すると、ドアをゆっくりと開け、共演者が顔を覗かせながら挨拶をする。
「おはようございます!ヒカルさん、今日はよろしくお願いいたします!」
そう言って深々と頭を下げる彼女は、とても緊張しているようだった。
「緊張しなくて大丈夫だからね?いつも通りの笑顔でよろしくね!」
優しく微笑みながらヒカルは言った。
共演者は、顔を赤らめると「ありがとうございます!!」と、興奮気味に叫び再び頭を下げるとまた、ゆっくりとドアを閉めた。
「可愛いなぁ…」
ヒカルは、まだドアの近くに居る彼女へ向けて呟いた。
そして、ドアの向こう側の気配が無くなるのを確認すると、スマホを開きメールを確認した。
ユキからの未読メールに目を通す。
『ねぇ、今日もヒカルの部屋に泊めてほしいんだけど…だめかな?
怖いの。また、怖い声がするんじゃないかって。怖いの…』
ヒカルは深くため息をつき、そのままスマホを閉じた。
昨日、ユキの住む一人暮らしの部屋に幽霊が出たらしい。
夜中の2時過ぎ、急に電話をして来て俺の部屋に泊めてと言い出したのだ。
まじで、面倒くさかったがタクシーでおいで。と言ってしまった…
もう一度、ため息をつくとスマホを再び開き、ユキに返信する。
『よしよしヾ(・ω・`)怖いよね。
泊めてあげたいんだけど、今日はケンジの家に泊まって、曲を作らないといけないんだよ。
ごめんね。怖くなったら電話して良いからね。』
ヒカルは、スマホを閉じると、もう一度大きなため息をついた。