アイドル
人気アイドルの2人が、汗で濡れた髪をかき上げながら、キラキラした笑顔で、客席に向かい大きく手を振っている。
ペンライトの光が揺れる客席では、2人のファンが精一杯に2人への愛を叫んでいた。
そして、アンコール最後の曲が終わりに近づくと、より一層大きくなった愛の叫び声に笑顔で応え、ステージ中央に二人で並んで立ち、手を繋ぐと…
「皆~!ありがとう!また、必ず!会いましょ~!!」
「皆~!大好きだよ~!また、遊ぼうね~!」
そう言って一人ずつ、ファンへ最後の挨拶を終えると深々と頭を下げた。
1、2、3、4、5
心の中でゆっくりと数えた二人は、もう一度、大きく手を振りながら、名残り惜しそうに舞台の中へ帰って行った。
二人の姿が見えなくなっても尚、客席の歓声は収まらない。
それどころか、もう一度アンコールをねだる声まで聞こえてくる。
客席の中には、時間を気にしながら帰る人達も居るが、ほとんどの客は、まだまだ興奮状態で二人を待っていた。
すると、女性の声で「本日は、ご来場いただき誠にありがとうございました。これから、退場について・・・」
というアナウンスが流れ始めた。
そのアナウンスを聞いた客席は、徐々に高い叫び声から、普段の話し声に変わり、今日のライブを振り返りながら、帰る準備を始めている。
それから、二人のバラード曲とともに映像はエンドロールを流し始めた。
「これが、アイドル。か.......」
ライブDVDのパッケージを眺めながら、女は呟いた。
「え?誰か居るの?」
DVDの持ち主が、恐怖を感じながら確かめるように問いかける。
一人暮らしの彼女の部屋は狭く、ベッドに寄りかかりながらテレビ画面に映るライブを見ていたが、そこから部屋全体を確認するのに、そう時間はかからなかった・・・
『 ありがとう。勉強になったわ…』
彼女にしか聞こえない声で答えると、女は意識を家の外に向け、そこを離れた。
・・・
「キャーーーーーーー!!!!」
掠れた声で叫びながら、部屋の主は布団に潜り、震える手で必死にスマホを開き彼氏に電話をしていた・・・
女は、マンションの屋上から少し欠けた月を見ていた。
意識を集中させる。
すると、月明かりに照らされながら、
先ほどDVDを見ていた彼女の姿が浮かび上がった。
マンションの防犯カメラには、何も無かった屋上に、徐々に女性の姿が映る様子が記録されていた・・・