渇き
・・・!
あまりにも強烈な喉の渇きに、目が覚めた。
何だ?
別にそれほど蒸し暑かった訳ではない。
汗も特別かいた訳でもない。
しかし、一刻も早く水分を補給しないと枯れてしまいそうなほど辛かった。
俺はベッドから飛び出し、キッチンに走った。
「フーッ」
冷蔵庫にあったスポーツドリンクを飲み、渇きは収まった。
まだ明け方の4時だ。
もう一度ベッドに横になり、眠ろうとした。
えっ?
そんな。
もう堪え切れない渇きが襲って来ている。
一体どうしたんだ?
もう一度冷蔵庫に行き、今度は炭酸飲料を口にした。
「うっ」
炭酸が喉に染みる。痛いくらいに痺れた。
「何なんだよ」
俺は少しイライラしながら、再びベッドに近づく。
「・・・」
また堪え難い渇き。
もしかして奇病に罹ったのか?
眠れなくなった。
いろいろ考えてみるが、何も思い当たらない。
糖尿病は喉が渇くと聞いた事がある。
しかし、それにしても度が過ぎている。
ベッドに戻るまでに堪えられなくなる渇きって、一体何だ?
俺は出勤時間の7時になるまで、水分を補給し続けた。
キッチンは空の缶とペットボトルが散乱し、酷い状態だった。
俺は会社を休もうと思ったが、現在進行中の企画は、俺が責任者なのでそんな簡単に休む訳にもいかない。
俺は水筒に麦茶を入れ、出かけた。
駅までわずか10分のアパートに住んでいるのに、改札を通るまでに水筒は空になり、駅の売店でレジ袋一杯にスポーツ飲料を買い込んだ。
電車の中でも、周囲の乗客が離れてしまう程、俺は飲み続けた。
あれほど買い込んだスポーツ飲料が、下車駅に到着するまで保たなかった。
俺は再び駅の売店で大量に買い込んだ。
会社でも止まらなかった。
いや、止められなかった。
渇きは朝より酷くなり、飲まないでいると喉が焼かれたように熱くなる。
同僚や上司にまで心配された。
皆口々に医者に行った方がいいと言い始めた。
しかし俺は作り笑顔で、
「大丈夫です」
と応え、企画会議を始めた。
この企画は我が社の社運を左右するような大きな仕事になる。
砂漠に緑を。
大きな貯水池を。
俺の長年の夢でもある。
!!!
その時、俺はとんでもない事に気づいた。
ああ、何て事だ。
そして少しホッとした。
そういう事か。
原因がわかると、喉の渇きも堪えられるようになった。
そしてその日は、上司の指示に従い、定時に退社した。
そしてどこにも立ち寄らず、アパートに戻った。
「そうだよな、怒るよな」
俺は蛇口をひねってコップに水を入れ、テレビに近づいた。
「ごめんな、俺が悪かったよ」
テレビの上の枯れかかった観葉植物に水をやりながら、俺は詫びた。
喉の渇きは収まった。
しかし、ホッとする間もなく、次に俺は強烈な腹の痛みに襲われた。