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罪人という名の勇者

唐突に閃きました。初投稿なので、続くかどうかは未定です。

厳かな空気のまま儀式は粛々と執り行われている。ここは教会。本来なら神にすがる者たちが訪れ、祈りを捧げる場である。しかし、今行われているのは祈りとは正反対の行為だ。いや、正反対と言い切るのは相応しくないな。だって祈りと呪いは誰かに「願う」という面では同じなのだから。


「おめでとう。これからきみは101人目の勇者だ」


そう言って初老の神父はひざまずく俺に呪いを振りかけた。ああ、何が勇者だ。本来の意味は失われてしまった。だからこそ、この世界は滅びつつあるのだろう。




 勇者とは、その勇気をもって困難に立ち向かい続けることができる者のことだ。少なくとも俺はそう信じている。だが、そんな人種は当の昔に絶滅してしまった。理由は単純。この世界で降り注ぐ困難は、人の身にはあまりにも大きすぎたのだ。

 この世界には寿命が存在する。寿命が尽きれば、この世界は文字通り消滅するだろう。それを回避する方法はたった一つ。「神」に挑み、力を示すこと。これは他ならぬ神自身が言うんだ。間違いない。

 しかし考えてみてほしい。神とは人智を超えた力を持ち、奇跡に等しい魔法を扱う存在だ。そんな奴にいったい誰が敵うのだろうか。そもそも神にたどり着くことすら無謀だと聞く。

 初めに神に挑んだのはこの世界で最も栄えていた帝国の精鋭の部隊だ。いや挑むという言葉には語弊がある。彼らは神に到達することすら叶わなかった。

 次に挑んだのは勇者を名乗る青年とその一行だ。彼らはまだ善戦したほうだ。神にたどり着くことはできたらしい。だが、それだけだ。唯一の生き残りの魔術師だけは逃げることができたそうだ。だから神がどんな存在かは少しだけわかっている。

 その次も、そのまた次も、似たようなことが繰り返された。その結果、挑もうとするものはもう残っていない。ただ来たる終末に怯え、祈ることしかできない者のみが残されてしまった。

 




「この狭くて寒い部屋ともおさらばか。…二度と戻ることはないだろうな」


 そう言いながら俺は独房を後にする。俺はもともと罪人だ。罪状は確か…不敬罪だったかな。こんな滅びつつある世界でも面子とやらは重要らしい。だから、「私の国は勇者を募り、神に挑んでいます」という行動は必要なのだろう。この国では罪人を勇者に仕立て上げる。もちろん、行動に制約をかけての上である。制約という名の呪いの効果は四つ。

 一つ、他人を傷つける行為はできない。ただし、対象が勇者であるならばこの制約を受けない。

 二つ、勇者を殺した場合、対象の能力を完全に受け継ぐことができる。

 三つ、二十日間勇者を殺さないと、体の自由が完全に消失し、他の勇者に存在が感知される。

 四つ、上の三つは世界の崩壊を防ぐまで続く。

 必然的に、勇者達は殺しあうことになる。さながら蠱毒のようだ。死にたい人間など殆ど存在しない。まして他人に殺されるなんて御免だ。だから、罪人は呪いによって勇者に成らざるを得ない。その先には破滅しか待っていなくとも。


「それでも俺は死にたくない。まだ俺は何も成してはいないんだ」


こんな世界だったとしても、俺は自分が生きた証を残したい。例え、何かを犠牲にしたとしても。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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