第1階層 【4】
" レベルが1増加しました。レベル1になったため、ステータスが解放されました ”
またもトーンのない声が響いた。
八郎は自分の手で殺した小さな何かを唖然と見下ろしていた。それはもはや、原型を留めていなかった。血だらけで腕や足はあらぬ方向に曲がっている。
かつての戦争中、八郎は敵の兵士に銃弾を浴びせ、負傷させたことはある。訓練経験や、上からの圧もあることにより心を無にして戦っていた。だが、やはり同じ人間を負傷させるというのには抵抗があった。痛みに叫ぶ様子は今でもトラウマである。そんな記憶が蘇る。
自身の命を脅かす存在であったとはいえ、説得することも出来たかもしれない。しかし、この手で殺した。
八郎は手を合わせ願う。
「ごめんなさい…」
八郎は決して後悔しているのではない。殺してしまったという事実を堪えるために願っているのだ。
足元に落ちている棍棒を拾う最中、八郎は先程の声を思い出す。今なら何か変化があるかもしれない。その思いで静かな石に囲まれた通路でぼそっと言う。
「ステータス」
すると、目の前に板のような半透明のものが出現した。八郎は一瞬戸惑った。だが、直ぐに心を落ち着かせそれを眺めた。
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名 立永 八郎 性別 男 Lv 1 SP 1
体力Lv1
防御力Lv1
精神力Lv2
攻撃力Lv1
素早さLv1
運Lv1
スキル
槌術Lv1 蹴り技Lv1
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八郎は思った。突然板が出現するなどゲームの世界でしか有り得ない。ならば、ここはゲームの世界なのではないだろうかと。だが、殺した小さな何かはあまりにも現実的であった。
八郎は板をまじまじと見つめる。とても簡素だ、と思った。板に触ってみた。アクリル板のような触り心地だ。試しに、「体力」と書かれた部分を触ってみる。すると、文字が追加された。
体力Lv1 <説明> 筋肉の強度を増加させる。最大値10
Lvを上げますか? Yes / No
どうやら増加させることができるようだ。ならば、と「Yes」を押した。
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名 立永 八郎 性別 男 Lv 1 SP 0
体力Lv2
防御力Lv1
精神力Lv2
攻撃力Lv1
素早さLv1
運Lv1
スキル
槌術Lv1 蹴り技Lv1
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表記が変わった。「SP」が1減り、「体力」が1増加したようだ。
八郎は体の変化を感じようとしてみる。だが、特に変化は感じられない。ふと、八郎は左腕を眺めた。なんと、左腕は回復していた。右腕と大佐がない程に。
八郎は一瞬体を震わせた。何故ならこの数分で負傷した左手が治るなどあるはずがないからだ。これは体力の影響なのだろうか。八郎は思った。
左腕を触ってみると、まるで何事も無かったかのように元通りである。
しばらく唖然としていると、板が突然消えた。時間経過で無くなるようだ。
八郎はこの場にいても仕方がないと思い、地面の棍棒を持ち上げ、また歩みを進めた。
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