第1階層 【3】
「ひっ」
思わず声を漏らした。こちらを睨んでいる。その姿はまさに鬼のような姿だ。
八郎は勇気を振り絞ってそれを睨んだ。すると足の震えが小さくなり始めた。火事場の馬鹿力というやつかもしれない。そいつは棍棒を振りかざしてきた。
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
左腕に当たった。死ぬ間際とは比べ物にならない、とてつもない痛みが走った。痛みを何とか堪え、腕を見ると大きな痣ができている。
怖い。その気持ちで八郎の心は満たされていた。生きたい。八郎はそう切実に思った。生前では思ってみたこともなかった。
八郎は小さなそいつを蹴りあげた。すると2メートル程吹っ飛んだ。思ったよりも軽かった。だが、蹴りあげた直後、他の2匹がすぐそこまで迫っていた。忘れていた。八郎は腕の痛みに耐えつつ必死に考える。このままでは2匹にまた棍棒を振られるだろう。
八郎は自分の足元に蹴り飛ばしたやつの持っていた棍棒が落ちていることに気づく。八郎は急いで拾う。持ってみるとかなり重いと感じた。体感、5キログラムはあるのではないだろうか。あまりに重いために重心が右に傾く。そして、2匹は同時に迫ってくる。
考えろ考えろ。八郎は思考を巡らせる。時間が引き伸ばされていくようだった。
左のやつを狙えば左腕を守れるだろう。だが右側が危ない。右のやつを狙えば右側は守れるだろうが左腕が危うい。これ以上棍棒が当たれば骨が突き出る可能性がある。八郎は2つを比較する。
ダメだ。どちらも安全策とはいえない。2匹はすぐそこまで迫っていた。
「うぉぉぉぉぉ」
八郎は叫びながら、まず右にいるやつを蹴り飛ばした。その勢いで、棍棒を左にいるやつに振り下ろした。ぐしゃり。そんな音が聞こえた気がする。そいつは倒れた。直ぐに蹴り飛ばしたやつら2匹を棍棒で叩いた。何度も何度も。動かなくなるまで。
2匹が動かなくなると、八郎は棍棒を地面に落とした。
「はぁはぁはぁ…」
八郎は3匹を殺した。
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