第1階層 【2】
八郎自身、精神力が上がるような行動をした覚えはない。ため息をついただけだ。
精神力が上がったとて特に何も感じられない。
ここにいても仕方がないのにも関わらず、八郎はさっきの声がなんだったのか考える。
ここは現実では無いのではないかとふと考える。目覚めたら突然石造りの壁に囲まれ、自分以外の音も聞こえず、今現在彷徨い続けている。もしかしたら…
八郎は生前にとある企業が創ったゲームを思い出した。遊んでみたことは無かったが流行っていたことは覚えている。具体的には公園で小さな子達が寄って集っていたことだが。確かステータスがどうのこうの言っていたような。もしここが現実でないならば、試してみる価値はある。
「ステータス!」
声は無情にも響き渡るだけだった。そりゃそうか。八郎はそう思った。
八郎は考えることをやめた。来た道をとぼとぼと引き返す。
先程の分かれ道まで戻ってきた。今度は左へ進んでみようと思う。
不思議だ。八郎はそう思った。ここで突然目覚めてから、少なくとも2時間は経っているにも関わらずまったく疲れていない。肉体的にも精神的にも、だ。まるで若返ったかのように。もしかしたら本当に若返っているのかもしれない。しかし自分の姿を見ることが出来ない。八郎は小さくため息をついた。
しばらく歩いていると、小さな何かが動いているのが見えた。今まで不気味なくらい静かであったのだから八郎は内心歓喜した。
何か、が見えてきた。それは3匹いた。小さな子供のような体格であるが、角が2本生えており手には棍棒を持っている。何だこの生物は。八郎は警戒した。先程までのテンションを一気に底につき、今では足が震えはじめている。おぞましい姿だ、と八郎は思った。
1匹がこちらに気づいたようだ。腕どころか全身がガタガタと震えはじめている。逃げるべきだ、と思うが足がすくんで動かない。心臓の鼓動が激しくなる。それは近づいてきた。
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