第1階層 【1】
何処だここは。
辺りを見回してみると、石造りの壁に囲われている。石には苔が所々生えていて、物凄く不気味である。
八郎自身、死ぬ間際にもう一度人生をやり直したいとは思っていたが、いきなり何処か分からん所に放り出されても困る、と思っていた。考えてみると、この状況に適応できている自分に正直驚いている。これは年齢を積み重ねたことによる賜物なのか、はたまた何らかの力なのか。
後ろを振り返ってみると、壁だった。どうやら前に進むしかないらしい。
ここにいてもどうしようもない。この先に何があるか分からないが、1度死んでいる身である。後悔なんてものは無い。
八郎はゆっくり、ゆっくりと歩く。石造りの壁はどこまでも続いている。5分ほど経った頃だろうか。分かれ道を見つけた。
八郎は非常に困っていた。分かれ道があるということは、只管に彷徨い続ける可能性があるからだ。ここには水も食糧もない。服装は死ぬ直前のままのようで、寝衣のみだ。このままではいづれ飢え死にするだろう。
耳を澄ませてみる。しかし何も聞こえない。水音も風音も自分以外の生物がいるような気配すらも感じられない。静かだ。少し寂しさを感じた。
仕方がない。運に頼るか。
八郎は右に進んでみることにした。
ゆっくりと歩いていく。今度は距離が長いような気がする。進んでも進んでも視界が変わる気配はない。いや、元々変わる様子のない風景だったか。
「はぁ…」
八郎はため息をついた。行き止まりだったのだ。ここまでの道はかなり長かった。また戻らなくてはならないのだ。
来た道を引き返そうとすると突然、頭の中にトーンのない声が響いた。
” 精神力が1増加しました "
突然の出来事に身震いした。
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