逃避
時々こうゆらっと何処かに消えたくなるんです。
今回みつけた男もダメだった。
愛した人は皆徐々に幼くなく、
自制心を無くしていってしまう。
そういえば、行ってみたい所があったんだ。
つい昨夜、私を殴った男が今では必至のうめき声をあげている。
彼は気が短くて、直ぐに手を上げるのは十分に分かっていたつもりだった。
でも、ここまで。これ以上は釣り合わない。
ベットにラッピングされた男をみて、
私は拳を固めるような事はしなかった。
ただ、荷物をまとめて部屋を後にする。
4時間後にピザの宅配を予約した。
玄関の前に立たてばうめき声は聞こえるし、
扉もサンダルを挟んで少しだけ開けている。
死ぬ前には誰かが助けてくれるだろう。
そのままアパートの前に呼んでいたタクシーに乗り込む。
顔なじみの運転手は、休みかい?と声をかけてきた。
「ええ、2.3日の小旅行よ」
短く答えた私に何かを感じたのか直ぐに話題を切り替えてくれた。
後は、野球のドラフトの話しとかの簡単な話で時間を潰した。
港に着いた。
予想より移動費は掛かったっが仕方ない。
「おねえさん、漁港に寄るとは、まさか釣り人だったのかい?」
「いえいえ、知り合いのお店に食べに来たのよ」
「もし、釣るなら今度一緒にとも思ったんですがね」
路肩に寄せながら軽口を。
「その時は、ご指南くださいね。」
小さく手を振って顔馴染みの車を見送ると少しさみしさを感じた。
2時間と少ししかたっていない
まだ余裕はある。大小の漁船がまばらに停泊している。私はその中から一艘のボートを見繕った。
鍵が指しっぱなしで燃料も十分。
直ぐに乗り込んだ。
そういえば、小さいころは祖父の船でよく沖に出たものだ。
船の扱いは今でも忘れていなかった。
未だ熱を持った痣が海風に冷やされて心地いい。
エンジンを止めて波の上を彷徨ってみる。
今なら何者にでもなれそうな、そんな万能感が水面から上がって胸を包んだ。
といっても、すでに追われる身なのだけど。
日が暮れてから接岸しよう。なるべく人目に付かない方がいい。
昨夜まで一緒にいた男の事が自然と思い出される。
見栄っ張りで精神的に幼い。
少し優しくすれば直ぐに調子に乗る。
見切りをつけるにはちょうど良かっただろう。
4時間、そろそろ発見されたころだろうか。
接岸しよう。あんまり遅いと今夜の宿主に要らぬ心配を掛けるかもしれない。
日の上弦が山に重なったのをみてセルを回した。
辺りが完全に闇に包まれる前に島の漁港、その外れに寄せて陸に上がる。
数時間ぶりの固定された地面で膝が笑う。
走り書き程度なので稚拙この上ない。
いつかちゃんと物語として完成させたいな。