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ウラギラレ勇者 ー勇者号略奪ー  作者: 綾(りょう)
3/10

プロローグ「勇者号略奪」3ー勇者の腕ー

前回のあらすじ:

真白が教室内に流れ込み、世界が真白になってしまった。

「――!!」

 隣にいた常夏を含めクラスメイト達も飲み込まれ、真白に触れたそばから真白に溶けていなくなってしまった。人ですらも真白になってしまうのか。そうなると、自分も真白になってしまっているのだろうか。恐ろしくなって自分の体を見渡してみたが、体は欠損なくそこにあり少し安堵したが、見も知らぬ場所に取り残された事実に心が押しつぶされそうになる。

 誰かいないか、物でもいい。形と色があるものを求めて栖雲は再び周囲を伺う。上を見て、下を見た。ぐるりと見渡してみてもあたり一面真っ白で、教室内から見た外と同じく、遠近感のない白に覆われている。


 ――みんな! どこだ!!? ――?!



 叫ぼうとして、声が出ないことに驚いた。教室のスライドドアや窓、ブラックボードから音がしなかったように、真白に取り込まれた故に、栖雲から音が出なくなっていた。これでは助けを求めることもできない。自力で解決するしかないが、ここから出られる方法など知る由もない。


 とりあえず栖雲は歩くことにした。もしかしたら途中で気を失って一面白い部屋に閉じ込められただけかもしれない。そうであれば、直進していればいずれ壁に当たるだろう。途中でスキップや、緩急をつけて走ってみても足に地面の感触は伝わらないし空気の抵抗もなかったけれどすべて頭の外に追いやって、前進して、ずいぶん経った。視界に映るのは真白だけで何もなく、心臓の鼓動も聞こえないせいで時間の感覚が掴めずにいるが、かなりの距離を歩いたと思う。しかし周りの風景のせいでまるで進んでいる気がしない。もう歩くのをやめようかとあきらめた時だった。


(っ!?)


 急に下に押し付けられて栖雲はよろめいた。


(上昇しているのか)


 そう思ったのはエレベータに乗って上昇するときと似ていたからだ。押し付けられる力が増していき、次第に弱まっていった。等速で上昇しているのだろう。しかし一体どこに向かっているのだろうか。行先はわからないが、移動しているというのは悪いことではない。ここから出られるなら何処でもよかった。

 なげやりになってしまっているのは、置かれている状況が日常から剥離しすぎていて、通常のものさしでこの状況を考えられないからだ。はっきり言えば、考えるのに疲れてしまった。

 ただひとつ言えるのは、どれだけ上昇しているのかはわからないけれども、酸素が薄くなり呼吸が乱れるといった事態にはなっていないということ。・・・・・・この世界に酸素があるのかも怪しいが。


 今度は浮遊感を感じた。上昇しているエレベータが減速しているかのような感覚だ。つまり、目的地が近いということだ。超常の存在が導こうとしている場所とはどんなところなのだろうか、想像もつかない。疲れていても栖雲は思わず身構えてしまう。


 浮遊感が止んだ。最上に到着したのだろう。真白の中故、心臓の鼓動は聞こえないが、栖雲が生きてきた中で一番早く荒れ狂っているように感じた。そのはずなのに。


 栖雲は突如安心感を抱いていいた。例え殺しあっている最中であっても武器を持つ手を止め、心から安らかな気持ちになってしまうくらい不自然に。栖雲は理解した。あの女神が近くにいる。


「スグモ ユージ」


 後ろから声を掛けられた。降り向くと教室に現れた女神が目の前にいた。

 神々しさと溢れんばかりの慈愛を兼ね備えた存在を前に、思わず平伏したくなる衝動が走る。

(考えろ、栖雲 勇次。神などいない。居たとしても俺に会いに来るような存在じゃない。……定義から始めよう。こいつは神かもしれないが、神と決まったわけではない。名前すら聞いてない、そう、こいつは――)


「――不審者、だ。ここはどこだ。何用だ? 俺はお前に会ったこともない。それとも何か、知らぬ間に迷惑をかけてしまったのだろうか。恐れ入るが、できれば教えてほしい」


 変な言葉になってしまったが、言いたいことは伝わったはずだ。脳では女神だと完全に認識してしまっている。それにも関わらず理性で疑おうというのだ。栖雲の思考はグチャグチャになっており、そのせいで言葉が変になってしまった。脳の中にある理性一つが、脳が神であると認識している存在に対して神ではないと疑っているのだから、相当な負荷がかかっている。


 女神(不審者)は笑っていた。顔はベールで覆われ、体も愛の光で見えないが笑っていると脳が認識していた。


「やはり、あなたは面白い。本当に久しぶりに笑えました。ありがとう。お礼を言わせてください。しかし、女神(めがみ)たる私を疑っているのですね。ふふ。やはりあなたを選んで正解だった。脳が認めているものを疑うことはさぞ辛いことでしょう。


 栖雲の考えを簡単に見透かした女神(不審者)は笑う。ベールで煮えないのにすべてを許す慈愛の笑みが見えた。目の前の存在の言うことすべてを無条件に信じてしまいそうになるが、必死に理性で意識を保とうとする。脳に抗うように、体から汗が噴き出た。


「ここは異界同士を中継する場所。交わるはずのない世界を結ぶ境界。しかし同時にすべて存在する、そういった場所です。情報量が多すぎてあなたにはきっと真白にしか見えていないのでしょう。しかしここにはすべてがあります。地球も、これから向かう異界“ユーラシオン”も。そして同じ部屋にいた者たちもあなたの隣にいますよ」


 そう言うが、栖雲の目には真白しか見えない。絵具をすべて混ぜると黒になるように、太陽の光には多くの光が混じっているのに一色にしか見えないように、この真白の中に皆がいるのだろうか。


「少し話し過ぎてしまいました。既に折り返し地点。直ぐに取り掛かりましょう。使命を果たすのに重要なものです。先ほど与えた勇者号は、これを扱うための称号でしかありません」


 そう言って、女神(不審者)は栖雲の手を、自分の手でとり、愛おし気に撫でた。


「貴方に力を授けます。女神ウェヌスビーナが命じる。聖剣を握るための腕をここに」

 滑らかに、両腕の肩から指先にかけて文様が刻まれていく。金縛りに合い、体が動かない。複雑な文様が陣となって七色に輝きだした。


「あ、く……」


腕が熱い。光に焼かれてしまいそう、だ。


「……あ?」


 左腕が枯れた。咄嗟に枯れた断面を右腕で抑えようとして、両腕がなくなっていることに気づいた。皮も肉も骨も、ボロボロと崩れていく。


「は、は……」


 呼吸が早くなる。血は出ないが、腐ったように紫色に染まった断面が脈打った。腕の奥から骨ごと何かが引き抜かれるようなおぞましい感覚に襲われて、脈打つ断面を腹に抱え蹲り必死に押さえつけようとした。


「なん、で、コレ」


 ぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこ。断面が沸騰しているようだ。膨張・収縮を繰り返す。熱くてたまらない。


「跡は残りますが、それは勇者である絶対の証にもなります。魔王を倒すために、この世に一つしかない純聖石の聖剣を握るための腕です」


腕から体に異常が伝達し、拒絶反応を示して体が痙攣をおこす。体が壊れていく恐怖と女神(不審者)が放つ安寧とが鬩ぎあい、精神も混沌と化す。


 頭も体もおかしくなっていく。たまらず叫んだ。唾液が止まらない。目からは血の涙が流れ、吐血もした。いろんなものをまき散らしながら、栖雲は叫ぶ。何かをとろうと、脳みそをヤツが突き破った。


「勇者号おおおおおおああああああ!!!!」


 勇者号が掴んだのは力だ。聖石と呼ばれる神の力が結晶化したもの。聖石を武器に使えば魔に対して絶大な効力をもたらすが、純度が高ければ使用する人間も傷つける代物だ。その聖石を完全に扱える腕の所持が、勇者号によって許可された。


「そんな、の、いら、ねえぇぇぁぁああああ!!!」


 バンッ!


 脈動が終わり、肩から指にかけて青白い陣が描かれた新たな腕が形成された。よく見れば文様はどくどくと脈を打っている。血管だ。異様に盛り上がった血管が陣を描いているのだ。鎖骨あたりで血管は普通に戻っている。


「おい! なんだこれは!?説明しろ!」


 勇者号をインストールされた時と同様に、脳ではわかっていたが、責めずにはいられなかったが、残何ながら女神(不審者)は消えていた。安らぎも感じなくない。この世界からいなくなったのだ。


「……はあ、は。なんなんだよ、これ」


 乱れた呼吸を整えながら両腕を観察した。


 妙な違和感は残っていたが、特に支障なく動く。掌を握り、開く。手首を捻ってみても問題はない。腕も肩も、変な方向に曲がるようになっているなどなく、見た目以外は普通の腕だ。

見た目は陶磁器のように滑らかで、この真白の世界に溶けてしまいそうなくらい白い。生命活動に支障をきたさないようにされているのだろうが、表皮を異様に浮き出た青白い血管が、刻まれた陣を描いている。真白の世界に青白く不気味に浮かびあがって見える。


「気分が悪い。というか、話せるのか」


 言葉を発せるようになっていることに今更ながら気づいた。理由を探るため、女神(不審者)が言っていたことを思い出す。痛みのせいでほとんど覚えていないが、確か折り返し地点だと言っていた。そのことと関係があるのだろうか。わからないが、今は良い。考えたくない。


 瞼が落ちそうになるのを堪えるが、もういいかな。あまりに突然で、超常の出来事に栖雲の頭の中はショートし、意識を手放しかけたが、視界の端に見えたもののお陰で、意識を繋ぎとめることができた。


「勇人!」


そう、視界に幼いころから付き合いのある親友を捉えたのだ。

次回、猪原に出会った勇者 栖雲は……


明日も投稿いたしますのでよろしくお願いします。

次話で、プロローグが終わりになります。

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